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In-Depth ロレックス コスモグラフ デイトナ Ref.126502 ロレジウム仕様 エナメルダイヤル&グレーベゼル

誰がこれを予想しただろうか。


ロレックスに新たなスティール製デイトナが登場した。と言えそうで、実は少し違う。今回登場したのは、ロレジウム仕様のコスモグラフ デイトナ Ref.126502、ホワイトの“アルビノ”ダイヤルはグラン・フー エナメルによるものだ。

 ロレックス用語やフランス語に馴染みがない人のために言い換えると、つまりこれは高温焼成による4パーツ構成のエナメルダイヤルを備えた新しいデイトナで、基本はスティールながらプラチナの要素を組み合わせたモデルということ。ちなみにセラクロムベゼルはアンスラサイトグレーで、ほのかに金属的な質感すら感じさせる。

ロレックス コスモグラフ デイトナ Ref.126502は、まさに“とんでもない”発表だ。ヴィンテージ調のグレーベゼルにエナメルダイヤルの組み合わせなんて、好きにならないわけがない。文句があるならどうぞ。少なくとも自分の好みは一貫しているつもりだ。

 デイトナ好きにとっては語るべきポイントの多いモデルだ。順を追って見ていこう。まずRef.126502は、既存のデイトナと同じ40mm径を維持し、ムーブメントも同様に世界最高峰のCal.4131を搭載している。ブレスレットとミドルケースはオイスタースチール製のため、装着感はRef.126500LNとほぼ同様と考えていいだろう。

 ただし、“ロレジウム”と聞けばわかる通り、本作は単なるスティールではなくプラチナを組み合わせた仕様となっている。具体的には、ベゼルリングとケースバック外周のリング部分がプラチナ製だ。そう、それが唯一本作に用いられたプラチナである。ちなみに本モデルは、シースルーケースバックを備えている点も見逃せない。

 これにより本作は、シースルーケースバックを備えた3例目のデイトナとなる。カタログモデルであるフルプラチナ仕様、そしてカタログ外のル・マン3種に続く存在であり、この1本に対するロレックスの位置づけの特別さがうかがえる。

 この点については後ほど改めて触れたい。というのも、ロレックスが単にエナメルダイヤルや異なるカラーのベゼルを採用するだけで終わるはずがないからだ。実際には、その両面において一歩踏み込んだ進化が見て取れる。とはいえ、その話に入る前に、まず立ち止まって考えておきたい。このモデルはなぜ生まれたのか、その“理由”についてだ。

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アルビノ・デイトナと“ポーセリンダイヤル”、そしてロレックスにおけるエナメル技術の簡潔だが重要な歴史

 この新作を“アルビノダイヤル”と呼ぶべきだと言いたいわけではまったくないが、あだ名としてはそう悪くないかもしれない。というのも、手巻きデイトナに存在する極めて希少なバリエーションと同様、全面がホワイトで構成されており、ダイヤル上にブラックのリングやインダイヤルが一切存在しないからだ。

 2013年、当時確認されていたわずか3本目となる“正しい”アルビノ・デイトナ(上掲写真)を実際に手に取る機会があった。最初期のアルビノ・デイトナの1本は2008年5月に販売されており、実はこれが、小さなウェブサイト「www.Hodinkee.com」において、ロレックスどころか腕時計として初めて取り上げられた個体でもある

 そして当時私が取り上げたその個体は、紛れもない本物であり、エリック・クラプトン氏が所有していたものだった。落札価格は50万ドル(当時のレートで約4500万〜5000万円前後)を超え、当時としては史上屈指の高額で取引されたロレックスのひとつでもあった。

Albino Daytona

私がインターネット上で初めて書いた時計、それがアルビノ・デイトナだった。来月でちょうど18年前になる。

 バックス&ルッソ体制下で行われたフィリップス最初のオークションにおいて、その同じ個体が再び登場し、130万スイスフラン超で落札された。これらの時計は極めて希少である一方、偽物も多く出回っており、ここ数年でもいくつかが市場に現れている。そのため、デイトナの中でも特に人気の高い存在と見なされている。

 真正と認められているアルビノ(Ref.6263または6265)のシリアルレンジは、1969年から1971年頃の製造に位置づけられる。これはちょうど、ロレックスに限らず各ブランドから個性的なモデルが数多く登場し始めた時期と重なる。いわゆるクォーツショックの幕開けでもあり、機械式時計を売るためにはあらゆる試みがなされていた時代だった。

Porcelain Dial Daytona

これは1988年製、Rシリアルのゼニス・デイトナに見られる希少な“ポーセリンダイヤル”である。

このポーセリンダイヤルのデイトナに見られる、文字の背後にある“ドロップシャドウ”(段落ち)に注目してほしい。クリックして拡大すると、よりはっきり確認できる。

 時は進んで1988年。バーゼルワールドにおいて、初の自動巻きデイトナが発表される。ゼニス製キャリバーに大幅な改良を加えたムーブメントを搭載し、初期の数年間には製造上の興味深い特徴がいくつか見られた。

 なかでも特筆すべきは、いわゆる“フローティング・コスモグラフ”ダイヤル(段落ちダイヤル)を備えたごく初期の個体(主に1988年のRシリアル)だろう。そしてさらに希少なのが、そのフローティング表記に加え、コレクターのあいだで“ポーセリンダイヤル”と呼ばれる仕様を持つモデルである。

 ここではっきりさせておきたいが、これら特別なデイトナのダイヤルは実際にポーセリン(磁器)でできているわけではない。実際には通常のダイヤルに特殊なラッカーを施したもので、驚くほど美しく、艶やかで、どこか乳白色のような光沢を生み出している。

 私自身も、上の写真にある個体を所有しているが、後年のいわゆる“ポーセリン”ではないモデルと比べると、その見た目の違いは言葉では言い表せないほどだ。さらにこれら初期個体で特筆すべきなのが、文字の背後に現れる“ドロップシャドウ”(段落ち)の存在である。ここに掲載したクローズアップを見ればわかるように、セリフ(文字の装飾)も確認できる。このような書体の背後に効果が現れる仕様は、私の知る限りデイトナでは唯一のものだ。

 この新しいグラン・フー エナメルダイヤルのデイトナを見たとき、まず頭に浮かんだのはRef.16520の“ポーセリン”ダイヤル、そしてアルビノだった。単に自分の連想に過ぎないのかもしれない。とはいえ、どちらのダイヤルも実際にはエナメル製ではないし、決して一般的ではないとはいえ、ロレックスにエナメルダイヤルの前例がないわけでもない。

Enamel Dragon Rolex

この170万ドルのロレックスにはクロワゾネ・エナメルが用いられており、これはパテック フィリップがワールドタイマーのセンターディスクにエナメル地図を描く際にも採用している技法だ。

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 実際、これまでに製作されたロレックスの中でも特に高額で取引されたモデルのいくつかはエナメルダイヤルを備えており、たとえば昨年12月には、このドラゴン オイスター Ref.6100が175万8000ドル(約2.5億円)で落札されている。

 そして強調しておきたいのは、エナメルダイヤルのロレックスが高額で取引されること自体は決して新しい現象ではないという点だ。ただし、いくつか押さえておくべきポイントがある。まず、これらの時計は現在のロレックス像を形作っているスポーツウォッチコレクションが誕生する以前のものだということ。さらに、極めて希少であること。そして最後に、これらはグラン・フーではなくクロワゾネであるという点だ。前者は、ワイヤー(金線)を用いてセル(区画)を作り、そこにエナメルを流し込んで焼き上げる技法であり、20世紀半ばに最も普及した。

 比較的最近でも、ロレックスは注目度の高いエナメルダイヤルのモデルを実際に製作している。それが“絵文字ウォッチ”、あるいは“パズルダイヤル”として知られるRef.128238、128235、128239(末尾の数字はケースに使用されるゴールドの種類を示す)だ。

 ただしこのモデルは、1950年代の作品に見られるようなクロワゾネでもなければ、今回のデイトナに採用された純粋なグラン・フーでもない。用いられているのはシャンルヴェ・エナメルという技法だ。では、それはどのようなものなのだろうか。

“絵文字ウォッチ”はロレックスによるエナメル使用の最新例だが、ここで採用されているのはシャンルヴェ・エナメルである。

 シンプルに説明しよう。まずクロワゾネは、ダイヤルの金属ベースに細いワイヤーを固定し、それによって区画や枠を作る技法だ。その一つひとつにエナメル粉末を充填して焼成する。仕上げ後もワイヤーは輪郭として残り、絵柄のアウトラインとして視認できる。これが1950年代のロレックスに用いられていた手法である。

 一方、パズル(あるいはジグソー、絵文字!)ダイヤルや、さらに希少なウィーン・フィルハーモニック仕様のデイデイトに見られるシャンルヴェは、金属ダイヤルそのものを彫り込んで窪みを作り、そこにエナメルを流し込む技法だ。焼成後は表面をしっかりと研磨し、先ほどのジグソーダイヤルのような美しい艶を生み出す。

 そして最後にグラン・フー エナメル。これはまたまったく異なるアプローチであり、今回のロレジウム仕様コスモグラフ デイトナ Ref.126502に採用されている技法でもある。

 ロレックスにおいて純粋なグラン・フー エナメルの使用例はそれほど多くないが、インペリアル・プリンスのような希少な懐中時計にその例を見ることができる。また、ラッカーとエナメルが混同されることも少なくない。たとえば私のお気に入りのひとつであるインペリアル・プリンス Ref.1585も、あるディーラーはエナメル、別のディーラーはラッカーと説明している。

 しかし、このふたつはまったくの別物だ。自分のシンプリシティのダイヤルをエナメル(実際はラッカー)と呼ぶ人がいるたびにコインをもらえていたら、少なくとも10枚にはなっているはずだし、1970年代のロレックス “ステラ”ダイヤル(これも実際はラッカー)をエナメルと呼ぶ人のたびにもらえていたなら、今ごろ新しいデイトナが1本買えているだろう。

 要するに、グラン・フー エナメルはロレックスでも過去に使われてはいるが、その例はごく限られている。そしてそれこそが、Ref.126502がいかに特別なリリースであるかを物語っている理由のひとつだ。


ロレックス コスモグラフ デイトナ Ref.126502を徹底解剖

このダイヤルはロレックスにとって初の試みであり、ベゼルも同様だ。そして、この一見シンプルな外観の裏には、長年にわたる研究開発の成果が詰め込まれている。

 コスモグラフ デイトナ Ref.126502は、一見するとごく普通のデイトナに見えるが、実際にはそうではない。たしかにムーブメントは既存モデルと同じCal.4131を搭載しているものの、この新リファレンスはさまざまな点で“究極のデイトナ”を志向しているかのようだ。もっとも、そこはロレックスらしく、それを声高に主張することはない。

 たとえば、通常のスティール製デイトナと同じキャリバーを採用しながらも、本作ではシースルーのケースバックによってそれを見せている。こうした仕様はデイトナとしては3例目であり、フラッグシップであるプラチナモデルと、そして今なお世界で最も注目を集めるロレックスのひとつであるル・マンに続くものとなる。

 ここでは、Cal.4131の裏スケ化された巻き上げローターがイエローゴールド製であることが見て取れる。またムーブメントのブリッジには、実際に装飾仕上げが施されているのも特徴だ。ロレックスが「ロレックス・コート・ド・ジュネーブ」と呼ぶこの装飾は、各ストライプの間にわずかなポリッシュの溝を設ける点で、従来のコート・ド・ジュネーブとは異なっている。

 個人的な見解ではあるが、Cal.4131はいまなお自動巻きクロノグラフムーブメントの頂点に位置する存在だ。クロナジー エスケープメントやパラフレックス ショック・アブソーバーを備え、現代のクロノグラフキャリバーを測る基準とも言える。その動きを、ここRef.126502では無垢のプラチナ製リングに縁取られながら、実際に鑑賞することができる。

Ref.126502にシースルーケースバックとプラチナ製のケースバックリングを与えていること自体が、ロレックスがこの時計をどう位置づけているかを雄弁に物語っている――すなわち、特別な1本であるということだ。

 ケースバック外周のリングはプラチナ製であり、さらにベゼル周囲のメタルリングも無垢のプラチナで構成されている。このふたつの素材の組み合わせを、ロレックスは“ロレジウム”と呼んでいる。我々に馴染み深い904Lスティールとプラチナを組み合わせたこの仕様は、1999年にRef.16622 ヨットマスターで初めて採用された。当時はベゼルとダイヤル自体にもプラチナが用いられていたが、本作において実際に視覚的に感じられるプラチナの要素は、主にベゼル周囲のリングに限られる。

ベゼル周囲のリングに使われているプラチナは、それほど多いわけではない。

とはいえ、紛れもなくプラチナである。その事実は、きっと未来のオーナーたちにささやかな満足感をもたらしてくれるはずだ。

 そしてこのベゼルだ。そう、アンスラサイトグレーで、実機ではまさに金属的な質感を感じさせる仕上がりとなっている。今回のロレジウム仕様の中でも、間違いなく最も興味深い要素のひとつだろう。というのも、他のデイトナに見られるようなブラックのセラクロムベゼルを採用することも(おそらく)容易だったはずだが、ロレックスはあえてそうしなかったからだ。

 実際、このベゼルに関しては特許申請中の技術が用いられている。従来のジルコニアベースのセラクロムではなく、ジルコニアとタングステンカーバイドを配合した、まったく新しいコンポジット素材が採用されており、この金属的な外観を実現している。

この図は、ベゼルにおけるタングステン/ジルコニア複合素材の使用について、ロレックスが2024年に出願した特許から引用したものである。

 目盛りや数字、スケールは、新しいセラクロムベゼル自体にPVD(物理蒸着)によって刻み込まれている。なお、この特許はロレックスから提供されたものではなく、筆者自身の調査によって確認したものだが、その内容によれば、従来のセラミックベゼルはポリッシュ仕上げかマット仕上げのいずれかに限られていたという課題があった。

 しかし今回の技術では、まずタングステン/ジルコニアの複合素材からなるベゼルブランクを用意し、そこにゴールドやプラチナのようなコーティング(PVD)を施す。そのうえでレーザーを用いて表面にテクスチャーを与えつつ、数字などの隆起部分はポリッシュ仕上げとコーティングを維持する――そうした新たな製造プロセスが特許として申請されている。

 さらに言えば、この新しいタングステンカーバイド製ベゼルは、従来のジルコニア系セラミックベゼルよりも大幅に耐傷性が向上しているようだ。ロレックスは2024年6月に特許を出願し、同年12月に公開しているが、その内容はタングステンの重量感と硬度を備えつつ、従来のセラクロムのような多様な質感表現を可能にするベゼルの技術的設計図とも言えるものだ。

 そしてRef.126502においてロレックスは、「タキメータースケールの成形された凹部の目盛りや数字、刻印には、PVD(物理蒸着)によってプラチナがコーティングされている」と明言している。つまり、この“印象的な金属的な輝き”は、意図的に設計されたものなのである。

これらの時計を少しずつ掛け合わせた結果として生まれたのが、今回の新しいRef.126502である。

 さらにタキメータースケール自体も刷新されており、数字も現代的な新書体へと変更されている。そして特筆すべきは、デイトナの自社製ムーブメント時代以降で初めて、数字が横向きではなく“縦向き”(生体)になっている点だ。少しわかりにくいかもしれないので説明しよう。たとえば2016年のRef.116500LNや2023年のル・マンでは、セラミックベゼルの数字はダイヤル下側で“反転”する配置になっている。一方で、スティールベゼルのRef.12650やRef.6239では、数字は反転せず、全周にわたって同じ向きを保っている。

 最もわかりやすいのは、ベゼル最下部に位置する「120」の向きを見比べることだろう。そして今回の新作はというと、2016年や2023年のモデルではなく、1963年や1988年のデイトナに近いレイアウトを採用しているのだ。このヴィンテージ的な配置に加え、実機で感じられる金属的な質感も相まって、デイトナ好きとしてはたまらない仕上がりと言える。

 まだ終わりではない。ここからが本題だ。量産モデルのデイトナに、ついにフルのグラン・フー エナメルダイヤルが採用されたのである。もっとも、そこはロレックスだ。他ブランドのようなシンプルな一体型のホワイトエナメルダイヤルをそのまま採用するわけではない。常に新しいアプローチを模索し、しかもそれをより高い完成度で実現しようとする。

このダイヤルの艶を見てほしい!

 まず、ここで改めてグラン・フー エナメルとは何かを、先ほど触れたシャンルヴェやクロワゾネとの関係の中で整理しておこう。シャンルヴェとクロワゾネはいずれもグラン・フーの技法を用いることが可能だが、必ずしもそうである必要はなく、また常に用いられるわけでもない。

 グラン・フー エナメルは、800℃の高温で窯焼きを繰り返しながらエナメルを何層にも重ねていく、最も伝統的かつ究極的なエナメル技法とされている。ダイヤル製作においては“ゴールドスタンダード”と見なされる一方で、各層ごとに欠陥やダメージを出さずに焼成する高度な技術が求められる。その難易度ゆえに、グラン・フー ダイヤルはひび割れや気泡、歪みが生じやすく、歩留りは50%に達するとも言われている。

Rolex Daytona Enamel Dial

この新しいデイトナのダイヤルは、セラミックプレート上に焼成された4つのエナメルディスクで構成されている。ほかに同じような例があるなら、ぜひ教えてほしい。

 その結果として生まれたダイヤルは、ただただ美しいのひと言に尽きる。深みがあり、濃密で、どこか乳白色のような艶やかな輝きを放つ。さらにグラン・フー ダイヤルは経年変化の影響をほとんど受けず、酸化や紫外線にも強いという特性を持つ。だからこそ、パテック フィリップは1952年頃、自社の“究極の時計”とも言えるRef.2526に、この美しいグラン・フー ダイヤルを採用したのである。

 つまりロレックスは、デイトナにグラン・フー エナメルダイヤルを与えたわけだが、それは単なるグラン・フー ダイヤルではない。これまで聞いたことのない手法による、4パーツ構成のエナメルダイヤルなのだ。その技法に踏み込む前に、まずは4ピースのグラン・フー ダイヤルとはどのようなものなのか、そしてこれに類する例がこれまでにあったのかを考えてみよう。

 そう、私には思い当たる例がない。先週取り上げたレジェップ・レジェピのクロノグラフ・フライバック(純粋にプロダクトと作り手に惚れ込んで書いた記事だ)も、たしかに職人的なグラン・フーの基準で製作されたダイヤルを備えているが、あくまで単一構造であり、レジスター部分をくり抜いてサファイアディスクを配し、ムーブメントを見せる構成になっている。

 また、昨年のブラウンのエナメルダイヤルにクリームカラーのレジスターとスケールを組み合わせたスプリットセコンドクロノグラフであるパテック フィリップ Ref.5370Rも、一見すると4ピースのエナメルダイヤルのように見えるが、実際はそうではない。メインのブラウンダイヤルはグラン・フーだが、レジスター部分はシャンルヴェによって製作されている。

 要するに、4パーツ構成のグラン・フー エナメルダイヤルというのは、少なくとも私の知る限り他に例がない。もちろん見落としがあれば訂正は歓迎だが、いずれにせよ、これは非常に特別な試みであることは間違いない。

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このダイヤルは、セラミックプレート上に施された4つの個別エナメルパーツを、単一の真鍮ベースに組み付けることで構成されている。実に見事な仕上がりだ。

 ちなみに触れておくと、今回のエナメルディスクは、史上初めて金属ではなくセラミックプレート上に焼成されており、しかもそれぞれのパーツが個別に製作されている。各パーツが完成した後、ガラス化焼成(ヴィトリフィケーション)の工程を経て、最終的に真鍮製のベースに組み付けられる。その結果として生まれたのは、これまでのロレックスには見られなかった、驚くほど豊かで、白く、クリーミーな質感を湛えたダイヤルだ。

 新しいロレジウム仕様のデイトナ Ref.126502を全体として眺めると、先に触れた初期の自動巻き“ポーセリン”ダイヤルを思い起こさせる雰囲気が確かにある。ベゼルはアンスラサイトグレーのセラクロムへ、ダイヤルは実際のエナメルへと進化しているが、全体の“空気感”はどこか共通しており、それは意図されたものだと考えたくなる。

 実際のところ、ほんの数週間前にロレックスの新たなテスティモニーであるゼンデイヤがゼニス・デイトナを着用しているのを見たとき、彼女がよほど事情に通じているのか(夫のトムは素晴らしいコレクションの持ち主だ)、あるいは誰かが“伏線”を仕込んでいるのか、と思わずにはいられなかった。いずれにせよ、このモデルがスティールベゼルのデイトナにひとつの復興の流れをもたらす可能性は十分にあるし、それは歓迎すべきことだろう。

Daytona enamel dial

手元で見た新しいRef.126502の表情は、また別格だ。どこかゼニス・デイトナのようにも見えないだろうか。

 装着感はどうか。結論から言えば、現行のデイトナと同様で、非の打ちどころがない。ブレスレットは引き続きスティール製のオイスターブレスレットで、5mmまでの長さ調整が容易に行えるイージーリンク機構を備えている。センターリンクも、ほかのデイトナ同様にハイポリッシュ仕上げのままだ。

 では、他に類を見ないダイヤルに加え、特許取得済みの新しいベゼル、さらにロレジウム仕様、しかもカタログ非掲載モデル――そんなRef.126502はいったいいくらになるのだろうか。比較のために整理しておこう。まずベーシックなスティール製デイトナ(Ref.126500LN)は249万9200円、ローズゴールドのル・マン(Ref.126525LN)は633万7100円(ともに税込)。一般的なゴールドのデイトナ(ブレスレット仕様)は5万6400ドルだ。そして、このRef.126502の価格は――5万7800ドル(約920万円)である。

 なぜロレックスはこのロレジウムモデルに、無垢のゴールドモデルを上回る価格を設定したのだろうか。ロレックスは基本的に、製造コストや研究開発費を含めた比較的明確な基準に基づいて価格を決定しているブランドだ。正直に言えば、最初にこの価格を聞いたときは自分もロレックスに確認を取りにいったほどだ。しかしそれは、このダイヤルとベゼルにどれだけの手間と技術が投入されているのかを理解する前の話でもある。

 それでもなお、多くの人にとってこの価格はやや強気に映るだろう。そこが少し惜しいところでもある。この1本が持つダイヤルとベゼルにおける技術的な成果や、歴史的なデイトナへの巧みで魅力的なオマージュが、その価格のインパクトによって見過ごされてしまう可能性があるからだ。

 言うまでもなく、この時計がどんな価格であれ、購入希望者のリストは長蛇の列になるだろう。だが、問題はそこではない。個人的には、ロレックスがここで少しマージンを抑えてもよかったのではないかとも思う。というのも、多くの一般ユーザーは、このモデルに込められた技術的成果について何千字にもわたる解説を読み込むことはなく、単に「ほぼスティールの時計に約6万ドル」という価格だけを見て、ややネガティブな印象を抱いてしまう可能性があるからだ。

 とはいえ、このエナメルダイヤルを備えた新リファレンスをロレックスがどのように位置づけているのかは明白だ。この価格設定、カタログ外での展開、そしてシースルーケースバックの採用。Ref.126502は従来のコスモグラフとは一線を画す、極めて特別な存在である。


この新しいデイトナは、いったい何と比較すべきなのだろうか?

 正直に言って、このRef.126502に対して即座に思い浮かぶ“明確な比較対象”は存在しない。あるとすれば、結局は別のデイトナくらいか。今年1月に発表されたラッカーダイヤルのスピードマスターだろうか。たしかに近い要素はあるが、価格帯は大きく異なり、しかも手巻きだ。あるいは、グレーセラミックケースにプラチナのPVDアクセントを組み合わせたグレーサイド・オブ・ザ・ムーンか。それとも、フルセラミックのロイヤル オーク・クロノグラフだろうか。こちらは極めて高性能な自動巻きクロノグラフを搭載し、先進素材を用いたモデルという点では共通項があるかもしれない。

 ただ、ここまで考えてもなお、この時計に真正面から対抗し得る存在は思い浮かばない。こんなことは初めてだ。思いつく人がいれば、ぜひ教えてほしい。いずれにせよ、このロレジウム仕様のデイトナが非常に特異なプロダクトであることは間違いない。

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動画で解説する新作ロレックス コスモグラフ デイトナのエナメルダイヤル

新しいエナメルダイヤルを備えたコスモグラフ デイトナ Ref.126502を動画で見たい? もちろん見たいはず。というわけで、どうぞ。


まとめ

ロレックス コスモグラフ デイトナ Ref.126502の気になる5つのポイント

1. ロレジウム仕様である点。オイスタースチール単体ではなく、プラチナが組み合わされているものの、その使用量はごくわずかで、色味の違いもほとんど判別できない。わずかな重量感と輝きは得られるが、その分コストも上乗せされている。

2. シースルーケースバックを採用している点。以前からの持論だが、ロレックスはクローズドケースバックであるべきだと思っている。ル・マンは大好きなモデルだが、それでもなお、中身を見せる必要はないのではないかと感じる。

3. カタログ外モデルである点。つまり、通常のスティール製デイトナ以上に正規店で目にする機会は限られるということだ。これほど革新的なモデルであれば、本来はロレックスの“今”を体現する存在として、広く提示されるべきではないだろうか。

4. 価格。5万7800ドルという設定は、無垢のゴールド製デイトナを上回る水準でありながら、本作の大半はオイスタースチールで構成されている。新技術や新素材が多く投入されているのは理解できるが、ケースやムーブメントといった核となる部分は既存設計でもある。この価格戦略には多くの人が戸惑うだろう。自分は特許を読み込んでその価値を理解できたが、そこまで調べる人は多くないはずだ。

5. 以上。5つ目が思いつかない。

ロレックス コスモグラフ デイトナ Ref.126502の好きな5つのポイント

1. エナメルダイヤル。やはりこれに尽きる。個人的にも大好きで、パテック フィリップのRef.2526が愛機であることからも、この質感には特別な魅力がある。あちらは1ピースだが、こちらは4ピース構成の文字盤。デイトナでこれが見られるのは本当に素晴らしい。

2. ベゼル。これだけで一本記事が書けるほどだ。まず単純にグレーであること(個人的嗜好も大いにある)。さらに特許申請中のタングステン/ジルコニア複合セラクロムは、まるで金属のような質感を持ち、ゼニス・デイトナやRef.6239を思わせる仕上がりとなっている。書体もヴィンテージ寄りに回帰しており、この点も見逃せない。

3. フルプレシャスメタルではなくロレジウムである点。もし全面的に貴金属で構成されていたら、価格はさらに跳ね上がっていただろう。あくまでスティール主体でありながら、デイトナの本質的な魅力をしっかりと保っている。

4. Cal.4131。個人的にはまだ所有していないが、ロレックスの最新基準である高精度クロノメーター認定に準拠し、耐磁性や信頼性、持続性といった面でもアップデートされている。日差-2〜+2秒という精度基準も非常に優秀だ。

5. このモデルがロレックスの未来に何をもたらすのか。スポーツモデルへのエナメルダイヤルの展開、新たなベゼル素材や表現、ネオヴィンテージへの直接的なオマージュを持つ特別モデル——もしこれがその始まりだとすれば、ロレックスファンにとってこれ以上ない朗報だろう。


Ref.126520の実機写真を一挙掲載

基本スペック

ブランド: ロレックス(Rolex)
モデル名: オイスター パーペチュアル コスモグラフ デイトナ (Oyster Perpetual Cosmograph Daytona)
型番: 126502

直径: 40mm
厚さ: 12.2mm
ケース素材: オイスタースチールとプラチナ(ロレジウム)
文字盤色: ホワイトエナメル
インデックス: アプライド、ホワイトゴールド
夜光: あり
防水性能: 100m
ストラップ/ブレスレット: スティール製オイスターブレスレット


ムーブメント情報

キャリバー: ロレックスCal.4131
機能: 時、分、スモールセコンド、12時間積算計、30分積算計、センタークロノグラフ秒針
パワーリザーブ: 72時間
巻き上げ方式: 自動巻き
振動数: 2万8800振動/時
石数: 47
クロノメーター認定: あり、COSCとロレックス 高精度クロノメーター(Superlative Chronometer、2026)
追加情報: 常磁性に強いブルー パラクロム・ヘアスプリング、ロレックス・オーバーコイル、クロナジー エスケープメント


価格

価格: 5万7800 ドル(約920万円)
追加情報: オフカタログ

詳細はロレックス公式サイトへ。