trophy slideshow-left slideshow-right chevron-right chevron-light chevron-light play play-outline external-arrow pointer hodinkee-shop hodinkee-shop share-arrow share show-more-arrow watch101-hotspot instagram nav dropdown-arrow full-article-view read-more-arrow close close email facebook h image-centric-view newletter-icon pinterest search-light search thumbnail-view twitter view-image checkmark triangle-down chevron-right-circle chevron-right-circle-white lock shop live events conversation watch plus plus-circle camera comments download x heart comment default-watch-avatar overflow check-circle right-white right-black comment-bubble instagram speech-bubble shopping-bag

Hands-On ファーラン・マリ ディスコ ・オニキス・ダイヤモンド、ジェムセッティングの時計に新たな選択肢

天然オニキスのダイヤルとラボグロウン・ダイヤモンドを組み合わせ、ディスコ・ヴォランテを現代的にアレンジした本作は魅力的ながら限定生産のモデルである。宝石をインデックスに用いた時計の歴史、そして“空飛ぶ円盤”と称されるこの独特なデザインの系譜を振り返ってみたい。


Photos by Mark Kauzlarich

ADVERTISEMENT

先日、あるディーラーとディスコ・ヴォランテの魅力について話していた際、彼は「あの時計には子ども時代の空想のような要素が詰まっている」と語った。つまり、文字どおりの円盤状のケースに針だけが配され、ストラップの装着については一切配慮されていないその姿は、まさに子どもが描く“時計の絵”そのものだというのだ。これは、そんな無垢な空想が洗練されたかたちで具現化された時計だ。ファーラン・マリ ディスコ・オニキス・ダイヤモンドは、ラボグロウン・ダイヤモンドをあしらった大人の遊び心が詰まった1本である。

Furlan Marri Disco Diamonds Onyx

 これまでにも何度か書いてきたが、私はジェムセッティングの時計に対する愛着を深めつつある。この分野は、芸術としての正当な評価をいまだに十分受けていないように思う。しかし正直なところ、つい最近まで自分がそうした時計を所有するなどという考えは、現実味のないものだった。そんななか、フランスと中国にルーツを持つブランド、アトリエ・ウェンがラボグロウン・ダイヤモンドのインデックスを備えたモデル、アンセストラ ローンチ(リミテッド)エディション 蛟(Jiāo)を発表した。価格は5850ドル(日本円で約90万円)とかなり高額だ。このモデルにおいてラボグロウン・ダイヤモンドのインデックスは、どちらかといえば手作業でハンマー仕上げされたフュメダイヤルを引き立てる“脇役”として用いられていた。その少し前にはバルチックのデザイナーが、MR-01をベースにしたジェムセットの特別モデルを2023年に披露し、ちょっとした話題を呼んだ。しかしこれは販売用ではなかった。あれ以来、宝石が付いたさりげなくも華やかな時計が現れるのを待ち続けてきたが、ようやく見つかったように思う。

Furlan Marri Disco Diamonds Onyx

 本稿も実機レビューの定番であるスペック紹介から、歴史的背景や先行モデルの考察を交えながら進めていこうと思う。文脈は常に重要だが、とくに今回のようなケースでは、この時計がユニークなケース形状とダイヤモンドインデックスを組み合わせただけのモデルではないことを明確に裏付けてくれるはずだ。要点だけを手早く知りたい読者のために、以下に概要をまとめておく。

 新作ファーラン・マリ ディスコ・オニキス・ダイヤモンドは、前作とほぼ同じスペックを踏襲している。ステンレススティール製のラウンドケースは、段差を設けたステップケースに“空飛ぶ円盤(ディスコ・ヴォランテ)”を思わせるフォルム、そしてラグが隠れた構造が特徴だ。サイズは38mm径×8.95mm厚で、ムーブメントには手巻きのプゾー 7001を搭載し、パワーリザーブは約42時間となっている。ムーブメントのブリッジはファーラン・マリによって再設計されており、面取り、コート・ド・ジュネーブ、ヘアライン仕上げといった装飾が手作業によって施されている。ダイヤルには天然のオニキスを使用し、インデックスにはバゲットカットのラボグロウン・ダイヤモンドを配している。インデックスは二重のプリントで施され、針にはスーパールミノバが塗布されている。このモデルは2025年に限定100本が製造され、以降の追加生産は未定。販売価格は3500スイスフラン(日本円で約65万円)を予定している。

Furlan Marri Disco Diamonds Onyx

 毎日と言っていいほど思い出す時計がある。いや、正確に言うならば、パテック フィリップ Ref.5004Pのバゲットインデックス仕様、その2種類のバリエーションのことを日々考えている。ひとつは初期のショートハンド/ショートクラウン仕様、もうひとつは後期のフィーユ針(リーフハンド)と長いスプリットセコンド針にアップデートされた仕様であり、いずれも非常に珍しい以下のダイヤルデザインが採用されている。ここに紹介する写真は、後期モデルのオーナーでもある日本の著名コレクターによるものだ。よりスポーティで大きめのリューズを持つ後期型のRef.5004P-032は、私のなかでお気に入り時計ランキングのトップ5に入っている(ちなみに、気持ちの変化を記録するためにスマートフォンで常にリストを更新している)。バゲットカットのダイヤモンドをインデックスのほぼすべてに用いながら、3時・5時・6時・7時・9時を省略している点も特徴的だ。Ref.3970に見られるような小さなスクエアカットダイヤのダイヤルとは異なり、遠目にはただのバーインデックスを備えたRef.5004Pのようにも見えるが、この点こそがこのモデルの大きな魅力なのだ。

 この新作、ディスコ・オニキス・ダイヤモンドにひと目惚れしたのは、今年初めにWatches&Wondersで初めて目にしたときのことだ。その瞬間、頭のなかではすでに注文を決めていて、実際にその日のうちに口頭でオーダーを入れた。だがRef.5004Pのバゲットインデックスモデルへの強い憧れが心にあったからこそ、この時計に引かれたという面もある。そしてこのモデルの背景には、それだけでは語りきれないダイヤモンドインデックスの奥深い歴史が存在する。20世紀を通じてその人気は高まり、ドレスウォッチから複雑機構を備えたモデル(たとえばRef.5170P)、さらには近年のスポーツウォッチに至るまで(代表的な例が、通称“トゥームストーン”こと40周年記念のノーチラス Ref.5711P)、バゲットカットのインデックスはあらゆるパテックのダイヤルに自然に、そして優雅に溶け込んできたのである。

Patek Philippe ref. 5004P-032. Originally sold in 2008, and appearing at auction that same year. Photo courtesy Antiquorum.

パテック フィリップ Ref.5004P-032。2008年に販売され、同年のうちにオークションにも出品されたモデル。Photo courtesy Antiquorum

Patek ref. 96 Platinum Diamonds

プラチナケースにダイヤモンドインデックスを配した、パテック フィリップ Ref.96。

Patek REF. 600/1R

パテック フィリップ Ref.600/1R。1956年に製作・販売されたモデルで、文字盤にはサウジアラビア国王サウード・ビン・アブドゥルアズィーズ・アール・サウードのミニアチュールがエナメルが描かれている。Photo courtesy Collectability

 マライカが最近執筆した記事では、バゲットセッティングの近年の隆盛とその背景が先述のパテックをはじめ実例とともに詳しく紹介されており、非常に興味深い。ここ数年、時計業界において“見て見ぬふりのできない存在”となっているのが、レジェップ・レジェピ(Rexhep Rexhepi)氏である。F.P.ジュルヌ(F.P. Journe)氏を除けば、過去10年間でここまで広くその名が認知されたインディペンデントウォッチメーカーはいないと言っていいだろう。ただし、レジェピ氏の歴史に対する眼差しは、ジュルヌ氏のそれとは異なっている。彼の代表作であるクロノメーター コンテンポランシリーズは、パテック フィリップのヴィシェ風ケースに通じる美意識を宿し、ブラックとアイボリーのグラン・フー エナメル文字盤もまた、同ブランドへのオマージュを感じさせるデザインとなっている。

Introducing: レジェップ・レジェピ 世界限定10本のルビーインデックスのクロノメーター コンテンポラン II

昨年、レジェップ・レジェピはクロノメーター コンテンポラン IIにおけるふたつめの限定バージョンを発表。両モデルとも貴石をインデックスに配した特別仕様だが、実はどちらのデザインも過去の歴史的なモデルに着想を得たものである。

 ここ数カ月にわたってファーラン・マリはこの新作をこっそりとティーザー的に紹介しており、実は私自身もその“じらし”の一翼を担っていた。ブランドの許可を得て、Watches&Wondersの期間中にInstagramのストーリーで写真をシェアしたところ、それがファーラン・マリ公式アカウントや、さらには我らがベン・クライマーまでがリポストし、大きな反響を呼んだのだ。ブランドによれば、24時間のうちに届いたメッセージは100件を超えたという(これは今年製作される予定の本数と同数だ)。

 この新作に対して何度か耳にした批判のひとつに、レジェピ氏の模倣ではないかというものがある。だが、正直それは少々的外れだと思う。たしかに共通点は存在する。しかし、ここで語られているのはまったく異なるアプローチで作られたふたつの時計であり、両者はともに同じ歴史的文脈(プレイブック)を参照しているのだ。そもそも、ジェムセットのインデックスというアイデアは誰かが独占できるようなものではない。その証拠に、パテック フィリップ Ref.5170Pという好例がすでに存在している。もちろん、私は今でもクロノメーター コンテンポラン IIが現行のタイムオンリーウォッチのなかで最良の1本であると考えている。だが今回のモデルは、自分にとって“手ごろな価格のドレスウォッチ”における新たな最善手になりつつある。

Furlan Marri Disco Diamonds Onyx

 この時計の魅力は、何よりもまず洗練されたダイヤルの美しさと、そのシンプルさにあると言っていいだろう。なかでも、ブラックやダークトーンのダイヤルに映えるダイヤモンドインデックスは控えめながらも贅沢で、一見するとファセット加工を施した金属のようにも見える。まさに、“自分だけの特別な秘密”と呼ぶにふさわしい存在であり、その輝きに気づいた人だけがその魅力を分かち合えるようになっている。そして、予想されるブラックラッカーやエナメルではなく、あえてオニキスを採用したことでこの時計には一段と特別な雰囲気が加わっている。

Furlan Marri Disco Diamonds Onyx

 ジェムセッティングを成功させるカギは、石の使い方にある。腕時計のデザインにおいて、かつて“小さくしてピンクに塗るだけ(shrink it and pink it)”という発想が蔓延した時期があった。その流れのなかで、ダイヤモンドが“考え抜かれた意匠”ではなく、ただ定番の装飾として女性向けモデルに惰性で使われるようになってしまったのは非常に残念なことだ。もちろん、今回使われているラボグロウン・ダイヤモンドの品質について、私は宝石鑑定士ではないので判断はできない。だがひとつ確かなのは、これらのダイヤモンドが“後付け”や“妥協の産物”では決してないということだ。ダイヤル上でしっかりと存在感を放ちつつ、インデックスとしての機能もきちんと果たしており、全体のデザインバランスも美しく調和している。

Furlan Marri Disco Diamonds Onyx

 これまでディスコ・ヴォランテは、ファーラン・マリのラインナップのなかで(本作が出るまで)私が所有していない2モデルのうちのひとつだった。オリジナルはヴィンテージに着想を得たヒドゥンラグ付きのケース形状と、ダイヤルにはスポーツウォッチ的な要素が色濃く表れていた。具体的には、夜光リングや複数のセクター、細かく刻まれた分目盛り、アラビア数字のアワーマーカーなどだ。一方で、私のお気に入りのヴィンテージウォッチのひとつであるオーデマ ピゲのRef.5093 ディスコ・ヴォランテは、“ディスコ”デザインにおいていかにシンプルさが重要かを示してくれる好例である。

Audemars Piguet Disco Volante 5093

ホワイトゴールド製のオーデマ ピゲ ディスコ・ヴォランテ Ref.5093。もともとはアムステルダム・ヴィンテージウォッチが販売した個体で、現在はアナログシフトにて販売中である。市場価格はアムステルダム・ヴィンテージウォッチがこの時計を2万5000ユーロで売却した当時よりやや下がっており、いまのほうが魅力的な価格帯と言える。Photo courtesy Amsterdam Vintage Watches.

 数字や目盛りといった装飾的な要素を取り除き、プリントを重ねるだけのシンプルなデザインに絞ったことで、よりクラシックな印象が生まれている。まさに“ディスコ・ヴォランテ”というデザイン思想に忠実な仕上がりとなっている。ここが悩ましいところだ。ファーラン・マリは、もともとヴィンテージの“タスティ・トンディ”をメカクォーツで再解釈したモデルで注目を集めたブランドだが、現在はそうした復刻の枠を超えて進化を遂げている。その意味では、ここで“よりシンプルなデザイン”に立ち返るというのは後退のようにも映るかもしれない。だが、私の目にはそれが視覚的に洗練され、むしろ心地よさを感じさせる要因となっているように映る。このダイヤルは、光の反射を巧みに受け止める構造をしており、光沢のある表面仕上げとダイヤモンドインデックスが見え方が反転し、踊るようにきらめく。写真でその魅力を完全に伝えるのは難しいが、以下の画像では、その“ダイヤルの反転”の様子が確認できる。

Furlan Marri Disco Diamonds Onyx
Furlan Marri Disco Diamonds Onyx
Furlan Marri Disco Diamonds Onyx

 ダイヤルにはわずかに夜光が施されているが、実用性というよりは遊び心としての要素が強い。造形的な針は、光の角度によってインデックスと同様にわずかに輝きを見せるものの、夜光を十分に載せるスペースがあるわけではなく、日常使いで視認性を期待できるほどではない。とはいえ、“付加価値”としては十分に楽しめる仕様である。

Furlan Marri Disco Diamonds Onyx

 この時計に搭載されているのは、プゾー 7001。薄型手巻きムーブメントの代表格であり、長年にわたり数多くのブランドに採用されてきた信頼性の高い名機だ。ノモスはこのムーブメントを基盤にブランドを立ち上げ、ブランパンも採用していた。他にも数十ブランドが同様に用いてきた。プゾー7001についてより深く知るには、Monochromeの特集記事でとても詳細な分析がなされており、読むのをおすすめする。とはいえ、今回のモデルに搭載されているのは、よくあるプゾーではない。最近のいくつかのリリースに見られる汎用的な仕様とは異なり、ファーラン・マリによって再設計され、仕上げも大きく手が加えられた特別仕様となっている。

Furlan Marri Disco Diamonds Onyx

 技術的なスペック自体は変わっていない。直径23.73mm、厚さ2.5mmというコンパクトなサイズ、42時間のパワーリザーブ、手巻きである点もそのままだ。しかし、このムーブメントは大幅に手作業による再仕上げが施されている。ブリッジの形状はより洗練されて幾何学的な印象が和らぎ、面取りやコート・ド・ジュネーブに加え、ヘアライン仕上げ、さらにはルビー周囲のポリッシュ仕上げといった細かな装飾も見られる。これは、ファーラン・マリによる“付加価値の上乗せ”と言えるものだが、その完成度は一見して見過ごされがちなものかもしれない。もちろん、これはレジェップ・レジェピやショパールのような仕上げとは異なる。だが、“ややクラス感のある1本”として企画されたこのモデルにふさわしい、納得のいくレベルの仕上げであることに疑いはない。

Baltic Prismic

参考までに、仕上げの比較対象として挙げるのが、2024年に発表されたバルチックのプリズミックに搭載されている標準仕様のプゾー 7001である。

Furlan Marri Disco Diamonds Onyx

こちらはファーラン・マリによって改良が加えられたプゾー 7001のブリッジ部分。

 数年前のことだ。パテック フィリップ Ref.2549、“デビルズ・ホーン”あるいは“ホーン・オブ・デイヴィッド”と呼ばれることもあるモデルの写真を掘り起こしていた。これはジルベール・アルベール(Gilbert Albert)によるデザインを除けば、最も“パテックらしくない”パテックと言ってもいいかもしれない。その過程で、ある“空飛ぶ円盤(フライングソーサー)型のケースデザイン”に出合った。それは誤ってRef.2549として掲載されていたが、実際にはRef.2550であり、筆者はその瞬間、すっかり魅了されてしまった。実物を目にするまでには、それからさらに時間がかかった。ようやく昨年、シンガポール滞在中にその時計を実際に見る機会に恵まれた。しかも1本ではなく2本、さらにRef.2549の別バージョンまで、フューチャーグレイルのミュージアムで見ることができたのだ。この3本はそろって、1950年代中期におけるケースメーカー、マルコウスキー(Markowsky)のデザイン言語を如実に物語っていた。ヴィンテージの“フライングソーサー”デザインがいかにユニークか、その魅力を改めて実感させられる体験であった。

Disco Trio Patek

パテック フィリップ Ref.2550R(ベルギーのコレクター所蔵)、Ref.2549J、Ref.2550J(前述の2550と連番で、キューバで発見された個体)。これらはいずれもシンガポールのフューチャーグレイルコレクションに所蔵されているものである。現在のところ、これらの個体はフューチャーグレイルのオークションや販売リストには掲載されていないが、小振りなケースとムーブメント設計において、いかに多様なデザインが成立し得るかを示す好例となっている。なお、Ref.2550にはCal.12-400が、Ref.2549にはCal.10-200が搭載されている。いずれもマルコウスキー製のケースを採用しており、アート性と1950年代中期のラグ/ケースデザインの美学が融合した時代の“タートル”や“ホーン”スタイルの時計、およそ200本程度しか現存しないとされる希少な系譜の一端を担うモデルである。ケース径は33mmと小ぶりながら、非常に魅力的な存在感を放っている。

 たとえば、Ref.2549の最も際立ったデザイン的特徴は、ラグの形状にある(この個体では、ラグがケース本体から明確に分離されたデザインとなっている)。一方で、ロニ・マドヴァニ(Roni Madhvani)氏が所有するブラックダイヤルの個体のように、ケースとラグが一体化してひとつのデザイン要素になっているバージョンも存在する。しかし筆者としては、マルコウスキーがCal.10-200という薄型ムーブメントを用いつつ、視覚的な奥行きを与えながらも時計全体をスリムにまとめ上げた手腕こそが、このデザインの成功を決定づけたのだと思っている。一方、Ref.2550の“フライングソーサー”スタイルのバリエーションは、さらにスリムである。これはブレスレットがケースに完全に統合されており、ラグが存在しないためだ。つまり、そこにあるのはただ“円盤”としての時計本体のみである。そしてこのモデルは33mmというサイズながら、非常に快適な装着感を実現している。

Patek ref. 2550R

 ファーラン・マリのディスコ・オニキス・ダイヤモンドは、厚さ約8.9mm弱となっている。これは一体型ブレスレットではなく、交換可能なストラップを採用したことでより汎用性を持たせたというブランドの判断による部分が大きい。ブレスレットの話はのちほど触れるとして、まずはこのモデルがヴィンテージデザインとどのように異なっているかを整理しておきたい。たとえば、ブランドは“フライングソーサー”型ケースにおけるステップ(段差)を、より緩やかな傾斜に設計している。これによって、直線的なラインやエッジの立った造形が和らぎ、全体に柔らかく落ち着いた印象が生まれている。また、ヒドゥンラグの位置により、ケースは手首上にやや高く乗るようになっており、さらにシースルーの裏蓋を採用したことで全体の厚みもわずかに増している。一方で、リューズはあえてケースに隠す設計を維持していて、これは優れた“フライングソーサー”デザインに欠かせない重要な要素だと私は感じている。こうした変更点は、現代の市場に合わせたアップデートとして必要なものだと考えている。かつてパテック フィリップの“タートル”コレクションは、5年以上の期間でわずか200本程度しか製造されなかったとされている。それに対してファーラン・マリは、その半分にあたる本数を1度に販売しようとしている。となれば、できるだけ幅広い層に訴求する必要があるのは言うまでもない。

Furlan Marri Disco Diamonds Onyx
Furlan Marri Disco Diamonds Onyx

 新しく採用されたヘリンボーン織のメッシュブレスレットは、実に見事である。装着感も快適で、バリや引っかかりもなく、腕の毛を引っ張る感覚もほとんどなかった。このブレスレットは、付属のブラックカーフスキンストラップと簡単に交換可能で、ブランドはすでに過去の購入者向けにオプションとして提供を開始している。ディスコ・ヴォランテとの相性も非常によさそうだ。ただし、ヒドゥンラグ構造(カーブした20mm幅のエンドリンク)を採用しているため、12時側のラグから6時側のラグまでの実測はわずか32mmしかない。その結果、標準のストラップは筆者の手首(7.25インチ、約18.4cm)に対してギリギリの長さで、ストラップキーパーをうまく収めるのに少し苦労した。また、ブラックのストラップはすでにフォーマルな印象のある本作にはやや重たく感じられるため、すでに米国のVeblenistにいくつか別のストラップオプションを注文済みである。おそらく今後は、ブレスレットよりもストラップ仕様で着用する機会のほうが多くなるだろう。

Furlan Marri Disco Diamonds Onyx
Furlan Marri Disco Diamonds Onyx
Furlan Marri Disco Diamonds Onyx
Furlan Marri Disco Diamonds Onyx

ブレスレットの先端部分は全体の内側に収まる構造になっているが、不快な圧迫感は与えない。

 信頼している友人や同僚数名には、この時計を実際に手に取って見せている。そのなかで興味深かったのは、半分の人は想像より大きく見える、着けたときに大きく感じると言い、もう半分は逆に小さく感じると言ったことだ。今年初めに登場した直径36mmの“レッド・ハンター”は、スペック上はこのモデルより小さいはずだが、ラグがあるため実際には大きく見える。しかしサイズ感はさておき、誰もが「ディスコ・オニキスは見た目が素晴らしく、着け心地も非常に快適だ」と口をそろえた。そしてもちろん、この時計の美しさがもっとも際立つのは、太陽の下にあるときである。

Furlan Marri Disco Diamonds Onyx

 ディスコ・オニキス・ダイヤモンドは、間違いなくニッチな選択肢ではある。だが、それだけに特別な1本でもある。何年ものあいだ、「自分には煌びやかな時計のほうが似合うのではないだろうか」と考えてきたが、いまこうしてそれを現実として試す機会を得られたこと、そしてこれだけのディテールとアップグレードを備えながら、価格がわずか3500スイスフラン(日本円で約65万円)というのは、本当に適切だと感じている。当初はこれが日々のローテーションに加わることを期待していた。しかし実際に着けてみてわかったのは、このケース形状と、小振りながらきらりと主張するダイヤモンドの存在感ゆえに、これは“特別な日のための時計”になるということだった。だが、それで物欲が満たされたかというとそういうわけでもない。むしろ今では、ブランドのほかのラインアップを見ながら、「ダイヤモンドインデックス付きのコルヌ ドゥ ヴァッシュがあってもいいのでは?」、「次はクロノグラフだろうか?」と想像が膨らんでいる。そして何より素晴らしいのは、そうしたアイデアももはや夢物語ではないということだ。ほかのブランドにも、ぜひこの動きに注目して欲しいと願っている。

Furlan Marri Disco Diamonds Onyx

ムーブメント情報

キャリバー: プゾー 7001
機構: 時・分表示、スモールセコンド
直径: 23.73mm
厚さ: 2.50mm
パワーリザーブ: 42時時間
巻き上げ方式: 手巻き
振動数: 2万1600振動/時
石数: 17
クロノメーター認定: なし
追加情報: 両面ともに傷のつきにくいサファイアクリスタルを採用し、5層の反射防止コーティングと指紋防止コーティングを1層追加。ムーブメントのブリッジはファーラン・マリによって再設計されており、面取り仕上げ、コート・ド・ジュネーブ、ヘアラインなどの手仕上げによる装飾が施されている

ファーラン・マリ ディスコ・オニキス・ダイヤモンドは、ファーラン・マリ公式ウェブサイト、ブランドのショールーム、ならびに一部正規取扱店にて即日購入可能。価格は3500スイスフラン(税別、日本円で約65万円)、2025年は100本限定生産。今後の追加生産は未定。詳細はこちらをご覧ください。