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数日前に、今年の春にクリスティーズ、フィリップス、サザビーズで開催された時計オークションで私が注目した10のトレンドを紹介した記事を掲載した。この記事を書くにあたり、オークション会場の時計のスペシャリストや成長著しい時計流通市場のキーパーソンに、この数ヵ月間に彼らが見たものについて、そして近い将来何が起こるかについて、意見や展望を聞いてみた。
普段なら気づかなかったような興味深い観察が、先週の木曜日の記事で紹介したようにいくつもあった。しかし、この4500語の記事が公開されたあとも、私自身は引用やタイムリーな意見の宝庫を得たので、みんなと共有する価値があると思った。時計オークションやセカンダリーマーケットに関する私のよっつの疑問について、時計業界の最も影響力ある有力者7人が答えてくれたのだ。
また、「座談会」と称して、オークション界の大スターの新しい仕事について、そして11月の秋のシーズン開幕までに予定されている時計のライブオークションについて、ふたつの簡単な報告を最後に掲載した。
オークション界座談会
オークションハウスは景気後退にどう備えるか?
サム・ハインズ(Sam Hines)氏、Loupe This マネージングディレクター、元サザビーズ ウォッチズ国際時計部門責任者: 「2008年の金融危機当時、私はニューヨークで働いていて、すべてが崩壊したように感じました。しかし、当時世界に300人ほどだった入札者が、現在は1万人ほどになっており、マーケットははるかに大きくなっています。今後、部分的に調整があるのでしょうか? 価格はあまりにも急速に上がってきたので、あると思います。しかし、インフレとコレクターの増加により、時計価格に関してリセッションはないでしょう。ある部分は軟化し、またある部分は上昇するのです。1年半前にコレクターが欲しがっていた時計は軟化し、1年半前に誰も欲しがらなかった時計は、今は誰もが欲しがる。市場規模が非常に大きくなっているので、この仕事は大丈夫だと思います」
ポール・ブトロス(Paul Boutros)氏、フィリップス ウォッチ アメリカ地区責任者: 「マクロ経済と無縁な人はいません。しかし、私たちはこれまで通り、最高品質の時計、厳選された商品、そして素晴らしいサービスを提供することに専念します。私たちは、人々が彼らの情熱に触れたいと思い続けてくれることを望んでいます。ほかの小売店やディーラーのことは言えませんが、私たちのオークションハウスという立場からすると、投機的なバイヤーは見かけません。投資目的でローンを組んで時計を買うような人は見かけません。そういうタイプのバイヤーは引きつけないのです。ハードコアなコレクターも、可処分所得で購入する新しいコレクターも、私たちは引きつけています。そして、特に高級品になると、保有するために購入する人がほとんどです。もし、投資目的でローンを組んで時計を買うような投機的な買いが多ければ、私たちはリスクを負うことになり、非常に神経質になるはずです。しかし、そのようなことはありません。また、ここ数年、暗号通貨を使って時計を買うような人も見かけません。私たちはそのような目に遭っていません」
リー・ザゴーリー(Leigh Zagoory)氏、スペシャリスト、サザビーズ ウォッチ副社長:「私たちは、有効だったこと、また、これまでやってきたこと、つまり選択に際し決断力があること、重複を避け、素晴らしい状態の時計を確実に手に入れることに専念するつもりです」
今日のコレクターにとっての価値はどこにあると思いますか?
ポール・ブトロス氏 :「60年代、70年代、80年代、そして今に至るまでの、ゴールドのスポーツウォッチはコレクターにとって大きな価値があると思います。特にイエローゴールドですね。ツートンの時計は注目すべきです。ホイヤーやブライトリングなどのブランドもいいですが、ウルベルクやローラン・フェリエのような独立系ブランドも、まだまだリーズナブルな値段で手に入るでしょう。ヴァシュロン・コンスタンタンのイエローゴールドのヴィンテージ・ドレスウォッチも、40年代、50年代、60年代と、素晴らしいものが揃っていると思います。これらは、大金をかけずに買える素晴らしい時計です」
エリック・ウィンド(Eric Wind)氏、Wind Vintageオーナー兼創業者:「コンディション、コンディション、コンディション。これに尽きます。素晴らしいコンディションの時計なら何でもです。ロレックスの場合、たとえば34mmや36mmのオイスターパーペチュアル、デイトジャスト、オイスターデイトなど、研磨されていない素晴らしい時計があります。 1万ドル以下で手に入る、研磨されていない、素晴らしいコンディションのヴィンテージロレックスなら、どんなものでもいいです。ブライトリングも、クロノマットなどは1万ドル以下で十分見つかります。ゼニスはちょっと勢いがありますね。ヴィンテージのゼニスは本当に素晴らしい。エル・プリメロのクロノグラフ、エル・プリメロ以前のクロノグラフ、タイムオンリーのピースなどもです。誰もが今、ゼニスのヴィンテージキャリバー135を欲しがっています。ヴィンテージ・ホイヤーは、1万ドル以下のものもたくさんありますし、クロノグラフを5000ドル以下で見ることもあります。あと、ヴァルカンのクリケットもいいですね」
リー・ザーゴーリー 氏:「まず第一に、自分が好きで、そのスタイルが気に入ったものを買うことです。自分のセンスや好きなものを評価することはもちろんですが、私はいつもヴィンテージがいいと言っています。今でも素晴らしいものが見つかると思います。スティールのスポーツウォッチが好きなら、まずはヴァシュロンを見てみるといいでしょう。長いあいだ、注目されていなかったブランドですが、私たちはその復活を期待し、待ち続け、そして今がそのときだと思っています。また、我々は今、ヴィンテージのレベルソをドレスウォッチとして愛用しています。洗練されたエレガントなルックスで、ユニセックスに使えると思うのです。男女が同じものを身につけると、まるで2人のために作られたように見えるんです」
エリック・クー(Eric Ku)氏、Loupe This共同創設者、共同オーナー:「ブレゲのヴィンテージ時計は本当に希少なものであり、まだ過小評価されていると思います。ニューヨークのフィリップスではジャンピングアワーが、ジュネーブのクリスティーズではスティール製のトリプルカレンダーが出品されていました。毎シーズン、1本か2本しか出てこないという点からも、ブレゲのヴィンテージが希少であることがわかると思います。本当に重要な時計で、今でももう少し評価されてもいいと思います」
秋のオークションシーズンはどうなる?
サム・ハインズ 氏:「この秋は、パテック フィリップのノーチラスやアクアノートがどんどん市場に出てくると思うんです。コレクターは価格が下がっているのを見ると、みんな慌てて売りに出ますからね。そういえば、2007年には多くのコレクターが時計ディーラーに転身していました。そして、2009年には、そうした人たちが皆、市場から去ってしまいました。この1年で、多くのコレクターがディーラーに転身し、時計を売買するようになっています。今、マーケットが下がってきているので、同じようなことが起きると思っています。しかし、フレッシュで素晴らしいヴィンテージやコンテンポラリーの作品に対するマーケットは、依然として非常に強いですから、その傾向は続くと思います。また、インディペンデントメーカーへの関心も高まっていくと思います」
ポール・ブトロス氏:「2021年秋から2022年春まで、私たちが見てきたことを踏まえると、今から2022年11月、12月まで、大きな変化はないと思っています。経済のメルトダウンなど、よほどのことがない限り、この半年間で見てきたものと同じ、一貫した結果が得られると思います。私たちは、自分たちが提供したい時計でセールスを組み、個人的に買いたい時計を引き取っています。そして、それを変えることはありません」
エリック・クー 氏:「Loupe Thisは、オークションの世界では異質な存在です。ハイエンドなものもありますが、基本は定期的に買い替えが行われる時計です。過去に不況を経験した経験から、市場の調整は非常に速いと実感しています。決して停滞しているわけではなく、ただそこにあるのです。価格は、下がる必要があれば下がるわけですが、それでもビジネスは成立するのです。人々はまだ買い続けます。上がればまた同じことです。だから、あまり心配はしていません。景気変動は人生の一部であり、定期的に起こるものです。市場が本当に強いときは、売り手が優位に立ち、市場が少し弱くなると、買い手が優位に立ちます。いずれにせよ、市場はかなり堅調に推移しており、毎日買い求める人がいます。その時々の状況に対応するしかないのです」
エリック・ウィンド氏:「(不況を)あまり心配していませんが、慎重になっているのは確かです。時計は、ときどきそう感じることもありますが、生活必需品ではありません。一般的に、時計に情熱を注ぐ人は、ニューヨークで見たように、ガソリンの値段を気にすることはないでしょう。私(Wind Vintage)は、ありきたりの平均的なものには目を向けません。最高品質のもの、クラスで最高のコンディションのものにフォーカスしています。そういうものを欲しがる人はたくさんいるし、そういうものは稀にしか現存していません。そういうものを求める人は、本当に深いマーケットにいるんです。研磨されたサブマリーナーやGMTマスターは、研磨されていない非常にミントコンディションな時計よりは下がるかもしれませんね」
2022年春のオークションシーズンを終えての感想は?
ジョン・リアドン(John Reardon)氏、Collectability創業者、元クリスティーズ時計部門国際責任者:「ジュネーブ、香港、ニューヨークの今シーズンの出品は、特にパテック フィリップが好調で、この数週間、あらゆるリファレンスが売りに出されたような気がします。セカンダリーマーケットやヴィンテージの価格がどうなっているかという“悪いニュース”ばかりが耳に入ってくるので、トレンドを引き出すのは難しいのですが、オークション会場の一般取引フロアでは、まったく逆のストーリーが展開されているのです。 強い数値、入札者の層の厚さ、そして正直なところ、多くの興奮を感じています。否定的な人は皆、本当の状況を少しネガティブに見すぎているのではないでしょうか」
エリック・ウィンド氏:「常に市場の深さが重要です。高い価値を持つ時計でも、それを買う人がほとんどいないものもあります。より無名のものなら、それを欲しがる人は世界に1人しかいない場合もあります。しかし、買いたい人の層の厚みは、5年前、あるいは2年前のパンデミック当初をはるかに超えていると思うのです。環境はいいです。全体的に満足のいく結果だったと思います」
リー・ザゴーリー氏: 「特にニューヨークのセールでは、新規の入札者やバイヤーの3分の1以上がサザビーズをまったく初めて使う人たちでした。これは素晴らしいことで、私たちはとても興奮しています。また、時計部門の顧客の年齢層はかなり若く、入札者の約40%が30歳以下でした。20歳以下の入札者もいて、本当に興味深いです」
エリック・クー 氏:「私たちはノーチラスやロイヤル オークの隆盛を目の当たりにし、その後、市場の調整が行われました。パテック フィリップのノーチラス5990のスティール製クロノグラフは、ピーク時にはオークションで27万5000ドルや30万ドルで落札されました。フィリップス(ニューヨーク)で最後に落札されたものは、確か14万ドルでした。5711は、10万ドル台で落札されたものも多数ありました。そして、ノーチラスが過ぎ去ると[注:以前、5月初旬にアンティコルム・ジュネーブで取引された5711について書きました]、それは守備範囲の変更なのです。私は、ある時計がオークションで記録的な価格をつけると、それは基本的に再現されないと信じています。それが最高水準点であり、常にそうあり続けるのです。ある高みに到達したら、そこから下るしかないのです」
サム・ハインズ氏の次なる目標は?
先週のトレンドと結果をまとめている最中に、オークション界のベテラン、サム・ハインズ氏(以前はサザビーズ ウォッチのワールドワイド責任者)が正式にオークションハウスを離れ、エリック・クー氏のオンラインオークションプラットフォームの「Loupe This」の新社長として参加するというニュースが飛び込んできた。
ハインズ氏はパンデミックのあいだ、サザビーズが一貫してオンライン時計オークションを利用し、商品の入れ替えと収益を継続的に確保することを強く提唱した。現在、時計のオンライン販売のみを行っているLoupe Thisでも、この戦術は有効だろう。
「私は(Loupe Thisの)コンセプトが好きです。それは新鮮な視点のように感じます」。ハインズ氏は最初の発表が公になった先週に話を聞いた際、私に語った。「時計コレクターのコミュニティに応えるような感じです。そこには時計への愛情が込められています。大企業に勤めていると、時計へのこだわりは薄れ、収益性が重視されるようになってきます。私は時計が好きだから仕事をしているのですが、気がつくと時計と過ごす時間が少なくなっていたのです。今回のことで、また好きな時計と向き合える。何か新しいことを始める時だと思ったのです」
ハインズ氏は過去12年間住んでいた香港に残り、Loupe Thisの職務を担う。彼は、Loupe Thisのアジアでの顧客基盤の確立と、アジア大陸におけるLoupe Thisの知名度アップに取り組む。
次のオークションはいつ?
オークション界の3大ハウスであるクリスティーズ、フィリップス、サザビーズが主催するライブオークションは、ジュネーブ、香港、ニューヨークなどの主要マーケットで、通常年2回開催される。春夏シーズンは4月下旬から6月中旬まで、秋冬シーズンは11月から12月にかけて、それぞれ開催される。これらの時期に行われるセールは、一般的に最も注目を集め、高い成果を記録するため、当然ながらHODINKEEでも最も時間をかけて取材を行っている。
しかし、ほかのライブオークションも年間を通して開催されているし、オンラインオークションも四半期ごとに開催され、クリスティーズやサザビーズといった大手オークションハウスを含むさまざまな会社が主宰している。これらの小規模事業者が主催するオークションでは、よほどのことがない限り、取材することはないだろう。そこで、11月のライブオークションが始まる前に、私が注目したオークションの数々を紹介したいと思う。
オンラインセールに関しては、あなたが知っているオークションハウスのカレンダーをチェックすることをお勧めしたい。多くの場合、ほとんど宣伝やファンファーレを伴わずに行われるからだ。しかし、現在開催されている注目すべきオンラインオークションのひとつは、イギリスのオンライン専門ディーラー、A Collected Manのものだ。初期のダニエル・ロート(Daniel Roth)の モノプッシャー・クロノグラフを筆頭に、興味深いネオ・ヴィンテージ腕時計の5本のセットが、2022年6月29日の販売終了まで入札可能だ。
シカゴのWright Auctionsは今週6月29日(水)に、ニューヨークのオークショニアFortunaのが主催するセールと同じ日にセールを予定している。ニューハンプシャー州のJones & Horanは9月25日に、ストックホルムのKaplan'sは2022年7月2日と8月2日にオークションを開催する予定だ。有力ディーラーであるダビデ・パルメジャーニ(Davide Parmegiani)氏が率いるモナコ レジェンド グループは、10月の未定の日に今年2回目のオークションを開催する予定。
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