Photos by Zachary Piña
ブライトリングのオーナーシップグループであるパートナーズグループが、ヴィンテージコレクターに愛されるユニバーサル・ジュネーブを買収すると発表してからほぼ1年が経過した。この発表以来、最初の製品がいつ公開されるのか、そしてこの待望のブランド復活が市場でどのような位置付けになるのかについてさまざまな憶測が飛び交ってきた。
そしてついにその時が訪れた(ある意味では、だが)。ユニバーサル・ジュネーブが3本の驚くべき新作、ポールルーター トリビュートウォッチを発表したのだ。ただし過度な期待を抱く前に、この新しいモデルたちはいわば“コンセプ欲しい。
この現実を受け止めたうえで新作、ポールルーター SAS トリビュート エディションを紹介しよう。これらはスカンジナビア航空による世界初の北極圏横断商業飛行の70周年を記念して製作されたものであり、当時の多くのSASパイロットが着用していたポールルーターを称える3本の時計からなる。
3本のなかで主役といえるのは、間違いなくホワイトゴールド(WG)製のバリエーションである。このモデルには熟練のチェーンメーカー、ローラン・ジョリエ(Laurent Jolliet)氏が手作業で製作した史実に忠実なゴールドメッシュブレスレットが装着されている。この時計は2025年5月にフィリップスのオークションで出品され、収益はジュネーブで応用美術を教える準備校、CFP(Centre De Formation Professionnelle)Artsに寄付される予定だ。同校は伝統的な時計製造の知識を次世代に継承することを目指している。
具体的には当時のユニバーサル・ジュネーブの時計が持っていた特徴的なデザインや製作技術、素材などを忠実に再現することで、時計そのものが過去のオリジナルと見紛うほどの再現度を達成していることをこのモデルで強調している。こうした取り組みは、時計ブランドが歴史的価値や伝統を重視していることを示すだけでなく、コレクターや愛好家に対してそのブランドが持つ文化的、歴史的意義を改めて認識させる目的も含まれている。
ユニバーサル・ジュネーブ復活の意義を完全に理解するためには、ここ10年余りの時計業界を俯瞰して見る必要がある。この期間は“リバイバル時代”とでも呼ぶべきものであり、クォーツショックによって一時消滅した愛すべきブランドが次々と復活を遂げてきた。これらの復活はソーシャルメディアと現代の製造技術によって新たな命を吹き込まれ、ヴィンテージのノスタルジーをできる限り維持することを目的としている場合が多い。復活したブランドのなかには、アクアスター、ドクサ、ニバダ・グレンヒェン、トルネク-レイヴィル、シェルパ(厳密にはエニカだが、これはまた別の話だ)、バーテックス、そしてソーシャルメディア以前の時代まで遡ればブランパンも含まれる。しかしユニバーサル・ジュネーブは長いあいだ“眠れる巨人”として君臨しており、このリバイバル時代においてもまだ手付かずの大きな存在として残っていたのだ。
ブランパンのブランド復活は、今回のユニバーサル・ジュネーブのケースと非常に興味深い類似点を持っている。新作のポールルーターウォッチを実際に手に取ってみると、その目指す方向性は明白である。ユニバーサル・ジュネーブは見事なハンドフィニッシング、自社開発のマイクロロータームーブメント、高級時計の伝統的な特徴をすべて備えた製品を新拠点であるラ・ショー・ド・フォンで展開しており、これまでのブランドの枠を超えた存在を目指している。表向きにユニバーサル・ジュネーブはブライトリングにとって、オメガにとってのブランパン、またはロレックスにとってのチューダーのような存在になると考えられる。しかしブライトリングとの価格差がどれほどになるかは、まだ明らかではない。高品質なマイクロロータームーブメントを搭載したほかの例を参考にすれば、ある程度の推測は可能である。たとえばステンレススティール(SS)製のショパール L.U.C. XPS フォレストグリーンは174万9000円(税込)、WG製のパテック フィリップ Ref.5026は380万円程度である。ケース素材によるが価格はその中間あたりになる可能性が高いと見られる。
香港に拠点を置く持株会社(ステラックス)の下で長らく停滞していたユニバーサル・ジュネーブは、30年以上の沈黙を破り共同ブランドのパートナーウォッチとして再び姿を現した。これは文字の上では大胆なローンチ戦略のようにも見えるが、実際にはユニバーサル・ジュネーブの歴史的な手法そのものを踏襲している。今回の新作はブランドの最も重要な時計への正統なトリビュートであり、当時23歳で無名だったジェラルド・ジェンタ(あのジェンタだ)がデザインし、1954年11月に開設されたコペンハーゲン-ロサンゼルス間の“ポーラールート”開通を記念して製作された。
この170本のオリジナル ポールルーターの多くは、当時のSAS(スカンジナビア航空)のパイロットや乗員に支給された。この時計はのちの多彩なポールルーターモデルの基盤を築いただけでなく、ヴィンテージユニバーサル・ジュネーブのコレクターたちにとっても重要なリファレンスとなった。そしてこの1954年の歴史的な飛行へのオマージュとして、ユニバーサル・ジュネーブは今回のWG製ポールルーター(来年のオークションに出品予定のもの)をSASのSK 931便のパイロットたちとともに送り出した。彼らは本日、ちょうど70年前の1954年に行われたオリジナルフライトと同じルートで、コペンハーゲンからロサンゼルスへ飛行する。ただしグリーンランドでの給油ストップは今回は不要だ。
そのデザインに目をやると、20世紀半ばに登場した時計にはそれほど複雑なデザインはなかった。しかしジェンタがてがけたポールルーターは明らかに異彩を放っていた。このモデルは繊細に作り込まれたダイヤル、大胆なインデックス、印象的な曲面、そしてエッジ部分の華やかな装飾が特徴であった。さらに注目すべきは、アワーマーカーをクリスタルに固定し、ダイヤルをカーブさせることで水、埃、衝撃への耐性を高めつつ、独特の美観を実現してすべてのパーツをしっかりと固定した点である。
ポールルーターはユニバーサル・ジュネーブの方向性を決定づけるモデルとなった。この時計は単に美しいだけでなく、独創的でありながら、非常に実用的かつ信頼性の高いものであった。当時の長距離商業飛行を担うパイロットにとって理想的なツールであったのである。今回発表された3本の新作ポールルーターは、このオリジナルモデルの特徴を忠実に受け継いでいる。復元された未使用のヴィンテージUG 1-69マイクロロータームーブメントを搭載し、慎重に再構築された35.5mm径のケースと竪琴ラグの魅力まで細部にわたって再現されている。しかしこれらの現代版ポールルーターが、マット仕上げのダイヤルやエクリュ色のスーパールミノバを採用した“ヴィンテージ風の復刻版”にすぎないと考えるのは早計である。これらのモデルはきらめく三次元的なダイヤルディテールや卓越したムーブメントの仕上げを備え、オリジナルの1-69モデルから大きく進化した、高級感あふれる1本に仕上がっている。
ユニバーサル・ジュネーブの熱心なファンが集う部屋には、時計業界における著名なコレクターたちが顔を揃えていた。ブルース・リー(Bruce Lee)が所有していたポールルーターのオークションを主催したオーレル・バックス(Aurel Bacs)氏や、17歳の時に偽造IDを使ってUGのオークションに参加したというエピソードを持つ男性のほか、ポールルーターに関する決定的な著書を共著したアンドリュー・ウィリス(Andrew Willis)氏とマッティア・マズッキ(Mattia Mazzucchi)氏も参加していた。この場でブライトリングのCEOジョージ・カーン(Georges Kern)氏は、長いあいだ休眠していたこのブランドが持つ驚異的な可能性を率直に認めるとともに「ブランドに対する期待値の高さは非常に大きな課題だ」と述べ、その成功への途方もないプレッシャーを語った。しかし彼ひとりでこの復活を成し遂げるわけではない。現在ユニバーサル・ジュネーブの舵を取るのは、UGコレクターであり、ロジェ・デュブイで22年のキャリアを積んだグレゴリー・ブルタン(Gregory Bruttin)氏だ。彼がここから2026年の正式なグローバルローンチに向けてブランドを導くことになる。
時計業界で長らく待ち望まれた成果が実る前に、その成長を間近で見守れる機会は滅多にない。しかしユニバーサル・ジュネーブほど豊かで多様性に富んだ過去のカタログを持つブランドはほとんど存在しない。そのため一般市場にローンチする前に、ブランドがより完成度が高く一貫性のある基盤を整えようとしているのは納得できるだろう。
それに長年この“最後の偉大なリバイバル”を望んできたコレクターたちはすでに30年待っていたのだ。あと18カ月など大したことではないはずだ。
詳細はユニバーサル・ジュネーブのウェブサイトをチェック。