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Editors' Picks 30万円以下で手に入るおすすめの国産時計4選

30万円以下という条件のもと、編集部が真剣に選んだ国産の1本。選び方は違えど、そこには今の日本の時計づくりが映し出されている。

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HODINKEE Japanでは2025年9月29日(月)から10月5日(日)の1週間、日本の時計ブランドや市場に焦点を当てたJapan Watch Week 2025を開催している。このウィークのために用意した新規取材記事やマガジン限定で公開していた記事、編集部員による動画企画まで、サイト上で毎日配信していく予定だ。すでに公開されたコンテンツについてはこちらから確認して欲しい。

もし30万円の予算があったら、国産時計でどの1本を選ぶだろう? 現行モデルで安心を取るか、ヴィンテージで個性を楽しむか。Japan Watch WeekのEditor’s Picksでは、このテーマに編集部4人が挑んだ。条件はただひとつ。30万円以下の国産時計であること。

 チェックしたのは、サイズ感や使いやすさ、ケースやブレスのつくり、文字盤やムーブメントの仕上げ、そしてブランドの背景。選び方も理由もバラバラだが、それこそがおもしろいところ。4人のセレクションから、この価格帯の国産時計の多様さを感じてもらえればうれしい。


ミナセ マスタークラフト M3
By Masaharu Wada

 僕が今回のテーマに選んだのは、2005年に誕生し今年20周年を迎えたミナセのマスタークラフト M3です。個人的にミナセは、価格に対して得られる品質が非常に高く、まさに優れたバリュープロポジションを体現するブランドだと僕は思います。

 本作のモデル名にあるMはマスタークラフトの意味。ミナセが本格的に時計製造を始めた最初期のM1、M2の後継機にあたり、ブランドの原点を象徴するモデルです。その特徴はCラインケース。ケースサイドからラグへと滑らかにつながる曲線がひと続きのラインを描き、シンプルでありながら力強い印象を与えます。丸みを帯びたフォルムに鏡面とヘアラインのコントラストがとてもよく映えます。

 ケース素材はステンレススティール製、直径36mm、厚さ10.5mm、ラグ・トゥ・ラグ(全長)が39mmと非常にコンパクトで、男女問わず手首に馴染むサイズ感です。それでいて実際に身に着けてみると存在感がしっかりと感じられるのは、デザインと仕上げに独自のこだわりが込められているからでしょう。

 このM3を語るうえで外せないのがザラツ研磨。仕上げ磨きに入る前に下地を均一に整えることで、歪みのない鏡面をエッジ(角)を落とさずに実現する技術で、これを秋田県皆瀬の工場で職人たちが一点一点手作業で行っています。スイス発祥ながら、現在ではスイスでもほとんど失われた技術であり、また同社のザラツ研磨はさらに長年の経験をもとに独自の進化を遂げています。ベゼルやケースサイドに映し出される歪みのない美しい反射は、まさにその結晶です。

 さらに雪平ダイヤルと呼ばれる文字盤も特徴のひとつ。光の角度によって表面がきらめき、雪原のような表情を見せる印象的な仕上がり。電鋳という製法によって生み出され、通常のプレス加工とは異なる陰影を生み出しています。僕はブルーの雪平ダイヤルを選びましたが、他にグレー、パープルブラック、アイスブルーがラインナップされています。またダイヤルパターンもサンレイダイヤル(3種類)、クルドパリ装飾のようなエンボス加工が施されたダイヤル(3種類)もラインナップされており、幅広いバリエーションの中から好みのモデルが見つけられると思います。

職人によるザラツ研磨。

段付きドリル

 こうした造形美や仕上げの背景には、ミナセの特異な出自があります。母体は高性能な切削工具メーカー・協和精工。現在もスマートフォンの基板や自動車のエンジン、航空産業向けのドリルなどさまざまな分野に工具を開発・供給していますが、時計の世界に関わるようになったきっかけは「段付きドリル」でした。ケースサイドにリューズ用の穴を開ける際、従来は二度の工程が必要でしたが、それを一度で可能にする画期的な工具を開発したことで、時計メーカーとの取引が始まり、やがてケース製造へと発展したのです。12時位置に配されたブランドロゴがドリルの形状をしているのはそのため。

 精密加工や時計メーカーへのパーツ供給で培ったノウハウがそのまま時計作りに生かされているため、ミナセの時計はとりわけケースや仕上げの美しさで高く評価されています。近年では一部の海外ジャーナリストや時計愛好家からも注目を集めるようになってきました。マスタークラフト M3は、その真価を最も身近に体感できる一本と言えると思います。

ラバーストラップはジャン・ルソー製。

 ここで紹介している30万円以下という価格帯で選ぶ場合、基本的にはレザーストラップかラバーストラップ仕様になります。ただ、もし少し予算を追加できるなら、34万9800円のブレスレット付きモデルをおすすめします。というのも、ミナセの魅力は時計本体だけでなくブレスレットの仕上げにも存分に発揮されており、細部まで一貫したクオリティを楽しむことができるからです。

価格: ラバーストラップ 28万3800円、カーフストラップ28万500円、クロコストラップ29万7000円、ブレスレット34万9800円(すべて税込) その他の詳細は、ミナセ公式サイト


ミルコ TYPE-03 胡桃染(くるみぞめ)
By Yusuke Mutagami

 せっかく日本の時計に深くフォーカスする貴重な機会だ。本稿の執筆にあたり、日本の時計ブランドを洗い直していた。昨今では小さなブランドでも、SNSやECサイトにより時計愛好家に直接接点を作ることができる。そんな背景もあり、2020年以降、日本各地で小規模なメーカーがいくつか立ち上がっているようであった。社名通り福島県の太平洋側、南相馬市に拠点を置くフクシマウォッチカンパニー(Fukushima Watch Co.)もそのひとつだ。創業者の平岡雅康氏と渡辺達也氏が東日本大震災後の東北支援に関わるなかで、原発事故後自然が手付かずで残る日高の地の景観、その再起の物語に強く惹かれてこの地での創業を決定したという。同社は時計産業による地域貢献も志向しており、社名と同名のフクシマウォッチカンパニーというブランドではモデルによって売り上げの一部を地域団体へ寄付する取り組みも行なっている。土地から着想を得るだけでなく、還元し、支える。その姿勢に地方メーカーとしての強い独自性を感じ、同社の時計を実際に手に取ってみることにした。

2019年にコール・ペニントンが、TYPE-02についてのHands-On記事を執筆している。

 今回紹介するミルコもまた、フクシマウォッチカンパニーが展開するブランドだ。創業者のふたりが2018年に埼玉で立ち上げたもので、もし1969年にクォーツショックがなかったら日本の時計製造はどうなっていただろう? というユニークなコンセプトから機械式時計を作り続けている。2019年のバーゼルワールドで発表されたクロノグラフ・TYPE-02は、70年代らしい独特のフォルムとポップな色使いを特徴とし、初回ロットは予約で完売するほどの反響を得たという。一方、セカンドコレクションのTYPE-03では、着物などに用いられてきた日本の伝統色を取り入れ、落ち着いた雰囲気のラインナップを展開する。

 今回TYPE-03から取り上げるのは“胡桃染(くるみぞめ)”である。胡桃染とは、胡桃の樹皮や果皮を煮出して作った染液を用い、布や髪を染める技法で、灰がかった黄褐色に仕上がる。ミルコを手に取った理由には、先に述べた企業姿勢への関心もあるが、このブラウンともピンクとも言えないアーシーな色調に強く惹かれたことも大きい。メンズファッションの基本色であるベージュやブラックになじみつつ、さりげなく個性を主張する胡桃染(そして今回紹介していないほかのカラーも含めて)は、時計というプロダクトではこれまでほとんど目にすることのなかったものだ。この繊細な色味を実現するために、ミルコではアルマイト処理を施している。また重厚なダイバーズウォッチをベースにしながら、5連メタルブレスを合わせ、さらにベゼルとダイヤルに同じ処理を施すことでトーンを統一し、日本的で奥ゆかしい雰囲気を醸し出している。夜光塗料を流し込んだボックス型インデックスは外周のミニッツトラックまで伸ばさず、ブランドロゴも小振りにして6時位置に控えめに配置することで、胡桃染の文字盤を主役として際立たせている点にも意図が感じられる。短めのラグに向かって柔らかく湾曲するオーバルケースの佇まいも穏やかで、細部にまで繊細な感性が行き届いた仕上がりだ。径42mmとやや大きめではあるが、平均的な日本人男性の手首であれば無理なく収まり、快適に着用できるだろう。

 本当はブレスやムーブメントの選定にも語りどころはあるのだが、僕が最も感銘を受けた外装についての説明でだいぶ長くなってしまったため、一旦ここで筆を置きたい。ミルコ TYPE-03は日本的な色味の採用だけでなく、日本発のプロダクトとしてトータルで考え抜かれている点で僕は評価している。加えてメーカーとしての背景も魅力的だ。マッシブで力強いダイバーズウォッチもいいが、少し変わった趣向の1本を探しているならぜひリストに加えて欲しい。

価格: 22万円(税込) その他の詳細は、フクシマウォッチカンパニー公式サイト


グランドセイコー 61GS
By Kyosuke Sato

 30万の予算があったなら、筆者は国産のヴィンテージウォッチを選ぶだろう。現行の時計と比べるとやはり防水性などにはやや不安が残るし、ある程度見る目がないとひどい状態のものを掴まされてしまうリスクがないわけではない。だが、それを鑑みても国産ヴィンテージウォッチには、30万の予算で手にすることができる魅力的なモデルが少なくないのだ。

 例えば、グランドセイコーの61GS。国産初、ブランド初の自動巻き10振動(3万6000振動/時)モデルとして、1968年に誕生したのがこの時計だ。高振動による優れた等時性に加え、姿勢差、外乱の影響などに対しても強く、より安定した高精度を実現させた、かつての(1988年に復活を遂げる以前の)グランドセイコーにおける名作のひとつである。初期のミントコンディション品や、当時のGS規格よりもさらに厳しい精度基準(平均日差±3秒)を課した特別調整品である61GSスペシャルなどは、さすがに予算オーバーとなるが、スタンダードなモデルなら今でも十分に予算内で探すことができる。

 1970年になるとバリエーションが拡大し、選択肢が増えるが、おすすめしたいのは1968年の登場時からのラインナップであるスタンダードな6145-8000がいい。1967年の44GSで確立したグランドセイコースタイルを踏襲した厚みのあるスタイルのケースを持つ。初期モデルではダイヤル6時側にGSのロゴと“GRAND SEIKO”表記が入るが、後期モデルではGSのロゴと“HI-BEAT 36000”表記となる。細目だがきわめて立体的なバーインデックスに、針はセンターにブラックプリントを施した視認性に優れたダイヤルで、それは半世紀以上経た今も変わらずこの時計の魅力のひとつを形作っている。掲載した個体は汚れはあるものの、ケースバックのGSのゴールドメダリオンが残っている。このメダリオンにダメージが現れているものが少なくないため、状態の見る際のポイントするといい。

 個人的に61GSを推す理由はムーブメント、より正確には自動巻きの10振動モデルを手にできるという点だ。現行のグランドセイコーにおいても、10振動モデルはメカニカルハイビート36000としてコレクションの主力となっている。現行モデルは最も値ごろなものでも100万円弱はするが、ヴィンテージなら30万円の予算でも十分手に入る。ただし、スペックやアフターサービスまで含めた総合力では現行機に分があり、ハイビートと価格だけを並べて優劣を語るのはフェアではない。防水や耐磁、耐衝撃、精度の安定性、保証や部品供給など、日常使いの安心感は新しいほど高い。そのうえで、国産初の自動巻き10振動という歴史的意義に、この予算で触れられる点こそ61GSの魅力である。しかも国産初の、そしてブランド初となる歴史的にも重要なモデルが、今も現役で楽しむことができるのだ。現行の時計と比較できるようなものではないが、限られた予算の使い道としてヴィンテージに注目してみるのは決して悪くはないと思っている。なお、掲載したモデルは一見ゴールドケースに見えるが、いわゆる金無垢モデル(これはかなりレア。当然30万円の予算では手が届かない)が、キャップゴールド、堅牢なステンレススティールケースに260μ(ミクロン)も非常に分厚い金が張り付けられた金張りケースモデルである。SSケース仕様はよく見かけるが、金張りケース仕様は比較的数が少ないにも関わらず予算内でも探すことができるため、おすすめである。

価格相場: コンディションによるが、12万〜28万円ほど(スタンダードな6145-8000) ※掲載した時計はコレクター所蔵品。


セイコー プレザージュ クラシックシリーズ SARX129
By Yuki Matsumoto

私の財布事情からすると、30万円は決して安い買い物ではない。その金額を思えば、カジュアルウォッチにとどまらず、ヴィンテージウォッチや独自の歩みを続けるブランドまで、いろいろな選択肢が見えてきて迷いも増す。予算ギリギリまで使おうかな...などいろんな時計に目移りしたが、今回は、長い時間をかけて磨かれてきた技術と伝統という“王道”を選びたいと思った。その答えとして選んだのがセイコー プレザージュ クラシックシリーズのSARX129だ。

 プレザージュのクラシックシリーズは、伝統的な技法と現代の感性を融合させたメカニカルウォッチコレクション。今回取り上げたのは、既存の40.2mmサイズからひとまわり小さくなった36mmモデルで、ケースの厚さは12.5mmとややしっかりした印象。また約72時間のパワーリザーブを確保したCal.6R51を搭載し、価格は13万2000円(税込)だ。

 ダイヤルはぱっと見、普通のサンバースト仕上げのように見える。しかし実際には日本の伝統的な絹織物をイメージしており、放射模様の線の長さや太さをあえて不揃いにすることで光の揺らぎや奥行きを生み出し、本当に織物を見ているかのよう。華やかな装飾に頼らずとも、時計全体から滲み出る質の高さこそ、セイコーが100年以上にわたり追求してきた腕時計づくりの哲学が凝縮されていると感じた。

 また私がこの時計で気に入っているポイントのひとつは、腕に着けた瞬間に分かるブレスレットの仕上がりだ。1970年代に多く見られたセイコーの時計から着想を得て開発された多列ブレスレットは、サテン仕上げとポリッシュ仕上げを組み合わせた小ぶりなコマが連なり、しなやかに手首に沿ってくれる。すべてのコマを緩やかにカーブさせることで肌に触れる面を減らし、着け心地は吸い付くように自然だ。シンプルなダイヤルとこの心地良いブレスレットの組み合わせは、日常のどんなシーンにも見事にマッチするだろう。

 絶妙な36mm径、約72時間のロングパワーリザーブ、そして吸い付くような多列ブレスレット。これだけの完成度を10万円台で実現した本作は、この価格帯における揺るぎない“王道”だ。実用時計を探す人にとって、最も堅実で満足度の高い選択肢のひとつと言える。

価格: 13万2000 円(税込) その他の詳細は、セイコーウオッチ公式サイト