ADVERTISEMENT
とりわけ腕時計を愛好する人にとって、そのニュースはサプライズであったに違いない。2025年7月にカシオブランドのひとつ、エディフィスから発売されたEFK-100XPB、EFK-100YCDは、カシオ製の腕時計では初となる自動巻きの機械式ムーブメントを搭載していたのだから。しかも、同ラインナップにおいて基幹モデルであるEFK-100XPB-1AJFとEFK-100YCD-1AJFにおいては、強靭さと軽さを兼備するフォージドカーボンを外装やダイヤルに採用。それでいて、従来のエディフィスと変わらない価格帯を実現したことで、強い注目を浴びた。
新作はたしかに、カシオらしいチャレンジ精神を感じさせるタイムピースだ。しかし一方で、同社を代表するいくつかのブランドの腕時計は、独自のソーラー発電技術であるタフソーラーを駆使しながら進化を続けてきたのも事実だ。そのカシオが、なぜこのタイミングで機械式時計に取り組み、しかもG-SHOCKやオシアナスではなく、エディフィスからリリースするに至ったのか。その理由と本作の価値を探るべく、商品企画部 第二企画室 室長の小島直氏にインタビューを実施した。
なぜカシオ初の機械式時計は、エディフィスからリリースされたのか
カシオ初の機械式モデルを企画したのは、商品企画部においてエディフィスやオシアナスといったメタル製アナログウォッチのブランドを担当する小島直氏。そもそも、このエディフィスは2000年に誕生したブランドだ。デビュー当時は北米と欧州のみで展開されていたという。アナログウォッチ市場でのシェア拡大を目指し、当初はメタル外装にアナログの文字盤を組み合わせた、スポーティールックのエントリーブランドという位置付けだったが、その後はクルマ好きにターゲットを絞った、コンセプチュアルなデザインのモデルをリリースし続けている。
今回のコレクションにおいて唯一、フォージドカーボンケースを持つEFK-100XPB-1AJF。
カシオは1974年に同社初の腕時計であるカシオトロンを発売して以降、クォーツのみで市場を切り拓いてきた。そうしたなかでも、機械式腕時計を開発したいという思いは少なからずあったという。「それが具体化し始めたのが2年前です。エディフィスというブランドが今後、クルマ好きのお客様に対してどのような価値を提供できるかを議論するタイミングがあり、そのなかで機械式という選択肢が上がってきました」と小島氏は語る。それまでのエディフィスは、スポーツカーのファンに魅力を感じてもらうべく、スピードを想起させるクロノグラフ機能や、先進のテクノロジーをイメージさせるソーラー発電技術を積極的に採用してきた。だが、エディフィスのラインナップを広げていくうえでは、自らの手で愛車をドレスアップしたり、ヴィンテージカーを駆ってのドライブを楽しむような人々を魅了するモデルも加えるべきと判断した。
ムーブメントがシースルーバック越しに眺められることや、自らの手によって時計を駆動させる点など、クルマに共通する楽しみもあることから、かくしてカシオ初の機械式モデルはエディフィスからリリースされることになった。「いわば、これまでのタフソーラーやクロノグラフの搭載がクルマでいうところのオートマチック。機械式モデルは、マニュアル車のような立ち位置だと思ってください」
機械式時計分野で後発だからこそ意識された“競争力
本作は、エディフィスのブランドとしての幅を広げるための取り組みから始まった。しかし一方ではエディフィスにふさわしい価格帯を維持することも絶対とされ、さらには機械式時計のエントリーモデルとしても選択肢に加えてほしいという願いから、搭載する動力機構には他社製の汎用ムーブメントが選ばれた。スケルトンバックから覗くムーブメントを確認すると、採用されたのはTMI製のCal.NH35Aのようだ。「企画時にはすでに他社からも手ごろな価格の機械式時計が出揃い、評価を受けている状況でした。そのためムーブメントの選定においては、まずは機能の面でそれらに負けないことが条件となりました」と、小島氏は本作で目指したスペックについて語る。Cal.NH35Aは日付表示と秒針停止機能が付いたスタンダードな3針の自動巻きムーブメントで、振動数は2万1600回/時、パワーリザーブも約40時間を保持するなど、同価格帯の他社製モデルと比べても遜色のないスペックを有している。
“EDIFICE”のロゴがプリントでローターに乗せられているものの、ムーブメント自体にはベースから手を加えられている様子はない。
また、外装をブラックで統一したEFK-100XPB-1AJFではケースとダイヤルにフォージドカーボンを採用しながら、7万円台のリアルプライスを実現した。さらに、ステンレススティール(SS)製モデルのひとつであるEFK-100YCD-1AJFでは、ダイヤルにフォージドカーボンを用いつつも価格を5万5000円(税込)に設定している。本シリーズのSS製レギュラーモデルに約5000円程度を上乗せした価格にとどめたことで、他社のアンダー10万円機械式モデルと並べても、十分に魅力的な特徴を備えている。
「これまでにもマッドマスター GWG-2000、2023年末のGCW-B5000など、フォージドカーボンに関しては他ブランドで培ってきた実績とノウハウが十分にありました。この価格での採用には、カシオという会社が持つナレッジをブランド間で共有するという社風が強く生きています」。加えて、中身の機械だけでなく、素材の高級感という点でも満足してもらいたかったと小島氏は語ってくれた。
ベゼルはステンレススティールにPVD加工を施したものとなっている。
SSモデルのなかでは、EFK-100YCD-1AJFは唯一文字盤にフォージドカーボンを採用している。
EFK-100YDの型番が付与された白ダイヤルのSS製モデルについても、単にトレンドのカラーダイヤルを組み合わせただけではない。こちらは金属製のダイヤルに電鋳技術を用いてフォージドカーボン調のパターンを乗せつつ、金属の光沢を生かす塗装を施すことによって、ユニークな表情を浮かび上がらせている。エントリーラインらしいアンダー5万円の価格設定でありながらも手の込んだデザインが加えられており、CMF(カラー・マテリアル・フィニッシュ)デザインに精通するカシオらしい独創的なクリエイティビティを実感できるはずだ。
ブラックダイヤル以外のSSモデル3型は、いずれも電気鋳造によりダイヤルにフォージドカーボンパターンを再現。
さらに外装に目を向けると、エッジの効いた造形が確認できる。サイドの流麗なラインと複数の面で構成されるケースは、都会的なクルマのデザインに着想を得たものだという。とりわけSS製のモデルにおいては、ケース、ブレスレットともにヘアラインとポリッシュの磨き分けを行い、立体感を表現しつつもソリッドな印象を強めている。「機械式ムーブメントを搭載しつつも、デザインはメカメカしさよりモダンさを意識しました」。そして小島氏は、風防をなぞりながら次のように続ける。「外装においても、同価格帯での競争力は強く意識しています。サファイアクリスタルの採用もそのひとつですし、ケース、ブレスレットのエッジと仕上げは特に心を砕いた場所です」。これもまた、カシオの他ブランドで培われた外装技術によって実現したもので、他社の同価格帯モデルに比肩する仕上がりを見せている。
ラグ中央部も、別体パーツが使用されている。ディテールのひとつひとつにも丁寧に向き合っている様子が見て取れる。
新作エディフィスは、カシオの新たな“軸”を担う存在となるか
前述のとおり、これまでタフソーラーを軸としたクォーツウォッチを展開してきたカシオにとって、機械式モデルに着手したことは大きなチャレンジであったはずだ。だが、同社が創業してから今日まで、常に「何もないところから新しい価値を生み出す」ことを理念としてきたことを踏まえれば、新たなフィールドに飛び出すことは、ごく自然な流れである。もっとも、この先期待したいのは、カシオが機械式時計をもうひとつの柱とし、G-SHOCKがそうであったように、市場に新たな旋風を巻き起こしてくれること。本作は世の中からの受け入れられ方次第で「カシオ製機械式モデル」の今後を左右する、まさに同社において重要な指標となるタイムピースと考えている。
現状では、社内にOHや調整を行える体制がまだ整っていない。そのため修理が必要になった場合には、機械を丸ごと載せ替える対応を取らざるを得ないという。「初動の結果を見るかぎり、好調であると言えます。EFK-100はエディフィス、ひいてはカシオ全体における新たな未開拓分野への“挑戦”です。カシオが機械式分野で今後存在感を示していけるかどうかは、EFK-100の成功にかかっているのです」
エディフィス メカニカルモデルの詳細はブランドの公式サイトをご覧ください
Words by Yuzo Takeishi Photographs by Yusuke Mutagami & Kosei Otoyoshi
話題の記事
No Pause. Just Progress GMW-BZ5000で行われた継承と進化
Introducing ゼニス デファイ エクストリーム クロマに新たなふたつの限定モデルが登場
Introducing ヴァシュロン・コンスタンタンが36.5mmの新型トラディショナル・エクストラフラット・パーペチュアルカレンダーを3本発表