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A Week On The Wrist オーデマ ピゲ ロイヤル オーク 15500STを1週間レビュー

ラグジュアリースポーツウォッチの起源であり、象徴ともいえるモデルの最新作に迫ります。


A Week On The Wristは、同じ時計を文字通り1週間身に着けて、レビューをまとめた記事です。

HODINKEE Japanの公開を控えた1ヵ月前、アメリカから来日していたスティーブンが僕のロイヤル オーク15500STを見てこう言いました。 

「君のロイヤル オークは、A Week On The Wristで取り上げるにはちょうどいい時計だと思うよ。まだアメリカでも誰もハンズオンしていないし、ジュネーブサロン以来触った人はあまりいないんじゃないかな。記事にしてみたらどうだい?」

そんな彼のひと言から今回ご紹介することになったのが、2019年に登場したこの最新のロイヤル オーク Ref.15500STです。この時計は、僕がずっと手に入れたかった時計の一つで、ちょうどHODINKEEにジョインすることが決まったタイミングで入手したいわば記念の時計です。そしてこの記事もHODINKEE.jpで初めて執筆する記事となりました。

さっそくロイヤル オークと過ごして感じた内容をお届けしたいところですが、その前にまずはこのアイコニックなモデルの歴史を簡単に振り返ってみたいと思います。 


ロイヤル オークの歴史
ロイヤル オークの初期の広告

ロイヤル オークの初期の広告(写真提供: HODINKEE.com

ラグジュアリースポーツウォッチは、さまざまなブランドが挑戦する非常に人気のあるカテゴリとなりました。ですが、その原点はと聞かれれば、多くの人がオーデマ ピゲのロイヤル オークを挙げるのではないでしょうか。 

初代ロイヤル オークは、まだ有名ではなかった時計デザイナーのジェラルド・ジェンタが、1971年にデザインし、1972年のバーゼルワールドで発表したRef.5402STです。

モデル名の"ロイヤル オーク"は、イギリスの王立海軍の戦艦"ロイヤル オーク号"に由来し、特徴的な八角形のベゼルは、この戦艦の舷窓をモチーフであるとされています。(もっともデザイナーのジェンタは実際は潜水服のヘルメットがモチーフであったと述べていますが)イギリス海軍は、1769年から1914年までの間に4隻の戦艦に命名していますが、実はこれにもまた由来があります。それは、イギリスの国王チャールズII世が、清教徒革命の真っ只中の1651年に亡命した際に彼の命を救ったオークの木でした。現在この木は、イギリスの国の象徴となっています。

閑話休題。ロイヤル オークは、歴代を振り返れば、数多くのモデルや派生モデルが存在しますが、ここで歴代作として取り上げるのは、そのオリジンを知る意味で初代のRef.5402STを、そして2000年代以降に作られたステンレス製のモデル。かつ復刻やボーイズサイズを除外したいわゆるメインコレクションであるRef.15300ST、そしてRef.15400STに絞ってご紹介します。

それでは、簡単にタイムラインを見てみましょう。

1972年 - ロイヤル オーク Ref.5402ST

初代ロイヤル オークRef.5402STは、1972年から1970年代後半まで製造されました。クラスプやムーブメントの細かな仕様の違いなどによってAからDまでの4シリーズに分けられていました。

1970年代、複雑機構を搭載した小さなドレスウォッチの製造を主としていたオーデマ ピゲにとってロイヤル オークは同社初のスポーツウォッチであり、極めて革新的な時計でした。

スポーツウォッチとして50mの防水性能を確保しながらケースの厚さはわずか7mmとドレスウォッチのように薄い作りです。薄さは必然的に着け心地の良さにつながりますが、両立するのは非常に困難です。ですが、ジェンタは、ケースを2ピース構造にし、ベゼルとケースの間にパッキンをかませることでこれを実現しました。

また、デザイン上にもいくつもの特徴を捉えることができます。一体化したブレスレットや、いくつもの複雑なステンレススティール製の部品にサテン仕上げとポリッシュ仕上げを組み合わせることで立体感を生み出している点などがそうです。

このように非常にイノベーティブな時計ではありましたが、当初はそれほど好評を得た時計でありませんでした。ケース径39mmのロイヤル オークは、当時としては明らかに大きく「ジャンボ」と呼ばれた程です。そしてステンレス製でありながらゴールドの時計と同価格帯で販売されていたことひとつの要因です。

ロイヤル オークは、市場に受け入れられるまでに時間を要しましたが、後にさまざまな時計に影響を与え、現在では、多くの人が切望するモデルとなりました。

2005年 – ロイヤル オーク Ref.15300ST
ロイヤル オーク Ref. 15300ST.OO.1220ST.02

ロイヤル オーク Ref.15300STは、2005年に発売されたモデルです。SS製のケースは、ケース径39mm、ケース厚は9.4mmと10mmを下回るサイジングです。15300のデザイン上の最も大きな特徴は、12時位置に大きなAPロゴが配置されている点で、文字盤色は、白、黒そして青の3色で展開されました。

39mmというケースサイズは、初代の5402ST、現行のロイヤル オーク「ジャンボ」エクストラシン15202STと同じサイズ感で腕の細い人にとっては最適なモデルでした。防水性能は、引き続き50mです。

内部に搭載するムーブメントは、オーデマ ピゲの自社キャリバー3120です。3Hz(2万1600振動/時)のロービートムーブメントが搭載されていました。

2012年 – ロイヤル オーク Ref.15400ST
ロイヤル オーク Ref.15400ST

15400STは、2012年に15300STのアップデートとしてリリースされました。両者には、いくつかの違いがありますが、主な違いはケースサイズです。15400STのケースサイズは、15300STのケース径39mmから2mmサイズアップし41mmとなりました。ケースの厚みもわずかに0.4mm厚い9.8mmです。

41mmになったことで、存在感が増し、より現代的でスポーティなプロポーションになったのです。一方で内部のムーブメントは、引き続き自社キャリバー3120が採用されています。ケースバックからは、装飾の施されたお馴染みのゴールドローターを確認できます。

またデザイン面でもいくつか変更がなされました。12時位置にあった大きなAPロゴは取り払われ、代わりに2本のバーインデックスとその下に小さなAPロゴが配置されました。バーインデックスへの変更は、ヴィンテージファンにとっては改良だったと言えるかもしれません。

サイズアップしたもののムーブメント変更がなかったために日付表示窓はやや内側に寄りましたが、バーインデックスで余白を埋めました。欠点としては、ケースを裏返すとケースの直径に対してムーブメントが小さいため、常に見る部分ではありませんが、ややアンバランスな印象を受ける点です。

ここまで歴代を振り返ったところで、それではいよいよ新作の15500を見てみましょう。

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新型ロイヤル オークRef.15500ST

Ref.15500STは、最新のSS製のロイヤル オークです。SIHH2019では、CODE 11.59 バイ オーデマ ピゲコレクションの話題が大きかったために新作の15500STは、それほど大きな話題に上がりませんでしたが、注目に値する時計であると言えます。

基本的なロイヤル オークのデザインから、かけ離れた部分は一つとしてありませんが、それでも大きなアップデートや変更点を見つけることができます。

ムーブメント

15500の最も重要なアップデートは、やはりムーブメントでしょう。内部には、15500と同時に発表された新作コレクションのCODE 11.59と同じ自動巻きムーブメントであるキャリバー4302が搭載されています。

これは新たに自社開発されたムーブメントで、以前のキャリバー3120と比較するといくつかの改良が見られます。振動数は、ロービートの2万1600振動/時からハイビートの2万8800振動/時になりました。パワーリザーブも60時間から70時間に増えています。

またスペック面のみならず、ムーブメントのサイズが直径32mmになったことでケース径とのバランスが良くなりました。見た目のアップデートはそれだけではありません。22Kゴールドのローターはスケルトン加工されており、美しいムーブメントを鑑賞しやすくなっています。

ブリッジを含め全体にコート・ド・ジュネーブ仕上げが施され、面取りもされており、その美しさはスポーツウォッチではなくドレスウォッチのようです。

文字盤

ロイヤル オークの大きなデザイン的特徴のひとつは、文字盤にあります。グランド・タペストリーと呼ばれる四角い模様が施されています。このグランド・タペストリーをクローズアップして見ると四角の凸面には線状の模様が、そして凹面は粒上の模様を確認でき、非常に細やかな装飾であることが分かります。

現行モデルの文字盤は、ブルー、グレー、そしてブラックの3色展開となります。 青文字盤のみブティック限定となります。

15500stの文字盤クローズアップ

15400との違いを見てみましょう。15400の外周のミニッツトラックはタペストリーの上に印字されていましたが、15500では新たにフラットな面を設けその上に印字しています。また、6時位置の"AUTOMATIC"の文字は取り払われ、12時位置の"AP"と"AUDEMARS PIGUET"のロゴがやや拡大されました。AUTOMATICの文字が無くなったことでアンバランスで物足りなさを感じるのではないかと思ったのですが、実際にはむしろクリーンで好印象です。

また、インデックスと針も新しくなりました。形状こそこれまでに忠実ですが、より太くなったことで夜光塗料の塗布面積が広がりスポーティな見た目です。非常に細かいですが、インデックスはやや短くなり15202との差別化が強調されました。さらに秒針をよく見ると後端の部分がインデックスと同じ形状になったことも分かります。

そして個人的に大きなアップデートだったと感じたのは、日付表示の位置です。ムーブメントを新たにした15500は、文字盤の外周、ミニッツトラックの真横に日付表示窓を配置しています。1972年の初代モデルのファンであれば正しい位置に戻ったとも言えるかもしれません。

ケースとブレスレット
オーデマ ピゲ ロイヤル オークのブレスレット

15500は、ケース径41mmで全体的なデザインはこれまでと変更はありません。一体化したブレスレット、八角形のベゼルや仕上げなどほとんど以前と同じですが、よく見てみると違いに気づきます。

15400と比較するとケース径は同じでしたが、ムーブメントが変更されたことで9.80mmから10.4mmとやや厚みが増しました。実際に着けた感じでは、その0.6mmの差はあまり感じることはありませんでした。新ムーブメントのメリットと比べればトレードオフ、いやむしろ使い勝手を考えるとプラスであるのではと感じました。

15500でもねじ込みリューズが引き続き採用され、防水性能50mも維持しています。美しく時計を際立たせるおなじみのサテン仕上げとポリッシュ仕上げの使い分けも顕在です。

ブレスレットも、非常にシャープな印象がありますが、エッジが立ちすぎているわけではなく触っていて痛いというような感覚は全くありません。また、サテンとポリッシュの仕上げを組み合わせた複数のパーツからは、一層立体感と高級感を感じさせます。当時、多くが革ベルトの時計としてデザインされていましたが、ジェンタは最初からケースとブレスレットを一緒にデザインしたことで、全体の統一感と完成度の高さが生まれています。

さて、ここまでいくつものディテールに注目してきましたが、やはりジェラルド・ジェンタが初代で描いていたロイヤル オークという時計から、何か突拍子もなくかけ離れたものではありません。確かな伝統が細部に今も生きていることがよく分かりました。

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オン・ザ・リスト

ロイヤル オークを使い始めてまず気がつくのは、その研磨から生み出される光の反射の美しさです。これまでに身に着けた他のどの時計とも違った輝きを見せ、少しの光にも反応してキラキラと光るのでTシャツのように腕を大きく露出する装いでは、大きな存在感があります。存在感は、41mmというサイズもそう感じさせる一つの要素です。

着け心地は、一体化されたラグ、そしてブレスレットの可動域がそこまで大きくないため、ベストではありません。腕の太さによっては、自分には合わないという方も出てくる可能性があります。幸いにも16cmと比較的小さな腕回りの僕でも大きすぎるという感覚はなくすぐに慣れてしまいました。

僕は、ラグジュアリースポーツウォッチのカテゴリは非常に汎用性の高い、使いやすいジャンルであると考えています。スポーツウォッチとしてカジュアルな装いにもハマると同時に、スーツを着用するようなフォーマルなシーンでも映える時計です。厚みが少々大きくなったとはいえ、それでもまだ薄い時計の範疇でシャツの袖にもスッと収まります。

また、僕はこのグレーの文字盤をとても気に入りました。ブティック限定のブルー文字盤はやはり人気がありますが、このカラーリングは、本体のステンレスと文字盤のトーンが統一されているために、本当に服装を全く選ばない万能モデルになっていると僕は考えます。

サテンポリッシュは非常に美しいですが、傷はとても目立つ時計です。特にベゼルやブレスレットは、小傷が知らない間に増えています。ロイヤル オークを所有してからは、自分が時計だけではなく、さらに周りの他のものに対してもこれまで以上に丁寧になれるような気がしました。もう一度言いますが、この輝きは本当に素晴らしく、所有する大きな満足感を与えてくれる要素です。


競合モデル

15500は、税込みで222万円の時計です。この予算があれば、数多くの時計が競合対象となり得ますが、ここではいわゆるラグジュアリースポーツウォッチと呼ばれるカテゴリにいるであろう時計たちと比較します。ラグジュアリースポーツウォッチを定義するのは、いくつもの要素があり難しいですが、ここではステンレス製の一体化したブレスレットで、防水性能を持つ時計をピックアップしたいと思います。

ショパール アルパインイーグル
ショパール アルパイン イーグル

アルパイン イーグルは、ショパールの最新のラグジュアリースポーツウォッチです。1980年のサンモリッツというモデルをルーツに持ちます。この時計のために4年の歳月をかけて開発された ルーセント スティール A223と呼ばれる耐久性と反射性の高いステンレスを採用しています。傷つきにくさを重視するのであれば、この時計はまさにあなたのものでしょう。

内部のムーブメントは、2万8800振動/時で60時間のパワーリザーブを持ちスイス公認クロノメーター(COSC)を取得したCHOPARD 01.01-Cが搭載されています。防水性能は100mです。

ロイヤル オークのグランド・タペストリー同様にこの文字盤は非常に特徴的で、今後受け継がれていくであろうデザインが楽しめるというのも良いポイントです。価格が控えめという点もお忘れなく。

161万7000円(税込); chopard.jp

ヴァシュロン・コンスタンタン オーヴァーシーズ 4500V
ヴァシュロン・コンスタンタン オーヴァーシーズ 4500V

オーヴァーシーズは、 ヴァシュロン・コンスタンタンは、ラグジュアリースポーツウォッチの一角を担う時計です。ムーブメントはジュネーブシールを取得したキャリバー5100を搭載しています。2万8800振動/時でパワーリザーブは60時間、防水性能は150mです。ロイヤル オークと比較すると頑丈で、より現代的な印象を受けます。

購入時に付属するレザーストラップとラバーストラップへの付け替えを容易にするインターチェンジャブル・システムを備えているのもポイントです。ひとつの時計だけで様々なシーンで活躍するということは大きなメリットと言えるでしょう。

222万2000円(税込); vacheron-constantin.com

パテック フィリップ ノーチラス Ref.5711
パテック フィリップ ノーチラス 5711

正直この時計をこのリストに入れるかどうかは迷いました。なぜなら皆さんもご存じの通り、間違いなく手に入れることが不可能に近いからです。それでもラグジュアリースポーツウォッチというカテゴリを語るうえで欠かせないモデルであることは間違いありません。

ノーチラスは、歴史からみてもロイヤル オークの後にジェラルド・ジェンタによってデザインされ、発表された時計です。ロイヤル オークと比較するとブレスレットは一体化しているものの、非常に滑らかで、より着け心地が良く感じます。また、ノーチラスのデザインや仕上げからは、ロイヤル オークと比較すると、もう少し控えめで落ち着いた印象があります。スポーティさよりもドレッシーさを求めるのであればこちらを手に取りたくなるかもしれません。

ただ、やはり難点はどうしても入手困難なところです。

357万5000円(税込); patek.com

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最終的な考え
オーデマ ピゲ ロイヤル オークを着用したポケットショット

最新のロイヤル オーク 15500をご紹介しました。本機は、ロイヤル オークのDNAを継承しつつ、確かなアップデートがなされていました。見た目にも機能的にも多くの点でムーブメントが改良され、また文字盤上の要素が調整されたことで全体的によりスポーティな印象になりました。僕にとって初めて所有するロイヤル オークなので、41mmというサイズもむしろ腕の上で少しだけ強めの主張をしてくれるのでより満足感につながっているように感じました。

可読性の高い文字盤、使いやすく腕に乗せることでその楽しさを体感できる時計です。また、15202エクストラシンとの違いがよりはっきりとすることで、15500こそがオーデマ ピゲのフラッグシップ機であること明確に位置付けるようなモデルだと言えると思います。

でも気を付けてください。もしあなたがすでに数本の素敵なコレクションを持っていたとしても、毎朝その輝きにつられて、ついつい毎日手を伸ばしてしまう時計になることは間違いありません。僕もその一人なのですから。

机の上に置いたオーデマ ピゲ ロイヤル オーク 15500ST

さらに詳細を知りたい方は、オーデマ ピゲ公式サイトへ。