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いまや時計収集の世界は、あらゆる情報が出そろい、優れた時計はすでに発見され尽くしたように思える時代に入っている。20年前には手の届かなかった情報がいまでは容易に得られるようになり、人々の関心を引くような驚きを伴う新発見を見つけることは非常に難しくなっている。もちろん、まだ見つかっていない素晴らしい時計が存在するのも事実だ。しかし一方で、コレクターのあいだでは知られていながら、長らく公の場に姿を現していない優れた時計もあり、それらをあらためて見つめ直すときには、再発見のような新鮮さが感じられるのである。
これまで知られておらず、レストアが施されたパテック フィリップ スプリットセコンド・シングルボタン・クロノグラフが、モナコ・レジェンド・グループのオークションにおいて173万6000ユーロ(日本円で約2億9000万円)で落札された。この時計は著名なレーサーのヘンリー・シーグレーブ(Henry Segrave)とアメリア・イアハート(Amelia Earhart)がかつて所有していたものである。
マーケットが盛り上がりを見せるあいだも、こうした時計の多くは幸運なオーナーたちの手元で静かに保管され、巨額の利益を得るチャンスにも動じることなくそのままの状態で守られてきた。金銭的な価値ではなく、その魅力そのものに引かれて所有され続けてきた、まさに本物のコレクターの手に渡ってきた時計だ。そのうちの2本を調べているとき、ふと思った。長いあいだ姿を消していた伝説的な時計がもし市場に再び現れたとして、ヴィンテージ市場における価値基準を根本から塗り替えてしまうような、そんな存在になりうる時計とは何だろうか。仮に“トップ5”を挙げるとすれば、どの時計になるだろうか?
2021年に、957万ドル(当時の相場で約11億5000万円)という驚異的な価格で世界を驚かせた、パテック フィリップ Ref.1518 “ピンク・オン・ピンク”。Photo courtesy Sotheby's.
だからといってこれから取り上げる時計たちが、ポール・ニューマンのデイトナやスティール製グランドマスター・チャイムの記録を塗り替える、と言いたいわけではない。そうではなく、これらの時計は卓越した時計に対する価格全体の見方を変える可能性があると思っている。実際、近年もそうした存在感を放つ時計が市場に現れている。たとえばサザビーズで、2021年にピンク・オン・ピンクのパテック 1518が予想外の957万ドル(当時の相場で約11億5000万円)で落札された例がある。また、2024年にフィリップスで100万ドル(日本円で約1億4700万円)超で落札されたパテック Ref.570も同様だ。いずれの結果も当該リファレンスに対する認識を変えるきっかけとなり、平均的な個体でさえこれまで以上に注目される可能性がある。時計にとって1000万ドル(日本円で約14億7000万円)という価格は、なかなか超えられない天井のような存在であり、これを突破したのは歴史上わずか4本しかない。しかし、今回取り上げる時計たちは、再びその天井を突き破る可能性を秘めている。
ロレックス “バオ・ダイ” Ref.6062 は、2017年のフィリップスで500万スイスフラン(当時の相場で約5億7000万円)にて落札された。Photo courtesy of Phillips.
これはじつのところ、ずいぶん前から頭のなかであたためてきた思考実験だった。最終的な“トップ5”を選び出すにあたっては、あらかじめ基本的な枠組みを設定し、いくつかの条件を設けることにした。
- まず条件としたのは、その時計が少なくとも10年以上市場に出ていないこと。新しいコレクターにとっては未知の存在であり、長年見てきたコレクターにとっても“再発見”の感覚を呼び起こすだけの年月が経っていることが必要だと考えた。もちろんこの10年という期間は恣意的なものであるが、この基準により、たとえばロレックス “ポール・ニューマン” デイトナや “バオ・ダイ”、ジョージ・ダニエルズ(George Daniels)のスペース・トラベラーなど、いくつかの有名な記録的時計は対象外となる。
- 今回は、現代のユニークピースや、ジェムセット仕様のグランドマスター・チャイム、Only Watchの出品作、あるいはSS製のRef.1518といった時計は選ばないことにした(ちなみに後者の1本は最近市場に再登場している)。また、ジョン・レノン(John Lennon)のRef.2499が持つ潜在的な価値について掘り下げるチャンスも、あえて見送っている。
このリストは決して網羅的なものではなく、本来であれば加えるべき強力な候補をいくつかあえて外している。またご覧のとおり特定のブランドに偏っている面もある。もし自分ならこれを選ぶという時計があれば、ぜひコメント欄で教えて欲しい。
パテック フィリップ Ref.2499 プラチナ製
1987年に、スターン氏自身のために製作されたプラチナ製Ref.2499のうちの1本。
最初の選出は当然とも言える1本であり、おそらく最も大きな話題を呼ぶことになるであろう時計だ。圧倒的な来歴、驚異的な希少性、そしてパテック フィリップの頂点に位置づけられるモデルのうち、わずか2本だけ存在するホワイトメタル製のひとつ、プラチナ製のRef.2499である。永久カレンダー・クロノグラフ Ref.2499は、今なお多くのコレクターにとって基準となる存在だ。後期シリーズで採用された大型ケースやポンプ型プッシャーにより、スポーティでありながらも見事にエレガントな佇まいを見せている。プラチナ製Ref.2499は2本のみ製作されており、リファレンスとしてはすでに生産終了していた1987年に完成されたとされている。いずれも当時のCEOでありオーナーであったフィリップ・スターン(Philippe Stern)氏のために特別に製作されたものと噂されている。このうち1本は現在、パテック フィリップ・ミュージアムに所蔵されている。もう1本は、1989年にパテックの創業150周年を記念してアンティコルムが開催したテーマオークションに出品されたもので、スターン氏自身が委託したとされている。その後は個人の手に渡りながら、興味深い遍歴をたどってきた。
この時計はオークションで落札されたのち、1990年代半ばにいちどオーナーが変わり、2002年ごろに、著名なミュージシャンであり当時は熱心な時計コレクターとしても知られていたエリック・クラプトン(Eric Clapton)氏が購入。クラプトン氏はこの時計を約10年間所有し、その後クリスティーズに委託して売却した。落札価格は344万3000スイスフラン(当時の相場で約2億9300万円)で、いま振り返れば妥当とも思える金額である。その後本個体はプライベートセールによって再び新たなオーナーの手に渡り、アンティコルムで初めて姿を現して以来、現在は5人目となるコレクターのコレクションに収まっているという。
2012年、最後に市場に登場した際の“クラプトン”ことRef.2499P。Photo credit Ben Clymer.
Ref.2499(およびRef.2497)はパテック フィリップのヴィンテージ期において、ホワイトメタルの使用がごく限られていた最後のモデルである。Ref.2499にホワイトゴールド製は存在せず、Ref.2497に至ってはWGがわずか3本、プラチナが2本のみ製作された。それに対し、続くRef.3970やRef.3940では、ホワイトメタルが一般的に用いられるようになっている。前回この時計がオークションに出品された際、当時知られていたホワイトメタル製のヴィンテージコンプリパテックの腕時計はわずか25本程度であり、そのうち約半数はパテック自身が保有し、ミュージアムなどで永久保存されていた。もしこの時計が再びパブリックオークションに登場すれば、チャリティオークション以外での最高額記録、ロレックス “ポール・ニューマン” デイトナの価格を更新する可能性もじゅうぶんに考えられる。そしてそれ以上に重要なのは、2499Pで好結果が出ればそれに続いてほかの傑出した個体が市場に姿を現すきっかけになるかもしれないということだ。
ジェームス・シュルツ No.13511
Photo courtesy Christie's.
この時計こそが、今回のストーリーのきっかけとなった。一般にはほとんど知られておらず過小評価されているものの、ジェームス・シュルツ(James Schulz)のNo.13511は、1930年に正式にケースに収められたことにより、永久カレンダー、ミニッツリピーター、クロノグラフという3つの複雑機構をひとつに備えた世界初の腕時計となった。この時計こそ、20世紀前半から中盤にかけての腕時計において最も技術的に重要な存在であると考えている。この3つの機能をすべて備えた腕時計はその後もしばらく登場せず、1982年にフィリップ・スターン氏が特注したRef.3615が製作されるまで唯一の存在であり続けた。その個体は現在、パテック フィリップ・ミュージアムに所蔵されている。
この小さな腕時計は、横幅わずか29mm、ラグ・トゥ・ラグが40mmというサイズながら、プラチナ製のトノーケースを備え、ダイヤルの裏側には“Stern”というサインが記されている(この時計が製作された直後、一族がパテック フィリップを買収することになる)。この時計を企画・監修したのは、ニューヨークを拠点に活動していた独立時計師、ジェームス・シュルツだった。彼は裕福な顧客からオーダーを取りまとめ、それを製作できるごく限られたウォッチメーカーに発注していた。この個体の製作にあたっては、ヴィクトラン・ピゲの息子たち(Les Fils de Victorin Piguet)に依頼し、完成までに3年の歳月が費やされた。
Photo courtesy Christie's.
年月を経て、シュルツの時計は次第に名声を高めていったが、本人は売却の申し出を一貫して断り続けた。この時計は長年にわたって広告に使用され、1940年12月には、『ライフ』誌に“Watches – These are the best built in the world(これこそ世界最高の時計)”というタイトルで掲載され、価格は1万ドルと記されていた(現在の価値に換算するとおよそ23万ドル、日本円で約3400万円)。ちなみに、同時期に落札されたヘンリー・グレーブス(Henry Graves)のスーパーコンプリケーションですら、わずか5000ドル高いだけであった。最終的にシュルツはこの時計を、ニューヨーク・ヤンキースのオーナーの弟にあたるヘンリー・J・“ボブ”・トッピング・ジュニア(Henry J. 'Bob' Topping Jr.)に、1946年に売却した。
Photo courtesy Christie's.
この時計が最後に市場に登場したのは、2006年のクリスティーズオークションであり、当時の落札価格は133万スイスフラン(当時の相場で約1億2300万円)だった。時計の持つ歴史的意義を考えれば、(100万ドルが妥当と言えるかどうかはさておき)これは非常に現実的な金額だったと、私はずっと思っている。一部のコレクターにとって、この時計はまさに聖杯のなかの聖杯とされている。私の知る限りでも、過去に何人かが現オーナーにアプローチしているが、いずれも入手には至っていない。あれから約20年が経過した今、もし再び市場に登場すれば、300万〜500万ドル(日本円で約4億4200万~7億3700万円)の値がついてもおかしくないだろう。そしてこの時計の登場は、“王道”から外れた一部のユニークピースへの関心を再び呼び起こすかもしれない。
パテック フィリップ Ref.2497 “ブレゲ” プラチナ製
Photo courtesy Christie's.
トロイのヘレンの顔が千隻の艦隊を出航させたのだとすれば、ブラックエナメルのブレゲ数字を備えたパテック Ref.2497は、私を数カ月にわたる調査と、1本ではなく2本の記事、合計1万語以上の執筆へと駆り立てた時計である。それまで特に関心のなかったリファレンスで、ここまで深く掘り下げることになるとは思ってもいなかった。この時計は唯一無二の存在であると同時に、その時代における“ヴィンテージパテック”らしさを象徴する1本でもある。パテック フィリップ・ミュージアムに展示されている初期の永久カレンダー搭載モデル(たとえば後年のRef.3615など)を見れば、エナメル仕上げのブレゲ数字が同社のスタイルとしていかに象徴的であるかがわかるはずだ。さらにこの個体はプラチナケースを備えており、個人的にはパテック史のなかでも屈指の傑作のひとつだと思っている。
Ref.2497(パテック初のセンターセコンド付き永久カレンダー)は、オリジナルの文字盤すべてに立体的なエナメルプリントを施していた。通常は、シリーズごとにアラビア数字、バトンインデックス、あるいはドットインデックスが植字されているのが一般的である。だが、このデザインから大きく逸脱した例はわずか2本しか確認されておらず、いずれもプラチナ製。ひとつはダイヤモンドインデックスを配し、同じくプラチナ製のブレスレットが組み合わされた個体で、現在は個人コレクションに収蔵されている。独特の存在感を放つ個体だが、かなり主張の強いルックスだ。一方でブレゲ数字のエナメルインデックスと簡素化されたミニッツトラックを備えたものは、スポーティさとエレガンスを兼ね備えており、まさに絶妙なバランスを持っている。これを見てコレクターたちが争奪戦を繰り広げるであろう理由は説明するまでもないだろう。
Photo courtesy Christie's.
Photo courtesy Christie's.
この時計が最後に市場に登場したのは2008年のことで、それ以降パブリックオファーに出た記録はない。ただ、私がこのリファレンスについての記事を公開したあとには、その所在に関する問い合わせを何件か受けた。当時の落札価格は、当時としては異例ともいえる高額な320万スイスフラン(当時の相場で約3億600万円)だった。現在この時計がどの程度の価格に達するかは、オークション当日の入札者次第とも言えるが、近年の市場における予算規模や関心の高まりをふまえると、私は本気で10桁に届く可能性があると考えている。もしこの時計が再び市場に現れれば、非常に高額な結果が期待されるとともにRef.2499Pのときと同様、このリファレンスそのものへの注目度も一気に高まることだろう。
パテック フィリップ Ref.2458 “JB チャンピオン”
もし“2012年に約380万スイスフラン(当時の相場で約3億2400万円)で落札された時計がある”と聞けば、ここ数年で時計収集に興味を持ち始めた多くの人は、それが非常に複雑で、貴金属を使ったユニークピースだろうと想像するはずだ。実際、そのうちのふたつは正しい。それはプラチナ製としてはただひとつのRef.2458であり、ダイヤモンドがあしらわれた追加の文字盤も備えていた。とはいえ、構造自体は比較的シンプル...と言っていいだろう。
1948年11月10日、本機に搭載されたCal.12'''120は、ジュネーブ天文台の精度証明書を取得している。これはパテックの腕時計としては、わずか2本しか存在しない天文台クロノメーターグレードのムーブメントのひとつであり、その事実だけでもこの時計が特別な存在であることがわかる。もう1本はパテック フィリップ・ミュージアムに所蔵されている。とはいえ、このムーブメントへの関心の高さにはやや不思議なところもある。というのも、基本的にこのムーブメントは、オーデマ ピゲやギュブランの時計にも採用されていたバルジュー製VZSSとほぼ同じ構造だからだ。ただしこの個体には、来歴という重要な要素が加わる。1952年にこの時計を購入したのは、弁護士であり熱心な時計収集家でもあったJ.B.チャンピオン(J.B. Champion)。彼はこの時計だけでなくRef.2526のファーストピースをはじめ、数々の重要なモデルを所有していた人物である。彼の重要性についてはこれまでも触れてきたが、ダイヤルにその名が刻まれている点でこの個体はとりわけ特別である。パテックがダブルネームの時計を製作していたことはあるが、顧客の名前がダイヤルに記されたパテック フィリップの腕時計となると、前例はほとんどない。
Photo from our past coverage.
チャリティオークションにてパテック Ref.5711 “ティファニー”が落札されるまでは、この時計こそ、コンプリケーションを持たない時計として史上最高額でパブリックセールに出たモデルだった。落札したのはアルフレッド・パラミコ(Alfredo Paramico)氏で、その後ほどなくして手放している。クリスティーズは当時、この時計が世界でも名高いコレクターたちの“トップ10”に名を連ねる存在であると強調していた。今回この企画を進めるにあたり、私のリストにもすでにこの時計は入っていたが、念のためアウロ・モンタナーリ(Auro Montanari)氏にも意見を求めたところ、彼のリストにも入っていた。これはどういうことか? つまりこの時計こそ、世界で最も高額な“ティファニー” ノーチラスの記録を再び塗り替える可能性も、決してゼロではないということだ…とはいえ、そう願っているのは私だけかもしれないが。
パテック フィリップ Ref.2571
パテック フィリップ Ref.2571。ローズゴールド製で、パテック フィリップ・ミュージアムの永久所蔵品。こちらは現在販売されておらず、今後も市場に出ることは決してないという点は、強調しておくべきだろう。Photo courtesy Patek Philippe.
この時計が魅力的である理由はいくつもあるが、そのひとつは、今後これが市場に出回る可能性があるのかどうかさえ定かではないという点だ。だからこそなお心引かれる。探し出すという行為そのものが、本気の勝負になる。パテック Ref.2499は1951年に発表された、世界で2番目に量産された永久カレンダー・クロノグラフであり、前身のRef.1518の意匠を多く受け継ぎつつ、ケース径を37mmに拡大している。1954年には第2世代のRef.2499が登場し、デザイン面でも大きな変更が加えられた。ポンプ型プッシャーを備えたこのバージョンは、視覚的にも大きな特徴を持つモデルとなった。そして1955年、ブランドはさらに大胆な1歩を踏み出す。3本だけ製作されたオーバーサイズの永久カレンダー付きスプリットセコンド・クロノグラフ、Ref.2571を発表したのである。
ケース径は40mm弱で、傾斜のあるケースにレクタンギュラー型プッシャーを備え、タキメータースケールとドフィーヌ針が組み合わされている。ムーブメントにはバルジュー製エボーシュをベースとしたCal.13-130を搭載し、レバー脱進機、ビス付きグリュシデュールテンプ、自温補正機能付きのブレゲ式ヒゲゼンマイを備えている。ただし今回は、そこにスプリットセコンド機構が追加されている。現存する1本がパテック フィリップ・ミュージアムに所蔵されており、ムーブメントナンバーは868331、ケースナンバーは686255のRG製(上に掲載の個体)。この時計が市場に出ることはない。その点はパテック フィリップから丁重に念を押された。しかし、最近撮影された数少ない個体であり(そして私が実際に見た例)、基準として参照するには最適な存在である。ベゼルとケースはRef.1518やRef.2499と比べるとやや大振りで、優美さには欠けるものの、計時のために特化した美しいツールであることに変わりはない。
“行方不明”となっているRef.2571 ギュブラン仕様。Photo courtesy Pièce Unique on Instagram.
いわゆる“行方不明の個体”についてだが、ギュブランとのダブルネームが入った個体の写真は確認されており、クロノグラフ針にはブレゲスタイルの三日月型ティップが見られる。もう1本の個体はこれまで姿を現しておらず、Ref.2571が現代の市場に登場した例も1度もない。仮に出てくることがあれば、それは事実上、一般市場に出る唯一のスプリットセコンド版パテック フィリップ Ref.2499 永久カレンダーを手にするチャンスとなるだろう。しかもオーバーサイズケース仕様となればなおさらだ。そんなものがオークションに出れば、会場で殴り合いが起きてもおかしくない。記録面でも、“ポール・ニューマン” デイトナが保持するチャリティを除いた史上最高額を塗り替える可能性は十分にある。もしかすると、2000万ドル(日本円で約29億5000万円)という金額すら夢ではないかもしれない。
特別賞
次点として触れておきたいモデルもいくつかあったが、そのなかでもひときわ印象に残ったものがある。ヘンリー・グレーブスのスーパーコンプリケーションとCal.89は、いずれも文句なくこのリストに入る存在だろう(Cal.89に関しては最後に出品されたのが8年前ではあるが)。とはいえ、懐中時計に対して市場がどう反応するかを予測するのは難しい。真の時計愛好家や研究者たちは懐中時計を高く評価しているが、これらの時計がすでに打ち立てた記録を上回るには、新規入札者をもたらすような特別な存在が市場に現れる必要があるだろう。
いまこそこうした時計のいずれかが、市場に再び姿を現すには絶好のタイミングなのかもしれない。もっとも、市場が本当に強いのかを最初に試す役を買って出たいと考えるコレクターはごくわずかだ。しかしここ最近、いわゆるブルーチップ(優良株)級の時計に対しては比較的好調な結果が出ている。F.P.ジュルヌの史上2番目の腕時計が830万ドル(日本円で約12億3000万円)で落札され、デレク・プラット(Derek Pratt)とウルバン・ヤーゲンセン(Urban Jürgensen)による懐中時計は予想を大きく上回る360万スイスフラン(日本円で約6億5700万円)を記録。さらに、ダブルネームの第2世代Ref.2499も430万ドル(日本円で約6億3500万円)で落札された。こうした結果を見れば、先に紹介したいずれかの時計が再登場することで、ハイエンドな時計収集市場における価値の基準が、根底から塗り替えられる可能性も十分にあり得るだろう。
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