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各ブランドから新たなフィールドウォッチが発表されるたび、まず思い浮かぶのは第2次世界大戦について、そして“ダーティダース”である。使い込まれた戦地仕様のパティーナに今なおロマンを感じる向きもあるが、ヴィンテージの焼き直しばかりが続くと、さすがに新鮮味が薄れてくる。では、それらしい装飾や疑似ヴィンテージ加工とは無縁の、実直で実用的な1本を求めるならどこに目を向ければいいのか? アエラのこのM-1が、その問いの答えとなるかもしれない。
昨年11月、イギリスを拠点にスイス製造を行うウォッチブランド、アエラは同社初のフィールドウォッチとなるM-1を発表した。ケース径は39mmで、同社にとってはこれまでで最も小振りなモデルでもある。2017年の創業以来、アエラは視認性と機能性を基盤に、無駄をそぎ落としたクリーンなデザインに注力してきた。M-1もまた、そうしたブランドの現代的でミニマルな美学を踏襲している。しかしだからといって、スタイルを欠いているわけではない。機能が美観を決定づけたミッドセンチュリー期の名作たちと同様に、アエラの文字盤の整然とした構成、大きく視認性の高いインデックスやアラビア数字、そして質実剛健なヘアライン仕上げのステンレススティールケースは、若いブランドでありながら同時代の競合他社と一線を画している。
なかでもその姿勢が最も明確に表れているのが、この新作M-1フィールドウォッチである。一見したところ、M-1は第2次世界大戦中にイギリス国防省(MoD)が発注したフィールドウォッチ、通称“ダーティダース”に着想を得ている(この名称は、連合軍兵士向けに12社の時計メーカーが製造を担ったことに由来する)。特徴的なデザイン要素としては、外周にレイルウェイトラック、1から12までの夜光付きアラビア数字(6時位置にはスモールセコンドを配置するため数字は省略)、そして視認性の高いブラックダイヤルに配された夜光の時分針が挙げられる。
これは、時刻を確実に読み取るという目的に徹したシンプルで信頼性の高いデザインである。余計な要素は一切なく、必要なものだけがある。夜光素材のグロボライトによるアラビア数字は鮮やかなグリーンに光り、文字盤中央の“Aera”ロゴが見せる白い光と美しいコントラストを成す。このさりげない違い(立体的に植字されたインデックスやロゴが、フラットなブラックダイヤルの上に浮かび上がるように配置されている点)が、意外なほどモダンな印象をもたらしている。加えて、6時位置のスモールセコンドはわずかに窪ませてあり、全体として均質な質感のなかに控えめながらも奥行きを添えている。
それらすべてはドーム型のサファイアクリスタルの下に収められ、やや丸みを帯びつつケースバックに向かってすぼまるようなフォルムを描く、ヘアライン仕上げの904LSS製ケースに包まれている。ラグのカーブと傾斜角は、(おおむね)自然で快適な装着感をもたらしてくれる(この点については後述しよう)。ケースバックはブランドロゴ入りのねじ込み式で、バランスよく設計されたリューズにはスーパールミノバのドットがあしらわれている(ちょっとした遊び心だが、正直なところ、暗闇で時計のリューズの位置がわからないほどなら、問題は時計以外のところにあるだろう)。総じて、古典に着想を得つつもあくまでヴィンテージ風にとどまらない、明快で実用的なフィールドウォッチである。
アエラ M-1に搭載されているムーブメントは手巻き式のセリタ SW216-1で、スイス製である。このムーブメントはETAの手巻き2800シリーズを参照している。なお、自動巻きの時計を常用している身としては正直に告白せねばならないが、この時計を1週間着用するあいだ42時間のパワーリザーブの残量が今どの程度なのか、ふと気になってスマートフォンで時刻を確認することが何度かあった。もちろんこれは時計というよりも自身の習慣の問題だが、デイリーユースを想定して設計されたモデルである以上、パワーリザーブ表示がないことについてここでひと言添えておいてもいいだろう。
アエラは、このムーブメントの採用を明示している。ありがたいことに、こうした透明性はここ数年でようやく業界標準となってきた(かつては他社製ムーブメントを自社製であるかのように見せかける例も少なくなかった)。さらにアエラは、このムーブメントのグレードが“エラボレ”であることまで開示している。
セリタのムーブメントには、仕上げ、精度、耐衝撃性能に応じて4段階のグレードが存在する。今回のエラボレはもっとも基本的なスタンダード仕様よりもワンランク上のグレードにあたり、多くのブランドが採用するベースグレードより優れた性能を持つ。すなわち、可能な限り品質向上を図りつつ、手の届く価格帯を維持したいというアエラの姿勢がここにも表れているということだ。このグレードの開示によって得られるものは、ふたつある。ひとつは、一般的なベースムーブメント以上の品質が保証されているという安心感。そしてもうひとつは、アエラというブランドが誠実であるという確信だ。
価格やブランドの格にかかわらず、たいていの場合、“改善の余地がまったくない”モデルというものはまず存在しない。そして、M-1も例外ではない。ラグが一般的なフィールドウォッチと比べて1〜2mmほど長めであることに加え、ストラップのカーブやクイックリリース機構の構造も影響し、バネ棒に設けられた突起がラグの下からわずかにはみ出してしまう。その結果として手首に擦れる感覚が生じやすく、特にフィット感を重視してきつめに装着する人は気になるかもしれない。
細かい点まで挙げるなら、個人的には魅力的なドーム型風防に裏面のみでも反射防止コーティングが欲しかった。光の反射を抑えることで、せっかくの優れた視認性をさらに引き立てられたのではと思ったのだ。だがすぐに、時計の価格を思い出して現実的な視点に立ち返った。何もかもが無料で手に入るわけではない。この業界では、製造や加工にかかるコストがすぐに膨らんでしまい、それが若いブランドの存続を脅かすことさえある。アエラのようなメーカーはコストの配分に細心の注意を払い、“投資すべきところにしっかりとお金をかける”必要があるのだ。
アエラには、昔からどこか引かれるものがある。だが、その魅力を言葉にするのはなかなか難しい。アエラはミニマルで実用本位の“ツールウォッチ”を専門とするブランドである(とはいえ、ライフスタイルマーケティングと“デスクダイバー”が氾濫するこの時代にあっては、その呼び方に少々ためらいもあるのだが)。ミニマルなデザインと控えめなディテールを備え、ダイバーズ、パイロット、フィールド、クロノグラフと広く普及したカテゴリに属していながらも、アエラの時計には独自のデザイン言語が確実に息づいている。それを正確に言語化するのは容易ではないが、今ではすっかりひと目でアエラとわかるブランドのひとつになりつつあると感じている。実際、時計愛好家の集まりなどでアエラのモデルを見かける機会が増えてきたが、たとえ遠目であっても“あ、あれはアエラだな”とすぐに気づくのだ。
価格は1850ドル(日本円で約27万9000円)。クイックリリース式バネ棒付きのレザーストラップが2本と、質感のいいシボ革のキャリングポーチが付属する。これだけの内容で、この価格帯において不満を抱く要素はほとんどない。スイス製で、仕上げと品質管理も非常に高水準。アエラがブランドとしての成長とともに、特に力を入れてきた部分である。新作M-1は、しっかりとしたつくりで、実直ながらもどこか個性が際立つフィールドウォッチだ。ミニマル系の若いブランドが数多くひしめくなかにあっても、アエラは独自のアイデンティティを着実に研ぎ澄ませている。見事としかいいようがない。
アエラについては公式ウェブサイトをチェック
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