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Hands-On MB&Fの新コレクション、スペシャル・プロジェクト・ワンの実機レビュー

スケルトン構造のなかに3つの円形パーツを収めただけの構造によって、ブランド史上最も薄く小さな、そして優れた装着感の時計が誕生した。

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 MB&Fにとって2011年のレガシー・マシン以来となる新コレクションが、あらゆる点で最も伝統的なモデルとなっているというのはなんとも意外で興味深い。プラチナまたはローズゴールドの直径38mm、厚さ12mmのラウンドケースにショートラグ、30mの防水性能、そして2針というスペックだけを見れば、MB&F スペシャル・プロジェクト・ワン(SP One)はほかに説明がない限りドレスウォッチと分類されてもおかしくはない。MB&F自身もこの時計をドレスウォッチと位置づけているが、たとえ最も“伝統的”な作りであっても彼は常に常識にとらわれない発想でアプローチしてくる。

MB&F Special Project One

 ブランドのDNAがどう進化してきたか考えるとき、MB&Fが歩んできた方向性は非常に興味深い。オロロジカル・マシンから始まり、ややクラシカルなレガシー・マシン、そして今回のSP Oneへと至る流れを見ると、MB&Fが設立20周年を迎えるこのタイミングでより“伝統的”な方向へと歩みを進めてきたのは不思議なことだ。アクリヴィアシリーズが売れ行き不振だったころ、レジェップ・レジェピがクロノメーター コンテンポランで大成功を収めた事例が示すように、顧客の嗜好は時代とともに変化する。そうしてMB&Fは幾度となく、時計ケースサイズについて言及したがる人々から批判を受けてきた。しかし、たとえばマックス・ブッサー(Max Büsser)氏にカラトラバのような時計を期待していたとすれば、それはそもそも見当違いな話だ。SP Oneはほかの誰にも真似できないアプローチで表現された、MB&Fらしいドレスウォッチなのである。

MB&F Special Project One

 SP Oneのデザインは一見するとシンプルだが、実は非常に緻密に考え抜かれている。ブランドがこの時計に社内で最初につけていた名前は“スリー・サークルズ(Three Circles)”。それぞれの円には明確な役割があり、香箱、テンプ、ダイヤルがそれぞれ異なる位置に配置されており、正面から見ると輪列の多くはあえて隠されているのがわかる。

MB&F Special Project One

 時計の裏側を見ても、輪列がいかに洗練されミニマルに構成されているかがわかる。とはいえセンターホイール(2番車)がもはや“センター”にはないため、香箱から2番車、3番車、4番車へと続く従来の輪列構造は、より複雑になっている。それでもMB&Fチームはムーブメントをダイヤル中央に向かってコンパクトにまとめ、それによって表裏のサファイアクリスタルのシースルー効果を際立たせている。

MB&F Special Project One

 この時計に使われているわずかなブリッジにはサテン仕上げと面取りが施されており、歯車の内側のスポークにも同様の仕上げがなされている。これはレガシー・マシンのような大きなプレートや長いエッジを持たず、伝統的な装飾を施すことができる範囲が限られている時計に対しても、手間を惜しまないMB&Fの姿勢を示している。ブリッジはルテニウム仕上げによりアンスラサイト調でまとめられており、エングレービングも含めてすべて手作業で行われている。しかしSP Oneの製作において最大の課題となったのは、仕上げそのものではなかった。

MB&F Special Project One

 ミニマルなデザインにもかかわらず、SP Oneは72時間という非常に長いパワーリザーブを誇る。ケースデザインにおいて最もクラシックなスタイル(もしくは一般的なスタイル)とはかけ離れた要素のひとつが10時位置近くに配置されたリューズだが、これは巻き上げと(より複雑な)時刻合わせを行う機構(キーレスワーク)との物理的距離を最小限に抑えるための配置だ。その後、時計は香箱から脱進機に動力を伝達し、(設計上は)1万8000振動/時の振動数でその動力を解放する。しかし残念ながら、プロトタイプというものは常に思いどおりに機能するとは限らない。

MB&F Special Project One

 アコースティックの弦楽器を演奏する人なら、これからの話がどこに向かうのか想像がつくだろう。ここで少し寄り道して、アコースティックギターの話をしよう(この考え方はバイオリンやチェロ、ピアノなどにも共通する)。使用する木材の種類などさまざまな要素にもよるが、アコースティックギターの音に最も大きな影響を与えるのはいかに自由に共鳴できるかという点にある。優れたルシアー(弦楽器製作家)はギターのトップ材や、それを支えるブレース(力木)からできる限り余分な木材を削ぎ落としていく。私は幸運にも、世界最高峰の現役ギター製作家のひとりであるウェイン・ヘンダーソン(Wayne Henderson)氏が、その作業をポケットナイフ1本でやってのける様子を目の当たりにしたことがある。彼の成功は、その削れる限界を正確に見極めていることにある。削りすぎればトップはあっけなく見事なまでに崩壊するのだから。

 それは時計も同じだ。ムーブメントを薄くして時計をスリム化するにせよ、スケルトン化するにせよ、あるいは空中に浮遊しているように見せるにせよ、時計は本質的に、香箱のねじれ(トルク)とそこから伝わる力によってそれ自体が爆弾となり、破裂しようとしている存在なのだ。実際、SP Oneの初期バージョンのひとつではまさにそれが起きた。MB&Fチームには豊富な経験と才能があるにもかかわらず、それでも時に思いどおりにいかないことがある。私はその事実が好きだ。とはいえ最終的にはこの問題は見事に克服され、SP Oneは無事崩壊を免れることとなった。

MB&F Special Project One

 ケースデザインこそ従来よりも伝統的なスタイルを採用しているものの、時刻表示の方式はMB&Fらしく型破りであり、それはレガシー・マシンに見られる表示形式に似ている。SP Oneにはプラチナ(Pt)とローズゴールド(RG)とのふたつのバリエーションが用意されているが、いずれも共通して6時位置に、ブラックDLCコーティングとサーキュラーサテン仕上げを施した、傾斜ダイヤルを備えている。このダイヤルにはシルバーカラーのアプライドインデックスと、ケースではなくムーブメントの色調に合わせたシルバーの針が配されている。RGモデルにおいてこれが最適な判断だったかどうかは意見が分かれるところだが、仮にインデックスや針までローズカラーにしていたらムーブメントとのあいだにちぐはぐな印象が生まれていた可能性が高い。

MB&F Special Project One
MB&F Special Project One
MB&F Special Project One

 この2モデルは見返しリングのカラーも異なる。RGモデルではブラック、Ptモデルではアイスブルーが採用されており(後者は一部のロレックス Ptモデルに見られる色味に近い)、どちらの色もケース素材によく合っている。ただし時刻表示用のサブダイヤルが両モデルともブラックであるため、色の統一感という点ではRGモデルのほうがまとまりがあるように感じられる。Ptモデルにも同じアイスブルーをサブダイヤルに採用するという選択肢があったかもしれないが、これだけ表示要素が小さいと、コントラストが乏しくなり視認性が落ちてしまった可能性が高い。

MB&F Special Project One
MB&F Special Project One

 私はこのSP Oneをとても気に入っている。このモデルは私にとって、マックス・ブッサー氏とそのチームを敬愛する人々に彼らの仕事へのリスペクトを示す、新たな選択肢を提供してくれているように見える。とはいえ賛否両論あるモデルであることも承知している。実際にMB&Fの時計を所有しており、こうしたモデルにも関心を持ちうる何人かのコレクターと話をしたが、彼らの反応は主にその透明性に集約された。

 下の写真のように腕に毛が多かったり、肌の色が特に明るいオーナーたちは、前面も背面もスケルトン仕様のこの時計は少々気になったり好ましくないと感じたりするかもしれない。もっとも、私はほかの人のように腕毛を気にしたことはほとんどない(ベンがタンク ミニのモデルを務めた記事を思い出して欲しい)。実を言うと、これまで公に語ったことはなかったが私は軽度の皮膚疾患を抱えていて、リストショットを投稿するときに肌が気になることがある。それでもそれが時計への愛情を妨げたことは1度もないし、これからもそれが理由で時計から離れるつもりはない。

MB&F Special Project One

 MB&Fをいつか所有したいと思っている理由は数え切れないほどある。では、このSP Oneがその1本になるのだろうか? 正直なところそれはまだわからないし、違うかもしれない。本モデルはコレクション全体をとおして見ても、初めてのMB&Fとしては完璧とは言い難く(個人的にはやはりレガシー・マシンこそがその役割を果たすべきだと思う)、むしろこれはすでにMB&Fの世界に魅了されている人のコレクションに幅を加える1本として優れた選択肢であるように感じる。最後にひとつだけ、頭に残っているマックス・ブッサー氏本人の言葉をお伝えしたい。彼はこのデザインを何年も前から構想していたが、実際に試作してみたあとアーカイブにしまい込み、2度と日の目を見ない可能性もあった。世に出ることのなかった素晴らしいアイデアは、いったいどれほどあるのだろうか。そしてこれから、私たちはそのどれだけに出合うことができるのだろうか。ブッサー氏の言葉を聞いてそんな思いがめぐった。

スペシャル・プロジェクト ワンの詳細については、MB&Fの公式ウェブサイトをご覧ください。