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※本記事は2014年3月に執筆された本国版の翻訳です 。
ようこそ、“リファレンス・ポイント”シリーズの第一弾へ。このカテゴリでは、現代の腕時計の基礎と考えられる重要な時計について、時計愛好家の皆様にお伝えしていきたいと思う。これまでもいくつかの記事、特に“ヒストリカル・パースペクティブ”では歴史的な知識をお伝えしてきたが、今回はさらに遡って掘り下げるつもりだ。 最初の“リファレンス・ポイント”では、パテック フィリップのパーペチュアルカレンダー・クロノグラフという、おそらく最も重要な複雑機構(コンプリケーション)のコンビネーションを特集する。それでは、その原点に立ち返ってみよう。
今からお話しすることよりも重要な系譜をもつ時計が存在するとは思えない。ロレックスのダイバーズウォッチとか? おそらく、それすら及ばないだろう。パテック フィリップのパーペチュアルカレンダー・クロノグラフは、同社の創立175周年を迎えた際も、時計収集の世界で他に類を見ないほどの王道的な遺産を築き上げている。パーペチュアルカレンダー機構にクロノグラフ機構を同居させたコンプリケーションは、パーツの数だけでも存在感があり、そうした点でも注目に値する。この特集では、6つの歴史的なリファレンスを検証するが、そのどれもが既に生産を終えている。本記事の見解ではこれらは、全ての時計愛好家が知っておくべきリファレンスだ。それでは最初から始めよう...。
Ref.1518
1941年に量産された最初のクロノグラフ付きパーペチュアルカレンダーは、リファレンナンバー(Ref.)1518が与えられた。Ref.1518は、パーペチュアルカレンダー・クロノグラフだけでなく、パテック フィリップのフラッグシップとして、そして時計業界全体を代表する量産コンプリケーションの原点となった時計だ。いまや、SIHH(ジュネーブサロン)やバーゼルワールドのような豪華絢爛な見本市で、年に2回、何十ものブランドから新しいメガコンプリケーションが次々に登場し、私たちは飽き飽きするほどだ。1941年当時はどのメーカーもコンプリケーションウォッチを製造していなかったが、例外はヘンリー・グレイブス Jr.やジェームズ・ウォード・パッカードのような著名人がオーダーメイドした時計であった。Ref.1518は神の啓示であり、(世界大戦真っ只中だった)1941年にパテック フィリップは35mmの真の傑作を生み出したのだ。
Ref.1518の3時と9時位置の2つのサブダイヤルと連動するクロノグラフ機構、12時位置の2つの曜日/月表示窓に加えて、6時位置の円形のデイト表示とムーンフェイズのレイアウトは、文字通り、以降70年間のパテックの最も重要な時計のためのデザイン回路図を提供することになった。Ref.1518の各ダイヤルはシルバーカラーにハードエナメルのタキメータースケールを備え、どのRef.1518もムーブメント番号がダイヤルの背面に刻印されている。2枚のシルバーのデイトディスクもエナメル製で、ブルーエナメルとゴールド色の星と月がかたどられたムーンフェイズディスクもエナメル製だ。Ref.1518のケースは、後のジュネヴォールSA(Genevor SA)の前身ジョルジュ・クロワジエ(Georges Croisier)社が製作したもので、ケースは凹型ベゼルと下向きにターンしたラグの3ピース構造であった。1944年におけるRef.1518の当初の販売価格は2800スイスフランだった。
Ref.1518の内部には、バルジュー社エボーシュのCal.13'''130と呼ばれる驚くべきムーブメントが搭載されている。直線的なレバー脱進機、コート・ド・ジュネーブ装飾、温度補正付きブレゲ式巻上ヒゲゼンマイ、スワンネック型緩急針を特徴としている。この23石のムーブメントには、最高品質の仕上げを示すジュネーブ・シールが刻印されており、バルジュー社ベースムーブメントの原形をもはや留めていなかった。Ref.1518の登場から半世紀を経ても、他のマニュファクチュールがパーペチュアルカレンダー・クロノグラフを開発したことはなかった。
究極のRef.1518
Ref.1518はパーペチュアルカレンダー・クロノグラフの揺るぎない原点であり、この驚くべき血統の絶対的な基盤となっているものの、全体としては必ずしも最も望まれたモデルとはいえない。直径35mmのケースと四角いプッシャーは、モダンで日常使いできるというよりは、紳士用クロノグラフといった趣だ。しかし、他のパテック製パーペチュアル・クロノグラフにはない、パテック フィリップの究極のケース素材と多くの愛好家が信じているステンレススティールを採用した数本の個体が、Ref.1518には存在する。
Ref.1518には4本の個体がSS製として知られており、それらは地球上で最も貴重で希少な時計と考えられている。それらは全て戦時中に製造されたもので、ジョン・ゴールドバーガー(John Goldberger)氏の著書『ステンレススティール製のパテック フィリップ(Patek Philippe Steel Watches)』では、4本全ての詳細を見ることができる。これらの時計は一般向けに販売された実績がないため、実際の市場価値は値が付けられないが、ブルームバーグは、2007年に220万ユーロの価格でアルフレッド・パラミコ(Alfredo Paramico)氏がその中の1本を購入した経緯を詳述している。私個人にとって、スティール製のRef.1518は聖杯である。
Ref.2499
Ref.1518の13年後に登場したのがRef.2499だ。 実際、Ref.2499は1951年に発売されたといわれているが、Ref.1518の製造終了年は1954年であり、これはつまりRef.2499の初期モデルが最終モデルのRef.1518と並行して製造されたことを意味している。 パテックRef.2499は、多くの人が究極のパテック フィリップであると考えており、古き良き時代の魅力と現代的な装着感を兼ね備えている。Ref.2499は、おそらくPPパーペチュアルクロノの中で最も研究され、分析されているモデルでもあり、ここでは4つの世代をそれぞれ解説していくので、最もパワフルなこの時計を身に着けている玄人に今後出くわしたときには、リファレンスに止まらず、より多くのことを知ることになるだろう。
第1世代のパテック フィリップRef.2499は、ダイヤル、針、そして実に先代Ref.1518に瓜二つのプッシャーを備えている。下の画像で分かるように、全てのRef.2499第1世代は、正方形のクロノグラフプッシャー、アプライドされたアラビア数字、タキメータースケールを備えている。
Ref.2499第1世代は、2012年12月に40万ドル以上で落札された - それは大金か? もちろんそうだ。繰り返しになるが、ケース素材によっては価格に大きな違いをもたらすことがある。その半年前の2012年5月には、ピンクゴールドのRef.2499第1世代がクリスティーズで275万ドルという高値で落札された(ただし、37.5mmの特製ケースも価格に加味されている)。
第1世代に続き、Ref.2499のデザインコードは大きく変更された。突如、丸いポンププッシャーにバトンかアラビア数字のアプライドインデックス、そしてタキメータースケールが引き続き採用されたデザインになった。 繰り返しになるが、読者が目にするRef.2499の大部分はイエローゴールド製だが、ローズゴールドの個体に出くわしたら、それは極めて例外的なものだ。例えば、このピンクゴールド製ケースにピンクトーンのダイヤルをもつRef.2499の第2世代は、2014年11月にクリスティーズにおいて216万ドルで落札された。
第2世代の時計が生産されるようになったのは、Ref.2499が35年の歴史をスタートさせてから4年後の1950年代中頃のことだ。最終的に、もはやダイヤル上のタキメータースケールも、アラビア数字も廃されたRef.2499の第3、第4世代に落ち着いた。Ref.2499の4つの世代のうち、最も一般的で、そしておそらく最も望ましくないのは、第3世代であり、その理由はまあ、ありふれているからだろう。第3世代のRef.2499は、およそ1960年から1978年まで製造され、Ref.2499全体の約半分を占める。第3世代は第2世代によく似ているが、見分けるための最も簡単な方法は、ダイヤルをよく見ることだ。そこにアプライドされたがバーインデックスがあって、タキメータースケールがないって? では、それは第3または第4世代のRef.2499のいずれかだ。
第3世代と第4世代の違いは? 第4世代は、基本的にヴィンテージとモダンの過渡期にある時計であることを除けば、大した違いはない。 1978年から1985年頃まで製造され、最後の数本の時計がRef.2499/100を引き継ぐことになった。第4世代とそれより前のモデルとの大きな違いは、後者がサファイアクリスタル風防を実装している点だ。
究極のRef.2499
Ref.2499の価値は? 見てのとおり、非常に高額となる。例えば、ローズゴールドであれば、100万ドル以上だ。 あるいは、ダイヤルにカルティエのサインがあっても、100万ドル以上になる。もちろん、Ref.2499の中で最も高価なものは、2012年11月にクリスティーズ・ジュネーブで販売されたもので、この記事のとおりだ。最も高額なRef.1518がスティールを採用しているのに対し、Ref.2499ではプラチナ製だ。実はプラチナ製のRef.2499/100は世界に2本あり、どちらも1985年にスターン氏自身が直接依頼して製作されたものである。1本はスターン家が所有しており、ジュネーブのパテック フィリップ・ミュージアムに展示されている。もう1本は、1989年4月9日に開催された “パテック フィリップの芸術”と題した、同社の歴史を変えることになるオークションで、一般の人々に販売されることとなった。ここでは、想像しうる買い主だったパテック フィリップと共に、一般に公開された唯一のプラチナ製Ref.2499が落札され、合計41万8000スイスフラン(当時は約25万3300ドル)の落札額となった。インフレ調整後の価格は約51万3688ドル。これは1989年のことで、2014年のことでは当然ない。誰も時計にそんなにお金をかけていなかった時代での金額である。
このプラチナRef.2499は、最終的に世界の偉大なパテック フィリップコレクターの一人であるエリック・クラプトン氏の手に渡った。そう、あの(偉大なギタリストである)エリック・クラプトンだ。彼がこの時計を所有していたことは時計収集の世界では知られていたが、まさか再び売りに出されるとは想像できなかった。そして、この記事を書いた2012年11月に競売された。それは363万ドルで落札され、地球上で最も羨望を集めた時計の一つとして、Ref.2499の地位を確固たるものにした。しかし、注目すべきは、多くの人がクラプトン氏のRef.2499がさらに高値で売れると予想していたことだ。それは、そのオークションの中で最も高額な時計ですらなかった。ちなみにその時の最高落札額の時計がこちらだ。
それでもパテック フィリップRef.2499は、同社のデザインの最高峰と考えられており、35年間で349本しか作られていないことから(年産10本以下!)、価格は着実に上昇している。直径37mm超のサイズ、4世代にわたる系譜、そして華麗なる血統は、少なくとも現在考え得る最高の時計であり、手首に巻いた存在感も抜きん出ている。
Ref.3970
現代へ、そしてRef.3970へようこそ。Ref.3970は非常にバランスのとれた時計であり、パテック フィリップらしいピュアな時計だ。Ref.3970は、最終型のRef.2499/100に続いて1986年に発売された。Ref.3970はRef.2499と同様、数年に渡って製造されたが、近代的な生産設備の恩恵によって、より多くのモデルが量産された。しかし、Ref.3970の詳細に入る前に、まず内部のムーブメントについて説明しなければならないだろう。Ref.3970は、バルジューベースのクロノグラフではなく、Cal.2310と呼ばれるレマニア社ベースのムーブメントを初めて採用したものだった。Cal.2310は、現在では世界で最も優れたムーブメントの一つと考えられており、他のどのキャリバーよりも優れた長期の試練に耐えてきた。Cal.2310は、オメガのCal.321の基礎となっており、「ムーンウォッチ」として知られるキャリバーであると同時に、パテック フィリップ、ヴァシュロン・コンスタンタン、ブレゲなどと共通したベースキャリバーでもあった。Ref.3970、そして最終的にRef.5020とRef.5970の両方に搭載されたパーペチュアルカレンダー・クロノグラフは、Cal.CH 27-70 Qと呼ばれた。
また、Ref.3970について興味深いのは、このモデルが発表されたのが景気拡大期の10年の半ばで、パーペチュアルカレンダー・クロノグラフの後継モデルであるにも関わらず、全くサイズアップしていないという点だ。実際、Ref.2499から37.5mmのケースが36mmにダウンサイズされ、Ref.1518よりも1mm大きい程度だ。
OK、ではRef.3970の闇に焦点を当てよう。まず知っておく必要があるのは、ケース素材の違いで100万ドルの差が生まれるわけではないということだ。確かに、ローズゴールドよりもプラチナ、イエローゴールドよりはローズゴールドケースの方がより高価となるのは間違いないが、Ref.3970は4種類のケース素材全てがシリーズ化された。また、Ref.2499と同じようにRef.3970にも世代が存在する。
Ref.3970/3971の最初の100本の時計
第1世代のRef.3970は1986年に製造され、約100本が製造されたが、その全てがYG製だった。さらに混乱を招くのは、Ref.3970がRef.3971と呼ばれる姉妹モデルと一緒に発表されたことだ。どちらのモデルも、現代的なねじ込み式ではなく、スナップ式のケースバック(スナップバック)を採用している。Ref.3970はクローズドされたケースバックを備えていたが、Ref.3971は下の写真のようにサファイアのディスプレイケースバックを備えていた。
第1世代はリーフ針とバーインデックスが特徴で、初期型第2世代のRef.2499と非常によく似た外観を持つ。下の写真の時計は、これまでに生産された9番目のRef.3971と信じられており、それは偉大なパテックコレクターのヘンリー・グレイブスJr.の孫であるレジナルド "ピート "フラートンが所有していた。これらの初期のスナップバックは非常に人気が高く、YG製の後期型Ref.3970よりもプレミアム価格となる。最初の世代のRef.3970は、ダイヤルの他の部分と少しだけ色が異なるサブダイヤルを備えている。この時計はオークションにて11万6000ドルで落札されたが、この時計がどれほど初期のものであったかを考えると、バーゲンプライスと言わざるを得ない。
つまり、実物を拝むことはほぼ叶わない第1世代のRef.3970に続いて、第2世代が登場することはお分かりだろう。第2世代のRef.3970は、正面から見ると第1世代と非常によく似ている。ダイヤルには同じリーフ針とがバーインデックスがある。ダイヤル側の大きな違いは、サブダイヤルがダイヤルと一致したことだ - つまり配色が統一された。しかし、第2世代のRef.3970が第1世代と最も重要な点で異なるのは、ケースバックだ。スナップバックの代わりに、クローズドのスクリューバックを採用。少なくとも表向きには。なぜならRef.3970製造初期に、パテック フィリップは顧客の要望に応えるようになっていたからだ。フラートン氏が所有していた9本目のRef.3971には、サファイア製ディスプレイケースバックを備えていたように、顧客はサファイアクリスタルを使ったスクリューバックをリクエストすることができたのだ。ほとんどの第2世代のRef.3970にはディスプレイケースバックはないが、存在はするのだ。
実は今回用意した時計、第2世代のRef.3970Rは、希少なサファイア製スクリューバックを搭載している。第2世代のRef.3970は1986年頃から1991年頃まで生産され、その後すぐにサファイアスクリューバックのRef.3971が登場している。第2世代の時計は極めて収集性が高く、購入に大きなプレミアムを支払う必要はないが、年を重ねるごとに第1、第2と第3世代のRef.3970との間の格差が広がっていくことが考えられる。
その第3世代のRef.3970について話題を移そう。我々が目にするRef.3970の大半は、第3世代の時計だ。公式なリファレンスはRef.3970Eだろう。"E "は "エタンシェ "つまり"防水 "の頭文字で、パテックは全ての時計にサファイアとスクリューバックの両方をRef.3970に提供した。時計のフロント側には、リーフの代わりにバトン針、および先端の尖ったバーインデックスを備えた。ダイヤルのプリントは第1世代や第2世代に比べてかなり濃くなり、ダイヤルが明るくクリアなシルバーになっていることに気づくだろう。ここでは、2004年に製作された後期の個体を紹介するが、これは第3世代のRef.3970がどのように見えるかを顕著に示している。
36mmのサイズと信じられないほど洗練された外観をもつRef.3970は、私の目には本当に特別に映る。しかし、その価格は、Ref.1518やRef.2499のような真のヴィンテージモデルよりも、透明性が高いことも、曖昧なこともある。その理由は、市場には非常に多くのRef.3970が供給された事実である。18年間のざっくりとした生産本数は、2400本から3600本といわれている。つまり、Ref.1518やRef.2499の10倍以上の数が生産されていることになる。価格は、それなりに、かなり手頃になるだろう。どういうことかというと、3970Jが7万5000ドルにも14万ドルになることもあるということだ。前者は、研磨痩せした第3世代の個体で、おそらくアーカイブが欠けている。後者は、研磨されていない第1世代の個体で、オリジナルの付属品が全て付いている場合の価格だ。
Ref.3970は、コンディションによって世界はまるで異なるが、ほとんどの場合、価格がどれだけ魅力的であっても、7万5000ドルのRef.3970を購入する気は起きないだろう。しかし、10万ドルで大切に扱われた素敵なRef.3970Jを購入し、素晴らしい気分になる可能性はある。そう、私たちは6桁ドルの話をしており、出費に見合う価値としては途方もない数字だが、そもそも誰も気に留めない時計なのだ。第1世代の時計のほかに、最も高価な作品は、Ref.3970P(プラチナ製だ)であり、ブラックのバーインデックスダイヤルはとりわけ高価だ。Ref.3970Pのブラックダイヤル仕様の大半は、ダイヤモンドマーカーなのだ。つまり、多くの愛好家は、最も希少なRef.3970は、ホワイトゴールドケースにバーインデックスのブラックダイヤルを備えた個体と考えている。
究極のRef.3970は存在するのか?
実はそんなものは存在しない。少なくとも、スティール製のRef.1518やプラチナ製のRef.2499と並ぶ個体は存在しないのだ。Ref.3970のプラチナは量産されており、スティール製の個体は知られていない(存在する可能性はあるが)。破格の値が付く可能性のある唯一のRef.3970は、特別なダイヤルを備えたもので、そのうちのひと握りがありえる。特別色のダイヤルやブレゲ数字のダイヤルは、大きな差別化を生み出すことができる。ここで紹介できるのは、実はこれまでで最も高価なRef.3970で、2013年11月にクリスティーズ香港にて33万9552ドルで落札された個体だ。
それでも、Ref.3970はピュアなパテック フィリップであり、この系譜の真のヴィンテージモデルのような存在ではないかもしれないが、その美点は強調しても、し過ぎることはない。
Ref.5020
これは変わり種である。Ref.5020は、Ref.3970と同じレマニアベースのキャリバーを採用し、特大の「TV」スタイルのケースに収め、ダイヤルにはブレゲ針と数字を配している。 1990年代初頭に発売されたこのモデルは大失敗に終わり、わずか2年で生産が終了した。そのため、専門家の推定では生産本数は300本以下と見積もられており、希少性の点ではRef.1518やRef.2499と同格とされている。Ref.5020Pは、オークションに出品された5本目のモデルであり、ボナムズ・ニューヨークにて33万8000ドルで落札された。
Ref.5020は何年も前から着実に価値が上がっていたが、2011年のセールで世界中のコレクターの目が開かれ、今ではゴールドケースのRef.5020がRef.5970Pの価格と肩を並べるまでとなった。Ref.5020にはRef.3970のような特別な逸品があるわけではないが、プラチナで作られた時計は推定20本しかないことを考えると、ダイヤモンドがセットされたブラックダイヤル仕様のRef.5020Pは、このカテゴリでは最高の時計といえるだろう。しかし、Ref.5020はシリアスなコレクターの間で勢いを増していることを認めつつも、パテックのパーペチュアル・クロノグラフを語る際には見落とされがちなモデルであることは否めない。
Ref.5004
さて、読者の中にはこれを待っていた方も多いのではないだろうか? Ref.5004のことである。これはRef.3970のように説明することができるが、スプリットセコンド・クロノグラフを搭載している点が異なる。Ref.5004は絶対的な象徴的モデルであり、パテック・コレクターにとって垂涎の的だ。直径36mmのサイズ、レマニアキャリバーの上に配置されたラトラパンテ機構によって、Ref.5004は独自のコレクションカテゴリへと成長した。
スプリットセコンド・クロノグラフを搭載したパーペチュアルカレンダーについては、極めてクールな存在であるため、このリファレンスは現代の最も重要な時計の一つと考えられている。 1996年に発売され、2012年に自社製ムーブメントを搭載たRef.5204が発表されるまで、毎年12本しか製造されなかったといわれている。上の動画でも紹介したように、Ref.5004は全てのケース素材で作られたが、現在はブラックダイヤルの初期のプラチナケースが最も人気が高い。
究極のRef.5004(たち)
認めよう、どんなRef.5004も究極のRef.5004だ。しかし、あえて選ぶなら次のいくつかだろう。最初の究極のRef.5004はRef.5004Aだ。そう、パテックを熟知する人なら、Aがスティールの頭文字(訳注:フランス語でスティールは‘A’cierと綴る)であることを知っているだろう。2011年11月、パテックが最後の50本のRef.5004をSSケースで製造するとの情報が入った。収集界隈はこの話題で大いに沸いた。30万ドル以上の価格で販売されたこれらのRef.5004には、転売を抑止するためにケースバックに所有者の名前が刻印された。しかし、それは問題ではなかった。ほどなくして、オークションに登場したからだ。
このモデルはクリスティーズ香港にて40万9000ドルで落札された。このSS製Ref.5004は、紙面上では非常にクールな時計といえるが、この記事を書いている時点で、顧客の需要に応えるために50本以上のモデルが作られたとの事実に対し、ハードコアなパテック・コレクターの間で不平不満が漏れ伝わってくる。そして、それは多くの人を怒らせてしまったようだ。Ref.5004は15年の製造期間中、1年に平均12本しか製造されなかった事実を考えてみれば当然のことだ。たった180本という計算になる。それが突然、スティール製50本が市場に出回っているとしたら、どう思うだろう? Ref.5004には実際、他のどのケース素材よりもSS製が多いことを意味しているのかもしれないわけだ。
他にも特別なダイヤルをもつものや、純正ブレスレットを装着したものなど、特別なRef.5004が存在する。しかし、全てのRef.5004を総括するのはRef.5004Tだ。そう、これはチタン製のユニークなモデルで、昨年Only Watchにて398万ドルで落札された。これはクラプトン氏のRef.2499よりも高額落札となった。
Ref.5970
それと、Ref.5970。ある人は、これがこれまでに作られた最高のパテック フィリップと呼ぶリファレンスだ。またある人は、完璧なプロポーションだと書き立てる。それ以外の人々は、パテック フィリップ傑作の最新版と呼ぶ。Ref.5970は2004年にされラインナップに加わり、自社製ムーブメント搭載のRef.5270の導入に伴い、2011年に退場した。7年の生産期間は、パテックのパーペチュアル・クロノ史上最短となった。それに加え、現代的な直径40mmのケースサイズ、タキメータースケールを搭載した完璧なバランスのダイヤル、そして先代モデルとは全く異なる外観がRef.5970を際立たせている。 40mm径ケースの中には、Ref.3970とRef.5020両方に採用されたレマニアベースのムーブメントが搭載されている。しかし、直径が大きくなったことで、多くの人がこの時計のバランスの秀逸さを、小径モデルである先代Ref.3970よりも優れていると評価するだろう。
Ref.5970においては、あらゆることが非常に簡潔にまとめられている。このモデルは4種類のケース素材が採用されたが、中でもプラチナモデルは他のモデルに比べて非常に優れている。しかし、多くの人はRef.5970J(イエローゴールド)が最も希少なモデルであると考えている。Ref.5970のダイヤルのバリエーションはあまり多くないが、ティファニーのシグネチャーや特注ダイヤルが存在するからである。Ref.5970は、時計の中では最も安全な投資先の一つだ。ニューヨークマガジンは2005年に記事を掲載し、Ref.5970Gが当時の8万9600ドルの値札に値するかどうかを疑問視した。その同じ時計は現在、中古市場約において14万5000ドルで販売されている。つまりRef.5970は金と同じくらい(とまではいかないにしても)投資パフォーマンスに優れる時計なのだ。
このシャンパンダイヤルのRef.5970Jは2013年12月に35万3000ドルをもたらしたが、それは全てダイヤルの希少性ゆえである。そう、ダイヤルカラーの違いだけで、通常のRef.5970Jよりも20万ドルものプレミアム値が付いているのだ。ローズゴールド、ホワイトゴールド、イエローゴールドのモデルでは13万~15万ドル前後、プラチナの素晴らしい個体では17万5000ドル前後の価格を見込むことができる。Ref.5970の価値はすべからく上昇中で、2013年5月にはプラチナ製の時計が21万7000ドルを記録した。
究極のRef.5970
究極のRef.5970は存在するのだろうか? 繰り返しになるが、全てのRef.5970に聖杯に値する価値があると言いたいところだが、SS製やTI製のRef.5970は存在しない。コレクションの世界で最も興味深いRef.5970は、Ref.2499のくだりでお世話になったエリック・クラプトン氏所有の1本だ。2011年イタリアGPで撮影されたクラプトン氏の写真には、ブレゲの数字が入ったホワイトメタルのRef.5970と思われるものが写っている。
ダイヤルはかろうじて確認できるが、明らかにRef.5970であり、通常生産ラインのダイヤルではないことも明らかだ。ここでもう少し詳しく見ることができる。
いずれにせよ、Ref.5970は現代の時計収集の頂点であることに変わりはないという結論と共に、パテック フィリップのパーペチュアルカレンダー・クロノグラフを巡る旅を締め括ろうと思う。Ref.5270とRef.5204はまだ製造中であり、これらの時計については、まだ評価が確立されていないため、ここでは触れないことにする。それまで、私たちの初のリファレンス・ポイントの特集記事が楽しめることを願っている。近いうちに第2弾をお届けしたい。
謝辞
この特集の撮影と制作に時計の使用を許諾してくれたMichael Safdie氏とMadison Timeに謝意を表する。このNYCアッパーイーストサイドの素晴らしいショップの紹介はこちらから。
生産本数、製造年月日、世代分類は、全てクリスティーズ、アンティコルム、サザビーズ、ボナムズが行った過去の調査に基づいて推定されたものだ。