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Hands-On 再登場したバルチックのワールドタイマー “ウール デュ モンド”を購入した理由

生粋のGMTファンであるにもかかわらず、なぜ必要でもない時計を買ったのだろうか。私たちは時には、別人になりたくなるものだ。

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バルチックのウール デュ モンドは正直言って必要なかった。理由はいくつもある。

 まず、私はロレックス “ペプシ”GMTマスター IIと切っても切り離せないイメージで結びつけられてしまっている(昔から“ある時計と結びつけて語られる人”になりたいと密かに願っていたのだが、願い事には気をつけたほうが良いということなのだろう)。先日開催したコミュニティの集まりでは、ロレックスを着けていないと誰だかわからなかったと言われたほどだ。ほかにも素敵な時計をたくさん持っているので、現状に満足しないように心がけてはいるものの、実際にそれをほとんど毎日着けている。しかし旅行で飛行機に乗るときには必ずロレックスを着用しているため、ワールドタイマーは必要に迫られていない存在だった。

Baltic

 それでも私は、友人であり、かつてTalking Watchesにも出演してくれたアダム・ヴィクターと一緒に、ラブラドライトダイヤルの“ウール デュ モンド”を購入した。天然石ダイヤルは全部で3種類用意されていた。そのなかでもこのモデルは落ち着いたダークトーンで、最も普段使いしやすくクラシックに感じられたため、自分に合っていると思った。もちろん、この機会に飛びついたのは私たちだけではない。発売後すぐに完売してしまい、実際に手に取って見るのはしばらくお預けとなった。

Baltic Heures du Monde

 現在、バルチックは再び予約注文を受け付けており、最初の出荷は10月を予定している。これは最初のリリース時に予告されていたことでもあるが、ひとつだけ違いがあり、新たに販売されるモデルには200本限定のシリアルナンバーが入らない。そのため今回は、初回販売を逃した人にも手に入れるチャンスがある。では、なぜこの時計を買うのか。まあ、欲しいからだ。

GMT and Baltic

 まず言っておきたいのは、誰もがロレックス GMTマスターを手に入れられる、あるいは買えるわけではないということだ。私にとってもそれは長年の夢であり、私はとても幸運だった。とはいえこの話は別にGMTマスターに限ったことではなく、どんな時計にも置き換えられるだろうし、きっと私と同じような人は少なくないはずだ。朝、その日の時計を着けて出かけ、帰宅したら適当な場所に置く。寝て、翌朝になったら、その場所からまた同じ時計を手に取り、1日を始める。そしてそれを繰り返すのだ。それが憧れの時計だからかもしれないし、気軽に着けられるからかもしれない。あるいは、ただ着けていて気分がいいからかもしれない。理由は何であれ、同じ時計を毎日選ぶというルーティンはとても楽なのだ。ここ数カ月を振り返っても、ファーラン・マリや、ブレスレット仕様のG-SHOCK、最近発売した限定モデルのタイメックス 8ラップ、ウニマティック、チューダー ペラゴス(39ではなくオリジナル)、そのほかにも何本か着けてきた。それでも結局、いつも同じ1本へと戻ってしまう。そう考えると、新しくもう1本時計を買うことに合理性はない。でも、ときには別の自分になってみたくなることがある。

Baltic

 行動科学と言語学の用語を借りるなら、私や多くの人にとっても、時計とは“コードスイッチング”の一形態であり、“ホーソン効果”への反応と言えるだろう。多くの人は周囲の人に合わせて、言葉遣い、話し方、服装、立ち振る舞いなど、自分自身を変える。そしてこうした行動は特定のコミュニティに溶け込んだり、異なるグループとの良好な関係を築いたりするためにしばしば用いられる。ホーソン効果は、ある意味でこれと密接に関係している。なぜならホーソン効果とは、人は他人に見られていることを意識すると行動を変えるという法則だからだ。

Patek 1415HU

ダヴィデ・パルメジャーニ氏が着用しているのは、ユーラシア大陸の地図をモチーフにしたクロワゾネダイヤルを備えたパテック フィリップ ワールドタイム Ref.1415HU。もし私を別人のような気分にさせてくれる時計があるとすれば、それは間違いなくこの時計だろう。

 自分では、ひとつの型には収まりにくい人間だと思っている。もしかしたらその時々で自分がどんな人間でいたいのか、自分でも決めきれていないのかもしれない。あるときはウィスコンシン出身の大柄な男として、頑丈なツールウォッチさえあれば十分だと思う自分がいる。しかしその一方で、ヴィンテージウォッチを愛する自分もいるし、エレガントで繊細で、ときには複雑な時計に魅了される自分もいる。だが一流のヴィンテージコレクターが集まる場で現代のGMTウォッチを着けていると、どこか居心地の悪さを感じてしまう。彼らと同じものを愛していることが、その時計からは伝わらないように思えてしまうからだ。そんな場面では、ウール デュ モンドはまさにうってつけの存在だ。比較的手の届きやすい価格でありながら、着け心地も抜群なのだ。

Gobbi 2523

友人が所有する、ゴッビ・ミラノのサイン入りパテックフィリップ Ref.2523。

 今回は、ルイ・コティエがデザインしたワールドタイム機構について深く掘り下げるのはやめておこう。その代わりに、まずは少し背景を説明したい。コレクター垂涎のヴィンテージウォッチの世界では、パテック フィリップのワールドタイムは長らく、パーペチュアルカレンダーやミニッツリピーターに次ぐ特別な存在として位置づけられてきた。裕福で洒落た時計愛好家たちが、まるで場末の酒場で殴り合うかのように、オークション会場で競り合ってきた時計なのだ。実際につい数週間前まで、ふたつのリューズを備えたパテック フィリップのワールドタイムは、アジアで落札された時計として史上最高額を記録していた。さらに今年の春には、南米地図を描いたクロワゾネダイヤルを備えた別のパテック フィリップのワールドタイムが、796万1000スイスフラン(日本円で約16億円)で落札されている。

1415HU

アダム・ヴィクター氏が着用するピンクゴールド製のパテック フィリップ 1415HU。

 アダム・ビクター(Adam Victor)氏は、旧モデルのピンクゴールド製のパテック フィリップ 1415HUを所有している。以前はTalking Watchesで登場した珍しいオーデマ ピゲのワールドタイムモデルも所有していた。これらの時計はどれも、航空旅行や通信手段の発達によって世界が縮まり、あらゆるタイムゾーンを一目で確認したいと考えた時代の空気を映し出す存在でもある。

 しかし、ノスタルジーは再現しようとして再現できるものではない。確かに、バルチックのウール デュ モンドが往年の名作ワールドタイマーを参照していることは一目瞭然だ。しかし、そうした意匠を無理に別物へと見せかけることなく、純粋に楽しめる時計へと昇華させるのは簡単ではない。バルチックはそのバランスを見事にやってのけ、そしてそのアプローチは私の感性に強く響いたのだ。私がパテック フィリップ Ref.1415やRef.2523を所有するような人間になることはないだろう。それでも、ときには自分らしい方法で、そういう人物になった気分を味わいたい。そんな願いを叶えてくれるのが、私にとってこのバルチックだった。

Baltic

 私たちは時計レビューを中心とするメディアであるため、感傷的な話を続けるのはやめよう(もっとも、ここまででも少々感傷に浸りすぎてしまった気もするが)。ここからはこの新作を感情的な理由だけでなく、実際に時計として魅力的だと感じる理由について話したい。まず挙げたいのはそのサイズ感だ。直径37mm×厚さ11.3mm(そのうち2mmはダブルドーム型サファイアクリスタル風防によるもの)と、ヴィンテージウォッチらしいプロポーションを意識しながらも、必要以上に小さくはしていない。一方で、ラグ・トゥ・ラグは45mmを確保しているため、“37mm”という数字だけを見ると小さすぎると感じる人でも、実際には数値以上に感じられるだろう。

Baltic Heures du Monde
Baltic Heures du Monde

 ラブラドライト、タイガーアイ、ソーダライトという3種類の天然石ダイヤルが用意されており、それぞれ異なる好みに応えている。そのなかでも、私が所有するラブラドライトが最も汎用性に優れているように思う。ダイヤルの色は光の当たり方によってグレーから深いブルー、そしてブラックへと表情を変え、付属するグレーのスエードストラップとも見事に調和している。ストラップにはクイックリリース式のバネ棒が付いている(ケースにはすでにラグ穴があるため、機能としては少々重複しているとも言えるが、それでも歓迎すべき仕様だ。というのも私はつい最近、バネ棒が勢いよく目に向かって飛び、そのまま床へ飛んでいってしまうという出来事を経験したばかりだからだ)。

Baltic Heures du Monde
Baltic Heures du Monde
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 ケースバックは4本のビスで固定されたソリッド仕様で、中央には地球儀のレリーフがあしらわれ、100mの防水性能を備えている。正直なところ、このケースバックはケース全体のフォルムや施されているサテン仕上げと同様に、見た目に特別な驚きがあるわけではない。決して悪いわけではないが、(最近のバルチック×スペースワンのコラボモデルで見られたような面取りの美しさほど)印象的ではない。しかしこの価格帯を考えれば十分納得できる仕上がりだ。内部には手ごろな価格帯のスイス製自動巻きGMTムーブメント、ソプロード C125を、日付表示のないワールドタイム仕様にアレンジしたものが搭載されており、42時間のパワーリザーブを備えている。ストップセコンド機能が備わるが、秒針がないため、それが機能しているかどうかはわからない。しかしすべての機能の感触は良好で、約1500ドル(日本円で約23万6000円)という価格は妥当に感じられる。全体として、この時計はよく仕上がっていると思う。

Baltic Heures du Monde
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 ダイヤルに話を戻すと、現地時間を示すミリタリー風のアロー型針は、エレガントさよりもタフな印象を持つワールドタイマーと見事に調和している。セラミックベゼルも同様で、サテン仕上げのため指紋や汚れが目立ちやすいものの、その質感のおかげで必要以上にドレッシーな時計に見えない(良い意味で)。さらに天然石ダイヤルは個体ごとに模様が異なるため、風防に埃が付きやすいことも目立ちにくい。また、その自然な模様が、鏡面仕上げのソード型針から漂うモダンな印象をほどよく和らげている。

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 24時間表示のワールドタイム回転ディスクは、昼と夜がグレーとブラックで色分けされており、17時はまだ昼に近く、19時にはより夜に近づいている、といった感覚を把握したいときに役立つ。とはいえ、それは視認性を損なうほどのものではない。また120クリックのベゼルは機能面だけを考えれば理想的とは言い難く、本来であれば24クリックのベゼルが望ましいが、その仕様を採用した製品は少ない。そこでバルチックはダイバーズウォッチ用のベゼル機構を流用してコストを抑え、その分を、都市名への夜光塗料の採用といった魅力的なディテールに振り向けている。またサマータイム(DST)を採用している都市には、都市名の横に三角形のマークが施されている。

Baltic Heures du Monde

 機能的には、リューズを1段引き出して時計回りに回すと、24時間リングを1時間ずつ進めることができる。通常であれば、反時計回りに回すと日付が設定されるが、このモデルには日付表示がないため、その方向へ回しても何も起こらない。つまりワールドタイムディスクを1時間ずつ進めることしかできないのだ。私が旅行先で使うなら、まず針を現地時刻に合わせ、次に24時間リングを自宅のあるニューヨークの時刻に設定し、都市ベゼルは動かさずに使うだろう。もちろんワールドタイマーにはほかにもさまざまな使い方がある。

 しかし、問題はここからだ。おそらく旅行中にこの時計を使う機会はほとんどないだろう。ヴィンテージ好きの友人と会うような旅には持っていくかもしれないが、やはりGMTの方が実用的だと感じる。だが、このバルチックの出番が少ないというわけではない。たとえ旅行にはあまり連れ出さなくても、夏にぴったりの1本として、あるいはデスクで仕事をしながら、HODINKEE Japanの同僚であるマサに連絡して迷惑をかけないよう、現地時刻を気にしながらデスクで仕事をするときにもぴったりだ。そして何より、この時計は過剰に演出することなく、どこか懐かしい気持ちを満たしてくれる。

Baltic
Baltic Heures du Monde
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 私は自分の時計に日本のヴィンテージ時計店、“プライベート・アイズ(Private Eyes)”で購入した“ビーズ・オブ・ライス”ブレスレットを取り付けた。ちなみに私はビーズ・オブ・ライスのブレスレットにはかなりこだわりがある。市場に出回っているほかのメーカー(バルチック社製はもちろん、おすすめのフォースナー/Forstner社製も含む)を否定するつもりはない。ただ私が好きなのは、往年のゲイ・フレール社製を思わせる特定のスタイルなのだ。具体的には、両端に無垢のバーリンクを備え、巻いて成形されたビーズは真円に近く、側面から折り返した縁が見える。ブレスレット本体やビーズを連結するバーの裏側が平らになっていないタイプだ。プライベート・アイズの遠藤さんは、そうした往年のブレスレットを見事に再現できる製作先を見つけており、しかも豊富なバリエーションを揃えているほか、いくつか別タイプのブレスレットも展開している。私も今では、ファーラン・マリのフライバッククロノグラフ用と、この時計用にそれぞれ1本ずつ所有しているが、ブレスレットを替えるだけで時計の印象は大きく変わる。

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 簡単に言うと、用途によって最適なツールは異なるのだ。例えば、普段の撮影では主にニコンZ7IIと105mmマクロレンズを使用しているが、旅行にはリコー GR IIIxを愛用している。なぜならそうした場面では、いわゆる“ハイエンド”な機材ではオーバースペックで、GRIIIXのほうがちょうど良いからだ。バルチックのワールドタイマー “ウール デュ モンド”も、“大物”である必要はない。ただ、自分自身でありながら、いつもとは少し違う自分になりたいときに手に取る時計であればいい。

 バルチックのワールドタイマー “ウール デュ モンド”が、ストラップ仕様で1300ユーロ(日本円で約23万7000円)で再び予約販売を開始した。ご注文はブランドのウェブサイトから