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Introducing ティソ ロックウォッチ、ブランドの80年代を象徴する時計が限定復刻

170年以上続くブランドの歴史のなかでも、とりわけ異色の時計が現代に蘇った。

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クイック解説

その誕生から40周年にあたる今年、ティソから「ティソ ロックウォッチ」が限定復刻するというニュースが飛び込んできた。ロックウォッチは、文字通りケースをひとつの“石”から削り出すという突飛な発想から生まれたクォーツウォッチである。当時のティソは親会社であったSSIH(オメガ、ティソを擁していた1931年創業の時計グループ)がASUAGと合併、ニコラス・G・ハイエック・シニアの旗振りのもとでSMH(現スウォッチ グループ)参加のブランドとして稼働し始めたばかりであった。もちろん1983年のスウォッチの大成功は、まだまだクォーツショックの影響が抜けきらないスイス時計業界に希望をもたらした。しかし依然としてスイス全体が好景気とはいえない状況は続くなか、スウォッチに続く“次の一手”として発売されたのがロックウォッチである。時計に石を使用するという着想自体は1970年代中盤にはあったようだが、その加工難度の高さから実現までには丸10年がかかったという。

1985年に発表された初代ロックウォッチ。このころのサイズ展開は、20〜33mmと小振りであった。

 スウォッチがあらかじめ、カジュアルウォッチの分野を開拓していたからかはわからないが、ロックウォッチは先行ローンチされたアメリカ市場を中心にスマッシュヒットを飛ばす。初めはスイス・アルプス山脈を中心に採掘された花崗岩を使用していたものの、玄武岩や翡翠、アベンチュリンなど国を超えてバリエーションも増えていき、80年代末にはマザー・オブ・パールのパールウォッチ、木でできたウッドウォッチなんてものまで展開していた。しかし90年代に入るとその勢いも落ち着きを見せ始め、ロックウォッチは1994年に生産を終了する。最終的な累計販売本数は80万本に上ったという。石で時計を作る、というアヴァンギャルドな着想から生まれたロックウォッチは、間違いなくティソの一時代を築いたのだ。

 そして今回発表された2025年版ロックウォッチは、その“原点”にオマージュを捧げた一本となっている。

 ケース径は現代的な38mmに拡大、アイコニックな黄色と赤の針(アルプスの登山道標識をイメージしていた)はニッケルメッキのシルバー針に置き換えられたことで、かなり洗練された印象を受ける。しかし、ケース、ダイヤル、ベゼルまでがひとつの花崗岩から削り出されている構造自体は、オリジナルからまったく変わっていない。加えて、ティソはこの限定モデルの素材に、1985年と同じユングフラウ(アルプス山脈の山、ユングフラウ山地の最高峰)から切り出された花崗岩を使用している。またティソの広報担当者曰く、この花崗岩をくり抜き、時計の形に加工している職人もなんと当時と同じ人物なのだという。

 以下の写真が、その加工工程である。

花崗岩の柱からコインのような形状に切り出され、成形されていく。

文字盤、およびムーブメントの格納部に該当する箇所がまずは大まかに開けられる。

角を落とし、丸いフォルムに削り上げていく。

天然素材であるがゆえに、その模様にひとつとして同じものはない。

文字盤側はすり鉢上に窪んでいる。そこに、現在の“TISSOT 1853”ロゴが転写される。

内蔵されるのは、スイス製クォーツムーブメント。

裏蓋上部に刻まれる”ROCKWATCH”のロゴは、当時の広告に同じものを見ることができる。

 花崗岩は石英・長石・雲母など複数の鉱物から成る。天然素材ゆえに粒子の大きさは均一ではなく、加工にあたっては硬さだけでなく脆さや欠けやすさも見極める必要がある。見た目はシンプルでも、ロックウォッチの製造には繊細な技術が求められるはずだ。

 一方で、花崗岩は斑状組織の美しさに加え、耐久性・耐熱性・耐水性に優れる。風化にも強く、墓石や建築材として用いられてきた実績がある。本稿のためにオリジナルのロックウォッチを検索して調べてみたところ、いずれも良好な状態を保っているように見受けられた。

 風防はオリジナルのミネラルガラスから、無反射コーティングを施したサファイアクリスタルへ変更された。これにより視認性と透明感がいっそう高まり、角度によっては風防の存在が消えたかのように見える。秒針を持たないため動きは感じられず、素材の出自に呼応するように、ユングフラウの高峰の静けさと緊張感をそのまま形にしたような時計である。

 価格は16万6870円(税込)、999本限定で展開される。 2025年9月20日(土)〜30日(火)の期間中はメール(Tissot.Boutique.Ginza@jp.swatchgroup.com)による予約を受け付けている。詳細は特設ページからチェックして欲しい。なお、申込者多数の場合は抽選を予定。上記期間中はティソ ブティック銀座にて実機の展示も行われている。


ファースト・インプレッション

数あるティソのアーカイブのなかでも、ロックウォッチの復刻は予想していなかった。1971年に登場した「イデア2001」(ケースからムーブメントまでをプラスチックで製作した機械式時計)のように、愛好家のあいだで語り草となってはいても、当面は実現しにくい類のものだと踏んでいた。

 近年のティソ PRXのヒットとそのファミリー拡充の様子を鑑みると、現在のティソを支える購買層は、手に取りやすく、かつトレンドを感じさせるスイス製時計を求めているように見える。だからこそ、“まもなく発表される新作”としてロックウォッチを見せてもらったときには本当に驚かされた。サイズやカラーリング(とはいえ針程度のものだが)は現代的にアップデートされている一方で、“ひとつの石からケースを削り出す”という根本の思想と基本構成は変わっていない。いま見てもきわめてエッジィなコンセプトの時計である。

 明確な競合や、比較対象となる時計も見当たらない。しかしそれこそが、ロックウォッチの唯一無二の価値を生み出している。また初代と同じ石の産地、当時の職人の起用というストーリーは、すでにオリジナルのロックウォッチを知っている時計愛好家に強く刺さるだろう。ティソのブランド規模で、999本という生産数もそれに拍車をかけている。おそらく購入にあたって抽選は避けられないと思う。過去の周年で一度も復刻していないところを見るに、50周年で再度登場するという見込みも薄いからだ。

 ちなみに、せっかくの機会なので、実際に手首に巻かせてもらった。石の時計を試せる機会はそう多くない。花崗岩製のケースはステンレススティールより明らかに軽い。スティールのほうが密度が高いため当たり前なのだが、重厚な見た目をいい意味で裏切る軽快な着け心地であった。一方で、存在感は強い。オリジナルが30mm径前後の展開だったのに対し、今回は38mmへとサイズアップし、素材の質感がいっそう前面に出ている印象だ。申し込み前に銀座のティソ旗艦店で実機を試せるので、期間中に立ち寄れるなら見に行くことをすすめたい。

ロックウォッチの誕生と隆盛を記したローガン・ベイカーのこの記事内でも、ストーンブレスレットバージョンの姿を確認できる。

 なお、今回のロックウォッチが完売し、ティソが万一“復刻第2弾”を企画するなら、個人的に強く期待したい点がある。ずばり、当時販売されていたストーンブレスレットの復活だ。ブレスレット単体の装飾性も高いが、ロックウォッチが持つ装飾品としての魅力を何倍にも引き上げる力があるように見える。今回のリサーチでは残念ながら目にすることはできなかったが、もし持っている人がいるならぜひ実物を確認させて欲しい。

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基本情報

ブランド: ティソ(Tissot)
モデル名: ロックウォッチ(Rock Watch)
型番: T147.409.96.510.00

直径: 38mm
ケース素材: 花崗岩
文字盤色: ケースと同様
インデックス: なし
夜光: なし
ストラップ/ブレスレット:レザーストラップ
追加情報: 無反射コーティング加工を施したドーム型サファイアクリスタル、スイス製クォーツムーブメントは電池切れ通知機能搭載

花崗岩を模したスペシャルボックスが付属。


価格 & 発売時期

価格: 16万6870円(税込)
発売時期: 2025年9月20日(土)〜30日(火)の期間中はメールによる購入予約が可能。詳細は特設ページをチェック。応募者多数の場合は抽選となる
限定:世界限定999本

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