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ジュネーブ・ウォッチ・デイズ 2025で見つけた、とびきりワイルドな時計5選

スイスの伝統はネクタイを外し、さまざまな刺激的な試みに挑戦してみせた。

2020年、パンデミックの最中に誕生したジュネーブ・ウォッチ・デイズは、バーゼルワールド崩壊に対するジャン-クリストフ・ババン(Jean-Christophe Babin)氏の急進的な答えだった。必要性と反逆心、その両方が原動力となったのだ。独立系ブランドに光を当てる機動的な野外イベントとして始まったこの催しは、いまや時計業界におけるミラノデザインウィークと呼ぶべき存在に成長している。ホテルやブティック、湖畔のギャラリーが舞台となり、街全体が変貌して、厳しい時代に方向転換を迫られる伝統産業のショーケースとなるのだ。

 今年で5年目を迎えたこのイベントは、参加ブランドが大幅に増加。創設時からのブルガリ、ブライトリング、MB&Fといったブランドに加え、タグ・ホイヤーのような大手新参勢も登場している。さらにシンガー、ユリス・ナルダン、チャペックといった挑戦的な独立系やマイクロブランドも加わり、伝統とクリエイティブな冒険心が入り混じるるつぼを形成している。そしてまさにこの冒険心こそが、ジュネーブ・ウォッチ・デイズを年間カレンダーでもっとも大胆な時計見本市にし、時計製造のワイルドな本能を描き出すキャンバスとしているのだ。ここでは、その精神を体現する5本の時計を紹介したい。


チャペック アンタークティック・ラトラパント “R.U.R.”

 ここ数年、チャペックは人気沸騰中の一体型ブレスレットを備えたスポーツウォッチ分野における力強いモダンな選択肢として、アンタークティックを展開してきた。同モデルの魅力は、クリーンなラインとひと目でわかるブレスレット、そしてそこに大胆なダイヤルデザインを組み合わせている点にある。数年前にラトラパントを発表した際、CEOであるザビエル・デ・ロックモーレル(Xavier de Roquemaurel)氏の発想により、チャペックはクロノグラフ技術を裏から表へと逆転させた。

czapek watch

 熱心な読者なら、この新作アンタークティック・ラトラパント“R.U.R.”が2021年のアンタークティック・ラトラパントをベースにしていることに気づくだろう。すでに完売して久しいモデルの待望の復活であり、今回はロボットの形をしたチャーミングなイースターエッグが仕込まれている。誰も予想しなかっただろうこの遊び心と、見事なムーブメントの仕上げが組み合わさり、静かな裏面を囲むように配された5Nローズゴールドの巻き上げローターが彩りを添える。“R.U.R.”では、アクションの舞台はまさにダイヤルの表側にある。

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Photo by Thor Svaboe

 42.5mmのステンレススティール(SS)ケースは、スペック上では大きく感じられるかもしれないが、46.6mmのラグ・トゥ・ラグという人間工学的な寸法によって、厚さ15.3mmという存在感をうまくまとめている。手首に載せると、テーパーするブレスレットとC字型(わかるだろうか?)のミドルリンク、そして47mm未満のラグ・トゥ・ラグのおかげで驚くほど快適にフィットする。複雑なクロノグラフ機構を愛好する人なら、スプリットセコンド機構がムーブメント裏側に追いやられることに慣れているだろう。しかしチャペックはその常識を覆した。精緻な機構を表側に堂々と見せ、スケルトン化された構造が毎時2万8800振動で駆動し、60時間のパワーリザーブを誇る。その緻密なモノクロームのギアスケープは、拡大して眺めると意外なほど楽しい世界を見せてくれるのだ。

czapek watch

 クロノグラフ機構には水平クラッチとふたつのコラムホイールが備わっており、そのひとつは12時位置に配された精巧なロボットヘッドの下にある。クロノグラフがスタートするとその目は黄色に、停止すると赤に、リセットすると青に変わる仕組み。このSF的なテーマは、見返し部分のサファイア製チャプターリングやインダイヤルの縁にも引き継がれており、そこにはエイリアンの文字のような記号が刻まれている。実際には、映画『プレデター』に登場するアルファベットに着想を得たもので、X文字をもじった遊び心でもある。そのアイデアの背後にあるCEOのひらめきが誰のものなのかは、読者諸氏の想像に委ねたい。

 詳しくはこちらから。


ルノー・ティシエ マンデー オーガニカ

 ドミニク・ルノー(Dominique Renaud)氏は発明家肌の時計師であり、ルノー・エ・パピにおける彼の功績がその尽きることのない創造力を雄弁に物語っている。2023年、ルノー氏はジュリアン・ティシエ(Julien Tixier)氏と手を組み、ルノー・ティシエを発表。控えめなダイヤルと、ほかにはない詩的な設計を持つマイクロロータームーブメント、Cal.RVI2023とを組み合わせたデビュー作を世に送り出した。

Renaud Tixier Monday Organica

 この初作ではムーブメントが主役であり、慣性ホイールと“ダンサー”スプリングによってマイクロローターの効率を高める独自設計が採用されていた。このあいだルノー氏と会った際のハイライトのひとつは、彼が原理を示すために、初めに組み上げたレゴ®テクニック製のモックアップを実際に見せてくれたことだ(これは実話である)。きわめて精密さを要求される時計製造のミクロスケールに、この繊細な機構を収めつつ、EVのエネルギー回生システムを想起させる自動車工学の発想を重ね合わせているのだ。

Renaud Tixier

Photo by Thor Svaboe.

 今回の新作では、この独創的なキャリバーが、エナメルアートの巨匠オリヴィエ・ヴォーシェ(Olivier Vaucher)氏によって命を吹き込まれたダイヤルの裏でその実力を発揮している。マンデー オーガニカの各ダイヤルには112時間もの制作工程が費やされ、手彫り、グラン・フー エナメル、触感的な仕上げが重ねられ、曼荼羅のような風景が広がっている。その流麗な模様は一見ランダムに見えるが、実際にはCal.RVI2023の部品を万華鏡のように融合させたものだ。製作本数はわずか7本のみ。ショートラグを備えることで装着感に優れ、側面に彫刻的な波状の凹凸を備えたプラチナケースに収められた本モデルは、直径40.8mm、厚さ12.6mmというサイズ感に仕上がっている。

Renaud Tixier Monday Organica

 初代マンデーと同様に、ケースの深い側面やラグ裏のスペースにはハンドエングレービングが施されている。プラチナとエナメルは光を受けて催眠的に揺らめき、とりわけ撮影泣かせの光沢あるブルーが強い印象を残す。その流麗な造形に費やされた膨大な時間を思えば、このダイヤルにはどこかお守りのような力が宿っている。そしてそれは、裏蓋のサファイアクリスタル越しに広がる都市景観に匹敵する存在感を放っているのだ。マンデー オーガニカは時計というよりもむしろひとつのマニフェストであり、創造力が先導したとき、時間表示はどのような姿になりうるのかを問いかけている。

 詳細はこちらから。


ビアンシェ ウルトラフィーノ サファイア

 正直に言えば、私はサファイアクリスタルケースの時計にはあまり好意的ではないし、それは決して新しいコンセプトでもない。では、この新しいビアンシェを“ワイルド”たらしめているものは何か? ヒントはモデル名にある。ウルトラフィーノとはイタリア語で超薄型を意味する。ビアンシェは、厚さわずか9.8mmのサファイアケースに多くを詰め込み、市場で最薄となるフライングトゥールビヨンを実現。ほかのトゥールビヨンモデルが15〜17mmの厚さであることを考えれば、その差は驚異的だ。

Bianchet Ultrafino Sapphire

 ムーブメントのUT01 フライングトゥールビヨンは、スペック上でも驚嘆に値する。曲線を描くケースは50m防水を誇り、これはサファイア製としてはきわめて珍しい仕様だ。その防水性を可能にしているのがホワイトラバー製のガスケットで、上下にある透明なケースのあいだに挟み込まれているのが確認できる。そしてそれは、滑らかなFKMラバーストラップとも見事に調和している。

Bianchet Ultrafino

Photo by Thor Svaboe

 ケース径は40mm、ラグ・トゥ・ラグは47.5mmだ。このビアンシェのワイルドさは、サファイアケースウォッチというジャンルの常識を真逆に表現している点にある。派手でもなく、けばけばしい色彩でもなく、圧倒的に大きいわけでもない。創業者ロドルフォ・フェスタ・ビアンシェ(Rodolfo Festa Bianchet)氏とエマニュエル・フェスタ・ビアンシェ(Emmanuelle Festa Bianchet)氏と話しているあいだ、この時計が放つ控えめな魅力に私は強く心を打たれた。サファイアケースウォッチ、ましてやトゥールビヨン搭載の時計からは到底期待できないような魅力だったのだ。

Bianchet Ultrafino Sapphire

 ビアンシェは、トゥールビヨンムーブメントを搭載したトノー型デザインに鋭く焦点を当ててきた。チタンやカーボンファイバー製のバージョンも展開しており、繊細なブリッジワークと落ち着いた対称性がその特徴である。実を言うと、今回が初めてサファイアケースウォッチを本気で欲しいと思った瞬間だった。まさか自分がそう感じるとは思いもしなかった。

 詳細はこちらから。


シンガー カバジェロ

 私はついにシンガーの怪物ダイブトラックを試着する機会を得た。シャツの袖口に押し込んで(そのまま持ち出そうと?)みたりもした。だが、建築事務所のようで時計工房らしからぬ雰囲気のジュネーブのスタジオで本当に目を引いたのは、意外にもカバジェロだった。

Singer Caballero

 スペイン語で紳士を意味する名を冠したこの時計は、デザイナーのマルコ・ボラッチーノ(Marco Borracino)氏によるラディカルかつドレッシーな方向転換であり、最初は4つの点で懸念を抱いたものの、実際には見事に成立していた。シンガー カバジェロはブランド初のドレス寄りでミニマルなタイムオンリーピースであり、想像以上に複雑なムーブメントを搭載している。ツイン構造のダブルバレルを備え、堂々たる6日間のパワーリザーブを誇るCal.4が、その実力をダイヤル上で誇示しているのだ。そしてその表現は賛否を呼びそうだ。光沢ラッカー仕上げのミニマルさが、カウンターサンク加工された4つのルビーによって分断されているからである。

singer caballero

Photo by Thor Svaboe

 スペック上では好印象を抱かなかったが、この4つのルビーは、4つの香箱によって得られる高いクロノメトリック性能を語りかける会話のきっかけになっている。実際に手首に載せてみると、印象は一変。直径39mm、厚さ10.5mmのケースは驚くほど快適で、クラシックなCシェイプをモダナイズしたデザインが効いている。プレス写真ではこの目立つルビーが奇妙に見えたり、場違いにすら映ることもあったのだ。

Singer Caballero

 しかし実物は、特にブラックやブルーのラッカーダイヤル上で、ルビーが放つ紫がかった半透明の輝きが鮮烈なアクセントとなり、強烈に心を掴まれた。価格はおよそ1万7500スイスフラン(日本円で約330万円)と決して手ごろではないが、ダイヤルに込められた緻密なディテール、オープンワークされたムーブメント、そしてルビーをあえて露出させた大胆な発想が、ジュネーブ・ウォッチ・デイズを通じて私の記憶に深く焼き付いた。

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ベーレンス×ヴィアネイ・ハルター KWH

 若手がレジェンドと手を組むと、最高のコラボレーションが生まれることがある。中国のテクノロジー志向ブランドであるベーレンスと、スチームパンクの象徴的存在であるヴィアネイ・ハルター(Vianney Haleter)氏のタッグは、その好例だ。ヴィアネイ・ハルター氏は彼の世代でもっとも称賛される独立時計師のひとりであり、2000年から独立時計師アカデミー(AHCI)のメンバーを務め、近年ではルイ・エラールなどのブランドでも魔法のような腕前を振るってきた。

Behrens x Vianney Halter KWH

 マスターコレクション KWHは、時計というよりも電気的遺物がよみがえったかのような作品だ。ラウンド型のローズゴールド(RG)またはホワイトゴールド(WG)ケースのなかで、ダイヤルは生命を宿したように動き続ける。インスピレーションはヴィンテージ計器にあるが、その表現は臆することなく未来的で、スネークゲームやテトリスを思わせる要素までもが織り込まれている。説明どおりのワイルドさでありながら、精緻な仕上げを施し、ハルターらしいモダンかつ独創的なスタイルにまとめあげている。

Behrens

 870点もの部品で構成されるCal.BM06が、この壮観を支えている。ふたつの香箱から供給されるエネルギーは、ヘビに着想を得たダイヤル上を這うルビー付きチェーンに伝わり、時を示す。一方で回転ドラムは分表示(右側)、パワーリザーブと昼夜表示(左側)を担う。アーケードゲーム的なノスタルジーと時計製造の才知が等しく注ぎ込まれ、裏側には静かなムーンフェイズと日付表示が備わり、この複雑な世界観を完成させている。

Behrens x Vianney Halter KWH

  RGとWGを合わせてわずか18本限定で製作されたこのKWHは、万人受けを狙ったものではない。だが、機械的想像力を限界まで押し広げようとするふたりの情熱から生まれた、堂々たるエキセントリックさを体現している。

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