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我々が知っていること
ドミニク・ルノー(Dominique Renaud)氏は2016年以来、沈黙を守ってきた自身の名を冠したブランドを再始動させた。当時、彼は驚異的な4万3200振動/時(12Hz)の“ブレード レゾネーター(blade resonator)”、未来的なフォルム、そして100万スイスフラン(日本円で約2億円)という圧倒的な価格を掲げたDR01を発表していた。12本の製造が予定されていたにもかかわらず、製作されたプロトタイプはわずか1本のみだった。そして今回、彼は再び驚くべき新作のパルス60を発表した。これはモダンウォッチ史上最もゆっくりと時を刻む時計のひとつであり、前作とは対照的な振動数だ。7200振動/時(1Hz)で動作する巨大なテンプと、珍しい脱進機を備えているのが特徴だ。また、DR01よりも身に着けやすい形状とサイズを実現しており、基本価格は4万9000スイスフラン(日本円で約990万円)とかなりリーズナブルに設定されている。
ドミニク・ルノー氏の名前は、過去30年間時計業界を追ってきた人なら誰でもすぐにわかるはずだ。しかしルノー氏はジュリオ・パピ(Giulio Papi)氏とオーデマ ピゲと袂を分かったあと、しばらくのあいだ、表舞台から遠ざかっていた。記憶に新しいところでは、2024年に若き時計師でありプロトタイピストのジュリアン・ティクシエ(Julien Tixier)氏と共作した、独創的なマイクロローター搭載モデル“マンデー”を発表し、実用的かつ商業的なプロダクトで復帰を果たした。
これは製品としても、ルノー氏の名前が商業的なウォッチメイキングの世界に戻ってきたという意味でも、喜ばしい出来事だった。しかし今回のパルス60の発表は、ある意味でそれ以上に期待を抱かせるものだ。それはモダンでよく考え抜かれており、親しみやすさを感じさせつつも、斬新である。さらにこれは、複数のブランドと技術施設を擁する高級時計製造会社、オート・オルロジュリー・ドミニク・ルノー(HHDR/Haute Horlogerie Dominique Renaud)のローンチでもある。HHDRはスイスのトロシュナに設立され、ミシェル・ニエト(Michel Nieto/元ボーム&メルシエCEO)氏がHHDRのCEOに就任する。
時計の正面から見ていくと、グレード5のチタン、あるいはチタンと18Kピンクゴールド(18KPG)を組み合わせた、スポーティで傾斜のあるケース形状が目を引く。ケース直径40mm×厚さ12mm、ラグ・トゥ・ラグは44mm(ラグレスデザイン)で、ドーム型のサファイアクリスタル風防を備えている。しかし外観で最も目を引くのは、巨大な20mmのテンプ(ヒゲゼンマイの直径は15mm)で、時と分を表示する12時位置の小さなインダイヤルを圧倒している。左側のインダイヤルはデッドハーフセコンドカウンター(1秒間に2回動く)、右側はトルクインジケーターで、必ずしもパワーリザーブを示すのではなく、現在の巻き上げ状態におけるパワーの質(強さと安定性)を示す。
一般的に、振動数が高いほどその安定性は増し、動きや衝撃に対する耐性も高まる。しかしこの大型の可変慣性テンプは毎分60振動、つまり毎時7200振動(半周期)で時を刻む。ルノー氏は、これが人間の鼓動に近いと語っている。腕時計でこれを試みたのは彼が初めてではない(2013年にアントワーヌ・マーティン/Antoine Martin氏が試みたが、大手コングロマリットによる部品の特部品の特許侵害主張など、いくつかの問題により中止された)。しかしこの低振動は機能的に完全ではなく、衝撃にも弱いように思えるが、ルノー氏はテンプの直径を大きくすることで衝撃を緩衝できると主張している。また、カーブピンを備えた調整機構は脱進機の上ではなく、(オーデマ ピゲのCal.7121のように)デッドハーフセコンドのインダイヤルから見える独自のブリッジ上に配置されている。実にユニークな構造である。
さらに驚くべきは、脱進機の興味深い設計だ。時計の裏側からは、A.ランゲ&ゾーネの第2世代ツァイトヴェルクのルモントワールブリッジを彷彿とさせる直線的なブリッジが見える。本作に採用されている脱進機は、ウォッチメイキングの世界でまったく前例がないわけではないが、一般的とは言い難い。通常のスイス式レバー脱進機では、テンプは約310°しか回転しない(技術的な理由は割愛するので、詳細は実機レビューを待って欲しい)。基本的には、回転しすぎるとアンクルの裏側に当たってしまうからだ。本作のデザインはレバー脱進機と多くの共通点を持ちつつも、ギア式のローラーやその他の工夫を凝らすことで、360°を超える回転(最大700°までの振幅)を可能にしている。ルノー氏は、脱進機が必要とする回転範囲を超えて回転させることで、テンプが脱進機との干渉をあまり受けず、自身の回転という物理現象によってより安定すると主張している。
本作は4日間のパワーリザーブと30mの防水性能を備えているが、ラバーストラップやプッシュボタン式のクイックチェンジシステムにより、外観は数値以上にスポーティに仕上がっている。これらの要素が組み合わさり、日常使いにも適したきわめて興味深い時計だが、本作は限定モデルではない。チタンモデル(ブラックまたはシルバーダイヤル)が4万9000スイスフラン(日本円で約990万円)、18KPGとチタンのコンビモデル(ギヨシェダイヤル)が5万9000スイスフラン(日本円で約1190万円)となっている。
我々の考え
技術的な観点から見て、本作はきわめて興味深いリリースだ。デザインはとても魅力的だが、正直なところ、この時計の機能性の多くについては少し懐疑的な部分もある。まだルノー氏や彼のチームと直接話す機会は得られていないが、彼らがテンプのサイズや振幅に関する問題を解決している可能性は十分にある。(編集部注:ルノー氏のチームから連絡があり、彼らが実際にこの時計でそのような問題を解決していることが確認された)
一部のメディアでは、この脱進機が世界初と報じているが、振り角を増大させるための独立した“ピルエット(pirouette)”システムは、18世紀からさまざまな形で採用されてきた。また、脱進機をより細かなパーツに分割する試みも行われている(最近では、コンスタンティン・チャイキンが“シンキング”で実現した)。これらの組み合わせはとてもおもしろいが、最大の懸念は耐衝撃性だ。7200振動/時(1Hz)の時計がこれまで腕時計で機能しなかったのには理由がある。時計を落としたり傷つけたりせずにテストする方法はいくつか思いつき、それをルノーのチームに伝えたところ、彼らは異議を唱える私のアイデアを気に入ってくれたものの、実験は失敗に終わるだろうと断言された。一方で、この種の時計の歴史についても多くの考察を持っており、ドミニク・ルノー氏が実現させた驚くべきアイデアを実際に自分の目で確かめたいと思うほど、この時計には強く惹かれている。実物を目の当たりにすれば、それはより素晴らしいものになるだろう。
基本情報
ブランド: ドミニク・ルノー(Dominique Renaud)
モデル名: パルス60(Pulse60)
直径: 40mm
ラグ・トゥ・ラグ: 44mm
厚さ: 12mm(ドーム型クリスタル風防を含む)
ケース素材: グレード5チタンと18Kピンクゴールド/グレード5チタン
文字盤: グレーとローズゴールドのギヨシェ/グレー、またはブラック
インデックス: アプライドとプリント
夜光: なし
防水性能: 30m
ストラップ/ブレスレット: プッシュボタン式のインターチェンジャブルラバーストラップ
ムーブメント情報
キャリバー: 自社製キャリバー
機能: 時・分表示、9時位置カウンターにデッドハーフセコンド、3時位置カウンターにトルクインジケーター
パワーリザーブ: 4日間
巻き上げ方式: 手巻き
振動数: 7200振動/時
石数: 29石
クロノメーター認定: なし
追加情報: テンプは20mm、ヒゲゼンマイは直径15mm、特許取得済みの調節機構を備えた高振動の脱進機
価格&発売時期
価格: チタンモデルは4万9000スイスフラン(日本円で約990万円)、18KPG×チタンモデルは5万9000スイスフラン(日本円で約1190万円)
発売時期: 発売中
限定: なし
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