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Hands-On A.ランゲ&ゾーネ ランゲ1・タイムゾーン、ラグジュアリートラベルウォッチの理想形

控えめなエレガンスと実用性を兼ね備えたA.ランゲ&ゾーネのランゲ1・タイムゾーンは、究極のラグジュアリートラベルウォッチと呼ぶにふさわしい1本かもしれない。

Photos by Troy Barmore

私が初めてA.ランゲ&ゾーネの存在を知ったのは、HODINKEEに掲載されたダトグラフの記事を読んだのがきっかけだった。そのなかで、フィリップ・デュフォー(Philippe Dufour)氏がこのモデルを“史上最高のクロノグラフムーブメント”と評していることが紹介されていた。当時、私は高級時計についてある程度の知識を持っていたものの、ランゲやデュフォー氏については何も知らなかった。初めて時計というものに興味を持ったのは、子どものころ、コロラド州アスペンでの出来事によってだった(この話はまたのちほど)。その記事で初めて目にしたこの謎めいた傑作に、私は一瞬で心を奪われた。

Aspen

コロラド州アスペン

 時計は人の感情を揺さぶる存在であり、それぞれが似つかわしいライフスタイルや土地の情景を呼び起こす。手に入れるべき時計像を探している者であれ、世界的なコレクターであれ、新たなタイムピースを腕にするという体験は、しばしばインスピレーションに満ちたものとなる。ほぼすべての時計愛好家にとって、時計趣味における理想の頂点には、あるひとつのブランド、あるいは特定の1本の時計が存在する。そして多くの人々にとって、筆者自身も例外ではなく、それはA.ランゲ&ゾーネなのである。

 最近、私は第2回アスペンウォッチウィークの開催に合わせて、久々にアスペンの地を再訪した。この旅のあいだ、グラスヒュッテを拠点とするこの名門ブランドの腕時計を着ける機会を得た私は、迷わずそのチャンスに飛びついた。選択肢はいくつかあったが、移動や時差、そしてアスペンの空気感を考えると、ある1本がこの旅にふさわしいと思えた。それが、ランゲ1・タイムゾーンである。


進化を続けるランゲ

 HODINKEEの熱心な読者であれば、2012年にベン・クライマーが執筆したランゲ1・タイムゾーン ルミナスのA Week On The Wristを覚えているかもしれない。このレビューでは、A.ランゲ&ゾーネというブランドや、タイムゾーンがランゲ1コレクションのなかでどのような位置付けにあるのかについて、非常に詳しく掘り下げられていた。また同時に、当時の時計業界、そしてランゲというブランドが置かれていた状況を捉える貴重なスナップショットともなっていた。あれから13年、業界もランゲもまったく異なる局面を迎えている。いまやこのドイツブランドは、スイスの競合ブランドと比較される際に“果たして同等かどうか”といった疑問を向けられることはない。ランゲはすでに、並みいる名門ブランドと肩を並べる地位を完全に確立したのである。好みや趣向を問わず、同社が世界最高峰のマニュファクチュールのひとつであることに異論の余地はない。

lange 1 time zone on wrist

 この10年でランゲの評価が飛躍的に高まり、需要の急増とともに長いウェイティングリストが常態化するなか、ランゲ1・タイムゾーン」もまた2005年の初出以来、さまざまなアップデートを経て大きく進化してきた。2020年にはムーブメントがCal.L141.1へと刷新され、それにともないダイヤルのレイアウトもアップデートされた。一見すると変更点は最小限に見えるが、その効果は視認性の向上というかたちで、確かな進化として表れている。

Lange 1 Time Zone

 デイ/ナイトインジケーターを、それぞれのタイムゾーンに対応した針の直下へと配置し直したことで、ダイヤルは一気にすっきりとした印象になった。ホームタイム(大きいインダイヤル)またはトラベルタイム(小さいインダイヤル)の時針が青い三日月型の表示を覆うと、そのタイムゾーンが午後であることを示す。この変更はごくわずかな調整に思えるかもしれないが、その結果として、従来のモデルよりも格段に視認性が高く、威圧感のないダイヤルが実現している。より効率的で、より明快であり、そしていかにもドイツ的な手法により、簡潔さがそのままエレガンスにつながっているのだ。

 このインジケーターの配置変更に加え、5時位置にある小さな第2時間帯のインダイヤルに、さらにもうひとつ新たな表示が加わった。選択されたタイムゾーンを示す矢印に収められた小窓により、そのタイムゾーンがサマータイムを採用しているかどうかが、赤または白で表示されるのである。このディテールは、このランゲ1・タイムゾーンがいかに実用面で優れた時計であるかを物語っている。精緻な手仕上げとエングレービングが施されたムーブメント、気品あるダイヤル、そして750ホワイトゴールド製ケースの重厚さといった威厳を備えつつも、ランゲ1・タイムゾーンは実に旅行向きで、かつ控えめな時計であることに変わりはない。あるとき私は、ポロシャツにハイキングパンツという格好(アスペンだから仕方がない)でこの時計を着けていたが、そんな装いでもこの時計はまったく違和感がなかった。スタイルという観点においても、理にかなっていたのである。

Lange 1 Time Zone

 ケース左側にはふたつのプッシュボタンを備えており、上側のボタンはランゲの象徴でもあるアウトサイズデイトの操作に使用し、下側のボタンは小さいインダイヤル上のタイムゾーン調整を担う。着用中、これらのプッシャーは視覚的にも控えめで、実際に腕に着けてしまえば存在感はほとんど感じられない。リューズを2段階に引き出した状態で下のプッシャーを半押しすると、ふたつの時刻表示を同期させることが可能となる。そこからは、目的地のタイムゾーンに達するまで、いくつかの(これがまた実に気持ちのよい)クリックを繰り返すだけでいい。

 A.ランゲ&ゾーネの時計を身に着けるというのは、特別な体験であると言っていい。ランゲの時計は、まず何よりも先にケースを裏返し、そのムーブメント構造と仕上げの美しさに見とれてしまうような存在だ。ランゲ1・タイムゾーンもその例外ではない。ジャーマンシルバーの地板、ブルースティールのビス、ツートンのアクセント、そして手彫りによる見事な花模様の装飾。ランゲならではの要素がすべてそろっている。ケース径は42mmとやや大きめだが、装着感は非常によく、手首にしなやかに沿ってくれる(私の細めな6.5インチ、約16.5cmの手首でも、実に快適だった)。

Lange 1 Time Zone
Lange 1 Time Zone
lange 1 time zone

  WG製ケースの重みはしっかりと感じられるが、決して邪魔にはならない。その機能的な複雑さや、非対称に配置されたふたつのインダイヤルにもかかわらず、視覚的には非常にバランスの取れたデザインとなっている。とくに、3時位置のやや空いたスペースを埋めるように配置されたパワーリザーブインジケーターが、全体の調和を完成させている。また、ケース内におけるダイヤルの占有率が高いため、実際のサイズ(42mm)よりもコンパクトに感じられるのも特徴だ。その着用体験は事前の想像に違わず、静かに語りかけてくるようなラグジュアリーで満ちている。


帰国して思うこと

 デンバー空港に到着してふと手首に目をやったとき、胸にこみ上げてくるものがあった。すべてが始まった場所に帰ってきたのだ。そして同時に、その時刻合わせの手軽さにも感心せずにはいられなかった。面倒な操作もなく、GMT特有の計算も不要(嘘はよそう、誰しも1度は頭のなかでやってしまうものだ)。ただ、カチッ、カチッ、カチッと操作するだけ。スマートフォンが機内モードからの立ち直りに手間取っているあいだに、時計の時刻はすでに調整し終えていた。

 読者諸氏には、このランゲ1・タイムゾーンとともに過ごした1週間についてあまり感傷的に語りすぎるのは控えておこう。とはいえアスペンは筆者にとって、育った場所のすぐ近くにあり、またそもそも高級時計というものに初めて出合った場所でもある。その出合いの場となったのが、イースト・クーパー・アベニューにあるA.ランゲ&ゾーネのブティックに隣接する正規販売店、メリディアン・ジュエラーズ(Meridian Jewelers)であった。

Meridian Jewelers Store in Aspen

 本当に優れた時計には、語るべき物語が宿るものである。この時計が自分の所有物ではなかったとしても、それは例外ではなかった。ランゲは長年にわたって私にとって最高峰の時計ブランドであり、時計好きの集まりでしばしば交わされるいささか使い古された質問「どんな時計でも1本手に入るとしたら、何を選ぶ?」への答えでもある。そして、同じ思いを抱く者は決して少なくないだろう。

 念のために言っておくが、私は普段から自分がどんな時計を着けるかについて他人の目を気にするようなタイプではない。時計への情熱や興奮を誰かと分かち合うことは大好きだが(この点においては、妻がとても寛容でいてくれる)、実際に時計を楽しむ時間は極めて私的なものだ。旅の疲れを感じながらホテルにチェックインしたとき、あるいはミーティングの合間の誰もいない静かなひとときに、私は時刻を確認するわけでもなくカフの下からそっと覗くその時計の美しさにただ見入っていた。

Lange 1 Time Zone

 とはいえ、時計好きの仲間たちと過ごす場でランゲを着けているときの楽しさは、やはり格別だ。「今日は何を着けてるんだ?」というお決まりのやり取りから、「おっ」、「これは……」というリアクションが自然と飛び出す。そんなときは、ささやかながら自分がその場の主役になったような気分になるものだ。アスペンのような華やかで、そして高級感あふれる場所で世界有数のコレクションに囲まれていたとしても、この時計を披露して称賛を受けなかった場面はただの1度もなかった。

 ランゲ1のデザインは、A.ランゲ&ゾーネの中核をなすものであり、その美学はドイツ時計を象徴する存在にまで昇華されている。そこにタイムゾーン機構が加わることで、このモデルはさらに奥行きを増し、同コレクションのなかでもとりわけ特別な1本として際立つのだ。実用性の高さ、控えめでエレガントな外観、そして操作のしやすさ。そのすべてを兼ね備えたランゲ1・タイムゾーンは世界最高のトラベルウォッチと言っても過言ではない。仮にそうでなかったとしても、少なくともその美しさにおいては間違いなくトップクラスだ。

この時計に関する詳細は、A.ランゲ&ゾーネの公式サイトを参照。