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Interview 時計を愛するアーティストMadsakiが開催したニューヨークでのショー

Madsaki氏はセイコーを愛し、ランゲを欲しがり、完璧な芸術は退屈だと考える。

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日本人アーティストのMadsaki(マサキ)氏は、古典的な題材を現代風にアレンジしたり、美術史における象徴的な絵画を再解釈したりすることで知られています。彼は油絵具よりもスプレー缶を好み、落ち着いた色より明るくパンチの効いた色を好みます。また、懐かしいセイコーのポーグやレインボーのロレックス デイトナなど、特別な時計を描いた作品でも注目を集めています。彼はアーティストであり、時計コレクターであるだけでなく、時計の収集をアートにするアーティストでもあるのです。

 先日、Madsaki氏はペロタンギャラリー (ニューヨーク)で個展を開きました。「Hello Darkness, My Old Friend (I've Come To Talk With You Again)」と題し、タバコの広告、ニューヨークや東京のストリートライフ、クラシックアルバムのジャケット、スポーツの重要な瞬間など、さまざまなテーマを扱っています。今回の展覧会では時計の絵は展示されていませんが、オープニングに先立ち、ペロタンでMadsaki氏に話を聞きたいと思いました。彼がどのような芸術活動をしているのか、なぜ時計にこだわるのか、そして言葉にできないことを絵でどのように表現しているのか知りたいと思ったのです。今回はその模様をお伝えします。

Hello Darkness, My Old Friend (I've Come To Talk With You Again) 、ペロタンギャラリー (ニューヨーク)

HODINKEE:まずはビッグニュースから。もうすぐニューヨークのペロタンギャラリーで初の個展「Hello Darkness, My Old Friend (I've Come To Talk With You Again)」が開催されますね。ギャラリーを訪れる人には、どんな楽しみがまっていますか?

Madsaki: 今回のペインティングは、すべて僕の個人的な生活を題材に描いています。大阪からアメリカに来たこと、ニュージャージーで育ったこと、9.11を経験したこと......80年代と90年代、そこで自分の個性や性格を確立したことなどです。絵のなかには暗いものもありますが、そこには必ずストーリーがあります。絵を通して僕の人生を表現したのです。スポーツの絵や音楽の絵もありますが、それらすべてが今の自分を作ったものです。
 僕は6歳まで大阪にいましたが、その記憶はほとんどありません。でも、日本では本当におとなしい子供だったので、ジャージーに来てからは周りからいじめられました。英語はまったく話せなかったので、コミュニケーションのために絵を描くしかなかったのです。それがきっかけでアートに目覚めました。絵を描くことで実際に何かを伝えることができるということを、それまでは知りませんでした。

開催を前にしたMadsaki氏。

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この展示会のタイトルはどこから来ているのでしょうか?

 ジャージーで育ったのは楽しかったですが、アジア人でありながら白人ばかりの郊外にいたので、暗い思い出もたくさんありました。色々とね。今回の展示ではそのような思いを再現していますが、憂鬱な感じではありません。それらのことが今の僕を作ったのですから。
 また、僕が小学生の頃、父はいつもサイモン&ガーファンクルを聴いていて、「サウンド・オブ・サイレンス」もかけていました。それを初めて聞いて英語を理解したとき、衝撃を受けました。それは自分にとって大きな出来事でした。

時計の話もしないといけませんね。あなたが時計を好きになったきっかけは?

 子供の頃、確か小学2年生だったと思いますが、おばあちゃんがミッキーマウスが描かれたALBAのデジタル時計を買ってくれたんです。それを一日中眺めては、ボタンを押して遊んでいました。その後、スウォッチにも手を出しましたが、機械式時計に興味を持ったのは2〜3年前でしょうか。10年ほど前、娘が生まれたあとに友人からオメガのスピードマスターをもらいました。かっこいいとは思いましたが、それ以上のことは知りませんでした。
 それから本格的に時計を見ようとするようになりました。セイコー5を買ったのは、裏蓋から機械を見られるからです。ベーシックなものから始めて、最終的にはよりよい時計を理解できるようになりたかったのです。そして完全にハマってしまいました。

自分の作品の前で新しいグランドセイコーのスノーフレークを見せるMadosaki氏。

では、なぜ時計を描こうと思ったのでしょうか?

 僕たちが話しているあいだにも、時間はゆっくりと流れています。それは大きなことです。そして時計は、僕の体の一部であり、スケジュールの一部なのです。スタジオや生活のすべてを動かしています。もし僕が死んでも、時計はずっと時を刻み続けるでしょう(誰かがそれを身につけたり、巻いたりしている限り)。そして、僕が時計と共有した歴史が次の世代に伝わっていくのです。人とその歴史をすべて語り継いでいくということで、美しいことだと思います。
 そして、それは絵画にも通じるところがあるのです。絵画は、僕が死んだあとも残ります。時計にしても絵にしても、僕がそこに込めた記憶は永遠に続いていきます。僕はこれを遠くから眺めることになります。

MADSAKI《Untitled》2019年(キャンバスにアクリル絵具、エアゾール、直径:60cm
©︎2019 MADSAKI/Kaikai Kiki Co. All Rights Reserved. Courtesy Perrotin.

ヴィンテージのセイコーやミルサブ、パテック フィリップスのグランドコンプリケーションなど、あらゆる種類の時計を描いていますね。なぜそのような多様性があるのでしょうか? それは意図的なものですか?

 僕の作品を見てもらうとすべてが多様です。この絵は上、これは下、というような感覚がないんです。それは時計でも同じです。自分のなかでヒットしたら、それでいい。高くてもいいし、高くなくてもいい。セイコー5は本当に遊び心がある。ガチャガチャやって、楽しんで、買う人がいる。高価な時計ではそうはいかないですからね。
 特にセイコーが好きなのは、カジュアルでありながら長い歴史を持つ時計だからです。僕は日本人ですし、セイコーの時計はクォーツ時計が出た当時、スイス時計を相当揺さぶりました。その歴史が好きなんです。

Madsaki氏の時計コレクションの一部 - ツートンカラーのセイコー5 "デイトジャスト "に注目。

『Hypebeast』とのインタビューで、「完璧なアートは退屈だ」とおっしゃっていましたね。完璧な時計もつまらないのでしょうか?

 完璧な時計は存在しません。だからこそ、私たちは中毒になってしまうのです。常に別のものを買わなければなりません。常に次のものを探しているのです。これこそ完璧です。貯金にはあまりよくないですが(笑)、そのぶん、至高の時計を探し続けることができます。

描いてみたい時計はありますか?

 今はグランドセイコーのスノーフレークと蜜月状態ですが、これを描くとしたらただの白いキャンバスになってしまう! だから描くことはできないと思いますが、やってみたいとは思いますね。
 実はこの時計、2月の妻の誕生日に買ったものなんです。僕は1月生まれなので「雪」つながりでいいなと思っていて、さらにこのバージョンは、僕がペロタンギャラリーに加わった2017年に発売されました。そういうつながりもいいですね。
 僕の絵はどれもラフで、この時計はすべてが完璧です。それは、僕にまったくない日本的な部分ですね(笑)。

Madsaki氏は、アイコンや古典をモチーフにした「Wannabe」という作品で知られている。

あなたのコレクションで、他に気に入っている、または話しておきたい時計はありますか?

 いろんなものが好きです。すごく気に入っているセイコー5はすでにディスコンだったのですが、ある人がそれを何であるか知らずに新品のまま持っていました。それをとても安く手に入れました。ツートンのロレックス デイトジャストにそっくりのセイコー5です。セイコーがわざとオマージュしたわけではないと思いますが、この時計にはユーモアのセンスがありますね。面白いです。
 また、僕は「Wannabe paintings」というシリーズの絵を描いていますが、これは象徴的なイメージや古典的な絵画を僕が解釈したものです。面白い意味で、このセイコー5は「Wannabe Datejust」なんです。スタジオではいつもこの時計を使っています。

次はどんな時計を買いたいと思っていますか?

 いつもランゲのツァイトヴェルクの夢を見ています。ずっと欲しいと思っています。銀座では月に一度くらいその店の前を通り、いつも入ってみたいと思っているのですが、なかなか買えません。前面にはデジタルの数字が表示され、うしろを見るとムーブメントの芸術性や職人技がわかるんですよね。見るたびに "Oh my God!"と驚嘆します。

Instagramのようなプラットフォームでは、私たちは常に画像に囲まれています。画像にはヒエラルキーがあると思いますか? 他のものよりも重要なものがあるのでしょうか?

 僕にとっては、すべてが同じです。ヒエラルキーも何もありません。人それぞれつながるイメージがあります。マルボロの広告にしてもレンブラントにしても、あなたが何かしらもつイメージがありますよね。同じことなのです。

また、お聞きしたいのですが、あなたのインスタグラムのアカウントは、他のアカウントをフォローしていませんね。それはどういうことですか?

 (笑)、多くの人に聞かれますが、「僕は嫌な奴じゃないよ」と言います。クールになりたくてやっているわけではないんです。
 インスタグラムを開くと、画像が氾濫していますよね。だから誰かをフォローすると、その画像がどんどん出てくるんだけど、僕は自分で見るものを選びたい。だから、僕は何もフォローしません。あなたの作品を見たければ、あなたのアカウントにアクセスします。90年代に友達の電話番号を覚えていたのと同じですね。自分の好きなアカウントを知っていて、その画像を見たいときに見る。一日中、画像が送られてくるのはストレスになりますよね。
 でも本当に、嫌な奴じゃないですからね。

「Hello Darkness, My Old Friend (I've Come To Talk With You Again)」がニューヨークのペロタンギャラリー(130 Orchard Street)で2021年6月5日まで開催されました。このインタビューは編集・要約されています。