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Business News リシュモンとスウォッチ グループの決算が示す、スイス時計業界の現状

【ニュース】時計メーカー各社は需要の低迷と販売不振に直面しており、特に中国市場での苦戦が目立つ。しかし、意外な強さや安定化の兆しも一部には見られる。

スイス製時計を手がける上場企業のなかでも最大手に数えられるリシュモンとスウォッチ グループの2社が今週、それぞれ決算を発表した。その内容は、はっきり言って厳しいものであった。ヴァシュロン・コンスタンタン、ジャガー・ルクルト、パネライなどを擁するスイスのラグジュアリーコングロマリット、リシュモンのスペシャリスト ウォッチメーカーズ部門は、会計年度第1四半期における売上が7%減少したと報告している。スイスフラン高と米ドル安といった為替変動の影響を考慮すると、リシュモンの時計部門の売上は前年比で10%減にまで落ち込んでいる。

 オメガ、ティソ、ブランパン、ブレゲなどのブランドを傘下に持つスウォッチ グループは、年初からの上半期に11.2%の売上減少を記録した。スイスフラン高と、中国市場への高い依存度が同社に大きな打撃を与えた格好だ。この状況に加え、スイス時計の6月の輸出統計では、出荷額が5.6%減少して約22億スイスフランとなり、出荷本数もおよそ10%の減少を示している。こうしたデータを踏まえると、スイス時計業界を取り巻く状況が下降局面に入っていることは明白である。消費者と小売業者の姿勢は依然として慎重であり、ヴォントベルのアナリスト、フィリップ・ベルチー(Philippe Bertschy)氏が“ラグジュアリー疲れ”と呼ぶ現象(高級品購入による満足感の低下と消費者心理の悪化)が広がりつつあり、業界の見通しをより悲観的なものにしている。

 中東やウクライナでは戦争が続いており、中国の不動産危機は、かつてスイス時計の最大市場であった同国の消費者にいまだ大きな影響を与えている。現在、スイス時計にとって最大の単一国市場となっているアメリカでは、消費者が最終的に支払う金額に直結する恒久的な貿易政策や関税水準が、率直に言って不透明なままである。1500ドルのミドーであろうと5万ドルのオーデマ ピゲであろうと、それが日常生活に不可欠なものでない以上、消費者が“半年後の自分の経済状況を予測できる”と感じているときにこそ、もう1本時計を買おうという判断は下しやすい。パンデミックとその直後の時期には、高級時計に対する需要と関心がかつてないレベルにまで急増したため、ほとんどのブランドが生産量と価格の引き上げに一斉に動いたのである。

 現在、その反動が表れつつある。慎重な買い手は購入をためらったり、ほかの支出先を検討したりするようになっているのだ。スイス時計協会(FHS)によれば、6月には3000スイスフラン(日本円で約55万円)超の高価格帯モデルの出荷額が9.2%減少したという。この価格帯は、少量生産でより高価なモデルを展開するという業界の“プレミアム化戦略”の中核を成すものであった。またFHSは、アメリカ、香港、日本を含むスイス時計輸出の主要5市場のうち4市場で、6月に大幅な落ち込みが見られたと報告している。さらに、今年上半期全体では輸出額がわずか0.1%減の約130億スイスフランにとどまっているが、これは小売業者が関税引き上げの懸念から在庫を積み増した4月のアメリカ向け出荷急増によって押し上げられた面が大きい。FHSは、「この下落傾向が続けば、輸出は今後さらに大きく落ち込む可能性がある」と警告している。

 この業界の減速に対応するかたちで、まさに今始まっている例年どおりの夏の一斉休暇も、今年はこれまでとは大きく様相が異なっている。スイスの時計産業で働く推定6万5000人のうち多くが、すでにかなりの休暇を消化してしまっているのだ。リシュモン傘下やソーウインド系のブランドから、部品やコンポーネントを供給する独立系サプライヤーに至るまで、業界各社はいわゆる“短時間労働制度(ショートタイムワーク)”を活用している。スイス政府が支援するこの制度は、従業員の労働時間と給与を一時的に減らす代わりに、恒久的な人員削減を避けることを目的としている。

 中国市場の低迷の影響をとりわけ強く受けているスウォッチ グループだが、同社は例外的な対応をとっており、短時間労働制度(ショートタイムワーク)の導入を回避している。上半期の税引前利益は、前年の2億400万スイスフランから6800万スイスフランへと大幅に減少したにもかかわらず、スウォッチ グループは報告書のなかで次のように述べている。「一部のケースでは、グループ外の取引先およびグループ傘下ブランド双方からの受注の低迷が、売上の減少と生産部門における大幅な赤字を招いた」としながらも、「同グループは、財務的な打撃を和らげるためだけに熟練した人材を解雇することはあえて行わなかった。また、各生産部門も短時間労働制度の導入には踏み切っていない」と付け加えている。

 スウォッチは需要が回復するかどうかは不透明であるものの、いざという時に対応できるよう生産設備と人員を維持しておきたい考えを示している。中国における上半期の卸売販売が30%も急落した後であっても、同社は相変わらず楽観的な姿勢を崩していない。スウォッチは、アメリカ、日本、インドには依然として大きな成長可能性があると述べており、中国国内の小売業者の在庫水準も今後さらに減少する(将来的な補充需要の増加)と見込んでいる。一方で今夏、人工知能を使って顧客が自分だけのカスタムスウォッチをデザインできる新製品の投入を計画している。この新しいスウォッチが、6月に24%の落ち込みを記録した200〜500スイスフラン(日本円で約3万7000〜9万2000円)の価格帯におけるスイス時計輸出の回復を後押しできるかどうかは、まだ不透明である。

 興味深いことに、スウォッチ グループのミドー、サーチナ、ティソなどを含む500〜3000スイスフラン(日本円で約9万2000〜55万円)の価格帯の時計だけが、先月の輸出でプラス成長を記録した唯一のカテゴリーだったとスイス時計協会(FHS)は報告している。この価格帯は前年比16%の伸びを示し、ほかのすべての価格帯が減少に転じるなかで際立っていた。また、中国本土向けのスイス時計輸出も6月に反転し、6.1%の増加を記録。これまで続いていた落ち込みに終止符を打った形だ。ヴォントベルのアナリスト、フィリップ・ベルチー氏は、これを中国市場が安定に向かい始めている兆しかもしれないと述べている。さらに、リシュモンの決算報告にも、スイス時計業界にとって明るい材料が含まれていた。

 同社は、カルティエやヴァン クリーフ&アーペルをはじめとするジュエリーメゾンの売上が2桁成長を記録するのはこれで3四半期連続であり、今回の期間中も11%の増加を達成したと強調している。これについて「ジュエリー製品と時計製品の双方の好調に支えられた」としている。また、リシュモンのスペシャリスト ウォッチメーカーズ部門からもいくつか明るい兆しが見られた。日本とアジア太平洋地域を除くすべての地域で売上が伸びており、中国での売上減少のペースも鈍化しているという。加えて、アメリカを含むアメリカ大陸全域におけるリシュモンの時計売上は、この期間中に2桁成長を記録したと同社は報告している。

 リシュモン、スウォッチ グループ、そして6月のスイス時計輸出に関する各種レポートを総合すると、スイス時計業界の今後のパフォーマンスは、アメリカ経済の動向と米国市場における消費者の購買力に大きく依存しているといえる。