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Photo Report ダカール・ラリーの砂丘にて

人はここを、理由なく“モータースポーツのエベレスト”と呼んでいるわけではない。


Photos by Zachary Piña

舗装路を離れてから30分近くが経過した。我々のランドローバー ディフェンダーの隊列は今、オレンジ色の壁に囲まれたキャニオンのなかを、目に見えないラインに沿って進んでいる。ほかの車両が通った跡らしきかすかな2本の轍(わだち)はあるが、それは岩の山や小さな砂丘、そして時折現れる口を半開きにしたヒトコブラクダの群れを避けるように不規則な曲線を描いている。このルート選びに論理的な理由はほとんどなさそうだ。先頭車両はその轍を追わず、谷を馬蹄形に囲むようにそびえるギザギザの稜線に向かって、より直線的なルートで道を切り拓いていく。私たちは薄暗く冷房の効いた車内から外へ降り立った。真昼の強烈な太陽光に目を慣らそうと必死になる。「ここがそうなのか?」 と、後方の車両から窓を下ろした誰かが声を上げた。周囲の荒涼とした景色のなかには、私たちが世界で最も伝説的なオフロードレースのコースに到着したことを示す手がかりは、ほとんど見当たらない。

The Dakar Rally

 しかしそのとき音が聞こえてきた。最初はヘリコプター、次にかすかな高く鋭い唸り声だ。それは遠くタトゥイーンの地表をかすめるスピーダー・バイクの音に、高速ストレートの終端で減速するF1マシンの音を混ぜ合わせたような響きで、岩から岩へと反響していた。馬蹄形の向こう側から、速いスピードで動く物体が干上がった川を切り裂き、その後ろに舞い上がる砂塵の柱が見えた。「アルティメットだ!」 視界の端にいた誰かが、双眼鏡越しに首を伸ばして興奮気味に叫んだ。この砂漠の真のヒーローはモーターサイクルかもしれないが、ダカールの内臓を掴まれるような本能的なスピードを実感させてくれるのは、制限なしのアルティメット(最上位)クラスだ。案の定、大胆なラプターのグラフィックを纏ったブルーでアルティメット仕様のフォード T1 が視界に飛び込んできた。その瞬間、私は不意にある事実に気づき、衝撃を受けた。自分はすでにコースの上に立っているのだ。ダカール・ラリーはここにあり、私たちがうねうねと進んできたこの谷全体がコースなのである。

dakar 2026
Dakar 2026

空撮写真: チャーリー・ロペス(Charly Lopez)氏。

Dakar 2026

 毎年1月、開催地となる砂漠の国々を移り変えながら開催されるダカール・ラリーはモータースポーツのなかでも異質な存在だ。名目上はレースだが、実際には人間と10種類のクラスの機械(モーターサイクル、トロフィートラック、デューンバギーがダカール体験の核心だが、ヴィンテージのポルシェが走るクラシック部門こそ、このイベントの本質的な目新しさが光る場所だ)が、二輪や四輪で立ち入れる最も過酷な環境のひとつに挑む試練である。丸2週間にわたるレースは、人間にとっても機械にとっても、むしろ耐久試験に近い。2026年大会の最終ステージで学んだように、勝者を決めるのはスピードではなく、ルートを見つけ出すウェイファインディングの能力だ。それが最も顕著に現れたのが今年のモーターサイクル部門の表彰台で、決着はわずか2秒差(ダカール新記録)だった。圧倒的なリードを保っていた(以前、2回王者に輝いた)リッキー・ブラベック(Ricky Brabec)氏が、最終ステージの残り10kmを切ったところで致命的なナビゲーションミスを犯し、ルチアーノ・ベナビデス(Luciano Benavides)氏に5分近い差を譲ったのである。14日間の過酷なレースを経て、実に見事な幕切れだった。

The Dakar Rally
The Dakar Rally

 2026年大会のダカール・ラリーは、紅海に面した賑やかな港町ヤンブーをスタート・ゴール地点としたが、ラリー全体はアラビア砂漠の人里離れたテリトリーに広がる約5000マイル(約8000km)にわたって展開された。そこはアラビア半島のほぼ全域を覆う、広大で乾燥した荒野だ。すぐにわかったことだが、多くの意味でこれは観客に優しいスポーツではない。2、3分おきにアクションが起き、明確に区切られたコース内で展開されるF1やMotoGPとはまったく異なる。

The Dakar Rally
The Dakar Rally

ダカールのドライバーは、車両の種類にかかわらず全員がパイロットと呼ばれる。写真はカタール出身のナサール・アルアティヤ(Nasser Al-Attiyah)氏。彼が所属するチーム、ダチア・サンドライダーズは、のちに切望されたアルティメット部門で優勝を果たすことになる。

The Dakar Rally

  ダカールのほぼすべてのステージは文字どおり真剣勝負であり、人間と機械が時計との戦いに挑む。つまり一斉スタートもなければ、第1コーナーでのポジション争いもない。パイロットは各クラスごとに数分の間隔を置いて、1台ずつ送り出される。これは各パイロットが自力でナビゲートするのに十分な時間であり、少なくとも前の競技者に追いつく(あるいは後ろから追いつかれる)までは己との戦いになる。2026年のラリーではチューダーが公式タイムキーパーを務めており、同ブランドを象徴する赤い盾のロゴは、計時テントから各車両のナンバープレートのデカール、さらにはさまざまなドライバーやサポートクルーの腕に巻かれた現行世代のレンジャーに至るまで、いたるところで見ることができる。そして、マークによる新しいデューンホワイトの素晴らしい実機レビューもこちらからチェックして欲しい。

The Dakar Rally

 比較対象としてより近いのは、ツール・ド・フランスかもしれない。3週間にわたり、1日の行程で特定の観測ポイントを1回だけ通過していく。しかしそれらの観測ポイントは通常、自転車や二輪駆動車で少し走ればたどり着ける場所にある。そこにこそダカールの魔法がある。ドラマは競技そのものと同じくらい、極限の環境のなかにあるのだ。1977年に開催された最初の大会以来、その伝統は変わっていない。当時はパリをスタートし、サハラ砂漠を越えてアフリカ大陸西端のセネガルの首都ダカールまでレースを繰り広げた。ダカールのルーツはパリにあり、歴史的にはフランス勢が多くのカテゴリーを支配してきた。それに匹敵する成績を収めているのは日本だけだ。のちの大会では大西洋を渡り、険しいアンデス山脈とアタカマ砂漠のエイリアンのような風景が広がる南米の極限の標高に挑んだ。ダカールは2020年にサウジアラビアへと移転し、2026年に第48回大会を迎えたが、スピード、サバイバル、そして技術力という名高い伝統はかつてないほど色濃く残っている。

The Dakar Rally

 日焼けし、砂埃にまみれた私たちは黒いディフェンダーの列に戻り、自分たちのリエゾン(liaison)へと向かった。リエゾンとはダカール用語で、ステージのフィニッシュ地点からビバークまで移動するタイム計測外の区間のことだ。ビバークとはサポート車両、修理工場、その日の表彰台、そしてレーサーや彼らを支える大勢のスタッフのための食事サービスなどが集まった、巨大な移動式キャンプ場である。私たちは砂埃の雲を追いかけてハイウェイに戻り、空っぽの地平線に浮かぶかすかな光に向かって車両を走らせた。

The Dakar Rally

のちに優勝を飾る車両の整備に励むダチア・サンドライダーズのクルー。

 ダカールで開催される各ステージのスタート・フィニッシュ地点に設置されるビバークはモータースポーツ界のバーニングマン(編注;米国ネバダ州で開催される音楽とアートのフェス)であり、銀河系の隅々から集まった砂漠の住人たちで活気づく、まさにモス・アイズリー宇宙港のようだ。ここではけたたましいエンジンの轟音と、空気圧式ボルトガンのシュッという音やブーンという音が鳴り響き、オアシスに喧騒をもたらしている。日が落ちると溶接機の放つ明るい閃光とディーゼル燃料の油臭い匂いが、シュールでナイトクラブのような雰囲気を作り出し、いたるところで五感を圧倒する。

The Dakar Rally

 強烈な白色LEDパネルの霞んだ光の下、毎晩すべてのダカール・パイロットとそのサポートクルーがここに集結し、武勇伝を語り合い、車両を修理し、翌日のステージに向けて準備を整える。ワークスチームもプライベーターも、サポート車両の周囲に仮設のキャンプを設営する。その巨大な6×6トラックには工具やスペアパーツがぎっしりと詰め込まれ、キッチンや就寝スペース、さらにはメカニックを風雨から守るためのポップアウト式の整備ベイまで備わっている。

The Dakar Rally

ダカール3日目、スパのようなメンテナンスを受けるポルシェ 964。

 しかしダカールの真のドラマは環境だけにあるのではない。レースの形式そのものにあるのだ。全13ステージのルートの概略は知らされているが、ステージの正確なルートはレース開始の5分前まで極秘にされる。開始5分前になって初めて、各チームはその日の公式ロードブックのデータを各車両のナビゲーションユニットにダウンロードできる。

The Dakar Rally
The Dakar Rally

チームのナビゲーターが参照するダカールのロードブックのサンプル。

 しかし表示されるのは方位磁針の進路、障害物のマーク、そして主要な通過点のみだ。それらのあいだをつなぐGPSのガイドラインは存在しない。これらの象徴的な記号はダカールのナビゲーターにとっての公用語であり、重要なチェックポイントを結ぶ細い糸のようなものだ。ひとつでも見逃せば、レースタイムに数分から数時間のペナルティが科される。

The Dakar Rally

ファンからの人気も高いマチュー・ボーメル(Mathieu Baumel)氏のナビゲーターとしての信条。

The Dakar Rally

Photo by Charly Lopez

 そしてスピードの問題がある。ダカールは確かにウェイファインディングの正確さと車両を温存する力が求められるレースだ。このふたつの特性は、純粋なスピードの追求とは本来共存しにくい。最も成功しているドライバーはこれらの要素をバランスよく保っている。そして1日の終わりにトップに立った場合、その日のステージ勝者には重要な選択権が与えられる。それは、翌日のステージのスタート順を選ぶことだ。自らの本能とコ・パイロットのナビゲーション能力を信じて先頭を走り、リードを広げるか? それとも先行車の轍を信じて砂埃のなかを走るという、比較的安全な選択肢を採るか?

The Dakar Rally

Photo by Charly Lopez

 1日に数百kmものあいだリアルタイムのサポートはなく、パイロットとビバークに残るクルーとの長距離通信も行われず、砂漠からの救命手段は最も差し迫った緊急事態の際のヘリコプター以外にない。そう考えると、ダカールが“モータースポーツのエベレスト”と呼ばれるのは実にふさわしいことであり、その称号は確かに勝ち取られたものなのだと感じる。

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