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Bring a Loupe ランゲのダブルスプリット、ホイヤー カマロ、そしてブランド初期に製造されたジャガーのクロノグラフ

今市場に出ている掘り出し物のヴィンテージウォッチをお届けしよう。

Bring A Loupeへようこそ、そしておかえりなさい。最近Bring A Loupeで“注意すべき品(bidder beware)”を紹介しているが、これに対する読者の反応が良好だったようで何よりだ。この連載の目的は誰かを批判することではないが、もし明らかに問題のある品を良品として売ろうとしているeBayセラーがいれば、それは指摘すべきだと思っている。もし誰かが誤った判断をしなくて済むなら、それだけで価値があるだろう。今週は良品中心の内容だが、“注意すべき品”もいずれまた登場する予定だ。

 その前に、前回の結果を振り返ろう。スケルトン仕様のショパールは“予約済み”になり、希望落札価格は6999ドル(日本円で約105万4000円)だった。eBayではウィットナーのクロノグラフがよい結果で終了し、最終落札価格は4601.99ドル(日本円で約69万3000円)、ラルコ エレクトリックは199.99ユーロ(日本円で約3万5000円)で売却済み。ギャレ マルチクロノ 45M デシマルは3301.99ドル(日本円で約49万7000円)で落札された。

 それでは、今週のセレクションをご紹介していこう。


2015年製 A.ランゲ&ゾーネ ダブルスプリット Ref. 404.035 プラチナモデル
A 2015 A. Lange & Söhne Double Split Ref. 404.035 In Platinum

 2013年にベン・クライマーが「ランゲのクロノグラフのなかでもっとも“イカれてる(bad ass)”」と称賛したダブルスプリットは、世界初のスプリットセコンドとスプリットミニッツの両方を計測できる機械式クロノグラフである。これはほぼ唯一無二の存在であり、その座を譲ったのは2018年に発表された同社のトリプルスプリットだけだ。ダブルスプリットはふたつのコラムホイールとふたつの垂直クラッチ、さらにミニッツカウンター内に組み込まれたラトラパンテ機構を用いることで、この希少な複雑機構を実現している。この時計はランゲというブランドを象徴する集大成ともいえる存在であり、ベンの言葉を借りれば“まさに化け物のような存在で、これまで製作されたなかでもっとも印象的で、そして問答無用に凄まじいクロノグラフのひとつ”だ。

 このモデルは機能から仕上げに至るまで、ランゲが最も得意とする領域を余すことなく体現している。2004年に登場するとともに、それまでクロノグラフの代表格だったダトグラフを超える存在として一気に頭角を現した。あのフィリップ・デュフォー(Philippe Dufour)氏が世界最高の量産腕時計と称したダトグラフの後継をつくることは容易ではなかったはずだが、ダブルスプリットはそれを見事にやってのけたのだ。内部に搭載されたCal.L001.1は465個の部品で構成されており、そのひとつひとつが卓越した技術で仕上げられている。未処理のジャーマンシルバー製ブリッジ、手彫りのバランスコック、ゴールドシャトンのネジ留めなどが用いられ、コラムホイールやラトラパンテ機構の多くも視認できる位置に配されている。ひと言で言えばケースバック側はまさに驚異的な光景である。

2015 A. Lange & Söhne Double Split Ref. 404.035 In Platinum
2015 A. Lange & Söhne Double Split Ref. 404.035 In Platinum
2015 A. Lange & Söhne Double Split Ref. 404.035 In Platinum

 このプラチナ製ダブルスプリットが2004年に発売された当初の価格は9万7000ドル(当時のレートで約1049万4000円)。その後2011年の生産終了時には12万6800ドルまで上昇した(編注;当時のレートで1011万9000円。日本の為替レートが低い時代であったため日本円に換算すると価格の上昇は見られない)。驚くべきことに、今回、これだけの背景を持つ本モデルが当時の定価より1万ドル(日本円で約148万円)以上安い価格で手に入る。

 販売者はロンドンのSubdialのティム(Tim)とそのチームで、6万4500ポンド(日本円で約1270万1000万円)で発売中。詳細はこちらから。


1960年代製 ホイヤー カマロ Ref.7220 T
A 1960s Heuer Camaro Ref. 7220 T

 ヴィンテージホイヤーの世界において、カマロはしばしば見過ごされがちな存在だ。このジャンルの市場が最盛期を迎えていたときでさえ、カマロはほかのモデルのような高い人気を享受することはほとんどなかった。3カウンターのバルジュー72を搭載した優れた個体を、1万ドルを大きく下回る価格で手に入れることができたほどだ。正直なところそれは残念な事実であるが、同時に私たちにとっては好機でもある。なぜなら、それは価格以上の価値を備えているからだ。

 1968年に登場したカマロはアメリカのマッスルスポーツカー文化にあやかってシボレー カマロから名付けられており、クッションケースのひと目でそれとわかる外観を持つ。ケース直径は37mmで、ストレートラグと特徴的なヘアライン仕上げを備えており、純粋なスポーツウォッチ、レーシングクロノグラフのあいだを埋める存在といえる。当時はカレラやオータヴィアほどの販売実績を上げられなかったようで、その点でも比較的レアなモデルとなっている。

 このRef.7220 Tはとりわけ人気の高いバリエーションであり、伝説的なバルジュー72ムーブメントを搭載している。これは手巻きのコラムホイール式クロノグラフであり、ロレックス デイトナのような、現在では高額で取引されるヴィンテージモデルにも採用されていたものだ。型番の“T”は、ダイヤル上のタキメータースケールを示しており、既知の距離に対する速度の測定に用いられる。また本個体は、初期型に特有のポリッシュ仕上げが施されたスティール針を備えていることから“ファーストエグゼキューション(初期仕様)”に該当する。

1960s Heuer Camaro Ref. 7220 T

 このカマロは現在、フロリダのオークションハウスにて出品中で、発見された当時のオリジナルコンディションを保っているように見受けられる。風防には傷があるものの、それは容易に修復できる程度のものであり、そして修復する価値も十分にある。ダイヤルはとても良好な状態で、夜光プロットには美しい経年変化が見られ、分針の夜光はやや欠けているが修復可能だ。現在の上側プッシャーは交換品のようなので一対のオリジナルプッシャーを探す必要があり、手入れ前提の個体にはなるが、十分対応できる範囲だ。ヴィンテージホイヤーのコミュニティはそうしたコレクターのニーズに対して非常に協力的な存在でもある。

 このホイヤー カマロは、フロリダのヒル・オークション・ギャラリーでアメリカ東部時間で7月30日(水)午後12時(日本時間で7月31日(木)午前1時 )に開催されるHighway to Hillにてロット314として出品されている(編注;現在は終了している)。詳細はこちらから。


1930年代製 “サンドイッチ”ダイヤル付きジャガー クロノグラフ
A 1930s Jaeger Chronograph With 'Sandwich' Dial

 現在私たちが愛してやまないジャガー・ルクルトの歴史は1833年にまでさかのぼるが、初期の数十年間はマニュファクチュールというよりも、むしろムーブメント専門メーカーとしての側面が強かった。これはブランドのルクルト側にまつわる話で、統一されたブランドとしてジャガー・ルクルトが歩みを進めたのは、スイスのルクルトとフランスのジャガーが出会った1903年のこと。この出会いが、まさにウォッチメイキング業界における理想的な“結婚”の幕開けとなった。エドモンド・ジャガー(Edmond Jaeger)は19世紀末にパリで時計師としての地位を確立し、フランス海軍に時計を納入することで、最終的にはフランス海軍御用達時計師(Horloger de la Marine)の称号を授かっている。1903年にジャガーとルクルトが出会ったのち、ルクルトはジャガーにムーブメントを供給するようになり、ルクルトの優れたスイス製ムーブメントを用いてカルティエ向けに時計を製作した、エドモンド・ジャガーの受託製造の実績をご存じの方も多いのではなかろうか。

 1937年にはこの関係が正式なものとなり、ジャガー・ルクルトというブランドが誕生した。ではなぜこの歴史的背景が重要なのか? それは今回紹介する時計が1930年代製で、ジャガー(Jaeger)のみのサインが入ったクロノグラフだからである。これは正式なブランド統合の直後に製造されたと見られ、当時のフランス市場ではエドモンド・ジャガーの高い評価を背景に、こうしたジャガー名義のJLC製品が流通していたのだ。

A 1930s Jaeger Chronograph With 'Sandwich' Dial

 ルクルトはムーブメントのスペシャリストではあったものの、クロノグラフの製造にはあまり長けておらず、代わりにユニバーサル・ジュネーブに頼ることが多かった。この時計のプッシャー配置から判断するに、内部には初期型の2レジスター・クロノグラフのひとつであるUG製Cal.281が搭載されていると推測できる。この個体はやや使用感のあるコンディションだが、歴史的背景とブランドの変遷を踏まえるときわめて魅力的で興味をそそられる存在だ。

  そうした背景すべてに加えて、この時計のケースも非常に興味深く、私自身これまで見たことのない構造をしている。ラグ部分に切り欠きが設けられており、幅広のストラップを通せるようになっているのだ。そしてダイヤルは経年による傷みはあるものの、間違いなく芸術品と呼ぶにふさわしい仕上がりで、おそらくはスターン・クリエーションによって製造されたものだろう。こうした“サンドイッチ”構造のアワーマーカーは非常に珍しく、そしてとても魅力的だ。ジャガー・ルクルトのプロダクト&ヘリテージ・ディレクターであるマシュー・ソーレ(Matthieu Sauret)氏にメッセージを送ったところ、彼は、ヴィンテージ期の同ブランドではほとんど見られないテレメータースケールがこの個体に備わっているとすぐに指摘してくれた。

 このジャガーのクロノグラフは、フランス・ヴネットで開催される Accord Enchères Compiègne Venette主催のプレステージ エクスペリエンス(PRESTIGE EXPERIENCE)にてアメリカ東部時間で9月27日(土)午前2時(日本時間では9月27日(土)午後3時) より競売にかけられる。予想落札価格は800〜1200ユーロ(日本円で約13万8000~20万7000円)。まだ少し時間はあるが、カレンダーに印をつけておく価値のある一品だ。詳細はこちらから。


1970年代製 ジェニー カリビアン ジュニアクロノグラフ
A 1970s Jenny Caribbean Junior Chronograph

 ジェニーというブランド名は今日ではあまりなじみがないかもしれないが、ヴィンテージダイバーズウォッチの世界では深い敬意を集めている。商業用として初めて1000m防水を実現したダイバーズウォッチ、カリビアン 1000を生み出したのはこのブランドであり、ドクサなどの有名メーカーにも防水ケース技術を供給していた実績を持つ。今回紹介する個体は1970年代製のカリビアン ジュニアクロノグラフ。ツールウォッチとしての実用性を備えながら、当時らしいカラフルで個性的なデザイン言語が融合したモデルであり、ムーブメントにはバルジュー7733を搭載している。

 トノー型のスティールケース、退色したタキメーターベゼル、そしてコントラストの効いたバイコンパックスレイアウトによって、このカリビアン ジュニアクロノグラフはレーシングクロノグラフとスキンダイバーの中間的な立ち位置を確立している。ダイヤルはマットブラックのベースにスクエア型の夜光プロットとワイドな針を備え、全体的には落ち着いた印象だが、3時位置のサブレジスターに施された1970年代らしい鮮やかなカラーがアクセントとなっている。このサブレジスターはヨットレース用に目盛りが配され、本モデルが何よりもまずヨットクロノグラフとして設計されていることを示している。

A 1970s Jenny Caribbean Junior Chronograph

 このジェニーはイギリス・グール在住のeBayセラーが出品している(編注;現在は終了している)。チェック&入札はこちらから。