ADVERTISEMENT
Bring A Loupeへようこそ、そしておかえりなさい。前回の記事にはなかなか大きな反響があった。コメントはいつでも歓迎だし、むしろ推奨したいくらいだ。夜光塗料なしのゼファーに刻まれていた“T SWISS T”表記についても少し話題になり、コメント欄でも説明しようとしたが、これはヴィンテージロレックスの世界では珍しくなく、生産効率のために夜光ありと夜光なしのバリエーションでダイヤルを共有する場合があるのだ。ちなみに、前回イチオシのセレクションだったローズゴールド製のパテック フィリップ カラトラバ Ref.2545のはまだ販売中のようだ。
一方で売れた時計といえば、ブレゲ数字を配したイエローゴールドの美しいモバード Ref.44820 トリプルカレンダーが“Sold”になっていた。希望価格は6295ドル(日本円で約93万円)だった。またeBayでは、前述のゼファーが希望価格5990ドル(日本円で約88万5000円)以下のベストオファーで目利きの買い手に渡っている。どちらもそこそこ高額だが頑張れば手が届く“ミッド・セミ・アクセスブル”な価格帯のヴィンテージウォッチで、きっと新しいオーナーは愛用することだろう。
それでは、今週のセレクションをご紹介していこう。
1960年代製 ユニバーサル・ジュネーブ トリコンパックス “イービル・クラプトン” Ref.88101/02
ああ、トリコンパックス “イービル・クラプトン” 。これほど独特な時計はほかにないだろう。ヴィンテージウォッチが流行し始めたおよそ10年前、このモデルは“グレイル(憧れの逸品)”と呼ばれるレベルにまで上り詰めた。当時のミッドセンチュリー期のスポーツクロノグラフの世界では、コレクターはオイスター デイトナのポールニューマン パンダダイヤル、初期のホイヤー カレラ、そしてもちろんオメガ スピードマスター Ref.2915といった特定モデルに熱狂していた。その後は関心がやや分散し、いわゆる“グレイル”クロノグラフへの熾烈な追跡はやや落ち着いた。それでも、コレクターがこれらの時計を頂点と見なした理由は、今も変わらず存在し続けている。
このトリコンパックスはホワイトとブラック、両方のカラーでダイヤルが製造され、ニックネームはエリック・クラプトン(Eric Clapton)氏が愛用していたことに由来する。1990年代に時計コレクターとして知られる以前の、1960年代から、たとえば1967年にジミ・ヘンドリックス(Jimi Hendrix)と一緒に写っているこの写真のころから着けていたのだ。明らかに時計趣味に精通していたクラプトン氏は、当時このトリコンパックスが一級品であることを理解していたに違いない。これは要するにトリプルカレンダーとムーンフェイズ機能を追加したデイトナなのだ。36mmのステンレススティール製ケースはスピードマスター プロフェッショナルを思わせるツイストしたラグを備え、リバースパンダのダイヤル配置はただただ美しい。私にとって、クラプトン着用のトリコンパックスはミッドセンチュリー期におけるクロノグラフデザインの究極形である。
クラプトンのダイヤルは整然としており、追加されたカレンダーとムーンフェイズの複雑機構はダイヤルデザインに優雅に溶け込んでいる。シャープなセリフ書体が映える、放射状の明るいインダイヤルはすぐに目を引き、曜日と日付表示は必要なときだけ視界に入る位置に控えめに配置されている。各アワーマーカーとして配置された大きな夜光ドットと幅広のソード型針も、視認性を高めるのに大きく貢献している。
この時計に引かれるのはダイヤルデザインだけではない。内部には手巻きの自社製Cal.281が収められているのだ。これは設計から製造までユニバーサル・ジュネーブが手がけたもので、当時多くのブランドが、たとえばデイトナにおけるロレックスのようにバルジューなどの外部サプライヤーに依存していたことを考えると注目に値する。
今回の個体は私がクラプトンで求める条件にぴったりだ。ダイヤルはクリーンで、インダイヤルにわずかなパティーナがあり、味わいとしても好ましい。針とダイヤル上の夜光塗料は全体的にクリーミーな色合いに経年変化しており、ヴィンテージらしさを引き立てている。ケースのエッジもはっきりしており、出品者はそれを未研磨と述べているが、少なくともツイストしたラグのエッジは明確だ。
販売者はメキシコのRelojes Vintage Mexicoのマキシミリアーノ(Maximiliano)氏で、価格は2万999ドル(日本円で約311万4000円)。詳細はこちらから。
1969年製 ホイヤー カレラ Ref.1153N クロノマチック
ヴィンテージホイヤーの世界で、“クロノマチック”ダイヤルほど瞬時に認識されるバリエーションはほとんどない。1969年に始まるCal.11時代の幕開け直後、ごくごく短期間だけ製造されたこのダイヤルには、ホイヤーロゴの上部に誇らしげに“Chronomatic”と記されており、モデル名であるカレラは下部に追いやられている。これは、先代の手巻きカレラ世代のダイヤルデザインから大きく変化した部分であり、自動巻きクロノグラフムーブメントを搭載したことへのブランドの誇りを物語っている。ホイヤーはすぐに“通常”のレイアウトへと戻し、このクロノマチックダイヤルはわずか数カ月しか提供されなかった。そのため、これらのダイヤルはホイヤーコレクターにとって究極の存在となり、本当に理解している者同士を結ぶ、まるで秘密の握手のような意味合いを持つ。
クロノマチック表記が使われなくなった背景には、ホイヤーがプロジェクト99コンソーシアムに参加していたことがある。これはハミルトン-ビューレン、デュボア・デプラ、ブライトリング、そしてホイヤーが共同で世界初の自動巻きクロノグラフムーブメントを開発したプロジェクトだ。このムーブメントはマイクロローターと左側リューズという特徴的な設計を持つ。ホイヤーはクロノマチックのブランド名を使用しなくなったが、同じムーブメントを搭載し、その表記を残したブライトリングやハミルトンの時計も存在する。ホイヤーがこの語を避けたのは、自社モデルとの差別化を図るためだった可能性があるが、市場がその意味を十分理解できなかったという説も根強い。代わりに用いられた“Automatic Chronograph”のほうが、はるかにわかりやすかったのだ。
この小さなダイヤルの特徴はカレラだけでなく、オータヴィアやモナコでも見られるが、そのなかでも私はRef.1153Nを好む。シンプルながらブルーダイヤルが映える、この簡潔さこそ、あらゆる形のカレラを魅力的にする理由だ。
販売者はドイツのrarebirds.deのアンディ(Andee)氏とそのチームで、価格は1万7900ユーロ(日本円で約310万円)。詳細や写真はこちらから。
編集部注:本記事公開後、販売者が掲載情報を更新した。このクロノマチックダイヤルはもともとこのケースに収まっていたものではないことが判明した。すべてのパーツはオリジナルかつ当時の正規品だが、おそらく出荷時から一体だったわけではない。詳しくはこちらを参照して欲しい。
1978年製 ロレックス エクスプローラーII Ref.1655 “マーク4”
ヴィンテージロレックスの世界から、今回は手短に紹介する。世界でも屈指の信頼を集めるヴィンテージロレックス販売者からの出品であるため、あれこれ語る必要もあまりないのだが、全力を尽くそう。
ロレックス エクスプローラーII Ref.1655は、驚くほどニッチな市場、なかでも洞窟探検家をターゲットにしていた。これが、大きく鮮やかな24時間針(外部の24時間ベゼルが固定式で、針を独立して動かせないため、GMT針ではない)の存在理由である。このオレンジ色の針は、地下で昼夜を判別するためのものだった。1971年からおよそ1985年までの14年にわたって生産されたものの、大きな商業的成功は収められなかった。しかし、その販売数の少なさとほかのロレックスのプロフェッショナルモデルとは一線を画す外観が、やがてコレクターの関心を集めることになる。イタリア語で矢を意味する“フレッチオーネ(Freccione)”や“スティーブ・マックイーン(Steve McQueen)”という愛称でも知られるが、俳優である彼が実際に所有していた証拠はない。
最初期のモデルには、現在見られるロレックスのスタンダードな形状ではなく、ストレートの秒針が採用されていた。Ref.1655のダイヤルは一般的に7種類のバリエーション、いわゆる“マーク”に分類され、本機はマーク4にあたる。全体として素晴らしい風合いを持ち、均一に焼けた魅力的なパティーナが見られるうえ、オリジナルのボックス、ギャランティ、製品資料といった人気の高い付属品もそろっている。
販売者はニューヨークのSheartimeを営むアンドリュー・シア(Andrew Shear)氏で、価格は3万ドル(日本円で約445万円)。詳細はこちらから。
1950年代製 ギュブランのドレスウォッチ/ステンレススティール製
ミッドセンチュリー期におけるギュブラン銘入りの腕時計には、どこか特別な魅力がある。当時、世界最大級の時計・宝飾品小売業者のひとつだったギュブランは、自社ブランドの名で販売する製品(実際の製造は時計メーカー)においても、最高品質を提供していたことは間違いない。顧客にそれ以下のものを提供することなど、決してなかったのだ。信じられないなら、1920年代にオーデマ ピゲがギュブランのために製造し、この時計と同じくギュブラン銘のみを冠したトリプルカレンダーを見てみるといい。
ムーブメントからダイヤル、そしてケースに至るまで、たとえオーデマ ピゲ製でなくとも、これらの時計は驚くほど精緻に作られており、しかもとてつもない価値を秘めている。理由は単純で、ほとんどの人がその事実を知らないからだ。本機に搭載されるのはシーマ製の12リーニュの機械で、Cal.214および216として知られる系統のムーブメントだ。1930年に登場したこのムーブメントは天文台クロノメーター級まで精度調整が可能であり、美しい構造を備えている。とくに輪列のカーブした3本ブリッジは、時刻表示のみのヴィンテージウォッチに専用で設計されたムーブメントとしてはこれ以上ない造形美といえるだろう。加えてケース径は35.5mmと、絶妙なサイズ感である。
販売者はロサンゼルスのCraft and Tailoredで、価格は驚きの1850ドル(日本円で約27万5000円)。詳細はこちらから。
ご注意を:1800年代製 “Breguet A Paris”と記されたポケットウォッチ。偽物時計史上、最も初期のもののひとつ
個人的に興味を持った偽物時計は、これが初めてかもしれない。ブレゲというブランドと、その創業者アブラアン-ルイ・ブレゲの歴史に詳しい人なら、彼が1795年に発明したシークレット・シグネチャーを覚えているだろう。当時、ブレゲは時計界で絶大な尊敬を集めており、おそらく史上初めて、ほかの時計師たちが(もちろん手作業で)ポケットウォッチを製作し、ブレゲの名を刻んで販売し始めた。これこそが、偽物時計の起源といえるだろう。そこでブレゲは、すべての本物のブレゲ製ダイヤルにパンタグラフという極小文字を精密に刻める彫刻機で署名を入れ、肉眼ではほとんど見えない刻印によって偽物と区別できるようにしたのだ。
今回eBayに出品されているこの時計は1800年代初頭の製造とみられ、ダイヤルとムーブメントに“Breguet A Paris”と刻まれた、よく知られる偽物グループの一例だ。ブレゲは歴史のなかで“Breguet”や“Breguet et Fils”、“Breguet et Fils, Horloger de la Marine Royale”といった署名を用いたが、“Breguet A Paris”や“Breguet et Fils A Paris”と刻んだことは1度もないのだ。この偽物グループはあまりにも広まったため、しばらくのあいだ、ブレゲ公式サイトのアーカイブ照会ページには「アンティークのポケットウォッチに“Breguet A Paris”と書かれていたら、それが本物かどうか問い合わせる価値すらない可能性が高い」という警告文が掲載されていたほどである。
つまりこれは時計史的にはなかなか興味深い品ではあるが、それでも偽物である事実は変わらない。何であるかを理解したうえで、興味があれば詳細はこちらから確認し自己責任で臨んで欲しい。
話題の記事
No Pause. Just Progress GMW-BZ5000で行われた継承と進化
Introducing ゼニス デファイ エクストリーム クロマに新たなふたつの限定モデルが登場
Introducing ヴァシュロン・コンスタンタンが36.5mmの新型トラディショナル・エクストラフラット・パーペチュアルカレンダーを3本発表