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A Week On The Wrist ブルガリ オクト フィニッシモ ミニッツリピーター カーボンを1週間レビュー

新しい世界、新しい時計に出会う。

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※本記事は2018年11月に執筆された本国版の翻訳です。

A Week On The Wristは、限られた時間ではあるが、実際に時計と生活を共にすることで、どんな感じなのかを知ることができる機会だ。日常的に使用するような時計で、視認性、美観、精度など、実際の環境下でどのように機能するかを確認することができる。

 しかし時には、自動車ジャーナリストが週末にブガッティ シロンのキーを渡される自動車ジャーナリストのような感覚で試着する腕時計もある。例えばこの16万ドル(約2000万円)のブルガリ オクト フィニッシモ ミニッツリピーター カーボンは、高級時計に関する多くの常識を覆すだけでなく、ブルガリのハイエンドウォッチの常識をも覆す。A Week On The Wristでミニッツリピーターを扱うのはこれが初めての試みだ。これまでにラトラパンテや永久カレンダーを取り上げてきたが、リピーターはなかった。しかもこれは、現時点で製造されているなかでもっとも珍しいミニッツリピーターのひとつである。


記録破りの革命

 オクト フィニッシモ ミニッツリピーター カーボンについて語るならまず、その記録的な薄さを抜きにしては語れない。Cal.BVL362の厚さはわずか3.12mm(直径28.50mm)で、現在製造されているミニッツリピータームーブメントのなかで最も薄いだけでなく、間違いなく、腕時計史上最薄のリピータームーブメントである。

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 現代の腕時計においてその競争相手と呼ぶのにもっとも近いのは、ヴァシュロン・コンスタンタンのパトリモニー・エクストラフラット・ミニットリピーターに採用されている、厚さ3.90mmというヴァシュロン・コンスタンタンの超薄型のCal.1731である。2013年の発売当時は、世界最薄のリピータームーブメントであった(Cal.BVL362とヴァシュロンのCal.1731の厚さの違いが0.78mmであることを考えると、“かなりの余裕”というのはやや大げさかもしれないが、Cal.BVL362の厚さ全体のちょうど1/4であり、誇張表現とは言えないだろう)。

 超薄型のリピータームーブメントは、私が考えうる伝統的な時計製造のなかでも、もっとも専門的で厳密なものである。一般的に言って、薄さは機械の堅牢性や音質のよさとは相容れない。なぜなら、第一に、部品の剛性が低下してクリアランスが狭くなることで、故障の危険性が著しく高まる。第二に、ゴングやハンマーの小型化により、ムーブメントのエネルギーを周囲の空気に伝達する能力が本質的に低下するからだ。ブルガリが過去から現在に至るまで、超薄型リピーターの世界記録を保持していることは、控えめに言っても賞賛に値する(例外として、ヴァシュロンの1940年代のリファレンス4261は、厚さわずか3.10mmのムーブメントを使用していたとされている)。それは一見あり得ないように思えるほど驚くべきことである。これがもし2000年だったら、まともな神経の持ち主であれば、誰もそれをやろうとは露ほども考えなかったことだろう。

 特に2000年に言及したのは、ブルガリにとってこの信じられないような記録が実際に可能になった年だからである。その年、ブルガリは2400万ドル(約30億円)の取引の一環として、ダニエル・ロートやマニュファクチュール・ドゥ・オート・オルロジュリーSAを含め、ジェラルド・ジェンタをシンガポールのアワーグラスから買収した。ブルガリが具体的に言及したことはないが、合理的に考えれば、ムーブメントも同時に取得したということだ。ジェラルド・ジェンタは独立したメーカーとして、1994年の25周年記念モデル(ウェストミンスターチャイムを備えたグラン&プチソヌリや、レトログラードジャンピングアワーのミニッツリピーターなど)をはじめ、非常に複雑な時計を製造しており、その技術力は確かなものであったと言える。

13リーニュの超薄型リピータームーブメントを持つヴァシュロン・コンスタンタンのRef.4261

 もちろんジェンタ自身は時計職人でもなければ、ムーブメントの設計者でもないため、実際にムーブメントを設計したのは誰だったのかという疑問は残るが、その力量は確かにもっとも熟練した製造者の証である。Cal.BVL362はヴァシュロンのRef.4261のキャリバーからある程度リバースエンジニアリングされたものではないかと私は考えているが、このふたつのムーブメントには、クラシックなデザインの超薄型手巻きリピータームーブメントに見られる一般的な製品群としての類似性がある一方で、大きな相違点もある。 

 このムーブメントの血統がどうであれ、それが伝統的な時計製造における驚異的な作品であることに変わりはなく、ブルガリは極めて珍しい組み合わせでこの作品を独自のものにしている。

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カーボン シン プライケース

 このケースは、ブルガリがカーボン シン プライ(Carbon Thin Ply)、略してCTPと呼ぶ素材で作られている。これは簡単に言えば、熱硬化性エポキシ樹脂を炭素繊維で強化したものだ。非常に軽くて頑丈であり、リピーターの堅固で高効率な共振チャンバーに使用される。この素材の共振特性を最大限に活用するため、ゴングの脚は通常のようにムーブメントに取り付けられるのではなく、代わりにケースに直接取り付けられている。カーボンファイバーはチタンと同様、音の強弱の観点からリピーターに使用するには興味深い素材であるが、カーボンファイバーがリピーターに使われるのはチタンよりもさらに希である。私が知る限り、完全なカーボンファイバー製ケースを採用したミニッツリピーターは、ほかにはウブロのクラシック・フュージョン トゥールビヨン カテドラル ミニッツリピーター カーボンだけである。素材の類似性を除けば、スタイルや哲学の観点から見て、オクト フィニッシモ ミニッツリピーター カーボンとは正反対の時計だ。

 技術的な観点からみて、この素材も超薄型時計に最適である。カーボンファイバーが加わることで機械的ストレスがうまく分散され、変形しにくい素材であることは、このような薄い時計をうまく組み立てるのに非常に役立つ。しかし、ブルガリがこの時計のCTPバージョンを作ったのは、それが第一の理由ではない(ブルガリ オクト フィニッシモ ミニッツリピーターが発表されたとき、それはCTPバージョンとまったく同じサイズ、40mm×6.25mmのチタンケースであった)。むしろ、主にデザイン的な判断によって、この素材を選択したのである。

 現在、オクト フィニッシモ ミニッツリピーター カーボンのムーブメントは、まさにクラシックな時計製造の実践である。現代の時計メーカーのなかには、記録的な薄型ムーブメントを製造するために極めて特殊な素材と構造を用いているものもあるが(ピアジェのアルティプラノ アルティメート・コンセプトがその好例である)、Cal.BVL362はそのようなものを用いていない。この種のムーブメントを扱う多くの高級時計ブランドにとって、このようなクラシックなムーブメントを非常に伝統的なケース以外のものに搭載することは考えられず、この種のムーブメントに付随する伝統的なデザインと手法へのこだわりを考えると、それは文化的な異端行為に等しいと言えるかもしれない。そう考えると、ブルガリのような高級機械式時計の新参者が、美的感覚よりも工学的な要素が強い現代的な複合素材とムーブメントを組み合わせるという、リスクはあるが大胆で想像力に富んだステップを踏んだのは、おそらく理に適っているのだろう。

スモールセコンドインダイヤルのインデックスとアウトラインは、実はダイヤルの開口部であり、ケースから音が出やすくなっている。

 おそらくそうなのだろう。アール・デコの時代から現在に至るまで、モダニズムのデザインや建築の基本的な考え方のひとつは、素材の変形や装飾に頼るのではなく、素材そのものの本質的な性質を称賛することである。ガラス、コンクリート、ステンレススティールなどの建築材料において、我々はこの種のことに慣れている。時計のデザインにおいて、工業用素材が称賛される基準となったのは、オーデマ ピゲのロイヤル オークだ。貴金属を使うのもいいが、SS製がいちばんしっくりくる。しかし、カーボンファイバーベースの素材には課題が残っている。ここでもオーデマ ピゲがほかのブランドと同様に、フォージドカーボンケースを採用して興味深い効果を上げている。

 しかし多くの場合、カーボンファイバー複合材は、多かれ少なかれ伝統的な既存のデザインを、より洗練されてスポーティなものに見せようとして、ぎこちなくおどおどと用いられ、すぐに陳腐化してしまった。その結果、忘れ去られてしまえばいいほうであり、最悪の場合には見るに耐えないものとなってしまったのである。一方、オクト フィニッシモ ミニッツリピーター カーボンは、CTPの荒削りな質感を見事に表現している。それは一般的な高級時計の概念を覆すものだが、その根底にあるのは、素材が自ら語ることを許されたときに最大の説得力と明確さを持つという、古典的なモダニズムの信念である。

 そのケースは角張ったデザインで、間近で見るとブルータリズム建築のようでもあり、1982年の『ブレードランナー』に登場するタイレル社の脅威のピラミッドのようでもある。同時に、それは非常に多くのことを示唆しているが、それは何かを説明しようとしているように見えることを避けている。たとえばグランドセイコーのスノーフレーク スプリングドライブのダイヤルのように、何かを文字通りに表現しているわけではないため、見る者は受け身になるのではなく、デザインに積極的に参加することができるのである。このケースが示唆するもうひとつのものは、最初のステルス運用航空機F-117 ナイトホークの機体である。F-117 ナイトホークは1983年に運用開始され、腕時計のミニッツリピーターのデザインにおけるミニッツリピーターカーボンのように、航空機デザインにおけるあらゆる伝統的な教義を覆すものであった。


音と視覚

 もちろん、ミニッツリピーターは音が鳴る複雑機構である。これは、ほかのあらゆる種類の腕時計とは異なり、視覚だけに訴えるものではない。従来、特定の基準で評価されてきたのである。そのひとつが音量だ。低~中程度の環境音のなかで聞こえないほど音量がないリピーターは、たとえそれが高い職人技によるものであったりデザインが優れていたとしても、機能面で問題があるということになる。現代の時計ブランドにとっての大きな落とし穴は、腕時計が必ずしも必要なものではない(私が思うに、特にミニッツリピーターは。)ことを忘れていることである。しかし、時計メーカーとしての責任、つまり機能的な完成度の高い時計を作ることを放棄してしまえば、残念なものしか作れない。実際にその機能が必要かどうかは関係なく、たとえばダイバーズウォッチを持って潜水することは不可欠だと我々は考えている。そうでないと、時計ではなく時計のイラストになってしまい、結局は単なるイラストと同じように所有することに不満や失望を感じてしまうからである。

 この点において、オクト フィニッシモ ミニッツリピーター カーボンは非常に優れている。かなり騒がしい環境でもはっきりと音が聞こえるだけでなく、音色も非常に心地よいものなのだ。リピーターのゴールデンスタンダードは、文字通りゴールドである。ローズゴールドのケース内でスチール製のゴングを響かせるのが、可聴性、明瞭さ、音質の面でもっとも優れていると一般に言われている。しかし私は、もう少し広い視野で考えてもいいのではないかと考えている。日本酒を飲むときに、ボルドーのような華やかさがないからといってがっかりすることはないように、その魅力を楽しめばいいのである。

 オクト フィニッシモ ミニッツリピーター カーボンの音も、同じように評価できるのではないだろうか。ローズゴールドのような多色の暖かみはないが、それとはまた違った魅力がある。透き通るような透明感の、クールに持続する音色で時計の特徴を非常に正確に表現しているのである。言ってみれば、音のハーモニー以上のものをリピーターに求めることはできないのである。そして、オクト フィニッシモ ミニッツリピーター カーボンのデザインと音色が、伝統と最先端を併せ持つこの時計のすばらしい聴覚表現であることを知ることは、非常に大きな喜びなのだ。

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一週間ミニッツリピーターを身につける

 私はこれまでミニッツリピーターを、撮影のためにオフィスで1~2時間ほど着用したことがあるだけで、長時間着用したことはなかった。ほとんどのブランドは、クロノグラフ、ダイバーズウォッチ、日常使いのビーターウォッチなどのサンプルを喜んでレビュー担当者に貸し出してくれるが、ミニッツリピーターは非常に高価で、複雑、希少、そして事故が起こりやすいため、簡単に手に入れることはできない。また、製造に非常に時間がかかる(製造時間はしばしば週単位や月単位で測定される)ため、リピーターが完成する頃にはすでに予約で埋まっているか、せめて完全に新品同様の状態でブティックに到着すれば御の字である。

 前回リピーターを手首につけてみたときは、プロとしての誇りにかけて、ほんのわずかな傷もつけないように、まるで陶磁器を巻いているかのようにびくびくしていた。1000万円以上する精密機械を任されれば、会社の保険ではカバーしきれないであろうし、ほとんどの時計愛好家はそうなってしまうと思う。自分が身につけているものがいかに高貴なものであるかを痛感せざるを得ず、その結果、ただ鑑賞するだけではなく、その体験を楽しむことができる度合いが少し下がってしまうのだ。評価するには所有する必要があると言いたいわけではないが、不安は強い媚薬であり、この時計を再び手にできたのはうれしいことである。

 この時計は16万ドル(約2000万円)するかと思うが、160ドル(約2万円)の時計のようなつけ心地なのだ。この文章を読んだブルガリ関係者は、おそらく憤慨することだろう。しかし安価な時計というのは、高級時計にまつわるさまざまな概念や観念が入り込むことなく、楽しむことができるのである。最近の高級レストランは、カジュアルなものが一般的になりつつある。華やかな雰囲気が必ずしも楽しい食事につながるわけではないことに気づいたからだ。同様に、何世紀にもわたって受け継がれてきた伝統の重荷が、ミニッツリピーターの古典的な装備から発散されていることで、さまざまな雑念によって喜びが奪われてしまうのである。

 まず第一に、この時計はつけ心地が抜群である。その理由のひとつに、オクト フィニッシモ ミニッツリピーター カーボン全体が驚くほど軽いことが挙げられる。CTPケースとチタン製ブレスレットの組み合わせは、スウォッチスキンほど重さも感じさせず、手首の上に浮かんでいるようである。最初はとても戸惑うが、そのうちかなり解放感を感じるようになる。ブレスレットのリンクの幅が狭いということは、時計がとても自然に手首に馴染むことを意味する。ライカのM3カメラやパーディーのオーダーメイドのショットガン、あるいはお気に入りのゴルフクラブのセットのように、その腕時計は手首に固定された異物ではなく、身体の延長となるのである(これは単に重さの問題ではない。比較的小さな時計でも、重量配分が悪かったり、ラグのデザインがストラップやブレスレットの安全性と快適性を妨げていたりすると、装着時に煩わしさを感じることがある)。この空気のような解放感は、マットブラックの幾何学模様や、ケースとブレスレットの両方の信じられないほどの薄さと相まって、通常の体験とはまったく異なる感覚で1日を過ごすことを可能にするのである。

 さらに、ほかの時計愛好家に見せるのがたまらないほど楽しい時計でもある。珍しいケースの素材とデザイン、記録的な大きさ、そして完全にクラシックなムーブメントが、この時計を視覚的にも聴覚的にも非常に刺激的なものにしており、すばらしい話の種にもなるのだ。この時計を実際に見たことのある数少ない幸運な人でない限り、たとえリピーターのことをよく知っていたとしても、このような時計は見たことがないはずだ。これは従来の常識にとらわれない、挑発的であると同時に魅力的な時計なのである。

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最終的な考え

 ブルガリは、オクト フィニッシモ ミニッツリピーター カーボンにおいて、ほかの誰もやったことのないことを成し遂げた。カーボンファイバーケースのリピーターは、確かに十分珍しい。このような驚くほどフラットなムーブメントはこれだけであり、また、ほかの多くのカーボンファイバーの時計とは異なり、機械仕掛けのために素材を間違った場所に置いたり、定番の素材やデザインからクールさを絞り出そうとしたりはしていない。

 その代わりに、ブルガリはこの時計でリピーター関連の伝統的なメーカーでは不可能なことや、もっとも妥当なことをやってのけているのだ。BVL362のようなクラシックなムーブメントは、パテックやヴァシュロンやオーデマ ピゲなどが手がけたものであれば、間違いなく伝統的なスタイルのケースになっていただろう。ブルガリでさえ、オクト フィニッシモ ミニッツリピーター カーボンは衝撃的な時計だった。ブルガリには、ビッグ3やその類をかなり特定のデザイン用語に限定するような、伝統に縛られたスイスの慣用句のようなものはないのかもしれないが、大胆なゴールドの有機的フォルムとシャープなジオメトリー(セルペンティ風)の組み合わせなど、そのフォルムやアプローチには独自のレパートリーがある。

 しかしブルガリは、オクト フィニッシモのシリーズ、特にオクト フィニッシモ ミニッツリピーター カーボンによって、古典的で複雑なデザインに関して、何世紀にもわたる慣習から脱却しただけではない。ブルガリは独自の確立されたデザイン言語からも脱却し、そしてもっとも重要なことはおそらく、何がラグジュアリーで何がラグジュアリーではないかという、ユーモアに欠けた、時に息苦しい概念を放棄したことである。これは、いくつかの非常に異質な要素を組み合わせて、その時計自体のためにも、そして高級時計全体のためにも、まったく新しい種類の錬金術を生み出すためである。

 ブルガリがこの時計で成し遂げたことは、高級時計製造よりもはるかに希有なことである。ブルガリは、我々が高級時計において必ずしもそうであると思い込んでいることをすべて覆す、興味深い時計を作ることに成功したのである。この時計は万人受けするものではなく、純粋に知識が豊富で心の広い腕時計マニア向けのものだ。そしてこれは、あなたの予算で購入を検討できるかどうかは関係ない(私の予算ではとても購入できない) 。オクト フィニッシモ ミニッツリピーター カーボンは、これまでに発売された時計のなかで、もっとも独創的で示唆に富む時計のひとつである。

ブルガリのオクト フィニッシモ ミニッツリピーター カーボンの小売価格は16万ドル(約2000万円)、わずか50本の限定モデルだ。詳しくはブルガリのオンラインショップを。