パテック フィリップが数年に一度開催する最大級のイベント、10月2日から18日までミラノで行われる“ウォッチ・アート・グランド・エキシビション”の開幕を目前に控えている(記事公開当時)。月曜日には、展覧会のプレビュー取材のために現地へ赴くので、近々公開されるその旅のレポートにご期待いただきたい。もうひとつの記事は、以前から準備が進められ、今まさに公開を控えているものだ。それは、今年のパテック フィリップから発表された最も驚きに満ちた(そして賛否両論のあろう)ふたつの新作、“キュビタス パーペチュアルカレンダー”と“セレスティアル Ref.6105G”のハンズオン記事である。
ノーチラスの50周年記念にすべての注目が集まるなか、少なくとも大胆な新作発表やブランド戦略という観点からは、Watches & Wondersにおけるパテック フィリップの新作は非常に興味深いものだったと思う。正直なところ、ノーチラスに関しては何をやっても成功しただろうし、幸運にもその時計を手に入れた人々は喜んだことだろう。セレスティアルだけでも、ほかに4ブランドしか開発したことのない複雑機構を備えた腕時計だった。しかし、上の2本と下の2本の時計をよく見てほしい。
特に目を引いたのは、Ref.6007Gを思わせる珍しいブルーのトレッドパターンダイヤル、強いオレンジのアクセント、そして57万ドル(約9025万円)を超えるミニッツリピーターに夜光を施した針と文字盤を採用した点だ。その美的衝撃があまりにも大きかったためか、パテックがユニークなRef.3652やRef.541を彷彿とさせるカラトラバケースのミニッツリピーターで自社の歴史を称えていたという事実から、人々の注意がそらされてしまったのかもしれない。こうした過去へのオマージュは大歓迎だ。ブルーのソレイユ仕上げのダイヤルと赤いアクセントを添えた、新しいホワイトゴールド製のRef.5204についても同様だ。今回、タキメーターが搭載されたことで、数々の傑作を輩出したRef.5004系や、第1・2シリーズのRef.2499を彷彿とさせる。
パテック フィリップ Ref.7047G
そして、Ref.5204G。両画像ともパテック フィリップ提供。
しかし、その配色に加え、ほかの要素やヴィンテージモデルとの融合を見れば、今回の新作リリースは、そうしたヴィンテージモデルに精通した古参ファンを喜ばせることよりも、むしろ若い見込み客にアプローチし、彼らを迎え入れ、そうしたヴィンテージリファレンスの価値を理解してもらうための手段であったことがうかがえる。もちろん、これはあくまで私の推測にすぎない―パテック フィリップのティエリー・スターン(Thierry Stern)社長と膝を突き合わせてブランド戦略について議論を交わしたわけではない―しかし、新作モデルを実際に手に取った経験に基づき、パテックが何を目指しているのか、そしてその理由について、いくつか考えを持つに至った。本来なら比較ハンズオン記事にする予定であったが、当面のあいだ、キュビタスは控室で待機してもらうこととする。その代わりに、私たちは星の世界へと旅立とう。
パテック フィリップ セレスティアル Ref.6105G — ダイヤル側
ノーチラスのアニバーサリーモデルリリースの報道に追われるなか、ジュネーブの邸宅(Watches & Wondersの期間中、私たちがいつも宿泊するプレス用ホテルの通称)での深夜の執筆作業において、セレスティアル Ref.6105Gは優先順位の最下位に押しやられてしまった。それでも、この時計のことが頭から離れなかった。この時計はまるで空飛ぶ円盤のようで、時計自体が夜空そのものであり、生産終了したRef.6102や現行のRef.6104と多くの共通点を持つが、ラバーストラップが採用されていた。いや、アクアノートのようなラバーストラップとは異なり、ラグを持たずケースと一体化したラバーストラップを採用していただったのだ。その驚くべき外観に加え、この時計には日の出・日の入り表示機能が搭載されていた。これはパテック フィリップの懐中時計でもごく稀にしか採用されなかった複雑機構であり、同ブランドの腕時計では前例がなく、世界中の腕時計のなかでもごく少数のモデルにしか実現されていない仕様なのだ。
現在は生産終了となっているRef.6102。画像提供:パテック フィリップ。
ヘンリー・グレイブス・スーパーコンプリケーションに描かれた天体図。
キャリバー89
実際、1933年の“ヘンリー・グレイブス・スーパーコンプリケーション(パテック フィリップ初の日の出・日の入り表示機能を備えたモデル)”、キャリバー89、そしてスター・キャリバー2000モデルへの系譜をたどることで、この時計は、その外観からは想像できないほど、揺るぎない伝統に根ざしていることがわかる。現行のセレスティアルシリーズと比較しても、ダイヤルは非常に似通っており、透明なサファイアクリスタルと、北半球の夜空を表現した濃いスモークサファイアの背景層の上に、転写プリントされた白い星々が配されている。この夜空は、特にジュネーブおよび同緯度にあるすべての都市上空の景色を再現したものだ。つまり、ワシントンD.C.近郊のトライシティーズや、オンタリオ州サドバリーの近くに住むパテック フィリップのコレクターたちにとって、この時計はまさにうってつけの1本だということだ(もちろん、ミラノ、オレゴン州ポートランド、ニューヨークなど、同緯度付近に住む人々にも推奨したい)。
確かに多くの要素が詰め込まれているが、簡単な解説を聞けば、実は非常に理解しやすい仕組みとなっている。大きめのスケルトン仕様の針が時と分を示し、2本の細長い針が天球ディスクの縁にある日の出・日の入りトラックを指し示している。上部には、風防の下に転写プリントされた、天球を強調する円が別のサファイアディスクの上に配置されており、このディスクは固定されたまま、その下の空が恒星時(天体時間)に合わせて回転する。天空の一部を隠してしまう前述の懐中時計とは異なり、このモデルは最大限のインパクトを与えるためにすべてを露わにしているのだ。暗い空の部分は実はムーンフェイズディスクであり、太陰時(月の周期)に合わせて回転する。最後に、T字型の赤い針が外周にある日付を指し示す。
しかし実際には、この外周の日付表示が果たす役割はそれだけではない。日の出・日の入り表示機構のスパイク状の目盛りを改めて見ると、それぞれの時刻の読み方が理解できる。月初め(1日)を最上部に配置しないことで、日の出・日の入り表示が正しい時刻と一致するようになり、日付が24時間スケールとして機能する。4日から10日は4:00から10:00、16日から22日は16:00から22:00に相当するといった具合だ。この表示は、時計の中央を境に対称になっている。また、ダイヤルを周回する小さな赤い三角形は年次インデックスを示している(カレンダー機能ではないため、設定方法についてはパテックの公式Webサイトを参照してほしい)。
上の画像では、その月の6日の3時49分を示しており、日の出は午前5時50分ごろ、日の入りは午後9時23分を示している(ダイヤルに表示されているとおり)。年次インデックスの三角形を見ると、6時位置の赤い目盛りの近くを指しているが、これは6月6日の日の出・日の入りを示しており、表示されている時刻と一致している。
画像提供:パテック フィリップ。
パテック フィリップによる時計の調整手順は極めて明快で、興味があれば一読の価値がある。2時位置のリューズで年次インデックス、ムーンフェイズ、天体図を調整でき、下部のリューズは時刻調整用だ。9時位置側にあるコレクター(調整ボタン)は、上から順に、冬時間と夏時間(デイライトセービング)の切り替え、および1年のうち日数の少ない5つの月(小の月)の日付調整に使用される。
情報量の多さにもかかわらず、この時計はRef.6102やRef.6104よりも立体的で躍動感に満ちている。確かにサファイアクリスタルの構造は似ており、時計を傾けることで独自の奥行きと反射が生まれるが、独特な18Kホワイトゴールドのケース構造、とりわけベゼルがその奥行きをさらに際立たせている。それでいて12.39mmという薄さのなかに、すべての機構を駆動するための仕組みが数多く詰め込まれているのだ。
Cal.240 C LU CL LCSO を技術的に深掘りすると
この時計の機能について多くを語ったあと、通常ならここでムーブメントの画像を掲載し、その構造について掘り下げるのが通例だ。しかし、Ref.6105Gの場合はそれができない。この自動巻きムーブメントは、独特な構造の裏蓋(ソリッドバック)の内側に隠されているからだ。網目状の構造は、オーデマ ピゲ(以下、AP)の“スーパーソヌリ”のような時計に見られる、共鳴するケースが手首に触れないように設計された構造を彷彿とさせる。Ref.6105Gに関しては、非常に大きなケースから比重の高い18KWGを削り取って軽量化を図ったことに加え、ケース側面のスポーティな仕上げと呼応させているという印象を受ける。
とはいえ、この時計に関するパテックの興味深い動画(製品ページで視聴可能)からいくつかの資料を引用し、クールな技術的成果を紹介したいと思う。まず第一に、この時計は47mm径のケースを備え、そのムーブメントの開発には5年以上を要し、6件の特許が出願されている。その特許のひとつが、2019年に同社のマルク・ルモニエ(Marc Lemmonier)氏によって出願され、2022年に認可されたEP3740821B1だが、出願から7年を経てようやく時計に実装された。
フレキシブル・フィーラー機構を含む表示機構の厚さは、わずか0.48mm。画像提供:パテック フィリップ。
ムーブメントの厚さは7.93mmと適度なもので、新機構のコンプリケーションのために121個の部品が追加されているにもかかわらず、垂直方向のスペースはわずか1.12mmしか要していない。上の分解図で見たとおり、ベースムーブメントは比較的小さく、Ref.6104であればケース径は44mmに収まっている。サイズが大きくなったのは、日の出・日の入り機構に必要な横方向のスペースによるものだ。タグ・ホイヤー エバーグラフに関する私の記事を読んだ方なら、ここにあるブレードスプリング(板バネ)機構に見覚えがあるだろう。下図の部品も同様の原理で動作しており、張力を保ちながら確実にたわみや変形を生じさせることで機能する、コンプライアント機構(弾性変形機構)を用いている。
カムとフィーラー機構は、冬時間・夏時間および日付調整プッシュボタン用の調整機構と連動している。
私が数えた限り、この複雑機構を搭載した腕時計はわずか6例。そのうち1例を除き、日の出・日の入り表示にはカムとレバーの機構が使われている。本作では、まず輪列から動力を取り出し、特許取得済みの偏心フィンガー(上図の右端の歯車と下部の指型部品。下図も参照)を介して日の出・日の入り機構に伝達し、年次インデックスをゆっくりと回転させることからすべてが始まる。一方、減速機構もまた、その動力をプログラムカムを冠したふたつの歯車へと伝達する。上部のカムは日の出用、下部のカムは日の入り用で、いずれも365.25ステップ、すなわち太陽暦における日数を刻んでいる。
ウルフトゥース(狼歯)歯車機構は、駆動フィンガー部品の楕円運動によって周期的に前進する。カムが反時計回りに回転すると、この部品が歯と噛み合ったり離れたりしながら、歯車を上方へ、かつ反時計回りに押し上げる。画像提供:パテック フィリップ。
日の入り用カム。画像提供:パテック フィリップ。
カムの形状。ご覧の通り、1日の長さの変化は春分(Spring Equinox)・秋分(Autumn Equinox)の時期に最も大きく、夏至(Summer Solstice)・冬至(Winter Solstice)の時期には最も緩やかになる。画像提供:パテック フィリップ。
もうひとつの好例が、クレヨン エブリウェアとクレヨン エニウェアであり、この2本はこの複雑機構を搭載した3番目と5番目の腕時計である。カムはムーブメントの中心部の下に目立つように配置されており、2層の対向するカムと調整可能なプログラマーで構成されている。前者のふたつは、バネで張力のかかったふたつのU字型ラック(歯竿)を押す仕組みになっている。上部で最も目立つのが日の出用ラックであり、その下に隠れているのが日の入り用ラックだ。カム(ここではエニウェアの例)は、時計師によって任意の緯度に調整可能であり、カムの全体的なサイズを変更することで調整が行われる(カムが小さければ、年間を通じた変化も小さくなる)。
クレヨン エニウェア。この角度からは、積み重ねられたゴールドカラーのカムと、その上部にネジ付きの調整機構が見て取れる。画像提供:クレヨン。
これが、Ref.6105Gが単一の緯度に限定されている理由だが、理論上はカムの輪郭(プロファイル)を換装することで任意の緯度に対応可能だ(南半球用には新しい天球図も必要となる)。APは、世界初の日の出・日の入り表示機能を備えた腕時計“エクエーション・オブ・タイム”でこれを実現し、ダイヤルやベゼルに基準となる都市名を明記していた。
この機構の斬新な点は、柔軟なスプリング/コンプライアント機構にある。パテック フィリップはその材質について明かしていないが、タグ・ホイヤーのエバーグラフに採用されたニッケル・リン系合金機構(ふたつの形状のあいだでスナップ式に切り替わる)と同様の双安定(バイステーブル)部品であり、1年を通じてゆっくりと動くように設計されている。ブレードスプリングは4本のスプリングアームからなる2組で構成されており、静止時にはそれぞれが互いに平行を保つ。両側において、1組のアームはアンカーポイント(固定点)に接続され、そこから長い可動部品へとつながっており、この可動部品もまたアームを介して歯車付きのフィーラーに接続されている。ブレードスプリングのサイズを考慮すると、横方向により多くのスペースが必要になることも納得がいく。
左側にしなやかに変形するブレードスプリング、右側にカムシステムへと伸びるフィーラーを備えた日の出・日の入り表示機構。画像提供:パテック フィリップ。
この機構は張力をかけて取り付けられているため(図中の部品が平行でないのはこのため)、圧力によってフィーラーの先端がプログラムカムに押し込まれる仕組みとなっている。輪列がこれらのカムを動かすにつれて、フィーラーは1年を通じて前後に移動する。日の入りフィーラーは、日の入り針を作動させる中心部のチューブに直接取り付けられた歯車に沿って移動する。日の出フィーラーには、垂直方向にオフセットさせるドロップダウン機構のための中間歯車が設けられている(日の入り歯車と同じ高さで噛み合うことができないため)。
外側の、よりブロンズ色のチューブは日の入り針を保持し、フィーラーへと接続されている。上部には、日の出フィーラー、金色の歯車へのドロップダウンオフセット、そして日の出針用の内側チューブを駆動する銀色の歯車へのさらなるドロップダウンがうかがえる。画像提供:パテック フィリップ。
上の画像では、これらのオフセットや、日の出フィーラーが中間歯車と完全に垂直に噛み合っていない様子が確認できる。下の画像では、ムーブメント内のブレードスプリングがかなり大きいにもかかわらず、ほぼ完璧な二次元的な動きという極めて厳しい公差内に収まっている様子も示されている。これが、この時計がRef.6102よりも大口径であるにもかかわらず、厚みはそれほど増していない理由である。
このスクリーンショットでは、ベースムーブメントと比較してケースがいかに大きいかがわかる。画像提供:パテック フィリップ。
これを実現するのは決して容易なことではないが、この機構がいかにシンプルかつ効果的であるかには感銘を受ける。これは本質的に、既存のCal.240 LU CL Cの上にモジュールを重ねたものであり、パテック フィリップ・シール(品質認証マーク)、ジャイロマックステンプ、スピロマックス(ヒゲゼンマイ)も備えているということだ。また、部品点数は多い(年次インデックスやプッシュボタン機構用の部品も含む)ものの、どういうわけか驚くほどシンプルに見える。見た目の迫力や響きを重視して、あえて多くの部品を使うブランドもいくつか知っている――複雑さは本質的にハイオロロジー(高級時計製造)らしく感じられるからだ――が、アイデアが確固たるものであれば、シンプルな方がほぼ常に信頼性が高い。
オン・ザ・リスト
時折、詳細な技術仕様に深く踏み込むのも楽しいものだが、結局のところ、その時計のつけ心地がどうであるかが重要となる。APのRD#5は昨年、私が最も気に入った時計のひとつだった。その理由は、極めて革新的な時計製造技術に加え、史上まれに見るほど快適なサイズ感のなかにその技術が収められていたからだ。Ref.6105Gは、薄型のロイヤル オーク ジャンボや―ここでより適切に言うなら―ノーチラスとはかけ離れた存在だ。直径47mm、厚さ12.39mmというサイズは、現代におけるディスコ・ヴォランテ(空飛ぶ円盤型)風クロノグラフに最も近い存在と言えるだろう(もっとも、そうした時計は最大55mmに達するものもあるが)。
端的に言えば、私が記憶する限り、46mm以上の時計のなかで最もつけやすいモデルである。その理由の一部は、側面がくり抜かれサンドブラスト仕上げが施されたことでやや軽量となったケースにある。さらに、ケース内部の大部分が日の出・日の入り機構のための空間となっていることも一因だ。また、アクアノートと同タイプのフォールディングクラスプを備えたラバーストラップを採用していることも、つけ心地のよさに寄与している。しかし、ラグのない時計において47mmという数値は見かけ倒しだ。実質的な全長(ラグ・トゥ・ラグが存在するとすれば)は、オメガ スピードマスター プロフェッショナルと同じくらいになるだろう。当然ながら、ダイヤルのサイズと横幅ははるかに堂々としており、フラットな裏蓋も手首の上で大きく感じられるが、ケースからストラップにかけて下向きに傾斜する形状のおかげで、私の7.25インチ(約18.4cm)の手首でも快適に着用できる。
フィット感というよりは着用体験に関するもうひとつの考慮点は、この時計のパワーリザーブが最大48時間しかないことだ。これはパテックが苦戦している分野のひとつであり、Ref.6102に搭載されているベースムーブメント、Cal.240 C LU Cは、1977年に発表されたオリジナルのマイクロローター自動巻きムーブメント、Cal.240をベースにしている。最初のCal.240 LU CL(ポインターデイト表示なし)は2002年に登場した。このような系譜は汎用性の観点からは称賛に値するかもしれないが、表示が複雑な時計の場合、正確な設定を維持したいオーナーにはおそらくウォッチワインダーが必要になるだろう。もっとも、このクラスの時計のオーナーにとっては、さして大きな負担にはならないはずだ。
RM032。画像提供:リシャール・ミル。
サイズの問題以上に、旧来のコレクターにとって最大のハードルはおそらくそのフォルムそのものだろう。私は、それこそがまさに本作の狙いだと見ている。突拍子もないことを言うと思われるかもしれない(実際、私がこれから述べることを口にしたとき、友人たちにはそう言われた)が、この時計を見た瞬間、リシャール・ミルの大型モデルRM032や、同ブランドの類似したラウンドケースの時計をすぐに連想した(もっとも、RM032は直径約50mmと、さらに大きいのだが)。カーボンファイバーやクロノグラフの仕様はさておき(さらにはパテックの30mに対するリシャール・ミルの300mという防水性能の違いもあるが)どちらも、目を引く空飛ぶ円盤のような外観を醸し出している。パテックは、大胆で未来的な時計を望みつつも、リシャール・ミルでは過激すぎると感じる新世代のコレクターをターゲットにしているように思える。あるいは、彼らにはパテックと何らかの個人的なつながりがあるのかもしれない。例えば、「パテック フィリップの時計は、決して自分のものにはならない(次の世代へと受け継ぐために預かっているだけだ)」というあの有名な広告コピーよろしく、親から受け継いだ縁がある、といった具合に。私の言いたいことがおわかりだろうか。
最終的な考え
今回は、比較対象のほとんど(クレヨン エニウェアやネオヴィンテージのAP)については既に触れたし、その多くはRef.6105Gの43万7610ドル(日本の税込定価7123万円)という価格よりはるかに手ごろなため、比較は省略する。一方、クレヨン エブリウェアはユーザーが基準位置を変更できる機能を備えているが、9年前に発売された当時は60万ドル(約9500万円)以上の価格だった。しかし、これらふたつの複雑機構は重なるどころか大きく異なっており、それぞれが別のことを成し遂げている。私にとってより興味深い問いは、このような時計がパテックにとって何を意味するのか、ということだ。
パテック フィリップ Ref.5316/50Pは、現行のパテック フィリップのなかで「予算に糸目をつけない」のであれば私が迷わず選ぶ1本だ。
この問いについては上でも一部触れたが、パテック フィリップにおける変化の兆しは、これが決して初めてではない。350万ドル(約5億5357万円)のジェム・セッティングを施したアクアノート・ルーチェ ミニッツリピーターは、あまりにも衝撃的だったため、人々はすぐに記憶から追いやってしまったのだと思う(とはいえ、実際に身につけてみると、その存在感は圧倒的だ)。私にとって、Ref.5316Pの最新バージョンはそれとは真逆の存在だった。パテック フィリップの技術力と歴史の粋を極めつつ、新たにモダンなスモークサファイアダイヤルを採用しているのだから。
言うまでもないことかもしれないが、今日のパテック フィリップの取り組みの多くは、より若く、大胆で、必ずしも“歴史第一”という視点からパテックに入ってくるわけではない市場へと迅速に適応するためのものだ。しかし同時に、そうした層はロイヤル オークやリシャール・ミルのようなわかりやすい派手さを望んでいないか、あるいはそうしたスタイルに居心地の悪さを感じている。パテック フィリップは常に“クラシック”な方向へと軸足を置いてきた。
ロレックスは、長年の期待と希望を経て、ついに愛され続けるクラシックなロレックス パデローネを新たな形で復活させた。パテック フィリップのRef.6105Gが採った方向性と比べると、興味深いコントラストをなしている。写真:ジェームズ・ステイシー(James Stacey)。
7123万円の時計についてこれほど多くのデジタルインクが注がれるのは少し馬鹿げていると感じる気持ちも理解できる。価格は天文学的な数字だ(言葉遊びの意図はないが)、しかしパテックは収益性の高い企業であり、新しくて驚くべきものを見かけたとき、顧客層の外にいる人であっても(あるいはむしろそのような人だからこそ)、その「理由」を問うことは興味深いことだと思う。
パテックの顧客や販売店からよく耳にする古い格言がある。長年にわたり、彼らにとって最大のライバルは、過去の時代の自社製モデルそのものだったのだ。確かに私も、Ref.3970や3940、2499といった昔のモデルは好きだった。しかし、それらの時計は今でも存在している―ただ、中古市場にしかないだけだ。Ref.3970が後継モデルであるRef.5270よりも小売価格でまだ安い状況では、パテックは自社の(古い)モデルと競合することはできない。新たな道を歩まなければならないのだ。もちろん、Ref.6196のようなヴィンテージを彷彿とさせるモデルは今後も登場するだろう。しかし、デザインがより大胆であれ、サイズが大きくなろうが、あるいは独自の方法でより複雑化していようが、今後数年間でパテック フィリップからはこうしたトレンドがさらに強まると予想している。
2014年に『Luxury Society』誌が行ったインタビューで、パテックの社長ティエリー・スターンは次のように語っている:
「私よりもはるかに強大な力を持つ大手グループと真っ向から競争することなど、到底不可能です。ええ、それは理解しています。しかし、品質という土俵なら勝負できます。それこそが私を突き動かす原動力であり、常に新しいものを生み出す力なのです。市場シェアを巡って争うことは決してありません。私にはできませんから」と、彼は翌年の『Worth』誌のインタビューでも同様の発言を繰り返している。しかし、リテーラーたちからは、パテックが引き続き予想を上回る業績を上げ続けていると聞いている。また、スターン氏は2022年の『HODINKEE』とのインタビューで、カーボンファイバーのような素材や派手な技術には感銘を受けず、それらが長く続くとも思えないと語った。その意味で、Ref.6105Gはパテック フィリップの真髄と言えよう。クラシックでありながら、今や新たな形でのクラシックを切り拓いているのだ。
パテック フィリップ セレスティアル Ref. 6105Gの詳細については、同社の公式Webサイトをご覧ください。
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