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ジュネーブ時計グランプリ(GPHG)は、2026年のファイナリストを発表した。時計業界における最高峰の授賞式は、11月7日にジュネーブで開催される。ファイナリストに選ばれることは参加ブランドにとって大きな意味を持つが、とりわけ今回が初参加となる小規模なブランドにとっては、その後の歩みを大きく変える転機になる可能性がある。今年は、そんなブランドがいくつか含まれている。そして私自身、このリストが発表されるのを少し不安な気持ちで待っていた。
2025年GPHGの受賞者たち。Photo courtesy GPHG
今年、私は幸運にも23人のジャーナリスト、コレクター、時計業界関係者とともに審査員を務めることになった。そのなかには、今回初めて審査委員長を務めるウェイ・コー氏もいる。ほかにも、シンガポールのThe Hour Glassでグループマネージングディレクターを務めるマイケル・テイ(Michael Tay)氏、ドバイウォッチウィークのCEOであるヒンド・アブドゥル・ハミード・セディキ(Hind Abdul Hamied Seddiqi)氏、才能あふれる時計師レミー・クールズ氏、素晴らしいオートマタ作家フランソワ・ジュノー(François Junod)氏、私の友人でもあるジャスティン・ハスト(Justin Hast)氏、アーティストのウェス・ラング(Wes Lang)氏など、長年この業界で仕事をするなかで知り合った多くの才能ある友人や知人が名を連ねている。
あまり長々と、あるいは感傷的に語るつもりはないが、これほど聡明で才能あるメンバーとともに審査員を務められるのは本当に素晴らしいことだと思う。もちろん、何事にも完璧ということはなく、あとで触れるように、今回のコンペティションに参加していないブランドのなかにも、ぜひ加わって欲しいと思うところはたくさんある。それでも私がよく考えることのひとつに(そして、あまりにも語られる機会が少ないことでもあるのだが)、私たちが大切にしているものをつくるために、心血を注ぎ、膨大な時間を費やしている人々の存在がある。GPHGはそうした努力に光を当て、評価する素晴らしい組織だと思う。とりわけ過小評価されていたり、見過ごされていたり、あるいはまだ駆け出しの時計師やブランドにスポットライトを当て、その後のキャリアを大きく変えるような機会を与えてきた。私は長年GPHGを追いかけ(そして取材もしてきた)、友人が受賞するのを見てうれしく思い、受賞に値すると思っていた人が受賞を逃すのを見て、大きく落胆したこともある。今年は審査員として意見を述べる機会を得られたことは、私にとって大きな意味がある。なぜならこのコンペティションに参加することは、ほかの人たちにとっても大きな意味を持つからだ。
2025年の金の針賞(Aiguille d’Or)を受賞したブレゲ スースクリプション。Photo by Masaharu Wada
昨年の金の針賞受賞ブランドであるブレゲからは、CEOのグレゴリー・キスリング氏も今年の審査員を務めている(そのため、ブレゲは今年のコンペティションには参加できない)。審査員の全リストはこちらで見ることができる。そこには卓越した技術的知見を持つ人物、時計を実際につくり上げ、着用するまでに何が必要なのかを熟知した優れた経営者、そして確かな審美眼を持つコレクターたちが名を連ねている(なかには、その3つすべてに当てはまる人もいる)。いずれにしても、実に聡明なメンバーが揃っている(たぶん私を除いて)。
ブレゲ エクスペリメンタル 1 は、メカニカル・エクセプション部門やトゥールビヨン部門では強力なライバルとなり得たはずだが、昨年同ブランドが受賞したため今年はエントリーできない。
GPHGの変更点と、その仕組み(概略)
時計専門誌『Revolution』と『The Rake』の創設者であるウェイ・コー氏が、作家・ジャーナリストのニコラス・フォークス(Nicolas Foulkes)氏の後任として審査委員長を務めることになった。フォークス氏は数年間にわたって審査団を率いてきたが、前回の授賞式を最後に退任している。この交代を機に、GPHG全体にもいくつかの変化がもたらされた。例えば今年は、よりグローバルなオーディエンスに届けることを目指し、授賞式が英語で行われる。ベンが2023年に審査員に復帰した際に語っていたように、2013年に初めて審査員を務めたときから多くのことが変わっている。私に言わせれば、今はまたひとつのブームの只中にある。そして授賞式を英語で行うのは、賢明な判断だと思う。
Photo courtesy GPHG
また、いくつかの部門にも変更が加えられた(概要はこちら)。性別を示す用語を削除し、「エッセンシャル」や「コンプリケーション」といった部門に置き換えている。「アイコニック」賞は応募していないブランドも含め、あらゆるブランドに開かれたものとなり、形を改めた「審査員特別賞」も“時計製造における重要な発展、または倫理と持続可能性に対する模範的な取り組み”に対して、個人、団体、そして(競争に参加していないブランドであっても)あらゆるブランドに授与されるようになった。今後、ユニークピースを対象にできるのは「ジュエリーウォッチ」と「メカニカル・クロック」の2部門のみとなる。
2023年GPHG でハブリング²のモノプッシャーを観察する飛田氏。Photo by Ben Clymer
確かに、注目すべきブランドがいくつか欠けている。残念ではあるが、これは今に始まったことではない。もっと多くのブランドが参加してくれることを願っているが、参加しない理由はさまざまだ。それはまた別の機会にお話ししよう。時計が好きなら、お気に入りのブランドにもこの舞台に加わって欲しいと思うものだが、いつもそうなるとは限らない。だが、将来的にはそうなるかもしれない。私が理解している限りでは、コー氏をはじめ、GPHG財団の会長であるレイモンド・ロレタン(Raymond Loretan)氏とディレクターのカリーヌ・メイラール(Carine Maillard)氏が、より多くのブランドに門戸を開くため、水面下でかなりの働きかけをしているようだ。英語による授賞式への変更も、ブランド側に“GPHGは世界中に届く舞台であり、その年の成果を発信する新たなマーケティングの機会でもある”ということを理解してもらううえで、大きな後押しになるかもしれない。受賞した時計は世界各地を巡回するツアーにも出る。昨年のドバイウォッチウィークでは、展示会を訪れた人々が、実際に時計を目にしてどのような反応を示すのかを見ることができた。展示された時計を前にした来場者の反応は、とても印象的だった。いや、少し話が逸れてしまった。今はひとまず、参加することを選んだブランドに目を向けよう。
2023年、ヴィアネイ・ハルター氏がベンの腕時計を点検している様子。Photo by Ben Clymer
今年の初め、1000人を超えるアカデミー会員が、審査対象となる時計の候補を提出した。このとき、ブランド自身が自社の時計をエントリーすることもできる。その後、各ブランドが参加するかどうかを選択し、エントリー料として800スイスフラン(約15万円)を支払う(ファイナリストに選出された場合は、1本につき7000スイスフラン/約130万円が必要となる。GPHGによれば、これらの費用は“コンペティションや展示会の運営、ならびにノミネートされた時計に関する広報・マーケティングサービス”に充てられているという)。7月から8月にかけては、同じアカデミーのメンバーが候補時計への投票を行い、今回取り上げる14部門それぞれから上位6本のファイナリストを選出した。
11月1日には審査員全員がジュネーブに集まり、すべての時計を実際に手に取って確認し、議論を交わし、知識を共有したうえで、受賞作を選出する。ベンは2023年の審査員としての活動について、こちらで一部を紹介している。もちろん、時計の開発に携わった人物はその部門の投票からは除外される。審査員による投票が全体の3分の2を占め、残りの3分の1はアカデミー会員による順位付き投票の結果が反映される。審査員はこの日、オーダシティ賞、オロロジカル・レベレーション賞、クロノメトリー賞、アイコニック賞、審査員特別賞、さらにその年の最優秀時計に贈られる金の針賞(Aiguille d’Or)の受賞作も選出する。受賞作は11月7日、ジュネーブのバティマン・デ・フォルス・モルティス(Bâtiment des Forces Motrices)で開催される授賞式で発表される。
私はこれらの時計のほとんどを実際に手に取ったことがないので、先入観を持たずに臨むつもりだ。また審査員という立場上、現時点ではファイナリストを紹介するにとどめ、これ以上のコメントは控えたい。私たち審査員には、できる限り時間をかけて時計を隅々まで研究するよう指示されている。スペックや価格、技術的な部分まで詳しく調べ、当日に万全の状態で臨めるよう、お互いに疑問点を共有することも求められている。こうしたテーマについてはすでに多くの議論が交わされているが、もちろん、その議論は機密事項として扱われている。それでは早速、14部門のファイナリストを見ていこう(より詳しい情報が必要なら、全ファイナリストはこちらで確認できる)。
タイムオンリー部門
この部門はGPHGの定義によれば、「ソリッドダイヤル上に2本または3本の針で時・分・秒のみをアナログ表示し、それ以外の表示や複雑機構、ジェムセッティングを一切備えない時計」を対象としている。
エッセンシャル部門
この部門の時計をいくつか見ていると、前の部門の定義に重複する部分があることに気づくだろう。タイムオンリー部門は、針で時刻を表示し、時・分・秒以外の表示を備えていてはならない。一方、エッセンシャル部門はGPHGの定義によると、「以下の表示のうち、ひとつまたは複数を備える時計:時、分、秒、日付(月の日にち)、パワーリザーブ表示、クラシックなムーンフェイズ、昼夜表示」。デジタル表示やレトログラード表示を採用することも認められているが、タイムオンリー、コンプリケーション、ジェムセットの各部門の定義には該当しないものとされている。
コンプリケーション部門
こちらは興味深い顔ぶれが揃う、新設部門だ。ブランドには、自社の時計に最もふさわしいと思う部門を選んでエントリーする権利がある。なかには保険をかける意味合いで、あるいは複数の部門に該当し得るために、あえてそのような選択をする場合もあるだろう。この部門は、「創造性と機械的な複雑さを特徴とし、あらゆる種類の複雑機構や、クラシックおよび/または革新的な表示(ワールドタイム、デュアルタイムなど)を備え、エッセンシャルおよびメカニカル・エクセプションの各部門の定義には該当しない時計」を対象としている。
メカニカル・エクセプション部門
これは間違いなく、今年最も競争の激しい部門のひとつと言ってもいいだろう。ここで対象となるのは、「革新的あるいは高度な表示機構、オートマタ、打鐘機構などの音響機能、特殊な脱進機、ベルト駆動式ムーブメント、そのほかの独創的かつ/または卓越した時計製造上のコンセプトといった、特別な機構を備えた時計」である。
ジェムセット部門
こちらは新設された部門で、おそらく、かつて“レディス”ウォッチと呼ばれていたもののうち、本格的なジュエリーウォッチとまではいかないモデルに場を与えるための部門だろう。このカテゴリーでは、「合計6カラット以下のジェムストーンをセッティングした時計」が対象となる。表示できるのは、時、分、秒、日付(月の日にち)、パワーリザーブ表示、クラシックなムーンフェイズのみで、デジタル表示やレトログラード表示を採用することも認められている。
ジェムセッティングは、私自身かなり興味を持っている分野だ。今年の審査員には、世界的に著名なジェムセッティングハウス、サラニトロのCEOであるピエール・サラニトロ(Pierre Salanitro)氏が加わっているので、ぜひ彼と一緒にこれらの時計を見ながら話をしてみたいと思っている。ニューヨーク・マンハッタンの47丁目あたりで見かけるような凡庸、あるいは粗雑な仕事と、優れた仕事の違いについて、もっと深く学びたいのだ。これらは派手な輝きを備えているとはいえ、より大きなジュエリー部門の時計と比べれば控えめな仕上がりだ。しかし実物をルーペで見るまでは、そもそも評価を始めるつもりはない。私にとって重要なのは、ジェムセッティングを含めて時計全体がどのようにまとまっているか、そしてそれが押しつけがましいほど派手なのか、それとも全体として調和しているのかということだ。もちろんそれに加えて、セッティングそのものの仕上がりの質も重要になる。
トゥールビヨン部門
こちらもきわめて充実しており、公式のルール説明を省いても明らかな部門だろう。これらのトゥールビヨンすべては、私が日常的に身に着けたいと思う時計というわけではないが、どのモデルにも評価すべき要素が数多くあり、ドレッシーなものからスポーティなものまで幅広く揃っている。そのなかには、かなり実験的なデザインも含まれている。
クロノグラフ部門
今年初めにエントリー作品が発表された時点で予想していたとおり、クロノグラフ部門はかなりの激戦になっている。こちらも説明不要の部門だが、実にクールな解釈がいくつも揃っており、その多くはこれまでにも当サイトで取り上げてきたものだ。
カレンダー&天文部門
これも説明するまでもない部門だが、実にバラエティに富んでおり、掘り下げ甲斐のある時計が多く揃っている。一方で、私はこの部門の時計を実際に目にした数が驚くほど少ない。
スポーツ部門
昨年と比べると、かなり価格帯の幅が広いように見える。これはスポーツ部門が実に多くの時計を対象にできるからだ。その定義は「スポーツの世界と結びつきがあり、その機能、素材、デザインが身体運動に適した時計」とされている。背中の手術後、運動とは縁遠いので、その点についてはウェイ・コー氏かジャスティン・ハスト氏に頼ることになりそうだ。
ジュエリー部門
ジェムセッティングをよりマキシマリスト的に楽しみたいなら、こちらがそのための部門だ。前述の部門では使用できるジェムの量に制限があったが、こちらはまさに何でもありだ。ありとあらゆるジェムを使うことができる。この部門で扱うものは、私がほとんど知識を持たない分野であるため、あとはこれらの写真を見てもらうことにしよう。
アーティスティック・クラフト部門
ジェムセッティングやジュエリーも芸術的工芸ではあるが、この部門は「七宝、漆塗り、彫刻、ギヨシェ彫り(エンジンターン)、象嵌細工、スケルトン加工など、ひとつまたは複数の芸術的技法によって卓越した技術を示している時計」を対象としている。そして、なんと今年はカリ・ヴティライネン氏がエントリーしていない(彼は過去に同部門で2回、メンズウォッチ部門で4回優勝)。つまり、今年はほかの興味深い時計に門戸が開かれたということだ。
プティット・エギュイユ(小さい針)部門
この部門と次の部門は、おそらく私たちの読者にとって特に人気が高いだろう。こちらは、「小売価格が4500〜1万スイスフラン(約85万〜190万円)の時計」を対象としている。この部門では、エントリーするブランドにとって、価格に対してどれだけの価値があるかという点が強力なアピールポイントになると思う。一方で、これはきわめて意見が分かれやすく、熱い議論を呼ぶテーマでもある。審査員には、技術畑だけでなく、リテール関係者やコレクターなど、さまざまなバックグラウンドを持つ人々が参加している。なかでもコレクターは、この部門で特別な視点を持っているかもしれない。というのもここにエントリーしているブランドのなかには、D2C型のビジネスモデルを採用しているところも多いからだ。
チャレンジ部門
この部門と前の部門は、ここ数年のように米ドルとスイスフランの為替レートが1対1に近かった時期には、アメリカの読者にとって特に魅力的だったはずだ。今では、4500スイスフラン(約85万円/このカテゴリーの価格上限)以下の時計も、以前ほどお買い得ではなくなっている。いったいどんな地政学的な出来事があって、こんな状況になったのだろう? まあ、それはともかく、以前ほどお得に買えるわけではないとしても、ここに並ぶのは今もなお良い時計ばかりだ。
メカニカル・クロック部門
ここまでたどり着いたなら、おめでとう。深呼吸して欲しい。これが最後のカテゴリーで、私のお気に入りのひとつだ。ここ数年、当サイトで目にした「これは腕時計ではなく、置き時計だ」というコメントは、私にとって好きでもあり、嫌いでもあるコメントのひとつだった。では、アメリカ合衆国最高裁判所判事ポッター・スチュワート(しばらく使っていない引用だが)を引用せずに、腕時計とは何かを、簡潔に定義してみて欲しい。この部門の対象は、「主たる機能が時間計測である機械式の器具。例えば、ロングケースクロックやテーブルクロックなど」であり、「腕時計はこのカテゴリーには認められない」。ルイ・ヴィトン×ドゥ・ベトゥーンのコラボモデルの場合、腕時計部分はサンパティーク機構を示す範囲でのみ評価対象となる。それ以上の意味で、時計部分そのものを評価に加えることはできない。
2026年GPHGの詳細については、公式サイトをご覧ください。[編集者注;この記事は、ファイナリストに選出された特定ブランドへの言及を削除するため、2026年9月12日に編集されました。]
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