ドクサは引き続き、1960年代後半のブランドを象徴するデザインを軸に展開を続けており、その最新作として、ブランドを代表するダイバーズクロノグラフの新世代モデル、T.グラフ IIを発表した。新たに生まれ変わった本作はオリジナル(そして近年のT.グラフシリーズの流れも踏襲)に忠実であり、サブ300のクラシックな意匠を、力強さを備えながらも装着性に優れた自動巻きクロノグラフへと昇華させ、ドクサを象徴する3つの定番カラーに加え、サプライズとしてブルーの“カリビアン”もラインナップに加えた。本作はフラッグシップモデル並みの価格設定だが、これまで入手困難で価格も高額だったこのモデルにおいて、新たなT.グラフ IIは、僕たちが待ち望んでいたダイビングに対応したドクサのクロノグラフと言えるのだろうか?
心配はいらない。その点も含め、詳しく見ていこう。ただその前に、まずはT.グラフの歴史を簡単に振り返っておきたい。これはカルト的な人気を誇るモデルだが、これまでまとまった量産はされていなかった。
T.グラフのこれまで
できるだけ簡潔に説明すると、新しいサブ 200 T.グラフ IIは、1969年に少量生産されたサブ200 T.グラフをベースとしている(ジェイソン・ヒートンはヴィンテージのT.グラフについて詳しく書いており、実際にダイビングにも使用している。シーランブラーについてはこちら、シャークハンターについてはこちらから)。製造本数については諸説あるものの、オリジナルの3つのカラー(シャークハンター、シーランブラー、プロフェッショナル)はそれぞれ約300本ずつ製造されたと考えられている。繰り返しになるが、ジェイソンによる2本の記事はぜひ読んで欲しい。特にヴィンテージのサブ 200 T.グラフ シーランブラーがいかに美しい時計であるかは、一見の価値がある。
次に、サブ200 T.グラフが本格的に登場したのは2019年のことだった。ドクサはモデル誕生50周年を記念し、18Kゴールドケースを採用した13本の限定モデル(価格は7万ドル/当時のレートで約780万円で、いま振り返っても驚くべき設定だった)を発表。その後、同年の後半にはオレンジの“プロフェッショナル”カラーのみの300本限定モデルを発売した。このモデルについては、ジェイソンが執筆した当時の紹介記事で詳しく取り上げているが、リンク先を読まない人のために要点だけ挙げると、ケースサイズは直径43mm×厚さ15.15mm×ラグ・トゥ・ラグ45.5mmで、ムーブメントにはデッドストックの手巻きムーブメント、バルジュー7734を搭載し、2019年当時の価格は4900ドル(当時のレートで約52万円)だった。
これが、2026年6月までのT.グラフの歴史だ。ご覧のとおり、生産本数こそ限られてきたものの、T.グラフは熱狂的な支持を集めるカルト的人気モデルである。そのため、限定モデルであれレギュラーモデルであれ、新作が発表されるたびに、ドクサ愛好家たちの濃密な“マニア談義”の渦中に置かれることになる。
そして現代に目を向けると、サブ 200 T.グラフ IIが初のレギュラーモデルとして、T.グラフシリーズに加わった。注目すべきは、今回の動向(需要の高い限定モデルから、ほぼ同じカタログモデルへの移行)はドクサにとって前例のないことではないということだろう。2017年(当時の経営陣のもと)、ドクサは1967年に誕生した名作であるサブ 300の50周年を記念し、3種類の限定モデルを発売した。ちなみに僕はこの記事を書いている今も、50周年記念のシーランブラーを着用しており、ドクサが2020年に約2500ドル(当時のレートで約26万円)という価格で、サブ 300のレギュラーモデルを発売したことをよく覚えている。もちろん、この動きは2017年の限定モデルを購入したオーナーたちにとっては残念なことだった。しかし僕自身はそれほど気にならなかった。まあ、これが時計の世界というものなのだろうから。
T.グラフの現在
それでは前置きはこのくらいにして、2026年版のT.グラフ―失礼、“Tグラフ II”を見ていこう。発売時点では4種類の定番カラーが用意されている。ドクサに初めて触れる人のために補足すると、同ブランドではダイヤルカラーに海をテーマとした名称を採用している。T.グラフ IIではプロフェッショナル(オレンジ)、シャークハンター(ブラック)、シーランブラー(シルバー)、カリビアン(ブルー)がラインナップされる。タンタンが最近の紹介記事で触れていたように、新しいT.グラフ IIは直径42mm×厚さ14.6mm、ラグ・トゥ・ラグ44.5mmというサイズにまとめられており、従来モデルからコンパクトになったことで、装着性は大きく向上している。
1969年のオリジナルモデルよりひと回りコンパクトになったものの、ダイヤルデザインはほぼそのまま維持されており、サブ 300の意匠を巧みに取り入れつつ、ふたつのインダイヤルと6時位置の日付表示を追加している。下の画像では、1969年製のサブ 200 T.グラフ シーランブラー(左)と現行のT.グラフ IIを比較している。9時位置のスモールセコンドに配されたブロック状の夜光マーカーや、クロノグラフ積算計のアロー型針、そして(ブラックとイエローの配色を受け継いだ)3時位置のインダイヤルなど、細部に至るまでオリジナルの魅力的なディテールがしっかりと継承されていることがわかる。
目ざとい人なら気づくだろうが、ドクサを象徴する“ノーデコ(無減圧で潜れる時間)デュアルスケールベゼル”にも違いがある。2026年モデルでは、目盛りは唯一のオプションとしてメートル表示のみとなっているのに対し、1969年のオリジナルモデルでは、所有者(ダイバー)が使用する地域や好みに応じて、メートル表示とフィート表示のいずれかを選択することができた。
ダイビングでの使用について触れておくと、新しいT.グラフ IIは200m防水を備え、リューズもねじ込み式となっている。しかし注意が必要なのは、クロノグラフのプッシャーは水中で操作できないという点であり、ドクサも正式にこれを認めている。とはいえ、ベゼルはダイブ・コンピューターのバックアップとして十分活用できそうだし、30分積算計を備えたクロノグラフは潜水中の区間計測(沈没船の一区画を探索したり、サンゴ礁の反対側まで移動したりする時間など)に役立ちそうだ。だが本作の購入を検討する多くの人にとって、これはそれほど大きな問題ではないだろう。もっと言えば、200m防水を必要とする人も決して多くはない(しかしもし防水性能が50mだったら、きっと誰もがその点を指摘していたに違いない)。
デザインという観点でいえば、ドクサのファンとして、T.グラフのこれまでのデザインが大好きなので、当然T.グラフ IIも気に入っているし、オリジナルデザインの核となる部分を損なわなかった点も高く評価している。実物を見た印象では、おそらく当然のことながら、特にカリビアンとシーランブラーが気に入った。プロフェッショナルは僕には少しオレンジが強すぎる(いつか引退して砂浜でのんびり暮らすようになったら考えが変わるかもしれない)。一方のシャークハンターは分針がホワイトであるため、やや控えめな印象を受けた。確かにオリジナルに忠実ではあるが、個人的にはオレンジの分針でも良かったと思う。
しかしオレンジ色の分針とクロノグラフの分積算計に配されたイエローとの組み合わせを考えると、僕が選ぶのはカリビアンだ。温かみのあるブルーにオレンジがよく映え、イエローのアクセントも見事に調和している。
色の話はさておき、実際に新しいT.グラフ IIを着けてみると、その装着感は実に素晴らしかった。僕が所有するサブ 300と比較すると、ケース径は0.5mm小さく、ラグ・トゥ・ラグは約1mm短く、クロノグラフを搭載しているにもかかわらず、厚さは約1mm増した程度に収まっている。これまで何度も繰り返し言ってきたことだが、ドクサほど着け心地の良い時計はそう多くない。サブ 300で実感しているように、T.グラフ IIもまた独特のケースプロポーションによって、数値から想像する以上に快適な装着感を実現している。
個人的には、もし購入したならイソフレーンストラップや、ヴィンテージ風のラバーストラップに付け替えると思う。それでも、ドクサ純正のFKMラバーストラップも、ステンレススティール製ブレスレットも、適度な重量感を持つT.Graph IIとの相性は非常によかった。とはいえ、ドクサがブレスレット仕様に設定している価格差は比較的小さい(しかもクラスプにはラチェット式の微調整機構まで備わっている)ことを考えれば、僕なら迷わずブレスレット仕様を選ぶだろう。たとえ実際にはブレスレットで着用する機会があまりなくてもだ(ちなみに僕のサブ 300は、ほとんどの場合NATOストラップか、eBayで買った安価なシャークメッシュブレスレットを付けている)。
内部にはETA 7753と同じ設計をベースとするスイス製自動巻きクロノグラフムーブメント、セリタ SW510を搭載する。SW510はカム式クロノグラフを採用し、毎時2万8800振動で駆動し、約56時間のパワーリザーブを備える。ETA版(かつてセリタが製造していたもの)と同様、複雑な構造ではなく、高価なムーブメントでもない。そのため、メンテナンス費用を抑えられることに加え、信頼性が高く、扱いやすい。
もっとも、このSW510は比較対象がないわけではない(それについては後ほど触れる)。実際、このムーブメントは幅広いブランドの時計に採用されており、そのなかにはこのドクサよりも安価なモデルも少なくない。とはいえ確かに、価格帯に対して搭載ムーブメントだけが過度に評価される(より高価なムーブメントを維持するための長期的なコストが軽視されている)。新しいT.グラフ IIに対するオンライン上の反応を見る限り、4000ドル(日本円で約65万円)を超える価格設定とセリタ製ムーブメントの採用という組み合わせが、少なからず議論を呼んでいたのは事実だ。
T.グラフ IIの競合モデル
ここで話を競合モデルへと移そう。価格帯とダイバーズクロノグラフという両カテゴリーから見ても、T.グラフ IIには比較対象となるモデルが存在する。わかりやすくするため、まずはT.グラフ IIの基本スペックを整理しておこう。価格は4250ドル(日本円で約69万5000円)で、ケースは41.5mm径のステンレススティール(SS)製、ヴィンテージテイストを色濃く残したダイバーズクロノグラフだ。ムーブメントにはセリタ SW510を採用し、自動巻きの30分積算クロノグラフを備える。防水性能は200mとなっている。
- アクアスター ディープスター クロノグラフ 39mm(写真中央、ブレスレット仕様で2900ドル/日本円で約47万4000円)。ケースサイズは39mm×17mm×49mm(厚さはドーム型風防を含む)のSS製ダイバーズクロノグラフ。最大計測時間は30分、防水性能は200m。内部には、コラムホイール式のラ・ジュー・ペレ製自動巻きムーブメントを搭載し、約55時間のパワーリザーブを備える。
- オレッヒ&ワイス アストロクロン(写真左上、ブレスレット仕様で約3900ドル/日本円で約63万8000円)。39.5mm×16.8mm×49.5mmのSS製ケース、12時間積算クロノグラフ、500m防水を備えている。内部にはバルジュー7753を搭載し、約54時間のパワーリザーブを備える。
- ジン 613 St(写真右上、ブレスレット仕様で税込68万2000円)。41.5mm×15mm×47.5mmのSS製ケース、60分積算クロノグラフ、500m防水を備えている。内部にはセリタ製ムーブメント Cal.SW515を搭載。
- オリス ダイバーズ 65 クロノグラフ(写真中央、ブレスレット仕様で税込73万7000円)。100m防水を備えたダイバーズテイストのクロノグラフ。ケースサイズは40mm×15.4mm×48mm。内部にはセリタ製ムーブメント Cal.SW500を搭載し、約62時間のパワーリザーブを備える。
- ニバダ グレンヒェン クロノマスター ブロードアロー(写真左、ブレスレット仕様で2285ドル/日本円で約37万4000円)。100m防水を備えたダイバーズテイストのSS製クロノグラフ。ケースサイズは38mm×14.55mm×46.5mm。複数のケースサイズとムーブメントが用意されているが、基本モデルには手巻きムーブメントのランデロン70を搭載し、約46時間のパワーリザーブを備える。
- ヴァルカン スキンダイバー クロノグラフ(写真右下、ブレスレット仕様で3310ドル/日本円で約54万円)。200m防水と30分積算を備えたSS製のダイバーズクロノグラフ。ケースサイズは39.7mm×13mm×47mm(厚さはドーム型風防を除く)。内部にはETA 7753ベースの自動巻きムーブメントを採用し、約42時間のパワーリザーブを備えている。
このラインナップを見渡すと、ドクサは搭載されているムーブメントを考慮すれば、この価格帯のなかではややプレミアム寄りに位置している。しかし価格がやや高いオリスと、やや安いオレッヒ&ワイスに挟まれる形となっており、依然としてヴィンテージテイストの直接的な競合モデルのレンジに収まっている。なおETA 7753はセリタ SW500/SW510の前身にあたるムーブメントであり、両者は(製造元は異なるものの)基本的にほぼ同じ構造を採用していることも覚えておいて欲しい。
もしT.グラフ IIをヴィンテージテイストのクロノグラフというカテゴリーの選択肢のひとつとして捉えるなら、オレッヒ&ワイスはきわめて魅力的な存在だ。ケースはかなり厚くなるものの、12時間積算計と500m防水を備えている。アクアスターとヴァルカンも3000ドル(日本円で約49万円)前後で、価格以上の価値を提供している。僕は39mmのアクアスターを所有していたことがあるが、装着感は良好だった一方で、やはり厚みは感じられた。それでもコラムホイール式クロノグラフならではの軽快な操作感はやはり魅力的で、このサイズ感が好みに合うなら十分おすすめできる。
最後に、ニバダ グレンヒェンはクロノマスターコレクションに38〜41mmまで複数のケースサイズを展開し、自動巻きと手巻きの両方を用意。ダイヤルカラーのバリエーションも豊富だ。価格はランデロン搭載モデルなら2000ドル(日本円で約32万円)以下から、バルジュー23搭載モデルでは5000ドル(日本円で約82万円)までとなっている。
僕の場合だと、T.グラフ IIの価格設定には全く抵抗がなく、上で挙げた候補のなかで僕が選ぶのはT.グラフ IIだろう。とはいえヴァルカンの素晴らしいデザインや、特にGMT機能を搭載したジン 613 St UTCも魅力的だ。
ドクサの美学に対する個人的な愛着、T.グラフというモデルそのものの魅力、そして何より優れた装着性を考慮すると、T.グラフ IIはここで挙げた数々の優れた選択肢のなかでも確かな存在感を放っている。ほかにも有力な競合モデルがあれば、ぜひコメントで教えて欲しい。
最後に
それでは歴史、実際に装着した印象、そして競合モデルとの比較を踏まえて、冒頭の問いに戻ろう。新しいT.グラフ IIは、僕たちが待ち望んでいた“本格的にダイビングで使えるドクサのクロノグラフ”なのだろうか。ブランドのラインナップのなかでは、決してお買い得とは言えないが(とはいえ、先代の限定モデルほど高価ではない)、それでも僕はT.グラフ IIはその役割を見事に果たしていると思う。同時に、カラフルで個性的なダイバーズウォッチを展開してきたドクサのラインナップを象徴する、ふさわしいフラッグシップモデルにもなっている。今の僕には、ドクサのダイバーズウォッチがもう1本必要だとは到底言えない。しかしそれでもT.グラフ IIには特別な魅力があり、いつか手に入れて実際にダイビングへ連れ出してみたいと思っている。さて、最後にひとつ相談させて欲しい。シーランブラー、それともカリビアン? どちらにしよう?
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