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2017年秋のオークションシーズンは、ポール・ニューマンのポール・ニューマン デイトナ一色でした。同じブロックに別の時計があったことを忘れても許されるかもしれない程に。商品があたり一面に並べられ、ソーシャルメディアではひっきりなしに話題となり、史上最も伝説的な時計の1つが公に売られるのを目撃する期待感もありました。しかし、皆さんは大きな間違いを犯しているのかもしれません。全く同じフィリップスのオークションにおいて、わずか39ロット後に、僕にとってはニューマンのクロノグラフよりも魅力的な時計が現れました。それが、フィリップ・デュフォー デュアリティ No.00です。
この記事を書く2週間前にロサンゼルスのフィリップスのプレビュー(下見会)に訪れた際、もちろん、まずはポール・ニューマンをチェックしなくてはなりませんでした。誰もがそうするでしょう。そしてもちろん、この時計の来歴はこれ以上ないもので、時計自体も非常にクール。しかしニューマンを置いた途端、僕の目はデュアリティ No.00に釘付けとなり、その夜はずっと目を離せませんでした。この時計は多くの注目を集めています(フィリップスのポール・ブトロスに尋ねてみれば、ガラスケースから出してもいいか聞いてくる人が毎日絶えないことを教えてくれるでしょう)が、僕にとってはこのオークションウィークの真のスターであり、有名なクロノグラフをも凌駕するものです。
本機について情熱的に語るのを一旦中断し、背景について説明します。デュアリティはデュフォーが1996年に、初めて発表。グランドソヌリ(1992年に懐中時計から腕時計に小型化された)以降、彼が作る初めての腕時計でした。その後、デュフォーは25本のデュアリティを生み出すことになりますが、オリジナルシリーズで完成したのは9本のみです。そのうちの1本が、ムーブメントに「No.00」と刻印された本機なのです。その後数点が出回っていますが、最終的なシリアルはもちろん、25よりもかなり小さくなっています。
これらの時計はすべてオーダーメイドでした。そして他のデュフォーの時計と同様、顧客にはいくつかのオプションが用意されていました。ケースサイズは常に34mmでしたが、イエローゴールドやローズゴールド、ホワイトゴールド、そして本機のようなプラチナでの注文が可能でした。ダイヤルは文字盤色やマーカーにいくつかのバリエーションがありましたが、6時と9時の間にスモールセコンドは共通。本記事の写真でも明らかなように、インデックスの12、3、6、9のアラビア数字や、アプライドマーカーをさりげなく配置するレイアウトは最も典型的といえます。「No.00」という数字から想定されるように、本機は、このモデルがはじめて発売された年である1996年製です。
デュアリティは、1つのムーブメントに2つのエスケープメントを備えた史上初の腕時計です。F.P.ジュルヌの「レゾナンス」の登場は2000年です(デュアリティはレゾナンスに似ているが、そうではない)し、デュアリティにインスパイアされたMB&Fの「レガシー マシン2」は2013年の発売です。
デュアリティの仕組みは、2つのエスケープメントが完全に別々に動き(1つのギアトレインを経由した単体の大きな香箱を動力源としているが)、ディファレンシャルギアのシステムが速度を平均化し、割り出された時間を表示するものです。それぞれのテンプによる姿勢差が互いに打ち消される傾向があるため、1つのテンプよりも正確な結果が得られるという考え方です(理論上は、誤差の割合が半分になる)。これは時計製作者を何世紀も苦しめていた問題の見事な解決策であり、まさにこの問題からトゥールビヨンのような発明も生み出されました。
このような技術的成果だけでもデュアリティを羨望の的にするには十分ですが、魅力はそこだけにとどまりません。デュアリティのムーブメント構造や仕上げは、あらゆる時計の中でも史上最高峰のひとつに数えられます。デュフォーの作品を一度でも見たことのある方なら、僕が語っている内容を正確に分かっていただけるでしょう。ブリッジの形や部品のレイアウトはドラマチックな見た目を演出し、わずかに非対称なデザインが非常に目を引きます。「コート・ド・ジュネーブ」の幅が広く、深みがあり、他の多くのムーブメントには見られないものです。面取りはあらゆる時計の一段上のレベルにあります。テンプの間にあるメインブリッジ先端の曲線を見てみてください。これらすべてが完全な手作業によるものなのです。これは本当にとてつもないことだと思います。
ご想像の通り、デュアリティにはあまりお目にかかれません。実際、これまで売りにかけられたのは1本のみで、それこそが本機なのです。2007年、クリスティーズのジュネーブオークションで売られ、約280~392万円というエスティメイトに対して約2016万円で落札されました。それ以来、同じコレクターが所有しています。当時、この手の商品としては破格であり、今回はさらに価格がアップすることは間違いありません。現実の問題は、どのくらいアップするかです。
デュアリティか、シンプリシティか
フィリップ・デュフォーの2つの3針時計は、ほぼ同じに見える。しかしながら、時計をひっくり返してムーブメントを見なくても、簡単に見分ける方法がある。それがスモールセコンドの位置だ。サブダイヤルが6時位置にあれば、シンプリシティである。左寄りで6時と8時の間にあれば、それはデュアリティとなる。そう、意外と簡単なのだ。
2017年のエスティメートは、2160~4320万円程度です。前回よりも妥当な価格に思えます。しかしながら、ここ数年でデュフォーの他の時計が売れた価格を見ると、この金額さえも少々低く思えます。2016年11月、シンプリシティが3本売れましたが、それぞれが約2430~2808万円で、新たな基準となりました。シンプリシティは、10本やそこらではなく200本以上が出回っています。それに、時計自体はそれほど複雑な構造ではありません。シンプリシティに2700万円の価値があるなら、デュアリティの価値はどうなるでしょう? 4000万円? 8000万円? さらに上? 正直なところ、誰にも予測ができません。
他のどんなオークションでも、本機は一番の目玉となるでしょう。1996年当時の時計作りのレベルを考えると、本機のような時計は全く非常識に思えます。80年代のクォーツの時代は遠くない過去ですが、当時ウルベルクは創業したばかりで、フランソワ=ポール・ジュルヌやローラン・フェリエが自身の名を冠した独立ブランドを立ち上げる何年も前でした。まさに別世界。ジュウ渓谷にいた1人の男にとって、当時本機のような、高度な技術を用いたシンプルなデザインの小さな時計を数本だけ作ることは、まさに奇跡といえる出来事だったのです。
デュフォーは今も時計業界に君臨しており、彼の時計や人となりは、ウォッチメイキング真にが進むべき方向に影響を与えています。デュフォーやデュアリティがなかったら、独立系時計師たちの現在の再興がなかったと言っているわけではありません。しかし、それらがなかったら、もっと退屈な世界になっていたと思うのです。デュアリティは、「モダンな」伝統的時計作りを私たちがたどることのできる最初の時計の1つです。これは敬意に値することだと僕は考えます。この特別なデュアリティが、ポール・ニューマンの影に隠れているのは驚きではありません。しかし、現在の状態は残念なことです。
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