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Illustration by Chris Fuentes
私はスティール(SS)製の時計を所有したことがない。
それはSS製の時計を軽んじているからではない。何十年も前に母が僧侶に祝福されたという翡翠の仏陀を購入し、それを調整にペンチが必要なフッククラスプ付きの24金のキューバンリンクチェーンで首に掛けることを選んだとき、ゴールドガイでいるという決断を下したのだ。
私は生涯でこのメダリオンを2度外したが、そのとき、こんなことが起こった。
最初に外したのは2002年、フロリダ州オーランドからマルディ・グラに車で向かっているときだ。運転開始から約7時間後、首に痛みを感じたためミシシッピで外し、ルイジアナに向けて走り続けた。ニューオーリンズに入ったとき、相棒のクレイジー・クリス(Krazy Kris)がマリファナに火をつけ、私のパナソニック DVX100aで撮影を始めた。約15分後、クルマが赤信号を無視して突っ込んできて私たちはT字衝突。あたり一面に草が飛び散り、ビデオカメラが私の頭に当たり、私たちはジープグランドチェロキーのなかでひっくり返っていた。警察が来る前に最終的に約1オンス(約28g)の草を食べる羽目になったが、首の捻挫と頭のコブ以外は無傷で済んだため、自分は祝福されていると考えた。
当時私は、あの衝突を翡翠の仏陀と結びつけていなかったが、数カ月後再びそれを外したところ、ウォルグリーンで避妊薬を購入しようとしていた。それ以来、今日までチェーンは着けたままだ。
チェーンがゴールドなので、私の結婚指輪もゴールドだ。そのため私はSS製の時計を購入しないことにした。ツートーンならまだしも、SS製の時計とゴールドのチェーンとゴールドの結婚指輪は、単に視覚的に複雑だと常に感じているからだ。
HODINKEEでの最初の記事を執筆するために、私はゴールドのヴァシュロン・コンスタンタン ヒストリーク 222を要請し、それは当初は承諾されていたものだった。そしてそのことを私たちのポッドキャスト、『Canal Street Dreams』で旧友であるファッションライターのジェイク・ウールフ(Jake Woolfe)に伝えたところ、なんとこの男はヴァシュロンの広報担当者に接触し、私からそれを横取りしたのだ!
次回は絶対にウールフがディナーをおごることになるだろうが、最終的に私は41.5mmの18Kホワイトゴールドケースにバーガンディーラッカーダイヤルを備えたヴァシュロン・コンスタンタン オーヴァーシーズ エクストラフラット・パーペチュアルカレンダー Ref.4300V/220G-H151と、ゴールドラッカーダイヤルを備えた18Kピンクゴールド製の同じモデル Ref.4300V/220R-H144を提案された。ヴァシュロンは私のもっとも好きなブランドであり、私は現在、愛してやまない4520V/210R-B967(上記画像の左)を所有している。
もし私が次に別の時計を購入するならば、おそらくゴールドラッカーダイヤル付きのピンクゴールドを手に入れるだろう。なぜならそれは、トニー・ソプラノ(編注;アメリカのTVドラマ『ザ・ソプラノズ』の主人公)に憧れて育った80年代生まれにとって、最も流行しているが同時に最も必要な時計であるロレッス デイデイト “プレジデント” Ref.118238のヴァシュロンによる上位互換のように感じるからだ。だから読者のあなたのために、私は通常購入しないであろう時計を選び、1週間4300V/220G-H151と共に過ごした。
それは素晴らしいホワイトゴールドであるが、それは私がSS製の時計を所有するという経験に最も近づいた瞬間だったため、そのように扱った。ソーホーにあるHODINKEEのオフィスで時計をピックアップした数分後、私はレシピ開発に取り組むために、エルドリッジの“ザ・フラワーショップ”に歩いて行った。
詳細を知らない人のために言うと、ザ・フラワーショップはニューヨークのダウンタウンの象徴的なバーであり、オーストラリアの居酒屋メニューを提供しているが、最近10周年を祝い刷新が必要だった野田。そのため、私はそのオーストラリアのアイデンティティを保ちながらアジアのフレーバーを取り入れた新しいメニューを作成する任務を与えられたエグゼクティブシェフとして招かれたのだ。
オーストラリア人に話をすると、彼らには明確に定義された料理があると確信しているようだが、私の中国人としての目とアメリカ人としての脳では、それはでたらめに見える。確かにメニューにはミートパイとフィッシュ&ップスがあるが、キヌアボウル、舞茸のリガトーニ、パン焼きカリフラワーステーキ、そしてトーストに乗せたマッシュルームのエスカベーシュもある。私は正直、オーストラリア料理が何なのかあまり理解できなかった。
運営者のひとりが、彼が愛するオーストラリアの店のメニューを送ってきたが、私は“TGIフライデーズ”、“アップルビーズ”、“デイヴ&バスターズ”、そして“完全なたわごと”などとつぶやきながら、ロールシャッハ・インクブロットのようにそれらを見た。オーストラリア料理の集中講座に集中できなかったのだ。
私は一貫したテーマを特定しようとすべてのメニューをスクロールしたが、最終的に諦めた。そしてチェーンをしまって結婚指輪を外し、このヴァシュロン・コンスタンタン オーヴァーシーズ エクストラフラット・パーペチュアルカレンダーにバーガンディーのラバーストラップを付けて、仕事に取りかかった。
仕事中、私はたいていジュビリーブレスとブラックダイヤルを備えた1995年製のロレックス デイトジャスト Ref.16233を着用している。これは“Very Special”のDZAから安く手に入れたものだ。私が子どものころ、父は“プレジデント”を着用していた。しかし彼の周りの指輪や翡翠のメダリオンをぶら下げた風変わりな連中はいつもデイトジャストを着けていたため、私は仕事とその時計を結びつけ、自分の厨房で着けるためにひとつ手に入れたのだ。
しかしラバーストラップのパーペチュアルカレンダーは、まったく別物だ。この時計は12時間の勤務のあいだ、私の手首から1度も動かなかった。私は角切りし、みじん切りし、泡立て、炒めた。そしてオーストラリアの料理の神々と対話しようとしたが、この時計はたったの1度もひるまなかった。どういうわけか、同僚がフードライトの下でダイヤルが舞い踊っているのに気づくまで、41.5mmのケースにバーガンディーダイヤルを備えたモデルがそこにあることを忘れていたのだ。私は日常使いとしてバーガンディーダイヤルやホワイトゴールドの時計をおすすめしないだろうが、キッチンでのXLサイズの白Tシャツ、エヴァン キノリのジーンズ、そして真っ黒なサロモンとはよく似合う。
私のメニューへのアプローチは、ローストを柱に据えることだった。オーストラリアやロンドンに行ったとき、料理の観点から私が賞賛したのはローストだった。イギリス料理における大きな肉の塊に熱を加える方法から学ぶことは多く、こには揺るぎないシンプルさがある。脂身、筋、複雑な筋膜を持つ厄介な肉の部位を取り上げ、塩と胡椒をたっぷりとまぶし、その特定の部位について他人が厄介だと感じるすべてがプラスになるまでオーブンでゆっくりと低温で焼くのだ。それを肉汁とローストした野菜と共に提供し、40ドル(日本円で約6200円)以下に抑える。
それが私がザ・フラワーショップで実現したいものだった。
この時点で承認されていた料理は、豚肉のローストクラウン、ローストブリスケット、ローストしたラムショルダー、アジア風イカのフライ、General Tso's のタイトーグ、チャイナタウン風野菜の直火焼き、そしてローストの端材を使用したサンデーソース付きのマカロニだった。
今日の試食会は4回のうち最後であり、物事がうまく行けばメニューが固まるだろう。メニューの最後には、特製の四川風レモンペッパーラブで味付けした鶏もも肉をシュマルツで焼いたもの、アジア風ハーブドレッシング付きの頭付きエビのグリル、ニガウリの炒め物、そしてニューヨークで私が最も好きなステーキハウスのひとつ、ピーター・ルーガーへのオマージュとして考案した家宝のように育てられたトマトのグリルと、玉ねぎのサラダだった。
すべては私が意図したとおりに仕上がった。出席者も料理を気に入ったが、ためらいがあった。
「女性のためにもう少し軽い料理が必要だと思う」とあるひとりのパートナーが言った。別の人は「少し重いかもね」と言及した。
「たぶんこれはシェフっぽすぎる」
「もう少し親しみやすいものにできない?」
「ニガウリは...苦い」と誰かが指摘した。
「私が作ると言ったものだ」と私は防御的になって無表情で言った。
私たちは岐路に立たされていた。
「メニューにはハンバーガーが本当は欲しい。みんな私たちのハンバーガーとフライが大好きだから」
「ハンバーガーとフライは作れるが、開店の準備と写真撮影を始めるためにメニューを固めたい」
私は疑念を抱かれていると感じ、緊張が表面化した。
「ハンバーガーを作ることは私を信じてくれていい。メニューを固めてもらえるか?」
最終的に、私がハンバーガーを完成させるという条件付きで、すべての人がメニューを固めることに同意し、開店の準備を始めることになった。
A Week On The Wrist: ヴァシュロン・コンスタンタン ピンクゴールドのオーヴァーシーズ・エクストラフラット・パーペチュアルカレンダーを1週間レビュー
その後の48時間、私はインターネットでハンバーガーを見るたび、またはハンバーガーが言及されるたびに、独り言で嫌味をつぶやいた。今日レストランを開店するすべてのシェフが、上司にハンバーガーを提示する必要があるのは確かだが、それがどうしても腹立たしかったのだ! 私は自分が少し傲慢で理不尽であることを認識した。それは私が心理的に乗り越えられないものを肉体から駆逐するために、サウナやジムに行く必要があるという私に発せられる独自のサインだ。
そのため、私はWSAでコーチのデイビッド・ジョウ(David Jou)氏に会い、彼は私を素晴らしいケトルベルのワークアウトに導いてくれた。
「その時計を外さないのか?」と、ケトルベルスイングをしながらデイビッド氏は尋ねた。
「どの時計?」とハンバーガーへの憎しみ以外、周囲のすべてに無頓着だった私は尋ねた。
「その時計だよ!」と彼は笑った。
ああ、そうだ。私の手首にある、バーガンディーダイヤルを備えた6桁ドルの18Kホワイトゴールドの時計だ。それはワークアウトの全時間、またしても1度も動かなかった。どういうわけか私はそれを忘れていたのだ。
「レストランでの調子はどう?」「いい感じだよ。やっとメニューを固めたんだ」「おめでとう! 素晴らしいね」と彼が言ってくれたが私はためらっていた。みんなが同意し、固まったメニュー、そしてその写真撮影が予定されているにもかかわらず、ためらいがあるのはよくないと感じた。何かを承認するとき、それを確固たるものにしたい。言い換えれば、グランドオープニングに足を引きずりながら入っていくのは好きではないということだ。
「今週、ほかに楽しみにしていることはある?」と、彼が問いかけてきた。
私は確信が持てなかったので、Googleカレンダーを見た。メニュー作成に集中しすぎていたため、先を見据える時間やエネルギーがほとんどなく、会議から会議へと流される日々を送っていたが、明日のカレンダーを覗いたとき、ポップ・スモーク(Pop Smoke)のドキュメンタリーのインタビューに出ることを思い出した。ポップの話が出るたびに感情的になるのは明らかだが、翌朝そのすべてに取り組むことを知り、それを心の隅に追いやった。
ワークアウトの数時間後、私はソファーでNFL カウントダウンを見ていたが、気分は軽く気まぐれで、あえて言えば落ち着いていた。そのときザ・フラワーショップのグループチャットからテキストが届いた。
「エディー、明日メニューについて話し合うために会える?」。何かが起こっていることはわかっていた。
「もちろん。ちょうど写真撮影のために食材を注文をするところだった。待ったほうがいい?」
「待ってもらえる?」
「わかった。キャンセルするよ」
その時点で、私は持っている最も大きくゆったりしたバスケットボールのショーツに着替え、マリファナに火をつけ、シャツを着ずに手首に時計を付けたまま床に横になった。
ヴァシュロン・コンスタンタン オーヴァーシーズ エクストラフラット・パーペチュアルカレンダーのような重要な時計が持つ美しさは、その瞬間にあなたの人生で何が起こっていようと、その時計を見てこのばかげたほど美しいものがあなたの手首にあるならば、自分が何か正しいことをしたに違いないと気づかせてくれる。
翌朝、私は頭をすっきりさせるために泳ぎに行った。素早く10周泳ぎ、トリプルショットのエスプレッソを飲み、服を着てインタビューに向かった。監督のジョシュ・スウェード(Josh Swade)氏に会ったことはなかったが、彼は『Empire Skate』、『the 30 for 30 about Supreme』、そして『Ricky Powell: The Individualist』で彼と一緒に仕事をした友人から高い評価を得ていた。
私は監督でもあるため、ほかの監督のセットにいるのはいつも興味深い。どのように設定するかはわかっているが、彼がどのように設定したかを見るのはどれだけ落ち着いていても、謙虚であっても、それを乗り越えていても、かつての恋人とのデートを見ているようなものだ。特にそのドキュメンタリーが友人であり、私が監督した俳優に関するものだったのでそれはさらに強いものだった。
私の最初の長編映画である『Boogie』のセットにいるポップ・スモークと私。Photo by Nicole Rivelli / Focus Features
私はポップを愛していたし、彼のことを思うといつも胸が痛んだ。しかし約2時間のあいだ、私は監督や作家であることを忘れ、純粋にポップの友人として現れ、私たちの物語をスウェード氏に委ねていた。
撮影が終了したあと時計を見ると、私はザ・フラワーショップから30ブロックも離れていて、すでに10分遅刻していることに気づいた。チャットにテキストを送ったあとクルマに乗り込み、PTSDを聴きながら泣き崩れた。そのとき、重荷が私の背中から落ちたのだ。
2020年にポップが亡くなった日、私は自分の感情を乗り越えようとボクシングジムで泣き崩れたが、その日からずいぶん遠くに来たものだ。クルマのなかで、ハンバーガーを作ることにそこまで動揺していた自分を笑った。彼らが私に作って欲しいものが何であれ、私は作るだろう。この上位版の居酒屋メニューのことでこんなにも腹を立てているには、人生は短すぎる。
すでに険悪な空気が漂う会議に30分遅れで到着したとき、完全に追い詰められたような気分だった。リーダーたちが親しみやすさについて話し、私が作成したメニューがあまりにも難解だという話を数分間聞いた。イギリスのローストは人々を興奮させるものではないし、食べ物が重すぎるとのことだった。彼らはハンバーガー、手羽先、イカのフライ、チキンパルメザン、サラダなどを求めていた。
私はそれをすべて受け入れ、耳を傾けた。そして会話が途切れたとき、別のシェフを探すのを手伝うことを申し出た。
「みんな聞いてくれ。この仕事に私は必要ないと思う。ハンバーガーなら誰でも作れる。ハンバーガーを作ることにわくわくしている人を見つけることはできるけど、それは私ではない」。反応が返ってきて、皆が意見を修正し、議論が堂々巡りになりかけたそのとき、ひとりの声が上がった。
「エディー、聞いてくれ。あなたが作ったものはすべて素晴らしかった。でも私はザ・フラワーショップの刷新とあなたを雇うために多額の資金を投じている。だからもう少し見てみたいんだ。あなたが作ったものに何の問題もないが、私は不安になる。あなたを信じていないわけではないが、最終決定を下す前に見なければならない。あなたがハンバーガーを作れることはわかっているし、それを難しいと思わないことも理解しているけれど、このレストランのオーナーとして私はそれを見る必要があるのだよ」
オーナーが不安だと言うのを聞き、私は共感した。
もし私がレストランを刷新し、新しいシェフを雇うために何千ドルも費やすならば、私も不安になるだろう。おそらく行きつ戻りつし自分自身に疑問を抱き、シェフに疑問を抱き、周囲のすべてを疑うだろう。財政的にもリスクを負っているのだから。バーで多くの人が求めるメニューであり、私もハンバーガーを求めたくなるかもしれない。
しかしシェフとして、ハンバーガーには心底うんざりする。人々がハンバーガーにそこまで夢中になるのは愚かだと思う。あれは基本的で密度が高くばかげていて、悪いときでも正直に言ってまずくてもおいしくてもいいのだ。それでも人々はそれのために列を作り、どれが最高かについて議論する。ハンバーガーも人間も99.9%のDNAを共有しているという事実にもかかわらず。
おそらく私がうるさいだけのかもしれない。私が気難しいのだろう。多分理解できていないのは私なのだ。
「ああ、あなたが着けているその時計は何だ? そんなの見たことないよ」と、同僚のひとりが言った。
「ヴァシュロン・コンスタンタン オーヴァーシーズ エクストラフラット・パーペチュアルカレンダーだ」
私は手首から外して彼に渡した。彼はそれを感心した様子で眺め、返してきた。「複雑そうだ」と。
私はそれを着け直しながらクスリと笑った。彼の言うとおりだった。
ヴァシュロン・コンスタンタン オーヴァーシーズ エクストラフラット・パーペチュアルカレンダーRef.4300V/220G-H151とは、ハンバーガーを憎む複雑な男のための複雑な時計なのだ。
筆者について
エディ・フアン氏はアメリカ人のレストラン経営者、作家、および文化コメンテーターであり、ABCテレビシリーズに脚色されヒットした彼の回想録『Fresh Off the Boat』でもっともよく知られている。台湾移民の両親のあいだに生まれたフアン氏は鋭い社会批評と個人的な物語を融合させ、アイデンティティ、人種、そしてアジア系アメリカ人の経験のテーマを探求することで評判を築いてきた。彼は最初に彼のニューヨークのレストラン、BaoHausで頭角を現した。そこで彼は台湾の屋台料理とヒップホップ文化を融合させた。また、フアン氏は映画製作者およびホストであり、映画『Boogie』では監督を務め、さまざまな食べ物と旅行プログラムに出演し、彼の率直で内省的なアプローチで従来の物語に一貫して挑戦している。
Photos by: Eddie Huang, Shota Akiyoshi, James Emmerman
Creative Directed by: David Aujero
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