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Bring A Loupeへようこそ、そしておかえりなさい。 2025年の今となっては、素晴らしいヴィンテージウォッチの掘り出し物はもう出尽くしてしまったように感じられることもある。ここでいう“素晴らしい”とは、市場に初登場する、いわゆる聖杯級の時計のことだ。傷のついたオリジナルのクリスタル、磨かれていないケース、味わい深いパティーナ、そういうものである。だが、時折まだ驚くようなものが出てくる。先週ShopGoodwill.comで落札された、ロンジン 13ZN ドッピア・ランチェッタがまさにそうだ。間違いなく素晴らしい発見であり、今やコレクターたちはあらゆる場所でそのようなものを探している。最終落札価格は8万8197ドル70セント(先週のレートで約1300万円)、プラス2.25ドル(先週のレートで約332円)の手数料だ!
ちなみに先週のBring A Loupeを振り返ると、シーマ製ムーブメントを搭載したあの上品なギュブランはSOLDマークがついた。希望価格は1850ドル(日本円で約27万5000円)で、手にした方はおめでとう、これは間違いなく優れた時計だ。そして“Breguet A Paris”と刻まれた偽ポケットウォッチはeBayから削除された。ある意味、これもひとつの勝利といえるだろう。
それでは、今週のセレクションをご紹介していこう。
1990年代製 パルミジャーニ・フルリエ トリック メモリータイム/18Kホワイトゴールド
初期のパルミジャーニ・フルリエ(以降、PFと表記)の時計は、本当に特別な存在である。1996年に自身の名を冠したブランドを設立したミシェル・パルミジャーニ(Michel Parmigiani)氏は、数十年にわたる修復作業で培った専門知識を活かすとともに、スイスの町フルリエを復活させるという使命を果たそうとした。“花の村”と呼ばれるこの地は、1800年代後半には600人もの時計職人が働く繁栄の中心地であった。しかし1900年代後半にはクォーツ危機の影響で深刻な打撃を受けた。当時フルリエに拠点を置いていた時計師ブノワ・コンラース(Benoît Conrath)氏はニューヨークタイムズにこう語っている。「当時、時計師であることは失業者であることと同義でした。誰も機械式時計を欲しがらなかったのです。それは馬車で旅をするようなものでした」
PFを設立し、さらにショパールに新工房をフルリエに構えるよう働きかけたことにより、フルリエ復興の立役者としてミシェル・パルミジャーニ氏の名が挙げられている。現在では再び活気ある時計産業の拠点となり、トリック メモリータイムは、PFブランドのもとでミシェル・パルミジャーニが最初に生み出した作品。史上最もエレガントなGMT搭載腕時計のひとつといえる。36mmのケースは古代ギリシャのドーリス式円柱や黄金比の螺旋に着想を得ており、ダイヤルはPFの代名詞ともいえるバーリーコーン(フランス語ではグランドルジュと呼ぶ)模様のギヨシェ仕上げが施されている。12時位置のジャンピングアワー表示によりセカンドタイムゾーンを追跡できるが、日付表示と見間違えそうなほど控えめだ。
搭載するCal.PF132はレマニア製エボーシュをベースにしながら、自社で開発したGMTモジュールを組み合わせている。仕上げにはコート・ド・ジュネーブやブラックポリッシュ仕上げのビスが採用され、組み立てと調整もすべてパルミジャーニの工房で行われた。ちなみにその工房には、のちに独立するステファン・サルパネヴァ(Stepan Sarpaneva)氏やカリ・ヴティライネン(Kari Voutilainen)氏といった名匠も在籍していた。
このホワイトゴールド製トリック メモリータイムこそ、まさに手に入れるべき1本だ。繊細なグレーダイヤルはケースと見事に調和し、その美しさは格別である。そしてなにより、ミシェル・パルミジャーニ氏自身がこの型番を日常的に着用していることでも知られている。彼の着用モデルは最初に製作された1本目だ。
販売者はロンドンの A Collected Manで、価格は2万8000ポンド(日本円で約555万円)。詳細はこちらから。
1980年代製 カルティエ 超薄型のトリアノン Ref.96063/18Kホワイト&イエローゴールド
カルティエはそのカタログ全体に一貫したデザインコードを持つブランドであり、これは数十年にわたり変わらない特徴だ。建築的なケースと、象徴的なダイヤルデザイン。そこには白地に黒のプリント、ローマ数字のインデックス、そしてシェマンドフェール(レイルウェイ ミニッツトラック)がある。そしてカルティエが最良の仕事をするとき、その方程式に多様なシェイプを取り入れ、タンク ルイ カルティエやサントスのような100年以上の歴史を持つ、よりクラシックで落ち着いたデザインと並行して展開してきた。今回紹介するトリアノンは1980年代に製作されたモデルであり、カルティエの核となるデザイン言語をわずかにひねることで、驚くほどフレッシュな印象を生み出している。
カルティエの“モダン”ウォッチコレクションは、1973年にエベルとのパートナーシップにより製作されたスイス製の12本の腕時計、ルイ カルティエ コレクションの登場で幕を開けた。そこにはタンク ノルマルやサントス デュモンといった定番のほか、クッションや“バンブー”、エリプスといった新しいシェイプも含まれていた。その後の数十年でカルティエはこのラインを発展させ、ルイ カルティエコレクションの超薄型モデルや、新しい形状のモデルを展開し、そのなかにこのトリアノンも登場した。1980年代に製作され、ヴェルサイユ宮殿の敷地内にある大トリアノン宮殿と小トリアノン宮殿にちなんで名づけられたモデルである。
フランスへの輸入を示す“フクロウ”のホールマーク。
このモデルはサントス デュモンとエリプスの中間のような存在で、“リベット”を思わせるベゼル装飾と、セミクッションケースを備える。展開は2サイズあったようで、今回の個体は大きいほうのサイズだ。また素材も18Kイエローゴールド無垢、あるいはこのホワイト&イエローゴールドのコンビ仕様“ドゥゾール”が用意されていた。いずれも、当時のカルティエの超薄型モデルのベースとなった、カルティエネーム入りのフレデリック・ピゲ製Cal.21を搭載している。
25mm径のケースは、おおよそスクエア型のヴィンテージウォッチとして非常に良いバランスだ。やや小ぶりに感じられるものの、決して極端に小さすぎることはない。カルティエのヴィンテージモデルのなかでも他人と被る可能性はきわめて低く、Instagramでもほとんど目にすることがないため、トレンドに乗りつつも“群れない”1本となるだろう。
販売者はスイスのPlua Ultraで、価格は6600スイスフラン(日本円で約122万円)だ。詳細はこちらから。
1960年代製 ティファニー別注のモバード キングマチック HS360/14Kイエローゴールド
数年前、Hodinkee Shopでヴィンテージウォッチの販売を行っていた時期に、このモデルとまったく同じ、ステンレススティール製かつティファニーネーム入りの個体を扱ったことがある。モバード愛好家として、またティファニーネーム入りダイヤルに目がない自分にとって、それは忘れられない1本であり、常々再び出合う機会を探していた。そして今回、ついにその時計が姿を現した。こちらは1960年代後半から70年代初頭に製造されたモバード キングマチック HS360で、私が最も気に入っているティファニーネーム入りのダイヤルを備えている。しかも今回は14KYG製だ。
私がこのティファニーネームをお気に入りと言うのには理由がある。というのもネームにはさまざまなバリエーションがあり、アメリカの小売業者であるティファニーは常にフォントやスタイルを変えていたからだ。どの時期にどの刻印が使われたのかをまとめたガイドは、情報を得るのはきわめて難しく、ヴィンテージウォッチの世界で切実に求められている。私が知っている確かなことは、この“ウエスタンスタイル”と呼ばれるフォントが、1960年代後半から70年代初頭にかけて使われていたということだ。いまだに驚く人もいるかもしれないが、かつてモバードはパテックやロレックスと並んで、ティファニーのショーケースに並んで販売されていた。このパートナーシップは1940年代から70年代にかけて長く続いたと考えられている。そのなかで最も有名なものは、フランクリン・デラノ・ルーズベルト(Franklin Delano Roosevelt)元大統領が在任中に愛用した、1944年製のゴールド製トリプルカレンダーである。それ以外にも、1950年代のM90やM95搭載のクロノグラフ、そして外装ケースの開閉でゼンマイを巻き、隠されたダイヤルを現す“パースウォッチ”であるエルメトなど、ティファニーネーム入りモバードの名作は数多い。
今回のキングマティック HS360は1960年代後半から70年代初頭のもので、ちょうどモバードがゼニスと合併した時期にあたる。本作は当時のモバードを象徴する1本であり、クッションケースと全体的なダイヤルデザインは、同社がドレス寄りのモデルから、品質の高い日常使いの時計へと移行していった過程をよく示している。10年前のモバードはパテックに近いスタイルをつくっていたが、この時期にはゼニスの影響を強く感じさせるものとなっている(当然のことながら)。
ケースサイズは横35.5mm、縦39mm、厚さ11mmで、手首の上を程よく覆う存在感を持つ。裏蓋にはアーサー・T・スミス(Arthur T. Smith)という名前が刻印されており、ジェリー家から45年間の勤続を終えた退職記念として贈られたと推測される。スミス氏についての情報は見つからなかったが、この刻印は当時のティファニー別注時計によく見られるスタイルであり、さらに調べてみるとおもしろい発見があるかもしれない。
このモバードはフロリダ州ネイプルズのeBayセラーによって即決価格5200ドル(日本円で約77万円)で出品されている。詳細はこちらから。
1950年代製 ウィットナー Cal.10WA搭載のアラームウォッチ
本稿冒頭でも触れたロンジン製クロノグラフの高額落札を受けて、今回はShopGoodwill.comを覗いてみた。なかなか実りある収穫があり、そのなかで目を引いたのがこのウィットナーのアラームウォッチだった。ダイヤルデザインが素晴らしいのはもちろんだが、いくつかユニークな特徴も備えている。まず搭載されているのはCal.10WAで、これは当時ロンジンの主力となっていた時刻表示専用の汎用ムーブメントCal.10にアラームモジュールを組み合わせたものだ。ヴィンテージウォッチの歴史を少しでも知っている人ならご存じのとおり、ウィットナーはもともとアメリカ市場におけるロンジンのディストリビューターであり、1950年代にはスイス本社に買収されている。このアラームウォッチはその時代に生まれ、ロンジンとウィットナーがアメリカ市場向けに共同開発したモデルである。
当時、アメリカではアラーム機構が大流行しており、ヴァルカン クリケットが飛ぶように売れていた。このモデルはそれに対するウィットナーの回答といえるだろう。リストにはサイズの記載がなかったが、ほかの例から推測するとSS製ケースの直径は35〜36mm程度で、1950年代としてはかなり大きめだ。ワッフルダイヤル、様式化された数字のインデックス、そしてくねくねとした形状のアラーム針など、見どころは多い。だが最大の特徴はベゼルで、写真でもわかるとおりエッジにはわずかな刻みがあり、これは飾りではなく機能的なものなのだ。そう、アラームの巻き上げと設定はベゼルの回転によって行うのである。
古いフォーラム投稿をいくつか調べた限り、これは非常に珍しいモデルと見なされているようだ。ただし注意点として、アラーム機構はかなり繊細で、ベゼルを無理に回しすぎて壊れてしまっている個体も多いという。ShopGoodwillに出品されている時計が、実際にどのような状態なのかわかりずらいが、この手入れ前提の個体を引き受けてくれるいい時計師がいるのならば、救い出す価値のある1本といえるだろう。
このウィットナー・アラームはShopGoodwill.comで出品中で、オークションはアメリカ東部時間で8月17日(日)午後11時55分(日本時間で8月18日(月)12時55分)に終了予定だ(編注;現在は終了している)。詳細はこちらから。
2022年製 カシオ Ref.DW-5600DHL22-9DR G-SHOCK×DHLコラボレーション
最後はヴィンテージではないが遊び心あふれる1本をご紹介しよう。G-SHOCKとDHLのコラボモデルで、画面をスクロールしていて思わず笑みがこぼれた。実はこの時計は、DHLがシンガポールで事業を開始してから50周年を記念して製作されたものだ。納得の仕上がりである。この楽しくてちょっと変わったG-SHOCKにはおもしろいディテールが散りばめられており、ダイヤルにはもちろんDHLロゴ、鮮やかでブランドらしいカラーリング、そしてストラップには“ON TIME, EVERYTIME”というスローガンが堂々とプリントされている。だがそれだけではない。バックライトを点けると、デジタル表示の中央に再びDHLロゴが浮かび上がるのだ。これには思わず心を奪われた。
このDHL G-SHOCKは現在ShopGoodwill.comに出品されており、オークションはアメリカ東部時間で8月16日(土)午後10時30分(日本時間で8月17日(日)午前11時30分 )に終了予定だ(編注;現在は終了している)。詳細はこちらから。
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