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“デュアルタイムゾーン”または“トラベルタイム”と呼ばれることもあるが、これはパテック フィリップの伝統的な複雑機構で、別の時間帯の時間を表示するように設計されたダイヤルに第二時針を追加したものだ。追加された針は通常、ローカルタイムとは異なる方法で表示され、使用されていない時にはローカルタイムを表す時針の下に隠すことができ、パテックでは追加された時針を前進させたり後退させたりするために、ケースの左側面に一対のボタンを取り付けた。
パテックにとって、この複雑機構の本来の目的は、新しいタイムゾーンへの移行を可能な限り簡単にすることであった。以前の旅行用時計が複数の調整を必要としていたのに対し、パテック フィリップは、急速に人気が高まった航空旅行のためのソリューションを設計するために、ルイ・コティエに頼ったのだ。ワールドタイムウォッチの愛好家であれば(または僕の『Watches: A Guide By HODINKEE』の章を読んでほしい)、1930年代後半にパテック最初のワールドタイマー誕生の背景にいた人物であるコティエの名前を知っているだろう。
1950年代半ばまでに、パテックは旅行者のための選択肢を増やしたいと考え、分と秒を止めず、そして手首から時計を外すことなく更新できるタイムゾーンジャンピングウォッチのデザインをコティエに依頼した。それはGMTやワールドタイマーではなく、ボタン操作のジャンピングアワー機能を使って、新しいタイムゾーンに素早く簡単に変更できるようにデザインされた時計であった。
60年近く経った今でも、パテック フィリップはこの機能をいくつかの時計に搭載しており、さらにセカンドタイムゾーンをより分かりやすく理解できるように進化した。一般的なGMTモデルを提供していないブランドにとって、Ref.2597はパテックにおける最も旅行に特化した時計の起源であり、ブランドの永続的なコレクションに投入された、もう1つのコティエ由来のイノベーションでもある。
この記事では、パテックのツイン時針モデルに焦点を当てるが、コティエが最初にデザインしたRef.2597は、1958年に誕生した“国を横断する”モデルで、ジャンピングセット式のシングル時針を備えており、価格は1000ドルであった。1961年までに、コティエとパテックは、Ref.2597を2つの時針(上図のブルースチール製の補助時針)を備えたセカンドシリーズにアップデートし、補助時針はケース側の小さなプッシャーによりジャンプセットが可能なった(オリジナル仕様のローカルタイム針と同様)。また、前述したように、これは時計を止めることなく、手首から外すことなく行うことができ、また、旅行中でなければ、補助時針を現地の時針の下に隠すことができる。
この機能は、パテックの12-400 HSムーブメントに由来しており、“HS”とは“Heures Sautantes”の略で、ジャンピングアワーを意味する。手巻きで18石を搭載したCal.12-400 HSは、1959年にスイスの特許(#340191)を取得し、“タイムゾーンウォッチ”のベースとなった。現代において、Cal.12-400の遺産は現行のCal.324 S C FUSに受け継がれているが、これは素晴らしいアクアノート トラベルタイム Ref.5164に使用されていることで最もよく知られている。
ベンが以前の記事で説明したように、初期のRef.2597の開始時から、この時計は基本的に、新しいムーブメントとそのコントロールのためにいくつかの微調整を加えた35.5mmのイエローまたはピンクゴールドケース(パテック フィリップのためにアントワーヌ・ゲルラッハによって製造された)をもつ、Ref.570カラトラバであった。再度説明すると、シリーズ1は1958年から1961年に限定されており、ツインアワーハンドのシリーズ2は1962年頃に登場した。興味深いことに、Collectability.comのジョン・リアドン氏(パテック フィリップの全てに関する優れた知識人)と話す中で、1970年代までに、パテックはシングルアワーハンドのシリーズ1をデュアルアワーハンドのシリーズ2に更新することができるように、小売業者にアップグレードキットを販売していたことを僕は知った。
これらの年は時々議論されているが(記録があやふやであったことから)、コレクターコミュニティ内での緩い理解であり、注意を払うべきだ。もしデュアルアワーハンドのRef.2597でありながら、1961年以前の製造年のものに出くわした場合、その時計が元々はデュアルアワーハンドの時計ではなかった可能性があるので、現金を投じる前にできるだけ詳しく調べてほしい。
要するに、2597は非常にクールで極めて珍しい時計であり、ティファニーやグベリンなどのダブルネームのものも見つけることができる。価値は高く、上昇しており、代表的な例を挙げると、2017年11月にフィリップスに出品されたものは、54万500スイスフラン(約6160万円)という高値で販売されている。好奇心旺盛な方は、2019年にボナムズに提供されたブレスレットを備えたダブルネームのシリーズ1や、2018年5月にフィリップスから販売された、より歴史の深いシリーズ2を含むロットをチェックすることができる。
Ref.2597の機能は、当時の最も魅力的なトラベルウォッチの1つとしてコレクターに広く評価されていたが、他のモデルへの展開は非常に遅く、その後の50年間でパテックのトラベルタイムが市場に登場したのはほんの一握りで、成功の度合いは様々であった。1997年、パテックは90年代のパテックのデザインで、同様の機能を提供するRef.5034 トラベルタイムを発表した(ホワイトゴールドモデルもある)。また、パテックはレディースモデルのRef.4864も発表した。どちらのモデルも、スモールセコンド表示と24時間表示を追加したCal.215 PSのバージョンを使用している(AM/PM表示には便利だが、ブランドがこのフォーマットを最終的に進化させたわけではない)。
2001年、Ref.5034は手巻きのCal.215PSを使用しながらもケースとダイヤルデザインをより現代的にした37mmのトラベルタイムモデル、Ref.5134に取って代わられた。Ref.5034とRef.5134は(Ref.2597からの)大幅な外見的変化にもかかわらず、これらのモデルは基本的な2つのボタンでジャンピングセコンド時針機能を採用している。Ref.5134はプラチナ、ホワイトゴールド、イエローゴールド、ローズゴールドを含むいくつかのバリエーションがあり、ダブルネームモデルも見られ、パテックのコレクター市場では、まだ一般的な人気を獲得していないことを知るべきだろう。つまり、このモデルの価格はRef.2597よりもはるかに低いのだ。Ref.5134の追加の外観については、2019年11月にフィリップスから1つ、2019年6月にボナムズから1つ(非常に低い価格のように感じます)、フィリップスが2017年11月に販売したプラチナとブラックダイヤルの例を見てほしい。
パテック フィリップは、2008年に生産中止になるまで、何らかの形でRef.5134を製造し続けたが、それに伴い、ブランドはこのエレガントなトラベルタイムを使用するようになった。ありがたいことに、それは2011年に素晴らしいアクアノート トラベルタイム Ref.5164Aの発売で変わった。これはパテックがアクアノートに複雑機構を搭載した初めてのケースであり、個人的には、なかなか上手い選択をしたと思う。アクアノートのスポーティでカジュアルなデザインと、Ref.2597によって確立された機能性(AM/PMをより具体的に管理できるように改良されている)を兼ね備えたRef.5164は、非常に望ましい現代のモデルとなっている。もっと知りたければ、ベンの5164AについてのIn-Depth記事を読むか、僕のRef.5164RについてのHands-On記事を読んでほしい(その記事はこの後継記事だ)。
2011年以来、パテックは、ノーチラス ジャンボ Ref.5990(クロノグラフ付き)、常にクールなカラトラバ パイロット トラベルタイム(Ref.5524とRef.7234)、ビッグボーイと呼ばれるRef.5520P、そしてグランドマスターチャイム Ref.6300(他に19もの機能をもつ)を含むいくつかの時計にトラベルタイム機能を搭載している。
パテックのトラベルタイムの時計を見てみると、網羅的なものではないが、僕のお気に入りブランドである複雑機構の背景を知ることができると思う。Ref.2597は、僕のお気に入りのヴィンテージウォッチの1つであり、Ref.5164は僕のお気に入りの現行モデルだ。旅行用の複雑機構の熱烈なファンである僕は、コティエが開発した12-400のエレガントさとカジュアルさ、そしてパテックが過去10年間、特に新モデルと追加機能を備えたフォルムを、どのように改良してきたかに惚れ込んでいるのだ。
最後に、僕はパテック フィリップが、この機能を有効に活用し続け、いつの日かカラトラバファミリーにこの機能が追加されることを願っている。現代のRef.2597は、キラースペックになる可能性があり、僕は現行の37mmサイズのRef.5196Rが素晴らしい出発点になると考える。それまで、僕はジャンピングアワーのトラベルウォッチが増える世界を夢見るだけである。