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In-Depth 本物のタイメックス軍用時計(プラスチック製、使い捨て、1980年代製品)の歴史

J.Crew(J.クルー)×タイメックスによるミリタリーウォッチは1940年代に軍用仕様で作られた時計を元にデザインしたと主張しているが、実際その時計を見つけることはできなかった。

本稿は2011年4月に執筆された本国版の翻訳です。

 J.Crew(J.クルー)×タイメックスによるミリタリーウォッチは、我々の心を捉えて離さない。1940年代に軍用仕様で作られた時計を元にデザインしたと主張しているが、実際その時計を見つけることはできなかった。タイメックスの倉庫に行った時も、1940年代当時の時計を見かけたが、若いメンズウェアセットの手首でよく見るような現代的な解釈とは似ても似つかないものだった。そこで我々は、このデザインがどこから来たのか、もしあるとすれば、タイメックスがいつから軍用時計の製造を請け負っていたのかを探ることにした。J.クルーのモデルとなった時計を見つけたが、それは1940年代のものではなく、1982年前半のものであることがわかった。そして、話はそこで終わらない。


J.クルーとのつながり

 タイメックスには、米国政府の時計を製造してきた長い歴史がある。そのなかにはボムタイマー、ストップウォッチ、もちろん腕時計も含まれている。最後のひとつについてはご存じだろう。結局のところ、タイメックス/J.クルーのミリタリーウォッチは、34丁目の南を横切る40歳以下の白人男性に実質的に支給されているのだ。しかし、タイメックスとJ.クルーが販売する時計は、1940年代の米軍仕様の時計に敬意を表してつくったと主張している。それは事実ではない。実際、タイメックスはアメリカ政府とミルスペックの腕時計を製造する契約を結んだのは、1980年代の1度きりだ。タイメックスの時計はほかにも製造され、そのあと軍が購入して支給されたが、それとは同じではない。

 1970年代のベンラスの時計によく似たプラスチックケースの時計、タイメックスのMIL-W-46374Bの噂は以前から聞いていた。ネット上には写真もいくつかあった。フォーラムで噂されているのは、1982年2月と3月の2カ月間だけタイメックスがこのミルスペックの腕時計を製造したということだ。生産期間が短く、プラスチックケースに入れられ、廃棄方法も明確だったため、生存率は極めて低い。

 我々はそれを見つけ、購入し、調査し、撮影した。


1982年、わずか2カ月だけの生産期間

 J.クルーとのつながりが我々の興味を引いたが、最終的には多くの理由で興味深い時計となった。まず、珍しいことはわかっていたのだが、どのくらい珍しいのかは理解していなかった。どうか売られている個体を探してみて欲しい。真面目な話、存在しないのだ。何人かのタイメックスと軍用時計の専門家によると、この時計は政府によって実際に購入されたことさえないかもしれないと言うのだ。なぜその可能性があるのか、説明しよう。

 これらの時計は、1982年2月と3月のケースバックのものだけが見つかっており、もし注文があったのなら、これらの時計は幅広い製造年代のものが見られると予想される。タイメックスがわざわざ2ヶ月の契約期間中に時計を生産することはないだろうから、これらは単に契約を獲得するための入札の一部であった可能性があるのだ。

 そして1982年はタイメックスの歴史において非常に重要な年であり、機械式ムーブメントの生産を中止した年であった。タイメックスの資料によると、手巻きムーブメントの生産は1982年7月に停止しており、経営陣は何年も前からこの事態を予測していた。タイメックスがわずか数カ月後に生産を停止するとしたら、なぜ1982年2月に政府との契約を開始するのだろうか?


プラスチック製ケース

 また、これらのタイメックスのミルスペックウォッチのケースは、ベンラスが同じガイドラインに基づいて製造したものと同様、信じられないほど軽量なプラスチックでつくられている。超高級ミリタリーデザインのプラスチックではなく、小学校の給食用の銀食器のプラスチックである。確かにそれは軽量だが、実際のその色は本当に愛らしく、着用するのが楽しくなる。


クリーンなキャリバー

 次にムーブメントだ。これは信じられないほどにシンプルすぎておもしろい。繰り返しになるが、このタイメックスは以前のベンラスの時計と同様にシンプルな手巻きキャリバーで作られており、理論上は戦闘用に生産しているにもかかわらず、実際にはまったく堅牢ではない。プラスチック製ケースと激安ムーブメントからなるこれらの時計は、壊れたら修理せずに捨てるよう設計されていたのだ。


アメリカの聖杯

 タイメックス MIL-W-46374Bは非常に魅力的な時計だ。この時計が製造されたのは、まさに“捨てられる”時計であることを決定づけるような基準で、疑わしいほど短い期間で生産された。しかし、唯一の真のタイメックスのミリタリーウォッチは、ブランドに魅了された人々、そしてアメリカのミリタリーアイテムに憧れを持つ人々にとっては、聖杯のような地位に達している。それはまた、J.クルーとタイメックスウォッチの真のインスピレーションでもあるが、J.クルーのマーケティング担当者にとっては、 “80年初頭の2カ月”よりも、1940年代のほうが少し華やかに聞こえたのではないだろうか。それを責めることはできない。

 我々は、唯一となる真のタイメックス製ミリタリーウォッチの外観を楽しめたのなら幸いだ。次にあなたの友人が40年代のミリタリーピースをモデルにしたと言ったとき、あなたは何をすべきかわかるだろう。