ADVERTISEMENT
最近、私の本棚に眠っている素晴らしい書籍を取り上げ、読者の皆さんに紹介するちょっとした連載を開始した。第1回では、ERGメディアが手がけたブランド公認の『GRAND SEIKO』を取り上げ、幸先のよいスタートを切ることができた。今回紹介するのは、最近出版されたもうひとつのブランドに焦点を当てた大作、『Universal People, Universal Dreams』だ。これは、ある人物がひとつのブランドに絞って築き上げた徹底したコレクションを記録した1冊だ。しかし、これは単にユニバーサル・ジュネーブについての本というだけではない。
著者であり出版者でもあるルカ・ミニーニ(Luca Mignini)氏と初めて会ったのは、数年前のこと。ただ、どこで会ったのかははっきりと思い出せない。ジュネーブのオークション会場だっただろうか。いつの間にか彼は、私がヴィンテージウォッチを追いかけるなかで、すっかりおなじみの存在になっていた。ヴィンテージウォッチが存在するところには必ずと言っていいほど現れたのだ。例えばイタリア・パルマで開かれる有名なアンティークフェアにも、もちろん彼はいて、そこで彼が持っていたのは、アメリカ海軍向けに製作されたユニバーサル・ジュネーブスペースコンパックス/ポールルーター・サブのプロトタイプ。その時計は私がフォトレポートでも紹介した。
ルカ・ミニーニ氏とマックス・ベルナルディーニ(Max Bernardini)氏。
同じ旅の途中、『最後の晩餐』のあるミラノのサンタ・マリア・デッレ・グラツィエ教会の向かいの店で、マックス・ベルナルディーニ氏(親しい友人からは“Uncle Max”と呼ばれています)とパテック フィリップ 1518のダイヤル写真を見ていたところ、ミニーニ氏は偶然にも現れた。今振り返れば、この出会いにも納得がいく。ベルナルディーニ氏と(本書で“信頼できるアドバイザー”と紹介されているマウリシオ・ヒメネス/Mauricio Gimenez氏を含めた)そのチームは、コレクションの選定において重要な役割を果たしたからだ。
パンデミック当時、ミニーニ氏はローマの自宅と教授を務めるボッコーニ大学のあるミラノを行き来しながら、ベルナルディーニ氏の絆を静かに深めていった。ミニーニ氏は誰もいない教室でビデオカメラに向かって講義をする日々を送りながら、安心して会いに行けて、会話によって孤独な時間を豊かにしてくれる相手を探していたのだ。ベルナルディーニ氏は、まさにそんな存在となった。彼を知る人なら、それも少しも不思議ではないだろう。ミニーニ氏のユニバーサルへの情熱は、1946年製のトリコンパックス Ref.22535(東京で見つけたもの)から始まった。そしてその情熱は、やがてヴィンテージウォッチ界でも屈指の多彩さを誇るブランドのカタログから、驚くほど見事なコレクションを築き上げるまでに大きく育っていったのだ。
いやはや、ミニーニ氏の時計コレクションは実に素晴らしい(本人は“コレクション”という言葉を嫌っているが)。本書は、ヴィンテージクロノグラフの殿堂入りを果たしたブランドのクロノグラフ111本に特化している。2023年に刊行された、学術的で美しい書籍『The Polerouter』で十分に掘り下げられた領域には踏み込んではいない。だがむしろ、ユニバーサル・ジュネーブのクロノグラフに常に惹かれてきた私にとっては、『The Polerouter』よりも本著のほうがずっと心に響く。実際、危ういほど物欲をかき立てられてしまうのだ。
確かに、ミニーニ氏とベルナルディーニ氏は私の友人であるため、私は少々贔屓目で見ているかもしれない。しかし本書は、私(そしておそらくほとんどの人)にとってミニーニ氏が見せてくれるまで存在すら知らなかった時計に出合える、素晴らしい参考書だ。昨年、カイレリのスプリットセコンド クロノグラフを譲ってもらえる話があったとき、購入資金がなかったことが悔やまれる。しかし私の好きな本に共通しているように本書は単に「すごい時計だろう」と見せびらかすだけの本でもなければ、「こんな時計を持っている私を見て欲しい」という自慢に満ちた、うんざりするような本でもない。
私は、古くからあるコレクターのギャラリーカタログ(あるいは、ひとりのコレクターが特定のブランドについて編んだカタログ・レゾネ/作品総目録を思わせる書籍)のなかで、素晴らしい資料となるものにいくつか出合ってきた。ただ、そうした本には、なぜ時計を集めるのかという問いが抜け落ちていることがある。私が惹かれるのは、まさにその“なぜ”なのだ。だが我々はその問いを投げかけるのを忘れがちだし、問われた側も、自分の思いをうまく言葉にできないことがある。それに対してミニーニ氏の書籍は、コレクションをコンパー、ユニコンパックス、コンパックス、トリコンパックスなどのモデルごとに分類しながら、そこに自身のコレクターとしての歩みや、時計を通じて育まれた友情の物語を織り込んでいる。
序文を寄せているのは、ベルナルディーニ氏と、クラフト・ハインツの元CEOであるカルロス・エイブラムス・リベラ(Carlos Abrams-Rivera)氏だ。また各セクションは、ベルナルディーニ氏から副社長のヒメネス氏、アウロ・モンタナーリ氏、サンドロ・フラティーニ氏など、彼の収集の旅に影響を与えた人々に捧げられている。こうした個人的な視点があるからこそ、本書は手元に置いておきたい重要な資料にとどまらず、腰を据えて読みたくなる1冊になっているのだろう。
当然のことながら、本著には、イタリアならではの趣が色濃く表れている。掲載されている時計にも、同じことが言えるだろう。著者や制作チームの出身地であることを考えれば自然なことだし、時計の多くもイタリアで見つかったのではないかと思う。イタリアのコレクターたちは、何十年にもわたってユニバーサル・ジュネーブの優れた時計を数多く手元に残してきた。またほかの人なら戸惑ったり、手を出すのをためらったりするような個性的なモデルやプロトタイプを手に入れることにも積極的だった。では、具体的にどの時計が見どころかって? そこは、ぜひこの1冊を手に取って確かめて欲しい。もし将来手放すことがあるなら、真っ先に声をかけてほしいメディココンパックスが1本あるが、どの個体なのかは伏せておく。とはいえ、ルカ(・ミニーニ氏)がこれらの時計を手放すとは思えない。
ユニバーサル・ジュネーブを扱う書籍が再び刊行されるのは、うれしいことだ。かつて同ブランドの決定版資料とされていたピエトロ・ジュリアーノ・サラ(Pietro Giuliano Sala)氏の著書は、刊行からまだ15年余りしか経っていないが、今ではきわめて高価になり、比較的入手も難しくなっている。だが本の品質や手触りという点では、今回の新刊や『The Polerouter』には及ばない。そう考えると、『Universal People, Universal Dreams』の577ドル(約9万円)という価格は、かなり魅力的に感じられる。もちろん、時計の本は決して安い買い物ではない。それでも、手に入れる機会があったときに買っておけばよかったとあとになって思うことがよくある。本著も、これから長く読み返すことになる1冊だと確信している。
Photo credit: Greta Negrelli Pizzigoni, courtesy of the photographer and Luca Mignini. 本著は『Universal People, Universal Dreams』ウェブサイト、またはベルナルディーニ・ミラノのウェブサイトで購入できる。
話題の記事
Recommended Reading 『Universal People, Universal Dreams』ひとりのコレクターが希少なユニバーサルを追い求めた、心温まる収集の物語
Happenings HODINKEE.jp × CREDOR エクスクルーシブ ナイト in 京都 2026
Photo Report HODINKEE.jp × ショパール エクスクルーシブ イベント in 東京 2026