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HODINKEEではこれまでもたびたび、海の向こうのスモールブランド、独立系時計ブランドを紹介してきた。それらは大概オンラインのみで販売しており、日本にいては実物を見ることすら叶わないことが多い。僕も2023年のロルカローンチ時は、ゲイリー氏の紹介記事とInstagramを交互に見比べながら真剣に検討したものだ。ブランドによっては時折、スポット的に日本で手に取れる機会があったりもしたが、なかなか実現は叶わなかった。
それがどうしたことか、気になっていたブランドたちが2025年に立て続けに日本への上陸を果たしたのだ。これには、独立系ブランド、スモールブランドが注目を浴びる昨今の潮流もあるかもしれない。なんにせよ、この日本で実際に手に取れる機会が今年訪れたのだ。今回紹介する4ブランドについては、すでに海外で掲載されたインタビュー記事が潤沢に存在していることもあり、いくつか引用したトピックスも織り交ぜて紹介していく。また、せっかくなら手に取って欲しいので、どこで検討・購入が可能かも併せてお伝えする。
アミダ(AMIDA)/スイス
2024年、アミダはプリズムを介した独自のジャンピングアワー表示を持つデジトレンドをもって堂々の復活を果たした。上の写真のデザインを見て、ジラール・ペルゴのキャスケットやブローバのコンピュートロンを思い出した人もいるかもしれないが、クォーツ式のデジタル表示を持つそれらと異なり、機械式ムーブメントを内蔵し、ディスクによる時刻表示を特徴としている。デジトレンド自体は1976年のバーゼル・フェアで発表されたモデルであり、復刻ではオリジナルの雰囲気を忠実に再現。加えてムーブメントにはソプロード社製のCal.NEWTON P092をベースに、自社設計のジャンピングアワーモジュールを組み合わせたものを使用しており、フラテッロでは「70年代風の見た目に現代的なスペックを搭載した」時計と評されていた(オリジナルのムーブメントはかなり安価なもので、故障しやすい傾向にあった)。2024年のGPHGでも、リリース時のテイクオフ エディションが「小さな針(Petite Aiguille)」賞で最終候補に残っており、その走り出しから注目を浴びているようだ。
復活から1年間、新生アミダはデジトレンドに注力してきた。2024年末にはブラック/ゴールドカラーの新色も加わり、今年の8月にはディスクが回転する様子がひと目でわかるデジトレンド オープン サファイアを発表している。実はアミダは1976年のデジトレンドの発表からまもなく、クォーツショックの影響を受けて一度は消滅しているものの、その設立は1925年にまで遡るスイスブランドである。デジトレンドが登場する以前は安価な実用系機械式時計や置き時計を製造していたようで、一部ではピンレバー脱進機を備えた手巻きムーブメントや、通称アダマティック(ADAMATIC)と呼ばれる自動巻きムーブメントも他ブランドに数多く納品していた。また、アーカイブムーブメントを網羅したサイトでは、デジトレンド以前にディスク式“デジタル”表示を備えるCal.750というキャリバーの存在も確認できる(eBayで見つけたこの時計は、このムーブメントを使用しているのかもしれない)。現状、次にアミダブランドの軸となりそうなアーカイブモデルは確認できていないが、アミダ名義で展開していたムーブメントをベースにした提案などはあってもおかしくない。まあ今のところは、デジトレンドの70年代風のスペースエイジなデザインに酔いしれよう。
現在、アミダは伊勢丹新宿店 本館5階 ウォッチ売場、ISHIDA新宿で購入可能だ。また、ISHIDAのオンラインストアでも取り扱いがある。
ブランドの詳細は公式サイトをチェック
アウェイク(Awake)/フランス
ソン・マイについては、昨年末の記事で編集部の松本が取り上げていた。ダイヤルに施された技法については、そちらで詳細をチェックして欲しい。
アウェイクはファーラン・マリと同様、Kickstarterによる資金調達から出発したブランドである。アウェイクは2019年にリリアン・ティボー(Lilian Thibault)氏によってフランスで創業されて早々、同年のG7ビアリッツ・サミットで早速注目を浴びる機会を得た。マクロン大統領が、各国首脳にリサイクル魚網由来のケースを使用したアウェイクを贈呈したのだ。このことから分かるように、ティボー氏はブランドを立ち上げるにあたり、時計への情熱だけでなく、喫緊の環境問題への対応についても配慮したものにしたいと考えていたようだ。現在日本でも展開されているソン・マイの、モデル名と同名の技法で仕上げられる天然漆ダイヤルの美しさにばかり目を奪われるが、実はその下に隠れている機械式ムーブメントも持続可能性の観点から選ばれたものであるという。ほかにも、ファブリックストラップのモデルはすべて再生された魚網であり、ケースもリサイクルスティールを使用している。
ベトナム、ハノイの伝統工芸を継承する漆職人の手により、ひとつひとつのダイヤルを丁寧に仕上げられたソン・マイからは、時計愛好家にも刺さる時計としての美しさだけでなく、上に挙げた環境への配慮との共存が感じられる。しかしこれまでにリリースされた時計を見ていると、それだけがアウェイクの特徴ではなさそうだ。例えばミッション・トゥ・アースというコレクションのNASA公認モデルでは(Worn & Woundやeuropa starなどいくつかの海外メディアで大きく取り上げられていた)、サファイアクリスタルに偽造不可能な識別子を埋め込んでおり、スマホでアクセスすることで、バージョンによっては国際宇宙ステーションのカメラに接続して地球を眺めたり、地球から最も近い小惑星の様子を追ったりできる。これもまた、時計の所有者に自身を取り巻く環境を意識させる表現のひとつである。もちろん時計の真正性も担保されているのだが、それ以上に発想も技術も独創的だ。
その独創性は別ベクトルでも発揮されており、なんと上の写真のソン・マイは1993年の映画『ジュラシック・パーク』にオマージュしたものだという。これはアウェイクによるA Tribute To The Seventh Art(第7芸術へのトリビュート)というプロジェクトの第1弾にあたり、オレンジダイヤルのものがT-REX、グリーンダイヤルがPARTORS(ヴェロキラプトルだ)と名付けられている。6時位置にひっそりと入れられた、恐竜たちの爪痕が見えるだろうか? 今回海外の記事を掘り起こしてみて、アウェイクは僕のなかで俄然気になるブランドとして浮上してきた。できることなら、ミッション・トゥ・アースもぜひ日本で展開してもらいたい。
アウェイクは、東京では恵比寿のウェスティンホテル1Fにあるノーブル スタイリング ギャラリー、大阪では貴人館で取り扱っている。
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ロルカ(Lorca)/アメリカ
2023年にゲイリー・シュタインガート(Gary Shteyngart)のレビュー記事がアップされたとき、それまでの一般的なGMTウォッチとは一線を画するスマートなデザインに撃ち抜かれた。ミッドサイズのソリッドなケース、視認性とモダンさのバランスが取れた文字盤、実用的な20気圧防水と、旅行時でなくともデイリーに身に着けたくなるモデル No.1の姿を、Instagramでしばらく追いかけ続けたものだ。
ロルカウォッチの創設者は、シンガーソングライターであるジェシー・マーシャント(Jessie Merchant)氏。ニューヨークで活動している彼はツアーで各地を巡るなかで、自分が本当に理想としている時計がマーケットにないことに気がついた。すなわち、GMT機能と20気圧の防水性能を備えた、スタイリッシュな時計だ。ブランドフィロソフィーとして「日常使いできるロマンチックで美しい時計」を掲げているだけあり、サイズといい、繊細なディテールが散見されるデザインといい、まさに彼の理想を体現したであろう情緒的な雰囲気を感じる。どこかで見たことがあるような、しかし何にも似ていない独特な空気感は、特定のモデルのみを参照せず、マーシャント氏がこれまで触れてきたさまざまな年代の名品からの影響を反映した結果だという。
モデル No.1
モデル No.2
処女作であるモデルNo.1は36mmのケースに固定式のSS製ソリッドベゼル、ソード型の時・分針(しかも分針はしっかりとミニッツトラックに届いている )、インデックスや針と同色のGMT針を備えたGMT針単独操作可能なGMTウォッチだ。その翌年には、ケース径37mmの小径クロノグラフモデルであるモデルNo.2をリリースしている。日本を訪れていたゲイリー氏から直接、クロノグラフモデルのNo.2を見せてもらったが繊細なギヨシェ彫りベゼルが印象的であった。しかも、あえてロマンを後押しする手巻き式である。まだ3作目の話は聞かないが、クラシックなスモールセコンドにせよ、スキンダイバー風のダイバーズウォッチにせよ、きっとこれら2作のデザインコードを踏襲したノスタルジーを感じさせるものになっているのだと思う。2023年に行われたマーシャント氏へのインタビューを読む限り、彼はバリエーションを大きく増やさず、焦点を絞った展開を行なっていくとのことだ。なお、僕はまだモデル No.1の購入を真剣に考えている。せっかく日本で手に取れる機会ができたのだ。マーシャント氏の言葉を信じるならまだしばらくは新作の登場で心移りすることもなさそうだし、じっくりと検討したい。
ロルカウォッチは、エイチエムエスウォッチストア 表参道と、そのオンラインストアにて購入が可能だ。
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ブリューウォッチ(Brew Watch Co.)/アメリカ
ブリューウォッチについては、ジェームズ・ステイシーやタンタンがよく記事で取り上げていたこともあり、密かに気になっていた。ジェームズが2021年に執筆したONE TO WATCHでブリューウォッチについて、「the creation of distinctive, fun, and affordable watches(個性的で楽しく、そして手ごろな価格)」であることを重視しているとしめくくっていた。僕自身もまだ実機を手に取ったことはないながらも、70年代レトロを全面に打ち出したスーパー メトリック クロノやメトリック マニュアル ワインドリミテッドエディションの記事を眺めながら、まさにそうだと感じている。価格も300ドル台後半から高くても800ドル台となっており、日本円でおよそ5万円台からNYのコーヒーカルチャーが色濃く感じられるユニークなクッションケースの時計を手にすることができるのだ。そしてありがたいことに、今年常設での取り扱いを始めたチックタックでも、かなり近しいプライスでブリューウォッチを購入することができる。もちろんクォーツ、メカクォーツがラインナップの中心ではあるが、昨今のスモールブランドブームのなかでも特にトライしやすいブランドとなっている。
創業者であるジョナサン・フェラー(Jonathan Ferrer)氏の父はティファニーのジュエリーデザイナー、祖父はカルティエのデザイナーであった。ある意味宝飾系のデザインにおいてはサラブレッドともいえる血筋にあり、彼自身は大学の工学部で工業デザインを専攻したのちにモバードでインターンシップを経験、以降、時計デザインを手がけるようになっていったという(GEAR PATROLの2019年のインタビューによる)。そんなバックボーンがあったからこそ、70年代のレトロなフォルムとカラーを踏襲しつつ、まったく新しいデザインが生まれたのだろう。また、先にコーヒーカルチャーが感じられると書いたが、ジョナサン氏は必ずしも皆が同じものに興味を示してくれるとは限らないと考えた。目指すものは“個性的で楽しく、そして手ごろな時計”だ。マニアックで専門的なものではない。この、普段使いするなかで、ふとしたときに話題に挙げられるぐらいのバランス感もまた、ブリューウォッチの魅力なのだ。
ブリューウォッチは9月5日(土)より、チックタック系列店全店(軽井沢を除く)とオンラインストアでの展開が始まっている。
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