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Interview ライカ100年、その先へ――監査役会会長アンドレアス・カウフマン氏が語るライカの腕時計

ライカの腕時計の来歴、デザイン哲学、そして未来。

ライカが100周年を迎えた節目に、僕はライカカメラの監査役会会長であるアンドレアス・カウフマン氏へインタビューを行いました。テーマは、ライカの腕時計の過去、現在、そしてこの先のビジョン。会話の端々に、ライカというブランドの“核”がにじみ出ます。ライカにおける時計事業の来歴、デザイン哲学、販売戦略、そしてカメラの未来について掘り下げていきます。


他社の時計から自分たちの時計へ

アンドレアス・カウフマン氏(Photo by Cedric Diradourian)

 インタビュー冒頭、カウフマン氏は自身の時計遍歴をユーモラスに振り返りました。ドイツで教会の儀式を迎えた少年時代、祝福として金無垢の自動巻きの腕時計を受け取ったものの「よく分からず、どこかでなくしてしまった」とあっけらかんと語ります。彼自身の時計との関係は、最初から良好ではなかったようです。

 それでも、ライカと時計の距離は決してゼロではありませんでした。1980年代からブランドとしてプロトタイプや外部とのライセンス品を含む複数のアプローチがあり、同氏の手元にはそのプロトタイプも残っているといいます。

 2014年にはスイスの小規模メーカーと組み、100本限定のライカウォッチを発表。しかしカウフマン氏は「アイデアは面白かったが、仕上げや印字などの総合的な完成度に課題があった」と語ります。ここが転機となり「ならば、自分たちでやる」とライカは他社の時計から自分たちの時計へと舵を切ったのです。


カメラの“機能美”を腕元へ——アヒム・ハイネ教授と築いた翻訳

左からライカ ZM1とZM2(ともにプロトタイプ)。

 ムーブメントや製造体制の検討では、名門との協議やドイツ・スイスの複数候補の検討を経て、最終的にはレーマン・プレシジョンウーレン社と組みます。2018年にプロトタイプを披露、そこから量産の壁にひとつひとつ対処し、2022年に「ライカZM1/ZM2」を正式ローンチ。「ZM」はドイツ語の『Zeitmesser』(英語の「timepiece」= 時計)に由来するものです。

 カウフマン氏は「新規ムーブメントは通常開発に10年かかると言われるが、ライカは7年で形にした」と手応えをにじませました。

 ライカWatchのデザインの要は、ベルリン芸術大学のアヒム・ハイネ(Achim Heine)教授の存在です。過去に何度もライカの製品デザインに携わってきた人物です。同氏は「ライカらしい設計の論理を、時計のスケールに翻訳する」という難題に取り組みました。

 象徴的なのは“赤”の扱いです。文字盤の正面に赤いバッジを置けば視線が一点に偏り、全体の調和を損ねてしまいます。そこでライカは、リューズを押すと赤/白が切り替わる小さなインジケーターとして“赤”を忍ばせ、さらにリューズ側面自体も赤くさりげなく表現されています。インジケーターが赤い表示のときは時刻合わせ、白い表示は巻き上げの状態を示すのです。

 加えて、パワーリザーブインジケーターとして、9時位置に配された切り欠き部分の“白の面積”で直感的に示されているのは、往年の露出計に着想を得たディテール。光の情報を表したカメラの言語を用いて、この時計でも設計されているというわけです。

「腕時計において“赤”は記号性が強すぎる。ならば機能の中に赤を忍ばせる。それがライカの美学です」

– アンドレアス・カウフマン

拡張するライカの時計コレクション

ライカ ZM11

ライカ ZM12

 2023年にはスイスのクロノード社製ムーブメントをベースにしたセンターセコンドと日付表示を備えた新シリーズライカ ZM11を展開。一体型ブレスレットを備えたカラフルなダイヤルが特徴で、カメラが捉える光と影の表現に着目したモデルとなっています。

 そして、その翌2025年にはスモールセコンドを配したタイムオンリーのライカ ZM12を発表。ケースサイズもZM11の41mmから39mmへと小径化もされており、コレクションは段階的に厚みを増しています。

 ZM11とZM12については、ライカの時計部門マネージングディレクター ヘンリック・エクダール氏とのインタビュー記事も併わせてご覧ください。


どの程度、トップは関与しているのか——“数字以上に、思想に関わる”

 時計事業会社の持株はライカカメラ51%、カウフマン家49%。数字上においても強いコミットメントですが、カウフマン氏はデザインや仕様判断にも意見を述べると明言します。現場へ降りるべき時には降りる。その姿勢は“プロダクトの哲学”が迷子にならないためのガイドレールのようです。

 ライカにおける時計の位置づけは一貫して“サイドビジネス”。しかし、だからこそ小売体験の質を押し上げ、ブランド接点を豊かにする“戦略装置”として活きます。これまではライカストアでのみ展開されてきたライカの腕時計ですが、今後は腕時計の専門店やジュエラーなどとの連携も模索するとのこと。カウフマン氏は腰を据えて“最適な接点づくり”に取り組む構えであると語りました。


カウフマン氏が語るライカWatchの未来

表参道で開催されたライカ100周年イベントにて(Photo by Cedric Diradourian)

 僕は、ライカの腕時計領域の行方をさらに掘り下げて尋ねました。具体的な将来計画は多くを明かせない――そう前置きしながらも、カウフマン氏は次のように語ってくれました。

 次の一手は、新ムーブメントの展開とレディスラインの本格検討です。「進行中のプロジェクトについてはコメントできない」としつつも、「いくつか別のムーブメントがある。少し違うデザインの設定にもなるだろう」と方向性を示しました。「私はずっとレディスウォッチをつくりたかった。レディスは男性用以上にアクセサリー、ジュエリー的な側面を持ちます」と語り、“毎日使える美しさ”へ最適化していく構想を明かします。時計はサイド事業であっても、ブランド体験を広げる装置――その輪郭が、次の数年でより確かになるはずです。

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