Photos by TanTan Wang
昨年ヴァシュロン・コンスタンタンとのコラボレーションによって、オートマトンを搭載したクロック、ラ・ケットゥ・デュ・タンについて詳しく執筆した際にも触れたが、フランソワ・ジュノー(François Junod)氏は機械工学の神童だ。スイスの時計メーカーが、古代から続くオートマタ(自動人形)という芸術を通じて、真の機械的技巧を取り入れたいと考えているなら、連絡すべき人物はほぼひとりしかいない。それがジュノー氏だ。時計界における彼のコラボレーションや受注制作はヴァシュロン・コンスタンタンだけでなく、ヴァン クリーフ&アーペルやオーデマ ピゲとの非常に素晴らしい作品にも及んでいる。
ジュノー氏はマイクロメカニクス、彫刻、デッサンを正式に学んだのち、1984年に故郷のサント・クロワへと戻った。以来、彼はたったひとりで、消えゆく芸術の灯を守り続けてきた。世界最高のオートマタ制作者として広く知られるジュノー氏はこの工芸の現代的なルネサンスを牽引し、彼のワークショップ、そして機械的アニメーションという希有な世界へと、熱心な若い世代の見習いたちを引きつけている。
穏やかな空気が流れるスイス、サント・クロワ。
昨年の夏、ヴァシュロン・コンスタンタンのラ・ケットゥ・デュ・タンが一般公開されるずっと前に実物を見る機会を得たあと、私はジュネーブから100kmほど離れたジュノー氏の故郷へと長く曲がりくねった道をクルマで走らせた。遠くから見ると、そのアトリエは村に並ぶ多くの家々のひとつに溶け込んでいる。しかし近づいてみると、ほかの家とはどこか違う雰囲気が漂い始める。もちろん、バルコニーにある“AUTOMATE”と書かれた巨大な金属製の看板が正体を明かしているのだが、なかにある奇妙で突飛な宝物の存在を本当に予感させるのは、最上階のバルコニーに置かれたふたつの巨大で色鮮やかな鳥の彫刻だろう。そして、そこには実に見事な宝物が眠っていた。
実際に足を踏み入れたときにこのような空間がどれほどシュールで、視覚的な刺激に満ちているかを言葉で伝えるのは本当に難しい。一方で、ここは夜に明かりを消してひとりで閉じ込められたら、最も恐ろしい場所かもしれない(特にこのあと紹介する屋根裏部屋はそうだ)。しかしその一方で、ジュノー氏が興奮気味に、自身の膨大な作品アーカイブや収集したアートを案内してくれる傍ら、彼のチームの多くがバックグラウンドで最高に興味深いプロジェクトに取り組んでいる様子はまさに圧巻の光景だった。ワークショップの隅々はまるで絵探し本『ミッケ!(原題;I Spy)』の1ページのようで、空間にあるすべてのオブジェクトが、ジュノー氏によって語られるのを待っている特別な物語を秘めていた。フランソワ・ジュノー氏のアトリエは工芸の過去を垣間見せる信じがたい空間であり、その未来が誕生する場所という、ふたつの世界の最良の部分を併せ持っている。
ワークショップへの正式な入り口は、家の正面近くにある控えめな廊下にある。
この作品を“The Dying Crooner(死を迎えるクルーナー)”と名付けよう。
左のアームが上下に動き、一輪車がワイヤーの上を行ったり来たりし続ける。
ジュノー氏によるこの作品は、一方の籠の中で鳥がさえずり、元の場所から消えたかと思うと、もう一方の籠のなかへ瞬時に移動したかのように現れる。
ジュノー氏がドローイング・オートマタ(ドローイングする人形)のために紙を用意する。
ヴァン クリーフ&アーペルのために制作された作品の一部。鳥の大きさを見ると、ジュノー氏の他の大型作品とは対照的に、この作業がいかに途方もなく精密であるかがよくわかる。
フライホイールがどのように機能するかを実演。
ジュノー氏は文字どおり、競合相手の先を(あるいは多く)行っている。
ヴァシュロン・コンスタンタン ラ・ケットゥ・デュ・タンに搭載されたアストロノマー(天文学者)の初期彫刻。
ラ・ケットゥ・デュ・タンのレンダリング画像と設計図。
ジュノー氏が、この作品のために開発した革新的で新しいリボルバー機構の一部を指し示す。
ラ・ケットゥ・デュ・タンのチャイム機構のラフなプロトタイプ。
ジュノー氏は日本の伝統的なオートマタであるからくり人形を愛しており、この歴史的な個体はすべて木で作られている。
その下にある木製の機構を公開。
このオートマタにはオルゴールが組み込まれている。
疾走する馬を再現したミニチュアの機械作品を披露。
髪の毛が左右に分かれ、なかに隠れたさえずる小鳥たちが姿を現す。
エドヴァルド・ムンク(Edvard Munch)の有名な絵画『叫び(The Scream)』に対する、ジュノー氏による抽象的なオマージュ。機械的に動く仕掛けになっている。
話題の記事
Introducing セイコーからブランド創業145周年を記念した4つの限定モデルが登場
Essays 2026年は知識を深め、“なぜ”を追求するために
Hands-On オリス ビッグクラウン ポインターデイト “ブルズアイ”を実機レビュー