Illustration by Andy Gottschalk
90年代ウィークへようこそ。この特集では直近10年間で最も魅力的な(そして最も過小評価されている)時計と、20世紀末を特徴付けたトレンドとイノベーションを再考していく。ダイヤルアップ接続を行い、クリスタルペプシ(無色透明のコーラ)を手に取って欲しい。今週はずっとこのテーマを扱う。
時折、私はキザな時計屋の帽子を、迷惑な映画屋のスカーフに取り替えて、マーベル(映画における真のオリジナリティの死が起こっている)を嘆きたくなることがある。つい先週もそうだった。今回のWatching Moviesのために1990年代に戻る準備をしていた私は、『メン・イン・ブラック』(1997年)で自分の主張を補強する準備を万全にしていた。ところが、『メン・イン・ブラック』の原作はマーベル・コミックだということに気づいた! なんというブーメラン。この映画は90年代を代表する映画なのだ。
『メン・イン・ブラック』の歌とダンス(TikTokが登場する前だったのが残念)で世界中を席巻したこの映画は、文化的なセンセーションを巻き起こした。トミー・リー・ジョーンズ(Tommy Lee Jones)とウィル・スミス(Will Smith)の両者がキング、つまりエルヴィス(Elvis Aron Presley)で有名になったハミルトンの象徴的な腕時計を身につけていることは言うまでもない。
注目する理由
ご存じだろう? HODINKEEでは90年代ウィークを開催している。『メン・イン・ブラック』は、監督バリー・ソネンフェルド(Barry Sonnenfeld)と製作総指揮スティーヴン・スピルバーグ(Steven Spielberg, アンブリンの代表者)による、言わずと知れた名作だ。しかし、この映画のシリーズには、あまり出来のよくない続編が並ぶことになった。同じことは『ジョーズ』(1975年)にもいえる。
そこで私は、第1作を再鑑賞した。この映画ではトミー・リー・ジョーンズとウィル・スミスが、地球外生命体の活動を監視、認可、規制、および取り締まりを任務とする極秘政府組織のエージェントとして登場する。彼らはFBI風の黒いスーツとサングラスを身につけ、地球外生命体と遭遇した人間の記憶を消去する必要がある場合(これはとても頻繁に起こる)、“ニューラライザー”と呼ばれる装置で武装する。
さあ、でもそんなことは忘れて(私がしたことに倣ってほしい)手首に注目しよう! というのも、軍事を担う政府組織と同様、標準装備が配布されるからだ。私が気にするのは腕時計だけだが、MiB(『メン・イン・ブラック』)では意外なものが手に入る。ハミルトンのベンチュラだ。その奇抜なケースデザイン、ミッドセンチュリーのダイヤルレイアウト、そしてブラックレザーストラップは、ちょっとした変わり種だが、映画のような驚きの過去を持っているのだ。
ハミルトンのベンチュラは1957年に発表された。まるで万国博覧会のコンセプトに匹敵する時計デザインのような......アレだ。まるでB級ホラー映画『マックイーンの絶対の危機』(1958年、原題はThe Blob。時計マニアの憧れスティーブ・マックイーン/Steve McQueen主演。機会を逸してしまったと言われればそれまでだが) からそのまま引っ張ってきたようなデザインである。ブーメランのような左右非対称のルックスは、ひと目でそれとわかる。エルヴィスはブルー・ハワイでこれを着用していた。ロッド・サーリング(Rod Serling)も所有しており、『トワイライト・ゾーン』の作中で頻繁に身につけていた。
『メン・イン・ブラック』に話を戻そう。サーリングの魔法の粉がMiBの小道具係に降り注ぎ、小道具係が理想的な標準装備といえる時計の使用を思いついたのだと考えなければならない。もちろん、ハミルトンがハリウッドと最も関係の深い時計ブランドであることは誰もが知っている。しかし、ハリウッドとのつながりがあるとはいえ、映画や登場人物のテーマとこれほどマッチする時計は珍しい。J役のスミスとK役のジョーンズが、この小さくも大胆な時計を手首につけることで、ベーシックでありながらシャープなルックが完成する。そして、彼らはこの時計をしっかりと身につけている。正直、これほどぴったりな時計はないと思う。
見るべきシーン
冒頭のシーンでは、Kが異世界の生命体を猛追している。彼は銀河系宇宙が似合う光線銃のような武器を使うことを余儀なくされ、対象をうまく粉々に吹き飛ばす。その際、近くにいたハイウェイパトロール隊員の注意を引くことになる。MiBではお決まりのように、彼はパトロール隊員に対してニューラライザーを使わざるをえなくなる。彼が胸ポケットから手を伸ばし、装置を顔の前にかざすと[00:08:30]、手首に象徴的なハミルトンが見える。しばらくして、Kは記憶消去装置に点火し、パトロール隊員がその瞬間を完全に忘れるよう、隠蔽工作のための話をする。
その時代らしい(少なくとも90年代においては)モンタージュのなかで、Jは新しい生命体に対処するエージェントとしての地位を受け入れる。我々は、彼が新しい黒スーツとサングラスを受け取り、指紋を焼き払われ、身元を消去されるのを見ることになる。 そして、背中合わせになったふたりのヒーローショットと同時に、ロッカーに積まれたタオルの上に新しいベンチュラが置かれている様子を目にする[00:37:30]。彼は腕時計を手に取り、装着し、サングラスかける。それからパートナーのKを見て言う。「お前と俺の違いって何だと思う? 俺にはこれがよく似合ってるんだ」
『メン・イン・ブラック』(ウィル・スミス、トミー・リー・ジョーンズ出演)では、バリー・ソネンフェルドが監督を務め、ダグ・ハーロッカー(Doug Harlocker)とピーター・ゲルフマン(Peter Gelfman)が小道具を担当している。Netflixでストリーミング配信されているほか、iTunesやAmazonでレンタルまたは購入することができる。