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Hands-On グランドセイコー テンタグラフの始まりから現在までを振り返る

2023年にグランドセイコー初の機械式クロノグラフとして第1作目が登場した、テンタグラフ。今年、一挙に限定モデルを含む3型が発表されて勢いづく同シリーズについて、改めて俯瞰的に振り返ってみる。

テンタグラフ(TENTAGRAPH)とは厳密にはモデル名ではなく、Cal.9SC5の特徴である“TEN beat(10振動)”、“Three days(3日間持続)”、“Automatic(自動巻き)”、“ChronoGRAPH”から名付けられたムーブメントの名称である…、という話もだいぶ浸透してきた印象がある。初代搭載モデルであるエボリューション9 コレクション SLGC001が登場したのは、今から2年前の2023年。同年のWatches & Wondersにて、グランドセイコー初の機械式クロノグラフとして大々的に発表された。企画を担当したセイコーウオッチ商品企画一部の江頭康平氏いわく、機械式の高振動クロノグラフの構想自体はその10年前よりあったという。しかしグランドセイコーとして十分なスペックを有した高振動クロノグラフの製作は難航したようで、この年に満を辞してのリリースとなった。

中央が2023年発表のSLGC001。両脇はともに、2025年のWatshes & Wondersで発表されたもの。

 なぜ今改めて、テンタグラフ搭載モデルを扱うのか。その理由は今年、限定モデルを含む3型が一挙に発表されたからである。内訳はWatches & Wondersで2型と、10月に限定モデルが1型となる。特に、4月にお目見えとなったトウキョウライオン テンタグラフ SLGC009はスポーツコレクションからのリリースとなったことで、同じムーブメントを搭載しながらまったく異なるデザインアプローチとなった。ラインナップが大きく拡充されたこのタイミングで、テンタグラフとは何かを動画の内容に沿って順に見ていきたい。


初代モデルで振り返る、ブランド初の機械式クロノグラフ“テンタグラフ”

2023年に登場した初代テンタグラフ搭載モデルことSLGC001は、3万6000振動/時の高振動が実現する高精度と、クロノグラフを作動時でも72時間の連続駆動時間を誇るハイスペックな機械式クロノグラフとして登場した。テンタグラフ、すなわちグランドセイコー初の機械式クロノグラフCal.9SC5は、ベースとなったCal.9SA5の文字盤側にクロノグラフモジュールを加える構造を採用している。本来であれば一体型ムーブメントとすることも技術的には可能であったが、あえてモジュール式を選択した背景には、1960年の誕生以来グランドセイコーのプロダクトに一貫して通底する、精度や使いやすさ、耐久性といった腕時計の本質を追求する姿勢がある。構造が複雑になりやすい一体型のクロノグラフに対して、モジュール式を採用することで計時部とクロノグラフ部それぞれの負荷が軽減され、メンテナンス性も格段に向上する。ブランドは精度と堅牢さを最優先した結果として、モジュール式という選択肢をとったのである。

Cal.9SC5

 なお前述のとおり、高振動で駆動する機械式クロノグラフという構想自体は、テンタグラフの登場よりおよそ10年前からすでにセイコーウオッチ社内に存在していた。グランドセイコーにおいて現代的なスペックを求めるとき、特にクロノグラフの搭載を考慮する場合には、パワーリザーブの長さは妥協できないポイントである。55時間のパワーリザーブを有する別のムーブメントをベースとする案も検討されていたようだが、実際にテンタグラフの開発が本格的に進みだしたのは、新たな基幹キャリバーとなるCal.9SA5が2020年に登場してからであった。

 デザインにおいては、2020年に登場した新たなデザイン言語“エボリューション9スタイル”が採用された。ケース径は43.2mm、厚さは15.3mmと存在感のあるサイズだが、ラグトゥラグが51.5mmに抑えられ、さらに重心を低く手首寄りに設定することで、数値から想像される印象を良い意味で裏切る装着感を実現している。文字盤には、グランドセイコーの機械式モデルの故郷の地にそびえる荘厳な岩手山の岩肌をイメージしたモチーフが型打ちによって施され、その上からブランドカラーを想起させる深い青が重ねられている。光の加減によって多彩な表情を見せながら、美しい煌めきを放つ仕上がりとなっている。

 こうして本作は、ハイビート×ロングパワーリザーブという技術的スペックと、日本的な自然描写による美観という両面において、高い評価を集めることとなった。


2025年に追加されたふたつのテンタグラフと、GSの理念

SLGC007

2023年の登場以降、レギュラーモデルとしてはしばらくSLGC001のみの展開であった。ところが2025年には、Watches & Wondersにおいて、ふたつのモデルが同時に発表され、我々を驚かせた。ひとつは、エボリューション9スタイルのケースにパンダダイヤルを組み合わせたSLGC007である。こちらはSLGC001と同じ岩手山ダイヤルの上に淡いブルーを重ねており、よりスポーティな印象が強まっている。もうひとつは、ブランド内で“トウキョウライオン”と呼ばれるシリーズに属する。このモデルだけはスポーツコレクションからのリリースとなっており、現在のグランドセイコーで実現し得る最高のスポーツウォッチを作るべく企画が立ち上がり、その結果としてテンタグラフムーブメントが採用されたモデルなのだという。SLGC007、そしてSLGC009。両者はテンタグラフというムーブメントを共通の要素としながら、外見も性質もまったく異なる時計に仕上がっている。

SLGC009

 トウキョウライオンの登場は、ケースやデザインコードが変わろうとも、搭載されるムーブメントが同じである限りそれは“テンタグラフ”であるという関係性をより明快に示すものとなった。なお編集長・関口は動画のなかで、テンタグラフのなかではトウキョウライオンが最も好みだと語っている。腕時計に強い個性を求めるという嗜好に加え、小型の時計がスタンダードになりつつあるなかで、大振りなフォルムにはその時計を選んで着けている感覚や独自の存在感を楽しんでいるようだ。先日ISHIDA新宿で行なったインタビュー(インタビューの全文はこちら)でも、そのデザインに惹かれてトウキョウライオンを名指しで購入する顧客が多いという話が聞かれた。もちろん、明確にスポーツウォッチを意識した豊かな造形そのものが大きな魅力であるが、それに加えて、着け心地を高く評価する声も数多く寄せられている。

 グランドセイコーはエボリューション9 コレクションの誕生当初から、一貫して時計としての着け心地を重視していると公言している。SLGC001、SLGC007においても、幅広でテーパーを控えめにした高い安定性のブレスレットを採用し、ケースバックにも手首に自然に沿うわずかなカーブが与えられている。トウキョウライオンの設計思想もその延長線上にあり、低い重心と湾曲したケースバックに加え、幅広でヘッド側に適度な厚みを持たせたラバーストラップが手首をしっかりとホールドしてくれる。さらにストラップ裏面には特徴的なパターンが施されており、肌との接地面を減らすことで、ラバーストラップにまつわる話題でしばしば取り上げられる“蒸れ”への配慮も行き届いている。

 アジア圏を中心に小径モデルへの熱が高まっているなかにあっても、グランドセイコーはそうしたトレンドに安易に迎合していないように見える。43mmを超えるテンタグラフを展開する一方で、ブランドは2025年にスプリングドライブ U.F.A.を搭載したSLGB003を37mm径で発表している。しかしこれは、小さなサイズへ一方向に舵を切ったということではなく、手首のサイズや形によって“何がジャストか”は人それぞれであるという考えのもと、ラインナップを充実させつつ、それぞれのサイズごとの着用感を突き詰めようとしている結果だと言える。 

 グランドセイコーは究極の実用時計であることを掲げるブランドだ。テンタグラフ搭載機を含め、もっと薄く、小型にできる余地はあっても、耐久性や防水性を確保するためにあえて大きなサイズ感を維持することもある。そしてそのうえで、ツールとしてのベストな着用感を求め、素材、造形など各方面からのアプローチを諦めない。その結果として、ブランドらしさを前面に打ち出した、“グランドセイコーにしか作れない1本”に帰結しているのである。昨今ではインディペンデントブランドもかつてない勢いを見せており、時計に個性を求める向きも強くなっている。トウキョウライオン、ひいてはテンタグラフは、そういった意味では時計愛好家に求められる時計に仕上がっているのかもしれない。


限定として登場した、コンビカラーのテンタグラフ

SLGC006(国内200本限定)

そして2025年10月には、もうひとつの限定モデルが登場した。それが世界限定300本、うち国内割り当てが200本のコンビ仕様のSLGC006である。SLGC001、SLGC007とは異なる勇壮な岩手山パターンを採用しており、とりわけ本作では朝の陽光に輝く岩手山の姿をカッパーピンクで表現している。ケースにはブライトチタンを使用しながら、リューズにプッシャー、ベゼルの縁など要所に18Kピンクゴールドをあしらった。エボリューション9スタイルを踏襲した2作がオーソドックスなルックスにまとまっていたのに対し、本作はトウキョウライオンにも通じる少し尖った個性が感じ取れるようだ。

 パンダダイヤルがそもそも好みと語るエディター・和田の目から見ても、SLGC006のカラーリングには独特のエレガントさがあるという。いわゆるコンビカラーの時計はコーデに取り入れにくい印象があるが、本作についてはむしろ日常のスタイルにも自然になじみ、取り入れやすい1本だと感じさせてくれる。特に3時位置のスモールセコンドのカラーを変更した点は、視認性という実用面を高めるだけでなく、文字盤全体の表情に程よいアクセントを添えるディテールとしても機能してくれる。限定モデルならではの、コンテンポラリーな提案といえるのではないだろうか。なお、コンビカラーは少なくとも今後しばらくは限定モデルのみの特権となりそうである。


現代のトレンドに見るグランドセイコー テンタグラフ

2025年にグランドセイコーはテンタグラフのラインナップを型数でもデザインの幅という意味でも拡充したが、近年の時計トレンドにおいて特にクロノグラフが主役というわけではない。たとえばブレゲはタイプ20を手巻きと自動巻きの両方で復刻し、A.ランゲ&ゾーネはスポーツモデルであるオデュッセウスのハニーゴールドモデルを投下した。しかしわざわざクロノグラフムーブメントを自社開発し、発表するブランドは全体で見るとそれほど多くないのが現状だ。スイスブランドのほとんどは、いわゆる汎用ムーブメントをベースに展開しており、そのなかで薄型化やスペックの向上など総合力に重きを置いた戦略をとっている。

 そのなかでグランドセイコーは、テンタグラフにおいてそのこだわりを前面に打ち出し、独自の立ち位置を確立している。現在このプライスゾーンにおいて、機械式クロノグラフというジャンルのなかで、ここまで明確にブランドのフィロソフィーを反映させたプロダクトを送り出しているブランドは決して多くない。前述のあえてモジュール式を選択した点や、着け心地への徹底した取り組みも含め、テンタグラフはグランドセイコーらしさを体現したクロノグラフとして、きわめてユニークな選択肢になっている。

 今回の動画内では、これまでテンタグラフを間近で見続けてきたHODINKEE Japan編集長・関口と、Webプロデューサー兼エディターの和田のふたりが、本シリーズについてトークを繰り広げている。ふたりによるより詳細なインプレッションは、ぜひ動画本編で確かめてほしい。

Video by Kazune Yahikozawa (Paradrift Inc.) Camera Assistance by Natsuki Okuda Sound Record by Saburo Saito (Paradrift Inc. ) Video Direction  by Marin Kanii Video Edit by  Nanami Maeda  Video Produce by Yuki Sato

Photographs by Masaharu Wada, Yusuke Mutagami, Kosei Otoyoshi Cooperation by HOSHINOYA Tokyo