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Editors' Picks 大好きだけど、つけられない時計

手首には合わないけれど、素晴らしい時計たちだ。

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好きな時計、あるいは愛してやまない時計であっても、自分の手首には似合わないと思ったことはないだろうか? それは、人には言えない後ろめたいものであったり、あなたの普段の時計の好みにそぐわない変わった品なのかもしれない。あるいは、誰かほかの人が腕につけているのを鑑賞したいような時計かもしれない。僕たちは皆、そんな経験がある。そこで今回は、HODINKEEのエディターたちに、愛してやまないけれどもつけられない時計を選んでもらい、理由を説明してもらった。これはセラピーとでもいうのだろうか、あるいは不満の吐き出しか。どちらにせよ、悪しからず。

ウルベルク UR-100V[マーク・カウズラリッチ(Mark Kauzlarich)]

 私の考えはふたつの短文にまとめることができる。私はウルベルクが大好きだ。私はこんなに紫色の時計はつけられない。

 ウルベルク UR-100は、このブランドを世に知らしめた時計であるUR-103を意識して、これとよく似たワンダリングアワーサテライトディスプレイを搭載し、より手頃な価格で2019年に発売された。UR-100Vは、ウルベルクで最も合理的な41mm×14mmサイズのケースを備えつつ、目を引く外観を保っている。それでいて、これは市場にある多数の超現代的デザインの時計よりもはるかに身につけやすく、直感的な時計であると思う。

Urkwerk UR-100V

 私は、控え目で非常に伝統的な時計の大ファンなのだけれども、ウルベルクにはなぜか何度も戻ってきてしまう。実際、ウルベルクのおかげで、これと似たディスプレイを採用したオーデマ ピゲ スターホイールなど、伝統的ブランドによる実験的な時計の魅力に気づけるようになったと思う。そしてもし高級時計を1本買えるだけのお金が入ったギフトカードを誰かにもらって、「使わないと消えてしまいますよ」と言われたとしたら、おそらくウルベルクは候補の上位5選に挙がるだろう。しかし、ウルトラバイオレットの時計を着こなすのは、私には無理そうだ。

 以前ジョン・メイヤー(John Mayer)が、ポイント制に基づく着こなしについてGQのインタビューで語っていたことがある。例えば、あなたの着る服に全体で10ポイント“消費”できるとする。Visvimのローブを着たら多分7ポイントくらいになるだろうから、残りの服はジーンズとTシャツしか着られない。こういう感じでもし私が10ポイント使えるとしたら、この時計は少なくとも6ポイントにはなる。だからもしギフトカードが送られてきたら、もう少し控えめな色調のものを探すだろう。そうすれば、少なくともボクサーパンツと紫の時計だけで歩き回らずにすむはずだ。

ブルガリ オクト フィニッシモ 妹島和世 限定モデル[ノラ・テイラー(Nora Taylor)]
bulgari octo

Image: Courtesy of Janosch Abel

 私は本当に、天文学的に不器用だ。そして、この豪華でスーパーポリッシュされたブルガリは、私が腕につけると危険にさらされることになる。オクトはとても好きだが、基本的にはあまり手を出さない。でもこの時計は特に、ただ単に合わないのだ。このような時計はほかにない。本当に、自分がこれを使いこなせるシックで優雅な人だったらよかったのだが…。

ロレックス デイトジャスト 31 フローラルダイヤル[アンソニー・トライナ(Anthony Traina)]

 ロレックスのデイトジャストはクラシックで、普遍的な時計である。私が常用する時計をもしもひとつ選ぶとしたら、何か変わったもの、しかし変わりすぎではないものにしたい。この新しい花柄のロレックス デイトジャスト 31mmは、どちらかといえば“つけたいとは思うが、まだそれほどの自信がない時計”である。が、この記事をセラピーにしたいわけではない。我々の上司ニック・マリノ(Nick Marino)と同じく、今年もツートンカラーの新作、チューダー ブラックベイ 31が密かなお気に入りの一品だ。試着してみると、もしかしたら、いつか31mmのデイトジャストを着こなせるかもしれないと確信した。そして、もしそうなるとすれば、このデイトジャストかもしれない。

rolex floral dial

 2022年、ロレックスは花束のように、ダイヤルが花柄のデイトジャストを複数発表した。そのなかでも、31mmのホワイトロレゾール(ロレックスのホワイトゴールド)ケースに収められたアズーロブルーダイヤルの時計は、明らかに際立っている。鮮やかなブルーで、花々はその中心に小さなダイヤモンドがあしらわれ、遠くから見ると驚くほど繊細だ。まさに私がデイトジャストに求めていたもの、個性的でありながら、近くで見たときにしかわからないものだ。一見する人にとっては“ただのデイトジャスト”かもしれないが、それでいい。

 私にとっては、ロレックスが2022年スポーツウォッチに加えた競うような改良よりも、こういう微調整のほうが楽しく、おもしろい。だが今のところ、花柄の時計を身につける気にはなれずにいる(下のVCAも素敵ではあるが)。しかし、いつかその気になる時が来るとわかっている。その時にはこの時計が待っているはずだ。

タグ・ホイヤー モナコ・ガルフ スペシャルエディション[サラ・ミラー(Sarah Miller])]

 カーレースは大嫌い。クルマも嫌い。この時計にガルフのロゴがあるのも嫌。でもそれなのに大好きだ。この色と、大きな四角い枠のなかにさまざまな形が配置されているのが好きだ。青とオレンジで縁取られた白い小さなふたつの箱と、小さなオレンジの針も、そして、大きいオレンジのクロノグラフの秒針とそれがマッチしているのも好きだ。インデックスも、小さな白い丸の上に白い斜めの長方形が乗っているのも、まるでミース・ファン・デル・ローエ(Mies van der Rohe)設計の高層ビルがセグウェイに乗っているみたいで。

tag heuer monaco

 私の手首は、この時計をつけるには小さすぎる。この時計は、これをつけるような人につけていてもらいたい。私と何の共通点もない、カーレースを引退してアヤワスカで自分探しの旅に出るような人だ。この時計は、そういう人が旅の7晩目か8晩目に「ビジネススクールに行こう」とひらめくあたりのような感じだ。でも私は見れば好きな品だとわかるし、とてもバカバカしいとしても、この時計が大好きだ。

パテック フィリップ アクアノート・ルーチェ《レインボー》クロノグラフ[ダニー・ミルトン(Danny Milton)]

 2021年私は、パテック フィリップのアクアノートがなぜかこのブランドのカタログで入門レベルの時計であると知って衝撃を受けた。それ以来、私はますますこの時計が好きになった。シンプルでフィールド感のあるデザインが好きで、オリジナルのRef.5060Aの長年のファンだ。そして、このレインボーの時計がウィリー・E・コヨーテ(Wile E Coyote)に落ちてきた金槌のように現れたとき、私は「もしかしたら、私はシンプル好きではないのかもしれない」という感覚を一瞬にして抱いた。「このダブルレインボー、ゴールドのアクアノートにクロノグラフ機能を搭載し、赤いコンポジットストラップをつけたモデルが好きなのかもしれない」と。女性向けの品として販売されていることも忘れてしまうほどに。

patek rainbow

 これは39.9mmである。実質的にレインボーデイトナと同じで、私に訴求してくるサイズだ。しかし、この奇妙なデザインの品は大好きだが、これを装着するうえでふたつの点で問題があるように思う。ひとつは、20万ドル(約2600万円)を超える価格帯。私は断固として10万ドル(約1300万円)以下を選ぶ人間だ(実際はもっと下…もっともっと下の価格帯を)。もうひとつは、もしこの時計を購入できるような資金ができたとしたら、私はこの時計を自分だけの美術館に飾る品にしてしまいそうだということだ。人前でこれだけ派手なものを身につけるような人間ではない。というか、こういうものが好みだと今さら気づいたばかりなのだ。

アーミン・シュトローム デュアルタイム・レゾナンス[ローガン・ベイカー(Logan Baker)]

 実は、この質問に答えるのはかなり難しかった。私は自分を、どんな時計を身に着けることに対しても概して非常にオープンで友好的な人間だと思いたいのだ。直径が小さなものから大きいものまで、どんなサイズの時計も心地よく着用するし、たまには殻を破って極太の時計をつけてみるのも楽しいものだ。そんな私が、ついに1本だけ、とても魅力的で、しかも残念ながら私の腕には合わない時計を見つけた。それがアーミン・シュトロームのデュアルタイム・レゾナンスである。

armin strom dual time resonance

 私は、共振現象に対するアーミン・シュトロームの非常に直接的なアプローチをいつも高く評価してきた。そしてこれをふたつのタイムゾーンを備えた腕時計に応用する技は独創的で、非常に理に適っている。その完成度の高さには驚かされるばかりだが、残念なのはその大きさと扱いにくさ(59mm×43.4mm×15.90mm!)。私にとっては、手首の写真を撮るぐらいしかできない。これは、イワシの缶詰のようなこのケースをもう少し消化しやすく思えるような、遠い場所から眺めて楽しむ時計だ。

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ジャガー・ルクルト レベルソ・トリビュート・エナメル・タイガー [ニック・マリーノ(Nick Marino)]

 JLCのレベルソは大好きだ。欲しい。どれが欲しいかといえば、具体的には、レベルソ・クラシック・デュオフェイスのMサイズ(Ref.Q2458422)をフォーストナーのラダーブレスレットに取り付けたものだ。恥ずかしながらこのアイデアは、HODINKEEの日本の同僚、ニシオカ・スグル(Suguru Nishioka)から拝借したものだ(彼のアイデアはこちらでご覧いただける)。

JLC reverso tiger

 つまり、春節と上海ブティック開店の記念に発売された、ケースの背面に飛び跳ねる虎が手彫りされた9万ユーロ(約1200万円)のローズゴールドモデルは、手に入れたいわけではない。だが素敵だと思う。美しく、悪趣味だとも思う。もし持っていたら腕輪として身につけるだろう。虎の面を表にして。

MB&F オロロジカルマシーン No.7 アクアポッド[マライカ・クロフォード(Malaika Crawford)]

 MB&Fを人には言えない趣味と呼ぶのは、さまざまな意味で間違っている気がする。この品を選んだのは、むしろ「私は直感レベルでこの時計を愛するが、そのサイズと美学は私のスタイルにまったく合わない」からである。

 この赤いアクアポッドは、何よりもまず芸術品だ。MoMAで見かけるようなものに見える。実際、私が初めてアクアポッドの写真を見たとき、スイスのアーティスト、ソフィー・トイバー・アルプ(Sophie Taeuber-Arp)のことしか頭に浮かばなかった。彼女は生涯にわたって膨大な作品を生み出したが、主に知られているのは、深い顔料を使った原色で描かれた完璧な円や四角の抽象画である。

aquapod

 形と色から受けた第1印象の先には、もちろん機械的複雑さがある。60秒のフライングトゥールビヨンを中心に、同心円状の縦型ムーブメントが、“池の波紋”のように中心から放射状に広がっている。私は、この時計の大胆なデザインもさることながら、この時計の誕生にまつわる物語も大好きなのだ。マックス・ブッサー(Max Büsser)は、ビーチですごした家族との休暇の思い出(クラゲとの遭遇を含む)からこのデザインのアイデアを得たそうだ。

 やっとアクアポッドの実物を見たときは、まったく別の時計のように感じられた。その立体形状は、トイバー・アルプというよりも機械的な印象であった。しかし、それこそがこのブランドの美点だ。時計は小さな彫刻品であり、さまざまな読みとり方ができる。私は、大胆なデザインと複雑さ、そして、時計業界で最も先を読むリーダーに属する物語から生まれたという点で、この時計がとても気に入っている。MB&Fを時計製造の未来に対する瞑想とするならば、私にとってアクアポッドは、時計に関する曼荼羅である。

ヴァン クリーフ&アーペル レディ アーペル ユール フローラル ウォッチ[ジェームズ・ステイシー(James Stacey)]

 僕にとって、ヴァン クリーフ&アーペルによるこの素晴らしいガーデンウォッチは、好きだが身につけない時計という概念の定義そのものである。この幻想的なレディスウォッチは、2022年初めのWatches & Wondersで見た時計うち最も興味深いものであり、その複雑な機能の実演は、2022年に味わった時計に関する経験のなかでも、絶対的な高みに位置づけられる。

van cleef heuer florales

 レディ アーペル ユール フローラルの3854万4000円(税込。北米では32万4000ドル)という値札はさておいて、このモデルにはピンクゴールドとホワイトゴールドの2種類があり、いずれも、リンネの花時計を再解釈したような小さな機械仕掛けの庭園を囲んでダイヤモンドをセットしたケースを備えているのが特徴だ。このモデルでは、小さな機械仕掛けの花が12個ダイヤルに配置され、それが開くと宝石がセットされた内部が見えて時間を知らせてくれる。その動きはパルスのように速く、有機物であるかのように見える。想像されたとおり、このムーブメントは非常に複雑で、細かい動きはすぐにハリー・ウィンストンのオーパス11を思い起こさせた。

 繰り返しになるけれども、お住まいの近くでも、あるいは旅行先でも、今度ヴァン クリーフ&アーペルのブティックの近くに寄った際には、電話してデモができるかどうか聞いてみてほしい。きっと店員たちは喜んで時間をとってくれるはずだ。そして、あなたの1日の最高の10分間になるかもしれない。僕の腕には合わないが、とても素敵な時計だ。

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