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クイック解説
ORIGINことDW-5000Cのスクエアフォルムを踏襲したMRG-B5000に新作が登場するのは、2024年1月のMRG-B5000Rに続いて実に1年半ぶりだ。8月8日(金)に発売を予定しているMRG-B5000HTはその見た目のとおり、ベゼルトップ、ブレスに施された“鎚起(ついき)”を特徴とするモデルである。鎚起とは金属板を槌で打ち出すことで立体感のあるパターンを浮き上がらせる鍛造技術であり、その歴史は甲冑や仏具を鍛造した中世の金工にまで遡ることができる。江戸時代中期には金属加工業で知られる燕(三条)にて鎚起を用いた工芸品が確立されており、現在では燕鎚起銅器の名称で親しまれている。本作MRG-B5000HTではその伝統技術に着目し、これまで主にバンドや細かなパーツに使用してきたチタン合金であるDAT55G製のベゼルトップとブレスに落とし込んだ。
MRG-B5000HTの槌目は、ベゼルトップ、ブレスのそれぞれ1点1点に鎚起職人、渡邉和也氏の手によって施されている。先述の新潟県三条市に生まれ、長岡造形大学卒業後は銅器製作の老舗である玉川堂に入社、2005年の独立後には自身の工房である鍛工舎を開設。日本現在工芸美術展ほか、いくつかの展覧会での受賞歴を持つ名工である。
MRG-B5000シリーズのベゼルトップにはこれまで、研磨によってプラチナに匹敵する輝きを有するコバルトクロム合金、コバリオンが使用されてきた。今回のベゼルトップへのDAT55Gの採用は、高い耐傷性、DAT55Gを上回る硬度を持つコバリオンと鎚起による表現との相性を考慮した結果であると思われる。DAT55Gは高い硬度を持ちながら、加工性に優れる合金だ。使用する鑽(たがね)の形状や微妙な力加減ひとつで表情が変わる、鎚起の繊細な表情を見事に映し取っている。また、表面にかけるDLCの色味をブラックではなく、刀装具に用いられてきた銀灰色の朧銀(おぼろぎん)としたことで、より槌目の陰影が浮き上がっているように見える。
DAT55G製のベゼルは、コバリオンと比べるとやや鈍い光沢を返す。
ブレスのコマひとつひとつにも手作業による鎚起が施されている。別体パーツであしらわれたディンプルなど、MRG-B5000に特徴的なディテールは健在だ。
ケースとブレスを留めるビス、裏蓋、ケース4隅の別体パーツなどには、銅(あかがね)色が採用された。さりげなく華やかさを添える要素だが、朧銀色が醸す落ち着いた空気感に馴染んでおり、よいアクセントとなっている。
価格は税込で95万円と、従来のMRG-B5000シリーズと比較すると約2倍のプライシングとなっている。発売日は8月8日(金)で、500本限定での生産となる。
バックル部には不意の滑落を防止する、MR-Gではお馴染みのタイトロックシステムが搭載されている。
ファースト・インプレッション
同じMR-Gでも、マッシブな体躯のMRG-B2000シリーズに見られる“猛々しい強さ”に対し、ORIGINをベースとしたMRG-B5000、MRG-B2100のようなモデルでは“静かなる強さ”が表現されている。それはフォルムだけではなく文字盤に指す色味の配分、素材の選定にも顕著だ。個人的にMRG-B5000HTは、昨今MR-Gでカシオが推し進めている伝統工芸との融和と“静かなる強さ”が高次元で結実したプロダクトだと考えている。思えばこれまで、MRG-B5000、MRG-B2100のラインにおいて匠の手作業というわかりやすいかたちで伝統工芸が落とし込まれたことはなかった。それは刀剣をモチーフとしたMRG-B2000JS、兜を着想元としベゼルに彫金を加えたMRG-B2000SGなど2000番の専売特許であったわけだが、いよいよMRG-B5000にもその波が到来したのだ。しかし、その表情からは、あくまで抑揚の効いた静謐な美しさが感じられる。
MRG-B5000HTは伝統工芸との繋がりをその見た目で声高に主張する時計ではない。ベゼルトップからブレスまで配された槌目は確かに特徴的だが、実際に身に着けてみると驚くほど装いに馴染む。時刻表示部もネガティブLCD(ブラックの液晶に対し、文字や数字が明るく表示されている)を採用したことで、非常にシックで高級感がある佇まいとなっている。また、槌目は遠目に光沢を抑える働きもしてくれる。ベゼルやブレスで金属の光沢と強調した従来のMRG-B5000シリーズとは、美観の面で大きく異なる印象を受けた。
なお本作は、たとえばMRG-B5000Bと比較するとほぼ倍近い価格が設定されている。従来のMRG-B5000シリーズを知る人は、その値段に少し驚いたかもしれない。しかしMRG-B5000HTには、前出の鎚起職人、渡邉和也氏の技がベゼルからブレスに至るまで全面に施されているのだ。またこれまでのMR-Gでも、伝統工芸と融合したモデルは80万円台後半から100万円を超える価格帯で展開されてきたことを考えると、個人的には納得のいくプライスであると考えている。この撮影のためにおよそ1週間ほど借り受けていたのだが、身に着けてみるごとに、手仕事による不規則な槌目が生み出す独特な風合いに強く引かれていった。
そして、MRG-B5000、MRG-B2100というシリーズが今後、伝統工芸といかなる結びつきを見せていくのか。その未来を想起させる、非常に楽しい1本であった。
基本情報
ブランド: G-SHOCK
型番:MRG-B5000HT
直径: 49.4×43.2mm
厚さ: 12.9mm
ケース素材: 64チタン(ケース、裏蓋、ボタン、リューズ)、DAT55G(ベゼル、ブレス)
文字盤色: ネガティブLCD
インデックス: デジタル表示
夜光: LEDバックライト搭載
防水性能: 20気圧
ストラップ/ブレスレット:タイトロック機能付きワンプッシュ三つ折れ式バックルを備えたDAT55G製バンド
価格 & 発売時期
価格: 93万5000円(税込)
発売時期: 2025年8月8日(金)
限定:500本限定
詳細は、こちらをクリック。
Photographs by Yusuke Mutagami, Masaharu Wada
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