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ニューヨークの時計シーンでは、クレイグ・カーガー(Craig Karger)氏を見かけたことがある人も多いはずだ。彼は、2015年に開設し、いまや多くのフォロワーを抱えるInstagramアカウントWrist Enthusiastの運営者である。業界のメディア側にいると、いつか自分の時計をつくってみたいと思うかとよく聞かれるものだが、つくりたいと即答する人もいればそうでない人もいる。彼の場合、その答えはイエスだった。その願望を現実にすることは容易ではない。だが彼は、Wrist Enthusiastのマイクロブランド事業であるレン(Wren)を通じてそれを実現した。ちなみにこのレンという名前は、WristとEnthusiastを組み合わせた巧みな造語であり、その最終形として小鳥(編注;wrenとは、英語でミソサザイという鳥の意)をモチーフにしたロゴを採用している。
数日間手に取って試すことができた今回の時計は、ブランドにとって最初のモデルではない。ファーストモデルは昨年発表された41mmのレン ダイバー ワンシリーズだ。全300本が生産され、高い評価を受けて完売となった。これはその時計に多くの人が魅力を感じたことを示す、はっきりとした証しだ。そして今回レンは、その勢いを受けて時計愛好家コミュニティを直接狙ったかのような2本のレン ダイバー38を新たに送り出した。
文字盤は鮮やかなフュメカラーで、レン ダイバー ワンと同じビジュアル言語を受け継いでいるが、レンの鳥を描いたグラフィックロゴの代わりにブランド名だけを残した。これとバランスを取るように、6時位置には660フィート(200m)の防水性能を示すフィート表記が遊び心を添えて印字されている。ダイバー38のカラーバリエーションは2色で、鮮やかなグリーンの“シーフォーム”と、彩度の高いエレクトリックターコイズの“アクア”だ。ここで取り上げるのは、この2色のうちマット仕上げのシーフォームだ(特に私のお気に入り)。クールな色合いと濃い緑がかったグレーへの劇的なグラデーションが、ミニッツトラックや夜光、そしてサンドイッチダイヤルのプリントの縁の純白と、鮮やかな対比を成している。
アクアダイヤルには多くの人が引かれるのではないかと予想している。バーティカルサテンときわめて彩度の高い仕上げが特徴で、手首の角度によって異なる色合いを見せるのだ。遠目にもより躍動感があり、確かに魅力的ではあるものの、私からするとこのバリエーションのベージュの夜光とアクセントはややちぐはぐに感じられる。時計ファンを明確に意識した仕様として、両方のダイヤルカラーにはデイト表示ありとなしを選べるオプションが用意されている。日付なしの文字盤には、いわゆるゴーストデイトは採用されない。このゴーストデイトとは、同価格帯の多くのノンデイトモデルで見られるクセのようなものだ。日付機構を備えたムーブメントをそのまま使うため、リューズに機能しない余分なポジションが残り、さらに午前0時に日付変更のクリック音が発生する現象を指す。
時・分針とアワーマーカーに施されたスーパールミノバ グレードX1の夜光は、全面セラミック製となったベゼルの刻みに充填された部分にも施されており、そのセラミックの色は文字盤のフュメグラデーションの濃い部分に合わせられている。ステンレススティールケースのスペックは、ケース径38mm、厚さ10.7mm(ボックス型サファイアクリスタル含む)、ラグ・トゥ・ラグが45mmで、いわゆるコレクターコミュニティがしばしば口にする、ちょうどいいサイズ感の数値にすっぽり収まっている。200m防水のダイバーとして非常にバランスの取れた仕様だ。
またSS製フラットリンクブレスレットのリンクはネジ留め式と、好感の持てる仕様となっている。削り出しのクラスプには最大12mmの延長が可能なマイクロアジャスト機構が備わっているが、延長時にはややかさばる印象がある。装着するとケースは程よい存在感を放つが、試着した際、細い手首にはブレスレットの落ち込みが思ったほど効かないことに気づいた。この点についてカーガー氏に尋ねたところ、現在マニュファクチュールと協議中であり、製品版では解消される予定だという。彼の説明では小振りな時計が似合う手首にも自然に沿うよう、ドレープダウン(ラグ付近からのブレスレットの曲がり角度を大きく)するとのことだった。
興味深いことに、ケースとブレスレットにはSSのカラーマッチに合わせたPVDコーティングが施されている。見た目には変化を与えないが、傷への耐性を高める保護コーティングとして機能する。安心感という点ではありがたい仕様だが、試用中、ケースが指紋をやや拾いやすい傾向にあることにも気づいた。もっとも、これはマイクロファイバークロスで拭けば簡単に解決できる。
レン ダイバー38には自動巻きのETA 2982ムーブメントが搭載されている。これは約42時間のパワーリザーブを備えた、古典的かつ信頼性の高いムーブメントだ。セリタ製ムーブメントが主流のなか、信頼のおけるETAムーブメントを採用した点は好ましい。これこそ新作が従来のセリタベース世代より高価になった大きな理由だが、その一方でケースは従来の13.3mmから10.7mmへと薄くなった。キャリバーには標準的な仕上げが施されており、十分に視覚的な魅力を保っているが、主役はカスタムローターだ。文字盤側にあったレンの鳥は裏側へと移され、今回は部分的にスケルトナイズされたデザインに組み込まれている。
このレン ダイバーを初めて実物で見たのは今年の初め、カーガー氏本人の手首に着けられていたときだった。ケースデザインはマイクロブランドのダイバーとして伝統的なシルエットを守っているが、文字盤は遠目からでも目を引き、彼の手首でひと目で分かるほど印象的だった。そしてそれこそ、彼のデザインを購入する人々の心に最も響いている要因だと私は思う。ダイバーズウォッチには、特定の要素を必要に応じて極限まで引き上げつつ、ほかの部分では型を崩さないという絶妙なバランスがある。その結果として、1595ドル(日本円で約23万円)という価格でありながら40mm以下のダイバーズとして十分に競争力を持ち、いくつかの特徴的なディテールによって独自の存在感を放つ1本に仕上がっている。
レン ダイバー38のシーフォームとアクアはいずれもプレオーダー受付中で、出荷は2025年の9月から10月にかけて行われる予定だ。最初の100本には個別のシリアルナンバーが刻まれ、SSブレスレットに加えて専用のラバーストラップが付属する。
詳しくはWrist Enthusiastの公式サイトをご覧ください。
Photos by TanTan Wang
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