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谷原章介氏が語る、ホイヤーのレーシングクロノグラフとポルシェ993

爽やかな語り口と柔らかな物腰を備えた、俳優にして司会者。ところが谷原章介氏は、大好きなクルマや時計のコレクションの話になると、すっかり少年のような表情に戻ってしまう。大人の男の色気と年季の入ったコレクター魂は、いかにして両立するのか?

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HODINKEE Japanでは2026年10月30日(金)から11月5日(木)まで、Car & Watch Week 2026としてクルマやそれに関する時計に焦点を当てた特集を公開している。このウィークのために用意した新規取材記事をサイト上で毎日配信していく予定だ。すでに公開されたコンテンツについてはこちらから確認して欲しい。

HODINKEE Japanローンチ5周年の特別企画を機に、2025年3月公開の「Talking Watches」に登場していただいた谷原章介氏。同企画で膨大なコレクションの一部を披露してくれた谷原氏に、再び取材する機会を得た。今回、話の中心となったのはホイヤーだ。膨大なコレクションのなかから、サーキットやモータースポーツにゆかりのあるヴィンテージモデルを取り上げ、それぞれの時計にまつわる思い出や愛着をうかがった。

 取材当日の待ち合わせに、谷原氏は数台ある愛車のなかから「ポルシェ911カレラ」を駆って現れた。空冷エンジンを搭載した最後の911である993型で、1996年式の後期モデルだ。しかもポルシェジャパン以前のインポーターだったミツワが正規輸入した個体で、左ハンドルのマニュアルシフトという、マニア垂涎の仕様だったりする。

 「バリオラム(※)が入っていて力強いエンジンですし、アイドリングも安定していて調子いいんですよ」

 過激なチューニングを施した特別仕様ではない。しかし、クラシックとしての価値も備えた993型を自ら運転して楽しむ姿に、谷原氏らしいクルマとの付き合い方が表れている。

 「この993は入手してから、まだ5~6年ぐらいですかね」

 20代の頃から30数年も乗り続けているクルマや、ほかにも自分の生まれ年より古いクルマを乗りこなす谷原氏にとって、5~6年という所有期間は、谷原氏にとっては比較的新しい付き合いに感じられるのだろう。

※ポルシェが開発した可変吸気システム「バリオラム(VarioRam)」のこと。エンジンの運転状態に応じてインテークマニホールド(吸気管)の有効長を切り替えることで吸気効率を高め、幅広い回転域で良好なトルク特性を実現する。993型911の3.6リッターエンジンには1996年モデルから採用された。

「今も仲良くしてもらっていますけど、20代の頃に川崎駅の西口にあるスイートロードさんによく遊びに行っていたんです。友達のスタッフからいろいろと時計を見せてもらうなかに、“タグ”の付いていない“ホイヤー”の時計があって。なんでこれ、タグ・ホイヤーじゃないの? って気になりはじめたんですよ。そこからホイヤーに注目するようになったのですが、純粋にカッコいいなと思ったんです。当時はF1でアイルトン・セナがタグ・ホイヤーのクォーツモデルを着けていましたけど、実をいうと当時のモデルにはあまり興味を引かれなかったんです(苦笑)。でもセナのファンでしたし、モータースポーツとホイヤーって、今もF1の公式パートナーやタイムキーパーを務めているように切っても切れない関係なんですよね」

 自ら古いホイヤーについて調べては、折々に買い集めるようになったそうで、谷原氏のホイヤーコレクションはいまや膨大な数にのぼる(残念ながら、今回も“クルマやレースと関係のあるモデル”をピックアップしているため、その全貌の紹介はまたの機会に…)。彼の目下のお気に入りは、第2世代オータヴィアのコンプレッサーケースを採用したモデルだ。


ホイヤー オータヴィア コンプレッサーケース

 「アメリカの時計ディーラーから十数年前に手に入れました。オータヴィアはオートモービルとアビエーションを合わせた造語じゃないですか。もともとクルマ好きでしたし、オータヴィアはいつか手に入れたいなと思っていたんです。ホイヤーには世界各地のサーキットの名を冠したシリーズがありましたが、そちらとは異なる野心を感じさせるという意味で興味深い存在でした。本当は裏蓋がねじ込み式の最初期モデルが欲しかったんですけど、なかなかいいものが出てこなくて。でも第2世代の2446Cを見つけて購入しました。アメリカから送られてきましたけど、ちゃんとバルジュー72が入っていて安心しました」

 第2世代オータヴィアは、第3世代の有名なクッションケースを採用する以前、1968~69年のたった2年間しか販売されなかった。谷原氏が所有するRef.2446Cは、第1世代から引き継がれたバルジュー72を搭載する3レジスター仕様だ。第2世代のコンプレッサーケースには、バルジュー7730を搭載する2レジスターのRef.7763Cも存在する。

 第2世代のオータヴィアは、わずか2年間しか販売されなかったものの、ダイヤルと針には2種類のバージョンが存在する。ドーフィン型の針やオレンジ色のインデックスを採用した第1世代とは異なり、ブラックとホワイトを基調としたダイヤルにシンプルなスティック針とアプライドインデックスを持つ仕様、そしてもうひとつが針をブラックストライプにペイントし、ダイヤルとクロノグラフ秒針にアクセントカラーとして赤を用いた仕様だ。谷原氏のオータヴィアは前者の仕様で、第2世代特有の角張ったラグやメタルブレスレットと相まって、味わい深いヴィンテージの風格を漂わせている。


ホイヤー カマロ 12

 「カマロも一時期、凝ってけっこう集めていましたね。バルジュー72が入っているモデルと、日付表示なしで7730や7733の入っているモデルがあって。72と両方とも揃えたいなと思って、何本か買い求めました。いまやカマロも100万円を超えてしまいましたが、僕が買っていたのは20~30万円の頃。おそらくロレックスのコスモグラフ デイトナの人気に引っ張られてのことだと思うんですけど、バルジュー72搭載モデルが軒並み上がってしまう前の話ですね」

 1968年に発表されたカマロは、カレラやオータヴィアが1969年に自動巻きモデルを加えたのに対し、最後まで手巻きムーブメントのみを採用したクロノグラフだ。販売期間も1972年までと比較的短かった。ジャック・ホイヤーはシボレー・カマロにちなんで命名したことを隠そうとしなかったと言われる。シボレー・カマロは、フォード・マスタングに対抗するコンパクトな高性能車として登場した。当時のアメリカでは、こうした高性能車が活躍するドラッグレースやストックカーレースが若者たちの熱狂を集めていた。ボリュームが出やすいクッションケースながら、縦横37mmというコンパクトなサイズを実現している。現代の時計と比べても、そのプロポーションはきわめて新鮮だ。

 谷原氏が所有するこのモデルは、3つのインダイヤルを備え、12時間積算計を搭載する「カマロ 12」だ。このほか、30分積算計を備える2レジスターの「カマロ 30」や、45分積算計を備える「カマロ 45」、日付表示付きのモデルも存在する。

 「あと、ハミルトンに供給されていたハミルトンネームのカマロも持っていますよ」と、谷原氏。その守備範囲の広さには驚くばかりだ。


ホイヤー デイトナ Ref.110.203 B

 1960年代のカレラやオータヴィアを第1世代とし、1969年以降、自動巻きクロノグラフの登場とともに大型化が進み、スポーツモデルにクッション型や角型ケースといったアヴァンギャルドなデザインを採用してきた1970年前後のシリーズが第2世代とすれば、1976年に発表された「デイトナ」クロノグラフはCal.12を搭載し、満を持して発表された第3世代の新しいクロノグラフだった。1970年代前半の大胆で個性的なデザインから一転し、滑らかなエッジによるベゼルレスのケースに、風防の下に収められたタキメーター、ふたつのインダイヤルと、6時位置に配された日付表示など、洗練されたエレガントなクロノグラフに仕上がっていた。

 「ホイヤーが当時手がけていた世界各地のサーキットの名を冠したシリーズのなかでも、デイトナには格別の存在感がありますよね。自動巻きクロノグラフ専用のムーブメントってあの時代、いろいろなブランドが“世界初”を謳っていた訳ですけど、ホイヤーやブライトリングらが協力して作り上げたデュボア・デプラ製のキャリバーは、リューズが左側にあって、そのメリットを形としても機能としても示していたと感じています。このデイトナを入手したのは確か16~17年前。以前、Talking Watchesのなかでもお話したハラマと同じぐらいの時期でした」


ホイヤー ハラマ Ref.110.245

 以前のTalking Watchesをご覧になった読者なら、このホイヤー ハラマを覚えているかもしれない。ホイヤーのサーキット名シリーズのクロノグラフのなかでも、ハラマはゴールドとブラックの鮮やかなコントラストに、39mmのクッションケースを組み合わせた存在感のあるモデルで、1970年代のテイストを強く感じさせる。

 「これはすごく思い出深い1本なんです。以前もお話しましたけど、仕事でニューヨークに行った時、MoMAからの帰りにフードスタンドの前で、路上で eBayの落札の報を受け取りました(笑)。出品者はニューヨークの時計屋さんだったんですけど、お店だと裏蓋を開けてくださいとか言いづらいですが、ちゃんとしたオンラインオークションだと、画像で中も外装も確認できて、サイトによる保証が付いていることも多い。落札できてうれしかったんですけど、セキュリティの関係なのか、ニューヨークのお店で直接引き取れなくて帰国後に受け取りました」

 谷原氏が所有するモデルは、SSケースにゴールドのフルーテッドベゼルとブラックダイヤルを組み合わせた仕様だ。同じくコンビ外装でシャンパンゴールドダイヤルのRef.110.225のほか、フラットなブラックベゼルにブラックダイヤルというSSモデルのRef.110.223がある。


ホイヤー モントリオール Ref.110.503B

 カナダ・ケベック州の都市モントリオールは、モータースポーツとも深い縁がある。1978年には、ノートルダム島に設けられたサーキット・イル・ノートルダム(Circuit Île Notre-Dame)で初めてF1カナダGPが開催された。1978年のカナダGPでは、地元ケベック州出身のジル・ヴィルヌーヴがF1初優勝を飾った。ヴィルヌーヴは1982年5月8日、ベルギーのゾルダー・サーキットで行われたF1ベルギーGPの予選中に事故に遭い、帰らぬ人となった。彼の功績をたたえて、モントリオールのサーキットは「ジル・ヴィルヌーヴ・サーキット」と改称された。彼はジャック・ヴィルヌーヴの亡き父親であり、エンツォ・フェラーリのお気に入りドライバーだった。

 「これは確かモントリオールでは最初期のブルーダイヤルモデルで、モナコにも通じる雰囲気があると思うんですが、30分積算計には5分ごとにイエローのストライプが入っています」

 モントリオール クロノグラフは1972年に発表されたモデルで、42mmという当時としてもかなりの大型であり、サテン仕上げのケースに新開発のCal.12を搭載していた。タグ・ホイヤー公式アーカイブではモントリオールの名称はサーキットではなく、都市の活力や国際性に着想を得たものと説明しており、厳密に言えばサーキット名に由来するモデルではないものの、カレラやモナコ、モンツァと並んで1970年代前半のホイヤーを代表する存在だった。1977年にはバルジュー7750を搭載する新しいモントリオールが登場し、ケース径も41mmへとやや小型化された。Cal.12搭載モデルの生産期間は1972年から1976年までと比較的短く、1970年代前半のホイヤーらしい大胆なデザインを今に伝える存在だ。

 「これも思い出深いモデルで、ヤフオクで見つけたんです。外装もムーブメントもパキパキの状態で、これは!と思って入札し始めたら、別の人が競り始めて来たんです。15万、16万とジワジワ上がって来た時に、上限を25万円にするつもりで入札したのですが、ひとケタ間違えて250万円って入れちゃったんです(笑)。いやー、焦りましたよ、最終的には22~23万円くらいで決着したのでよかったですが、落札できるまでは追いかけて来られたらどうしようと、シビれました。夜中にビッドしたらダメですね(笑)。何年も昔の話ですけど、そういう自分の物差しで妥当と思えるような価格の時計をいつも探しています」


愛着を超えたモノとの付き合い方 ── 腕時計とポルシェ 911(タイプ993)

自分が発酵していけば何周目か分からないですが、いつか回り回ってよくなったと思える時が来るんです

– 谷原章介

 クルマや時計を所有する理由は、人それぞれだ。デザインに引かれることもあれば、スペックや機能に魅力を感じることもある。実際に使ってみて、初めてそのよさに気づくこともあるだろう。しかし、長年クルマや時計と付き合っていると、性能や価値だけでは説明できない特別な思いが生まれることもある。

 本稿の冒頭で紹介したポルシェ911(993型)は、そんな1台だ。購入にあたってお世話になったのは、自動車販売店を営んでいた親しい友人だったという。

 「すごく仲のいい友人から譲っていただいたので、ちょっとこれは手放せないなって、今は思っています」

 その言葉に飾り気はない。けれども、そこにはクルマそのものへの愛着だけでは説明できない、大切な友人への思いがにじんでいる。993は単なるお気に入りのスポーツカーではないのだ。

 そしてもう1台、谷原氏のクルマとの付き合い方を象徴するのが、30年以上にわたって所有するBMW 2002だ。若い頃に憧れ、手に入れてからは自ら整備に携わり、現在も長距離のドライブに連れ出しているという。楽しい思い出も整備の苦労も、そのクルマとともに積み重ねてきた。一方で、新たなクルマや時計を手に入れるためにコレクションを手放すことも、もちろんあるという。そんな谷原氏だからこそ、大切な友人との記憶が宿る993について「大事な友人から譲っていただいたクルマなので手放せない」と語った言葉が、強く印象に残る。

上のInstagramの投稿にあるのが谷原氏所有のBMW 2002。1966〜1977年にかけて製造・販売された02シリーズを代表する2ドアセダンで、BMW 2002という名前から通称“マルニ”と呼ばれている。

 いわゆる王道の人気モデルよりも、少しだけ主流から外れたものに引かれ、その魅力を見つけ出すことが好きだと話す谷原氏。「ですから、手に入れられるほうが、買いそびれるより全然いいですよ」と、事も無げにいう。

 「今もちょくちょく時計は増えていますけど、値段が上がり過ぎたものには興味ないというか、僕のなかの感覚と折り合わないんです。ずっとウォッチしているから、自分の物差しが決まっちゃっているんでしょうね」

 若い頃、モデルとして活動し、編集者やスタイリストと日常的に接するようになる以前から、谷原氏は、自分が気になったものだけでなく、センスがいいと思う先輩や友人からすすめられたアイテムも、まずは買ってみたという。だからこそ、時計でもクルマでも、心を動かされる出会いを逃さずに、そこで生まれた縁を長く大切にしてきた。

 「そうやっていると、自分の好きなもの、スタイルが見つかってくるじゃないですか。時計でもクルマでもハードの観点から見ている人、ファッションも含めた観点から見る人と、それぞれいると思うんです。僕は圧倒的に後者で、トータルの装いとして、その年代の時計やクルマが服や靴まで含めてどのように組み合わせていけるか。するとだんだん好きなもの、自分に似合うものといった感じで絞り込まれていくと思うんですけど、僕は“全部いい!”というか、“全部が好き”なのでいまだに散らかってます(笑)。自分が発酵していけば何周目か分からないですが、いつか回り回ってよくなったと思える時が来るんです」

 歳を経るごとに、いい味を出していく大人とは、“自ら発酵する”ものなのだ。

衣装協力
ジャケット12万8700円/ブリリア、ニット4万5700円/フィリッポ デ ローレンティス(ともにトヨダトレーディング プレスルーム 03-5350-5567)、その他スタイリスト私物

Styled by Masayuki Onozuka Hair&Make by Masakazu Igarashi(Hakujitsu) Photographs by Jun Udagawa