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In-Depth オメガNYローンチイベントに潜入。本人が初めて関わったボンドウォッチ

時代を牽引した平成のボンドが、有終の美を飾る作品の相棒に選んだ時計について詳しく聞いた。

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12月初旬、急遽ニューヨークに向かうことになった。HODINKEEの本社に向かうため? いや、そうではなく、今回はオメガが来年に向けて発表する、ある大作にまつわる時計のローンチイベントに参加するためだ。発表された時計は特別なシーマスター。そう、つまりボンドに会うためにNYに赴いたんだ。
 2020年4月に公開が予定されている「007 ノー・タイム・トゥ・ダイ」は5年ぶりのボンド映画で、ダニエル・クレイグが役を退く作品とあり世間的な注目度も非常に高い。今回NYで聞いた話はさらにトピックをプラスするものであり、初めてジェームズ・ボンド本人が自身の相棒たる腕時計のデザインにかかわったという事実だ。

 ダニエル・クレイグというよりはボンドその人が、スクリーン上とは随分違ったイメージでチタン製の新しいシーマスターについて語った内容を今回はお届けしたい。

あえて言えば、プラネットオーシャンが

お気に入りの時計。

ただ、シーマスターにはオメガと

パートナーとして共同で時計選びを

したという実感があり、

特別な思い入れがあるのも事実だ。

– ダニエル・クレイグ

 「オメガ・ウォッチとの思い出? それはたくさんありますよ。そもそも映画の中で着ける時計がオメガということ自体がすごいことです。要はそれに尽きる。ちなみに撮影中はフェイクの時計をいくつも用意して臨んでいますよ。スタントをするときには手首の重さが気になるので、フェイクのラバーの腕時計をしています。手首をケガしないように。
 印象的だったことは、映画のシーンではありませんが、『カジノ・ロワイヤル』で使った時計をプロデューサーの2人、マイケルとバーバラからプレゼントしてもらったこと。あれにはとても感動しました。あの映画は、僕自身、最後の映画になるかもしれないと思っていたんですよ。なので、“とにかく時計だけはもらっておこう”と・笑」

 筆者のイメージからはだいぶ違ったが、映画と時計についてのエピソードを楽しそうに話すボンドがそこにいた。ダニエル・クレイグは2006年に『カジノ・ロワイヤル』で6代目ジェームズ・ボンドに抜擢され、以来10年以上にわたってボンドであり続けている。オメガの時計とトム フォードのスーツ、クロケット&ジョーンズの靴などボンド像を彩るアイテムは確立された名品揃いだが、ダニエルはそもそも時計好きであり、参加する以前の作品で登場したオメガ・ウォッチも自身で購入して身に着けていた程であるという。そんな彼だからこそ、『カジノ・ロワイヤル』以降、自分が描くボンドにふさわしい腕時計は常に追求していたそうだ。

 「私は、私が演じるボンドに似合う時計が欲しかったのです。結果、最初はプラネット オーシャンを着けることになりました。今でも持っていますが、あの大きな時計はもしトラブルに巻き込まれた場合、拳に巻いて敵の顔を殴ることができるくらいの代物です。ボンドにはとても有効な攻撃手段となります。
 それにあの時計は爆弾としても機能していました。爆破シーンはとてもボンドらしかった。映画の中でのオメガ・ウォッチの存在感はすごいし、時計が活躍する要素を盛り込むのはいつもワクワクしていました。例えば、『スペクター』では、ベン・ウィショーが私に時計を手渡すシーンで、私は“どんな仕掛けがある?”と尋ねます。それに対して彼は“時間が分かるよ”と答える。個人的に大好きなシーンで、あの瞬間のために仕事をしているといっても過言ではありません。観客にとっても面白いと同時に、ウォッチコレクターにとっても大切なシーンだと思うからです。ボンド映画で必要不可欠なのは、あのようなシーンなんです」

最新作『ノー・タイム・トゥ・ダイ』に登場する、42mmのシーマスター。NATOストラップと、今回特別に作られたミラネーゼブレスタイプがある。

 さて話はいよいよ今回の新作ボンド・ウォッチへと移るが、このシーマスター ダイバー300Mは、ダニエル・クレイグが製作に関わったという特別な1本である。当初は自身の意見が通ることなどないと思っていたそうだが、やりとりを重ねる中でオメガとの関係が深まるのを感じ、結果、満足のいく時計を生み出すに至ったという。

  「今回の時計は我々が重ねてきた対話の金字塔なのです。最大の特徴としては、ミリタリーウォッチの風格を持ちながら同時にエレガントでもあるところ。袖口に隠れるサイズというのも大切なポイントでしたが、これも見事にクリアしています。素材のチタンは羽のように軽く魔法のようです」

 いつもながら、ジェームズ・ボンドが着ける時計において重要な背景は、彼が英国海軍中佐という顔も持ち合わせているということ。イチ時計ファンとしては、オメガにはより小さくクラシカルな時計を求めたくなるが、この時計は他でもないボンドその人のためのものなのだ。エレガントな側面も強調される彼だが、屈強な闘う諜報員にふさわしい時計というとやはり42mmくらいのサイズになるのかもしれない。
 本人大満足の出来栄えの新作時計だが、ボンドが用いる革新的な機能をこのシーマスターに搭載するとしたら? との質問に、ダニエルはこう答える。

「レーザーが良いですね。そう思いませんか? 壁に穴を空けられるレーザー、とても便利ですよ、すぐに出口として使えるんだから。例えば“ちょっとトイレへ行ってきます”と言いながら、壁に穴を空けてそこを通れるんです」

 ボンドとしてのユーモアも忘れない。

公開インタビューに登場したダニエル・クレイグ(中右)と、左からオメガ社長兼CEOのレイナルト・アッシェリマン、イオン・プロダクション プロデューサーのバーバラ・ブロッコリー(中左)、マイケル・G・ウィルソン(右)。

「『007』に私を起用しようなんて誰も考えないはずだ。
     でも、オメガの時計は自分で購入することにしよう。映画に出れなくても、時計を持っていれば良い思い出になるから。

– ダニエル・クレイグ

2019年12月初旬。NYで記念すべきローンチイベントが行われた。


装着感を求めるならミラネーゼブレス一択

 ダニエルが思いの丈を込めた時計だけあり、完成度の高さは手にした瞬間に伝わってきた。新作を紹介するために待ち構えていたオメガ本社スタッフの表情からも自信の程がうかがえる。既にHODINKEEでは、このシーマスター ダイバー300M 007エディションの紹介をしているが、私の個人的なインプレをお届けしたいと思う。
 まず装着感からいくと、通常のダイバー300Mよりもわずかに薄くなった13.15mm厚のケースはより快適に手首に収まるようになったと感じた。特に、今回新登場したミラネーゼブレスでその違いは歴然。ミラネーゼブレスレットは、品質が見た目以上に装着した際に分かるものだが、オメガがこだわり抜いただけあってとてもよくできている。加工が困難なチタンを巧みに編み込み、さらに表面をフラットにカットすることで肌へのあたり感も調節されているのだ。これまで着けた中で間違いなく最も滑らかで軽いミラネーゼブレスだった。
 NATOストラップでの装着も試したが、引き通して時計に付けるぶん、若干装着時の厚みが増してしまう。これはちょっともったいなく感じた。絶妙な厚みで、エレガントにも着けられるのが本機の良さならば、色々な意味でカジュアルさが増すNATOストラップ仕様は僕としては選ばないだろう。2つの仕様には10万円以上の価格差(NATO・87万円、ミラネーゼ・99万円、税抜)があるが、それをふまえてもミラネーゼ仕様を選ぶことを強く勧めたい。

カットされた断面が優しいアタリを実現するミラネーゼブレスレット。

 また、全体の質感はマットでクラシカルに仕上げられている。通常のダイバー300Mは、セラミックベゼルにエナメルペイントなどを用いて、真逆のグロッシーな方向でまとめられているので、この表現の違いは人によって好みが分かれるだろう。
 個人的には、通常のダイバー300Mはより手首に映えるオフのときに使用し、主張しすぎない本機はビジネスで長年の相棒としたい気がする。オメガの最新加工技術が施されたアルミベゼルは、このままでもヴィンテージ感漂う雰囲気だが、わずかなりとも経年変化させて使ってみたいと思わされる。さすがボンド・ウォッチ、“道具”としてそそられるディテールにぬかりがない。

 全体としては、本機はシーマスターコレクションの中でもかなりミリタリーに寄った時計であるという感想を抱いた。それはダニエルが意図したことであり、割と優等生的スポーツウォッチが多くラインナップされるシーマスターにあって、新たな選択肢を提供することにもなるだろう。つまり、今までシーマスターに食指が動かなった人にこそ手に取って欲しい時計である。

 インタビューの終了間際、ダニエルは日常生活でオススメのオメガウォッチについて聞かれて、
「ムーンウォッチがオススメです。あなたにとって最初のオメガであればなおさら。これは手巻きなので、手をかけてあげることが必要な時計だからです。毎日手に取り、感じる。時計との関係を作るのにとても良いスタートになると思います」
 と語った。

 時計愛好家としてもとても思慮深い一面を見せるダニエル・クレイグ。そんな彼が関わった時計を手に取り、ぜひご自身の感想を確かめて欲しい。


ボンドに愛されたオメガの歴代シーマスターたち

その他、詳細はオメガ公式サイトへ。