ADVERTISEMENT
4月に入り、アメリカ中西部では、毎年恒例の“気まぐれな天気”が続いている。気温が下がって長ズボンを履かざるを得ないことにうんざりしたかと思えば、ショーツで外に出られることに高揚する。そんな気分の揺れを行ったり来たりしている。そんなとき、私は時計で気を紛らわせている。皆さんがいる場所が、もう少し過ごしやすい気候であることを願うばかりだ。
では、先週取り上げた時計の結果を見ていこう。オメガ Ref.3953と、トロピカルダイヤルを備えているゼニス エル・プリメロ A384はどちらも売約には至らなかった。これは残念でもあり(どちらも素晴らしい時計で、本来なら売れてしかるべきだから)、一方でわくわくもする(もしかすると市場が、優れた時計がより手の届きやすい方向へ変化し始めている兆しかもしれないからだ)。14Kゴールド製でCal.2310/CH 27を搭載したティソは3000ドル(落札日のレートで約47万円で落札)で、ボール ウォッチ “オフィシャル レイルロード スタンダード”は325ドル(落札日のレートで約5万円で落札)で落札された。
番外編
めったにお目にかかれないことを考えると、この“ジャンボ”サイズのステンレススティール製のケースを持つルクルト フューチャーマチックには触れておくべきだろう。しかしはっきり言って、この時計を買うのはよほどの覚悟があるか、あるいは決して完璧な状態にはならないとわかっている時計を所有したいと願う人だけだ。オリジナルのRef. E501に備わっているダイヤルを見つけられるか? まず無理だろう。この時計を追うということは、終わりなき探求を、そして常にどこか満たされない状態でいる機会を手に入れることでもある。映画『インディ・ジョーンズ/最後の聖戦(原題: Indiana Jones and the Last Crusade)』のマーカス・ブロディのセリフ、「聖杯を探すことは、自分の内に聖なるものを探すのと同じさ」というほどではないにせよ、実際に聖杯を探す時間とエネルギー、そして資金を持っている人などはそういない。この個体を手に入れるほうがより良く安全で、同じくらい非現実的な機会を提供してくれる。
もしそんな達成不可能な探求が、2026年4月のビンゴカードに含まれていないなら、グッドウィルに出品されているセイコーのポーグはどうだろうか(編注;現在オークションは終了しており、906ドル/落札日のレートで約14万3000円で落札)。ダイヤルにResist表記がないため真のポーグではないが、このリファレンスの後期モデルとしては十分に素晴らしい個体だ。ポーグは改造されている個体が多いため、グッドウィルの出品は一般的にプレミアム価格になりがちでもある。同じくグッドウィルには、裏蓋にステッカーが残るツートンのデイトジャストもある(編注;現在オークションは終了しており、4500ドル/落札日のレートで約70万円で落札)。また、もし最近あなたがクォーツムーブメントを搭載しリメイクされたクラシックモデルに惹かれているなら、夜空のようなブルーダイヤルが美しいロレックス オイスタークォーツ 17000(編注;現在オークションは終了している)や、スウォッチとオメガがムーンスウォッチを夢見るずっと前に作られたこちらのクォーツを搭載したスピードマスターはいかがだろうか。最後に降れば土砂降りという諺があるが、ジラール・ペルゴRef.9034 “ルーレット”も出品されている。数週間前に同リファレンスの“プレイボーイ”モデルを紹介したばかりだが、これも紹介せざるを得ない。あとは皆さんの判断に任せたい。
それでは本題に入ろう。
ミネルバ トリプルデイト クロノグラフ ムーンフェイズ
しかし玉石混交の出品物を丹念に見ていくと、このオークションには魅力的な時計が豊富に揃っていることがわかる。1990年代のブヘラ パーペチュアルカレンダー、魅力的なミステリーダイヤルを備えたミドー、ドクサのスフィグモスなどだ。それだけではなく、さらに、きわめて珍しいアンジェラスのティンクラーも出品されている(2013年にeBayで1万ドル/当時のレートで約94万円で売れたものと同じダイヤルと針の仕様だ)。
私が何度も見返したのが、このトリプルカレンダーを備えたミネルバだ。画面の表示を疑う必要はない。外観はロレックスのジャン=クロード・キリーにきわめてよく似ており、従兄弟のような存在だが、こちらにはムーンフェイズが備わる。ケース径は35mmで、ケースに残るサテン仕上げが示すように、状態もとても良さそうだ。ロレックスのキリーと異なり、このミネルバはプッシャーが反転配置となっているのも特徴で、これはどちらが良いというわけではないが、こうした外観はクールだ。
しかしながら―。
出品説明では、この時計は1980年代製と記載されており、ここで誰もが立ち止まることになるだろう。見た目はどう見ても1950年代のクラシックなミネルバだ。であれば、バルジュー88を搭載しているのではないか? しかし説明ではバルジュー730とある。もしさらに深掘りする気力があれば、ボナムズに追加情報を求めつつ、検索を進めるとバルジュー730を搭載したミネルバのトリプルデイト クロノグラフ ムーンフェイズがヒットするかもしれない。すると、とてもよく似た時計が掲載されているこのフォーラムにたどり着く。一番下までスクロールすると、あるコメント投稿者が(元の投稿から何年も経ってから)こう指摘している。そのよく似た時計はボナムズが出品しているものと同一のケースバックを持っているが、ダイヤルはわずかに異なり、どうやらミネルバでありながらミネルバではないようだ。
再び、唸ってしまう。
結局のところ、これはおそらくミネルバが余ったパーツで組み立てた、一種のパーツウォッチの可能性が高い。ケースバックの内側にはトゥルノーの刻印があり、クロノグラフのブリッジは削られてムーブメントは無銘になっている(前述のコメント投稿者によると、ムーブメントはもともとワックマンだったようだ)。さらに、バルジュー730はムーンフェイズを追加するために改造されているのだ。より深く掘り下げると、このトゥルノー Ref.4356が見つかるかもしれないが、これも結局同じ時計ということになる。そしてボナムズから届いた写真により、フォーラムで言及された個体と、オークションに出品されている時計は別物であるものの、同一ロットであることが判明した。
ここまで来ると、テセウスの船に近い。これは手巻きのクロノグラフが著しく過小評価されていた1980年代に組み立てられた可能性が高く、果たして無銘のムーブメントとトゥルノーのケースを持ちながらもミネルバと言えるのだろうか? この時点でもうお手上げで、哲学的な思索はほかの誰かに任せたい気分になっているだろう。ただこの時計が美しいことは確かなのだ。そしてある種の正しさには限界がある。執筆時点で1100ユーロ(日本円で約20万円)まで入札されているこの高貴なコレクターのコレクションは、4月8日にオークションが開催される(編注;現在オークションは終了している)。
クロワゾネダイヤルを備えたオメガ コンステレーション Ref.2699
これは、どんなまとめ記事でも自動的に掲載されるべき数少ない時計のひとつだ。今あなたが目を奪われているのは1954年製で18Kイエローゴールド(YG)製のRef. 2699であり、すべてのコンステレーションのケースバックに見られるように、ジュネーブ天文台(正確にはジュネーブ天文台の円頂塔)をモチーフにしたクロワゾネダイヤルを備え、ごくわずかなモデルのひとつだ。
オメガのウェブサイトによると、クロワゾネダイヤルとは“髪の毛よりも細い金の糸でエナメルデザインにおける色の各領域を区切り、それぞれの色の輪郭をなぞるように仕上げる”ものだ。言うまでもなく、この特別なダイヤルはオメガがスターン・フレール社に発注したものであり、その出自も申し分ない。ダイヤルのエナメル加工は、複数回の焼成を必要とする多工程かつ反復プロセスであるため、歩留はきわめて低いことで知られている。
しかし、それがすべてうまくいったときの仕上がりは、とにかくこの時計を見ればわかるだろう。
キーストーン(The Keystone)が出品するこの個体は、40万ドル(日本円で約6300万円)というきわめて高額な価格が付けられているが、それについて客観的に論じるのは難しい。もしダイヤルを度外視して、例えば先週のオメガ グラン リュクスのように扱ってみると、ケースはシャープに見え、ブレスレット自体もとても珍しいものだ。状態は素晴らしく、時計の各パーツ(リューズや針)が18KYG製であることはもちろん、72年前の時計としては申し分なく、オリジナルで素晴らしい状態に見える。しかしこの時計がクロノメーター級のバンパー式ムーブメント Cal.354を搭載し、ミッドセンチュリーのオメガであること、つまり史上最高の時計会社のひとつが迎えた最高の時代のものであることを考えれば、その驚異的で希少なダイヤルがなくても素晴らしい時計だっただろう。
しかし、ここではダイヤルがすべてだ。ほかのすべて(ほとんど摩耗のないケースバックでさえ)が霞むほど、あまりに重要かつ希少である。オメガ自身も2007年に、同社のミュージアムのためにクロワゾネダイヤルのRef.2699を15万2500スイスフラン(当時のレートで約1500万円)で購入しており、フィリップスは2017年に同一のゴールドブレスレット付きの個体を10万6250スイスフラン(当時のレートで約1200万円)で販売した。40万ドル(日本円で約6300万円)が適正価格かどうかは私には見当もつかないが、これは歴史的に重要かつ希少な時計であり、このような高みに達すると、そこには私の想像を超える力が働いているのだろう。
サーチナ Ref.8701.504
オークションカタログにはこのサーチナが“クロノグラフのセンターミニッツカウンターを搭載した最初の時計”であると記載されているが、これは事実ではない。一例を挙げると、この時計が生まれるずっと前に、ミドーはマルチセンタークロノを製造していた。
しかし些細な不正確さに惑わされて、この魅力的な時計の検討をやめてしまうのはもったいない。ひと目見れば、これが1970年代の時計だとわかる。ワイルドな色使いと、エフォートレスなグルーヴ感が満載だ。1972年のミュンヘン・オリンピックのために作られたこのクロノリンピックは、明らかにレガッタタイマーでもある。しかしあなたは、なぜこれが明らかにレガッタタイマーだと言えるのかと尋ねるかもしれない。その答えは、センターミニッツカウンターにある。
つまりとても混み合った針の重なりは、上から順にクロノグラフ秒針、分針、クロノグラフのミニッツカウンター、時針となっている。秒針は完全になくなり、アワー積算計は依然として6時位置にある。
ムーブメントを見れば、何か普通ではないことがすぐにわかるだろう。標準的なバルジュー72はブリッジに接続されたふたつの異なる歯車が見えるが、この改造されたサーチナはひとつしかなく、ミニッツカウンターが欠けている。これはセンターの針の重なりに組み込むために、別の位置へ移されている。
執筆時点で300カナダドル(日本円で約3万4000円)まで入札されているこの個体は、おそらくそれほど高額ではない価格で、多くの喜びを提供してくれるだろう。幅40mmという、大きくて存在感のある時計だが、私たちのなかで、自分の天職を見逃したのではないかと考えたことのない人がいるだろうか? もちろん、実際に1972年にタイムスリップしてレガッタに参加することはできないが、このような時計を身に着けることは、その想像を少しだけ満たしてくれるかもしれない。オークションは4月9日に開催される。
話題の記事
Bring a Loupe ミネルバのムーンフェイズ付きトリプルカレンダー・クロノグラフ、クロワゾネダイヤルを備えたオメガ コンステレーション、そして1970年代のサーチナ クロノグラフが登場
Hands-On ポルシェデザインの新マニュファクチュールがフルチタン製の新作クロノグラフ 1を発表
ニューヨーク時計協会、創立160周年記念ガラで120万ドル(約1億9000万円)を調達