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ゾーイ・エーブルソン(Zoe Abelson)氏は恐れ知らずだ。高級時計のディーラーであり、顧客アドバイザーでもある彼女は、業界で10年の経験を経て最近独立した。プライベートな顧客のために情報収集と購入を行う会社Graal Limitedを設立し、新しい時計取引アプリの開発を開始した。また、女性の時計コレクターコミュニティにも参加しており、Instagramのアカウント「Watch Girl Off Duty」を運営したり、国内でミートアップを開催したりしている。さらに時計好きの女性たちがつながりを持ちたいとSNSで呼びかけた結果、彼女は最も活発でおもしろいWhatsAppグループの非公式な長になっている。これらは見どころ満載の若いキャリアのなかで、ほんの一部の成果に過ぎない。
大学の学期と学期の間にアンティコルムでインターンをしたのち、彼女は学校に戻る必要はないと考え、時計の世界に飛び込んだ。彼女は時計を特別な日に贈るような家庭に育ったが、アンティコルムでのインターンをきっかけに時計のビジネスに興味を持つようになったのだ。「時計そのものというより、なぜその時計にこれだけのお金を払うのか、という点に時計の魅力を感じました」。と彼女(32歳)は言う。「この時計の価値はなぜ高く、この時計の価値はなぜ低いのか。それがとても楽しかったのです」
アンティコルムに勤めたのち、オークショナタ(Auctionata)のラグジュアリー部門マネージャー、クラウン&キャリバー(Crown & Caliber)のパートナーシップディレクター、ウォッチューウォント(WatchuWant。現在のウォッチボックス〈WatchBox〉)のシニアクライアントアドバイザーなどを歴任した。ウォッチボックスの仕事では、3ヵ月の短期プロジェクトのために香港に派遣されたが、結局、新しいオフィスを開設するために3年半も滞在することになった。
しかし、ディーラーはどのように自分のコレクションにアプローチするのだろうか? ありとあらゆるものを見て、そして手に入れた後、自分のためにどうやって買い物をするのか。彼女は「私はもう飽き飽きしています」と言う。「私が時計を買うためには、なにかほかとは違う、私の目に特別に映るものでなければなりません。それはもしかしたら大げさかもしれませんが、誰もが手に入れられるものではありません」。また、彼女はトレンドだけではなく、自分の好みに合ったものを探している。「見た目がいいか? 自分のスタイルに合っているか? 歴史的に重要な時計で好きなものはたくさんありますが、自分とは違うので必ずしも所有するとは限らないのです」と語る。
ここでは、彼女のコレクションのなかから特にお気に入りの4つの時計(2つの家宝と自分のために購入した2つの時計)と、それらと並んで大切にしている1つのアイテムを紹介する。
彼女の4本
パテック フィリップ カラトラバ 2431
彼女の曾祖母は曾祖父との結婚25周年記念日にとんでもない贈り物をした。それがこのカラトラバだ。このカラトラバは特徴的なラグと自分の名前が刻まれていることで、ほかの時計とは一線を画している。この時計は代々受け継がれてきたもので、彼女には兄がいるが、彼女は時計の専門家として、このユニークなリファレンスを手に入れることができた。「好き嫌いはありませんが、間違いなく最もセンチメンタルな時計です」と彼女は語る。「それにラグがすばらしい。あまり身につけることはありませんが、身につけると本当に幸せな気分になります」。
カルティエ サントス オクタゴン
このユニークな形のサントスは彼女の祖母が持っていたもので、祖母は彼女が香港に出発する数ヵ月前に亡くなった。彼女はこの時計を香港に持って行ったが、到着して間もなく時計が動かなくなっていることに気づいた。律儀な彼女は修理に出したが、数日後に電話がかかってきてクォーツのため修理できないと言われたという。父に電話して「おばあちゃんがこの時計にクォーツムーブメントを入れたことを知ってる?』と尋ねた。すると彼女は「父は“そうだよ、おばあちゃんは便利だから入れたんだ”と言ったんです」と笑う。
彼女はこのことが気に入っているが、それは“おばあちゃんらしい”からだ。「おばあちゃんはカシミアのセーターを頭からかぶったときに髪が乱れないように後ろにジッパーをつけていた人なんです」
ヴィンテージのルクルト クロノグラフ
多くの愛好家が記憶にとどめて大切にしている通過儀礼的なこの時計はクラウン&キャリバーでの仕事が決まったのち、彼女が初めて自分のために購入したメジャーな時計だ。1950年代に製造されたルクルトのヴィンテージで、ムーブメントにはバルジュー72を採用している。彼女は長年、特に50年代のクールなヴィンテージクロノグラフが本来の価値よりも低い価格で取引されているのを目の当たりにしており、最初の大きな買い物はクロノグラフにしようと決めていたのだ。この時計が彼女の人生に登場したのはソーシャルメディアでの出合いがきっかけだった。「Instagramをスクロールしていたら、あるディーラーがこの時計を投稿していて、何のためらいもなく、詐欺かもしれないとか、お金を失うかもしれないとか考えずに、すぐに“いくらなら買うだろう?”と思ったんです」。そしてみごとに経年変化しており、夜光塗料を塗った針は白から茶色の紙袋のような色になっている。
今は自分のスタイルではないが、彼女は感傷的な理由でこの時計を持ち続けている。 「この時計は私が初めて自分のために購入した時計です。しかもInstagramで購入したんです」
ロレックス デイトナ Ref.116509
レア中のレアを探すことにキャリアを費やしてきた彼女は少し型破りな時計が大好きだ。キャリアの節目には、独立を記念してホワイトゴールドケースにブラックタヒチアンパールダイヤルのデイトナを購入した。「今は飽きることはありません」と言い、彼女はこのダイヤルについて「光の加減で見え方が変わるんです。光の当たり方や角度によって見え方も違います」と語る。
彼女は人々が時計に興味を持ちコレクションを増やせば増やすほど、レアなもの、変わったもの、少し奇妙なものを求めるようになると考えている。しかし、彼女にとってこの時計はプロとしての勇気を示した瞬間の記念品だ。「これは私にとって記念すべき買い物で、独立するときにこれを買ったんだと振り返ることができます」と話す。
いちばん大切なもの
香港ビザ付きのパスポート
彼女は旅人だ。今回のインタビューでは「Women×Watches」のミートアップを開催するためにLAに向かう彼女を取材した。香港に住んでいたころは日本、フィリピン、マレーシアのクライアントと仕事をするために香港中を飛び回っていた。
今ではWhatsappグループの力を借りて、女性時計愛好家たちのグローバルなコミュニティを築いている。「これに先立ち、私は1ヶ月間ヨーロッパを旅行していました。パリ、ロンドン、ジュネーブ、バルセロナに行きましたが、どの場所でもコミュニティの誰かと一緒にコーヒーを飲みに行ったりしていましたね」 そして彼女は言う。「それはとてもすばらしいことです」
Photos by Caroline Tompkins