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まずは自己紹介がてら、私のお気に入りの時計にまつわる話を紹介させて欲しい。2017年の初め、父から写真付きで「この新しい時計、どう思う?」というメッセージが届いた。私はその写真をしばらく見つめていると心臓の鼓動が速くなり、立ち上がって部屋を歩き回り、どうにかして自分を落ち着かせようとした。
父は自身の時計製造会社を経営しており、私は時折、時計コレクションの整理を手伝っていた。あとから知ったことだが、父が送ってきた時計は、彼が処分を手伝っていた数十箱のなかのひとつから出てきたものだった。その箱には、亡くなった親が経営し、80年代に閉店した時計・宝飾店の在庫が残されていたのだ。保管料を払い続けるのにうんざりした遺族の子供たちは、父に時計を整理してeBayで売ってもらうよう依頼したのだった。
私が時計を買うと言うとき、それはこういう状態で保管されることを意味する。Photo by Mark Kauzlarich
2017年まで、私は数年間ヴィンテージウォッチの売買をしていた。当時は、ある歌詞のように何のあても計画もなかった。時計売買にのめり込んだのは、第1にHODINKEEがヴィンテージウォッチを本当に楽しくて興味深いものにしてくれたこと(特にBring A Loupeは、まだWhat's Selling Whereという名前だった頃から欠かさず読んでいた)、そして第2に私が手に入れた時計に修理が必要なときは父が何でも直してくれたからだ。何年ものあいだ毎日、父と私は時計の話をした。私が見つけたものについて興奮気味に語ったり、父がムーブメントやブランド、コンプリケーションに関する私の果てしない質問に答えてくれたりした。
ウェストン・カッター(Weston Cutter/筆者)と父のウェス・カッター(Wes Cutter)。Photo by Mark Kauzlarich
ある日私が電話をすると、父はとても喜び、そしていつものように、ジャガー・ルクルトのメモボックスが好きで、特にこんなに大きなケースで、しかもステンレススティール(SS)製のブラックダイヤルモデルは見たことがないと話してくれた。彼は私にこのようなモデルを見たことがあるかと尋ねたので、私は実物は見たことがないが、その時計が何であるかは知っていると言うと彼は少し間を置いた。
父: でも、これはただの古いメモボックスだろう?
私: 古いメモボックスではあるよ。
(長い沈黙)
父: ただの古いメモボックスじゃないのか?
私: ちょっと違うかな。
(再び長い沈黙)
父: じゃあ、これは一体何なんだ?
問題のジャガー・ルクルト ポラリス。Photo courtesy Wes Cutter
私は父に時計を楽しんで、もっと詳しく知りたくなったら電話してくれと伝えた。1週間後、彼から電話があったときに、私はそれが何であるかを説明した。しかしその1週間のあいだ、彼はヴィンテージのジャガー・ルクルト ポラリスをただの時計として体験することができたのだ。価格や1714本しか製造されなかったうちの1本であること、あるいは誰かに自慢できることなど一度も考えず、彼は純粋にその時計を楽しんだ。彼はただそれを好きになった。そして実際にそうなったのだ。
少し長くなってしまったが、要するにこういうことだ。こんにちは、ウェストン・カッター(Weston Cutter)だ。2026年から再始動するBring A Loupeを担当できることになり、とてもうれしく思っている。そして父のポラリスの物語は私の指針となっている。時計を掘り下げる理由はたくさんあるが、重要なことのひとつは喜び、つまりこれらの複雑な機械の驚異をありのままに楽しむことにあるはずだ。読んでくれて、そして私が見逃したものや間違いをコメントで教えてくれて、あらかじめ感謝しておく。私は気にしないと約束する。たくさんの時計を見てきたが、きっと何か見落としがあるだろう。コールマン・ホーキンス(Coleman Hawkins)が言ったように、「間違いを犯していないのなら、それは本気で挑戦していないということだ」。というわけで、今週のピックアップを紹介しよう。
パイパンダイヤルを備えた18Kゴールドのオメガ コンステレーション
“ドッグレッグ”ラグと“パイパン”ダイヤルを持つヴィンテージのコンステレーションは、悪名高い地雷源だ(おそらく、ヴィンテージのコンステレーション全般が地雷源だと言ったほうが安全だろう)。ほぼ間違いなくRef.168.005であるこの時計は、難解でマニアックな個体というわけではない。オメガがかつて成し遂げた最高の時計製造技術の一端を理解できる人にとっては、ただただ素晴らしい、クリーンな時計なのだ。
Photo courtesy Farber Auctioneers
ケースはオリジナルのラインを保っているようだ。ドッグレッグラグを備えたコニー(コンステレーションの愛称)はラグの外縁にある小さな面取りを持つが、ゴールドという素材は柔らかい。これらを考慮すると、この個体は素晴らしい状態を保っていると言える。ケース以外にも、この時計は多くのチェック項目をクリアしている。10角形のリューズ、ひどい傷やそれを消すための過度なポリッシュの形跡がないケースバック、そしてダイヤルはまさに芸術品だ。十字の装飾があしらわれたクロスヘアダイヤルを備えたヴィンテージのコニーに詳しい方なら、MOYテスト(編注;米国の学校で行われる中間テスト)が重要であることをご存じだろうが、この個体は見事にそれをパスしている。
Photo courtesy Farber Auctioneers
また、ダイヤルに夜光塗料がないことにも気づくだろう。インデックスはゴールドの土台の上にオニキスが配され、針の夜光が本来施されるべき部分はブラックで埋められている。そしてもちろん、この時計は伝説的なオメガのCal.561を搭載している(可能性が高い)。これはそのクラスをはるかに超える性能で正当に評価されているムーブメントだ。ひとつ言っておくと、風防は研磨するか交換する必要があるだろう。私が口うるさく言うのにうんざりするかもしれないが、まだなら地元の時計職人と良好な関係を築いておくことをおすすめする(この場合は、できればオメガの正規部品を入手できる人が望ましい)。
Photo courtesy Farber Auctioneers
本稿の執筆時点で1800ドル(日本円で約27万5000円)まで入札されており、これは私がしばらく見たなかでもかなり状態のよいゴールド製のコンステレーションのひとつだ。予想落札価格は3000ドルから4000ドル(日本円で約46万〜62万円)だが、ドッグレッグラグを備えたコニーの価値をめぐる根本的な問題が現在コミュニティで持ち上がっていることは指摘しておきたい。繰り返しになるが、この時計自体は珍しいものではない。しかしもしあなたがこのモデルを探しているなら、これほどのコンディションのものに出会うことは滅多にないだろう(編注;オークションの終了日時は日本時間で2月19日 正午12:00)。ちなみに、同じオークションにはこの素晴らしい第2世代のパテック フィリップ Ref.96も出品されており、もしあなたがそういったもの(つまり傑作)に興味があるならこちらも注目に値する。
1960年代製 SS製のシーボード ヨット クロノグラフ
私が初めて夢中になった時計は、60年代後半から70年代前半にかけて製造されていたツーカウンターのクロノグラフだった。デザインが奇抜であればあるほどよく、今でもそれらに途方もない郷愁と愛着を感じていることをここで白状しておこう。もちろん、馬鹿げた話だ。スウォッチやダイバーズウォッチに心を奪われていた可能性だって同じくらいあったはずだ。だが、自分が何を好きになるかなんて選べるものではないのだ。
Photo courtesy Thomaston Place Auction Galleries
つまり古いシーボード ヨットのクロノグラフは、私にとって最高の喜びなのだ。この特定のモデルには3つの仕様があり、今回紹介する個体はセカンドバージョン。ストレートラグ、スティックハンド、そしてランデロン 248が搭載されている。“誰でも時計が作れた”黄金時代(つまりケースとムーブメントを購入し、誰かに好きな名前をダイヤルに印刷してもらえば、時計が出来上がった時代)に生まれたシーボード ヨットはニューヨーク州アイスリップのSeaboard Marine Supply Co.のために製造された。そこはヨットタイマーだけでなく、ウィギンズ(Wiggins)やシールック(Sea-Lok)の船具もそろうワンストップショップだった。
Photo courtesy Thomaston Place Auction Galleries
この個体はすべて素晴らしい状態に見える。クリーンなダイヤル、使用感はあるが酷使された形跡のないケース、そしてオリジナルの針とリューズ。風防は研磨または交換が必要だろう。また、好みに応じてケースバックに刻印された(おそらく)社会保障番号を研磨して消したいと思うかもしれない。しかしこれほどの時計の栄光を手に入れるためには、それらはかなり小さな代償ではないだろうか? 本稿執筆時点でわずか500ドル(日本円で約7万6000円)で、入札期間はまだ6日残っている(編注;オークション終了日時は日本時間で2月23日午前1時)。予想落札価格は1000ドルから1500ドル(日本円で約16万〜23万円)。市場の状況を考えると、これがどこで落ち着くのか、あるいはどこで落ち着くべきかについて強い主張をするのは難しいだろう。
2005年製 チタン製のジン EZM1
もしジン EZM1が結婚相手だとしたら、怪しい過去を持ち、ダークで物憂げでミステリアスなタイプだろう。あなたをスリルで満たすと同時に、居心地の悪さも感じさせるような存在。私自身、EZM1を所有していたことがある。手放した数少ない時計のなかで、これほど複雑な気持ちで思い返すモデルはほかにない。頭では自分には合わなかったとわかっているのに、見るたびにもしかしたら自分が変わって、ついにEZM1を着けるにふさわしい男になれたのではないかと馬鹿げた期待を抱いてしまうのだ。
1997年に初めてリリースされたEZM1(20周年を記念して2017年に500本限定モデルのEZM1.1が発売された)は、リューズとプッシャーが左側にあるデストロクロノグラフだ。レマニア 5100を搭載し、センターにクロノグラフ分針を備えている。私の知る限り、これが統計的に視認性が高いと証明されているわけではないが、とにかくクールなのだ。3時半位置には赤い日付表示があり、40mmのチタンケースは60年代後半のクラシックなタグ・ホイヤー オータヴィアのCラインケースとどこか似た感触がある(ラグもまた見覚えのある形状だ)。それだけでは物足りない、ミリタリーとのつながりが心を動かすと言うなら、EZM1はドイツのZUZ(=Zentrale Unterstützungsgruppe Zoll、関税局中央支援グループに所属する武装特殊部隊)などに支給された時計であり、30気圧の防水テストもクリアしている。
出品されている個体はきわめてよい状態に見えるが、約20年前の時計としてはそれほど驚くことではないだろう(それにジンの時計は総じて頑丈だ)。これはEZM1の製造後期のものであるため、夜光のドットは初期のモデルのように経年変化していない。もし私がこれを狙うなら、ビーズブラスト仕上げを施したチタン製のブレスレットも奮発して手に入れたいところだ。ちなみに以前所有していたEZM1の何が自分に合わなかったのか、今ではよく覚えていない。もしかしたら、赤い日付が黒いダイヤルに溶け込んでしまうことだったのかもしれない。それがどうにも気になって売ってしまったのだ。なんて愚かだったんだろう。お願いだから、私の過ちから学んで欲しい。ボナムズが2月25日にこの時計を販売する。今から心の準備を始めよう。もしジンに興味がなければ、ボナムズは同じオークションで、この見栄えのするニバダ グレンヒェン デプスマスターも出品している。
ユニバーサル・ジュネーブ コンパックス Ref.22073/2
(またしても)白状するが、私はクロノグラフに弱い。断っておくが、私はクロノグラフを最も必要としない時計着用者のひとりであることは間違いないし、マッチョな傾向を微塵も持ち合わせていない。私はマツダのプレマシー(Mazda 5というミニバンで、私のクルマはグレーだ)を運転し、それを楽しんでいる。私が行う最もハードコアなことと言えば(子育てという最も過酷な雑用は別として)、おそらくサイクリングに行くか、時折愚かにも裏庭に迷い込み、最終的には私の犬の顎の餌食となったリスの死骸を処理することくらいだろう。
Photo courtesy Matthew Bain
Photo courtesy Matthew Bain
だから私にはクロノグラフの必要性はまったくない。特にマシュー・ベイン(Matthew Bain)氏が出品しているこのユニバーサル・ジュネーブのような、エレガントでスポーティなモデルはなおさらだ。タキメータースケールが備わったリングだけでなく、回転式のダイバーズベゼルまで備えている(まあ、リスが犬に追い詰められて殺されるまでの時間を計るのに使えるかもしれないが、それは何だかスポーツマンシップに反する気がする)。それでもああ、なんてことだ、ただこの時計を見て欲しい。
Photo courtesy Matthew Bain
40mmのケース。ゲイ・フレアー社製のブレスレット。ドーフィン針とホワイトのインダイヤル、そしてブルーのタキメーターリングを備えた、胸が締め付けられるほど美しいブラックダイヤル。そしてこれは細かいことだが、時計に関するほとんどのことはそういうものだ。ユニバーサル・ジュネーブのインダイヤルに備わっている数字は優れた書体である(繰り返すが、自分が何を好きになるかは選べない)。この時計の内部で鼓動を刻むのは、伝説的なバルジュー 72だ。私が最も夢中になった時計の多くに搭載されているエンジンであることを考えると、このムーブメントには圧倒的な愛着を感じずにはいられない。
マシュー・ベイン氏はこの希少な逸品を1万8500ドル(日本円で約283万円)で販売している。もし私がその価格の4分の1以下の価値のクルマを運転していなかったら、きっと誘惑に負けていただろう。
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