Photos by Mark Kauzlarich
今年はオリンピックに夢中になった。信じられないような開会式から、よく知られた競技や少し変わった競技まで、ありとあらゆるものを楽しんだ。ストリーミングやほぼリアルタイムのリプレイのおかげで、ありとあらゆることを指先ひとつで見ることができるようになった。もともとオリンピックの大ファンだったが、家で観戦するだけで満足していたため、自分が実際に現地で観ることになるとは思ってもみなかった。今となってはもう一生オリンピックを見逃すなんて考えられない。
“オメガがオリンピックに連れて行ってくれたから、心を奪われたのだろう?”と言われる覚悟はできている。だからこそ、普段この手の旅行、とくに時計の発表会や何かを取材する目的がない旅行は断ることにしている。実際のところ、オリンピックではオメガによって実現した“世界最速の男”の写真撮影や、世界記録達成の際に公開された新しいスポーツウォッチ、さらにはダニエル・クレイグ(Daniel Craig)の手首にあった新しいシーマスター 300Mのお披露目など、時計にまつわるニュースは多くあった。だが信じてもらえない人たちに対しては、正直にこう言うしかない。
実際にオリンピックを目にすることで、競技そのものやアスリートたち、そしてオリンピックが意味するものへの愛情と敬意がさらに深まった。もしオメガへの愛が増したとすれば、それはほかの時計に対する愛がいつもそうであるように、結局は“人”によるものだったのだと思う。オメガファンだけでなく、世界中から集まった情熱的なファンの大群に囲まれたことが、オリンピックをまったく新しい次元に引き上げてくれた(観客の大歓声で永続的に耳を傷めてしまったかもしれないが、その経験も含めてだ)。
結局のところ、人々こそがストーリーテラーであり中心なのだ。“最も重要なムーブメント”や“最も美しいモデル”から、“私にとっていちばん大切な時計”まで、すべての最上級表現はストーリーから始まる。オメガとともに参加したオリンピックで出会ったコレクターや小売業者、同僚たちから感じ取ったのは、オメガというブランドと時計に対する情熱と興奮だった。彼らは実に希少で、ときに珍しい時計を持ち出してきた。しかし私が出会ったすべての人が証明してくれたのは、話題性や投資収益のためではなく、それぞれの時計が持つストーリーと、所有者にとって特別な存在となるディテールが重要だということだった。いつも言っていることだが、すべての時計を集める余裕がなくても、少なくともそのストーリーと知識は集めることができる。そしてオリンピックで出会った人々は、そのストーリーをよろこんで共有してくれた。
ある意味で、オリンピックにおけるオメガの役割は舞台裏に自然に溶け込むことだ。それはこの92年間、主に“公式タイムキーパー”としてオリンピックを支えてきた役割でもある。確かに1964年、1972年、1992年、1994年にはセイコーが計時を担当したが、オメガは2032年の100周年まで公式タイムキーパーを務める契約を結んでいる。この92年のあいだに状況は大きく変わった。1932年の大会では、オリンピック会場にひとりの時計職人と30個のスプリットセコンド懐中時計が配置され、10分の1秒を計測していたが、2024年には1秒間に4万コマを撮影するカメラと1000分の1秒を簡単に計測できるタイマーが登場するまでに技術が進化した。パリのオメガハウスに展示されているのは、まさにその1932年当時の懐中時計のひとつである。
もちろん、オメガのブランディングは随所に見られるが、パリに設置されたオメガハウス(社交クラブと博物館を兼ねた施設)以外では比較的控えめだ。それはオメガブランドのテクノロジーにも同様に言える。その技術の多くはスウォッチグループ傘下のスイスタイミング社によるもので、オメガだけでなく、ロンジンなどのブランドにも提供され、さまざまなスポーツイベントで活用されている。実際に意識して探さない限り、目立つことはない。肝心なのは目立つことではなく、アスリートたちの何年にもわたる努力を台無しにするような機材トラブルを避けることだ。そして世界最高のアスリートが誰かを決める瞬間が来ると、オメガはその場に立ち会い誰かのストーリーに貢献する。
パリから持ち帰りたかったのは(ギフトショップで購入した十数個のピンバッジに加えて)、オメガが使用する計時技術に関するストーリーだった。しかし現地にいた48時間ではそれを間近で見ることは叶わなかった。それは数年後まで待つことになるだろう(編注;HODINKEE Japanではオメガタイミングの記事を掲載している)。皆を一緒に連れて行けたらよかったのにと思う。もしかすると、すでに自分で行った人もいるかもしれない。ただ私が短い時間で目にした最もクールな時計や瞬間をまとめたPhoto Reportを見ることで、少しでもその場にいた気分になってもらえたらと思う。時計に対してもオリンピックそのものに対しても、あの場で感じた情熱の一端でも伝われば幸いだ。
1日目: スピーディとビーチバレー
2日目: 新体操、陸上競技、そしてセレブとの遭遇