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クイック解説
1961年にドイツ・フランクフルトで誕生したジンには、設立当初からラインナップにあり続けている“103”というクロノグラフが存在する。60年代当初はバルジュー72を搭載した横3つ目の逆パンダダイヤルが特徴的なデザイン(103.A)を採用していたが、80年代にはバルジュー7760を乗せることで縦3つ目にチェンジ(103.B)。以降、現在までこの80年代のスタイルが踏襲されている。なお、ブランド設立60周年を迎えた2021年には前者の103.Aを復刻(103.Klassik 12)することで、ブランドのアイデンティティがクラシカルなパイロットウォッチに端を発するものであることを強調していた。
2021年に発表されたジン 103.Klassik 12。サブダイヤルの仕様、セラミックベゼルと本作と多くの共通項を持つ。
そして今年、103の派生として2013年に発表された“104”に、Classicの名を冠したモデルが登場した。その名も104 Classic 12というこの時計は、104として初めてスモールセコンドを備えた記念すべきものである。なお、淡いベージュカラーのサブダイヤルと第2時間帯を示す1時間刻みのベゼルには、2021年の103.Klassik 12に通ずるものを感じる。KlassikがClassicになっていたりはするが(聞くところによると、ドイツ語圏以外での販売も考慮してドイツ語表記から英語表記になったのだという)、本作は103.Klassik 12の104版に位置するものだ。
スペックにおいては、従来の104と比較しつつ行っていきたい。ケースサイズは直径41mm、厚さ11.9mmで、既存のモデルから変更はない。素材はステンレススティールで、ジン独自の表面硬化技術であるテギメント加工は施されていない。写真を見る限り、ラグの形状やリューズガードも従来のままである。
ただ、ベゼルインサートはセラミックに変更された。これまでのアルミニウムインサートを備えるベゼルは長期間の使用により表面塗装の削れや小傷が目立っていたが、セラミックの採用により美しい光沢が長く続くことが期待される。さらに、よくよく文字盤を見てみるとわかるだろうか、バーインデックスは夜光塗料を盛ったものからアプライドとなった。立体的なパーツのなかに夜光塗料が充填されている。
ムーブメントはセリタのSW261-1を搭載。SW200−1をベースとするスモールセコンド搭載機で、直径25.6mm、厚さ5.6mm、2万8800振動/時で駆動し38時間のパワーリザーブを有している。耐磁性能も従来モデルの4800A/m(DIN8309準拠)を維持。スケルトンバックから覗くローターにも、変化はなさそうだ。
価格はメタルブレス仕様が57万2000円、ヴィンテージ調のカウレザーストラップ仕様が48万9500円、テキスタイルストラップ付きのものが47万8500円となっている。104.STのブレスモデルが現在43万4500〜46万7500円(新旧仕様により異なる)、カウレザーストラップモデルが37万4000円(以上すべて税込)であることを鑑みると、新作の104 Classic 12で約10万円程度のプレミアがついたことになる。
ファースト・インプレッション
Classicを名に冠してはいるが、スモールセコンドの採用はあるものの、実機はむしろモダンな雰囲気を漂わせている。その理由は、先に挙げたセラミックインサートのベゼルとアプライドインデックスにある。103.Klassik 12と仕様が同一であれば、セラミックインサート上の12の数字は、溝にサブダイヤルと同色の塗料が流し込まれている。夜光塗料ではないようだが、立体的な造形となっており、インサート自体の光沢も鮮やかに感じられるはずだ。
また、第2時間帯を示すベゼルの12時間表示(おそらくこれがモデル名の“12”の由来だろう)にも注目したい。これはクラシックなパイロットウォッチを想起させるものではない。むしろ、現代的なトラベラーに向けた仕様といえる。そして、このすっきりとした表示は、従来の60分刻みベゼルと比較して、さらに洗練された印象を残すのである。
ちなみに、以下が現在も展開されている104.STの写真だ。かれこれ10年近く手首に巻いている愛機である。そそっかしい性分から、ラグやベゼルの表面には細かな傷がたくさん刻み込まれているが、味と思って見てもらいたい。104 Classic 12と見比べると違いがよくわかるはずだ。ミニッツトラック上の4分の1秒表示や三角形の夜光マーカーなど、ジンらしい伝統的な計器感がより強く感じられる。バーインデックスも、前述のとおり夜光塗料をダイヤルに直接盛り付けたものだ。僕自身はこの飾らなさに強く惹かれており、従来の104に古きよきパイロットウォッチの面影を感じてやまない。
だが、昨今のジンの動向としては今年の7月1日、ミッションパートナーとしてサッカー指導者の長谷部誠氏を起用した。フランクフルトという土地を介してつながる長谷部氏との取り組みにより、ブランドのストイックさやプロフェッショナルに向けたウォッチメイキングを、より広い層へ訴求している。加えて先の103.Klassic 12や2023年の356.Flieger.Klassik.JUBと、インストゥルメント ウォッチのカテゴリではブランドの伝統をアイコニックなデザインで訴求しつつも、モダンなスペックとディテールでアレンジする取り組みが続いている。本作もまたその流れのなかにあり、そのルーツを103というジンの大定番に持つことでブランドのアイデンティティを示しながら、より昨今の感性で手に取りやすい時計作りを行なっているのである。
大きく進みも遅れもせず、オーバーホールもなしで愚直に時を刻み続けている。この実直なタフさもまた、魅力である。
本作の資料が手元に届いた際、HODINKEE Japanチームの数人にヒアリングを行った。その第一印象は非常に好意的なものだった。関心が寄せられたのはスモールセコンドの採用(とその位置)とカラーリングであり、クラシックとモダンさのバランスが高く評価されていたのである。普段はジンを手に取らないであろう部員からも好意的な声が上がったことは、いちファンとして非常に嬉しかった。まさに104 Classic 12は、ブランド認知を広めるモデルとして機能したといえる。
一方でジンは、今年2月に水中でも操作可能なクロノグラフとして613 STを発表するなど、インストゥルメントジャンルの外においても技術的なチャレンジを続けている。古きよき航空時計を現代に発信し、より広範なユーザーにブランドのルーツを伝えるインストゥルメントウォッチ。そして、“使うためだけの時計”作りを体現するEZMやU1、U2といったプロフェッショナルウォッチ。このふたつを軸に、ブランドは明確に性格を分けた展開を行なっているように見える。もちろん憶測の域を出ないため、ジンから直接聞く必要があるだろう。しかしジンのファンを拡大するインストゥルメントウォッチの展開により、周りにジンのオーナーが少しでも増えるなら、嬉しいことだ。
なお、104 Classic 12は103.Klassik 12と異なり限定モデルではないようだ。そのため、今後は従来の104と並列して立つことになる。より現代的なスペックとクラシックなデザインを取り入れたジンが気分なら104 Classic 12を、そして傷だらけのノスタルジックなアルミニウムベゼルに惹かれてしまう僕のような人は、引き続き従来の104を手に取ることができるわけだ。あなたの好みは、どちらだろうか?
104 Classic 12では、多様なストラップ/ブレスレットバリエーションも展開されている。こちらはテキスタイルストラップ。
こちらは、ヴィンテージ調のカウレザーストラップだ。かなり厚みがあるオイルドレザーで、エイジングにも期待できる。
基本情報
ブランド: ジン(Sinn)
モデル名: 104 Classic 12
直径: 41mm
厚さ: 11.9mm
ケース素材: ステンレススティール
文字盤色: ブラック
インデックス: アプライド
夜光: あり
防水性能: 20気圧
ストラップ/ブレスレット:SS製のファインアジャスト・ブレスレット、ヴィンテージカウレザー、テキスタイルストラップから選択可能
ムーブメント情報
キャリバー: セリタ SW261-1
機能: 時・分表示、スモールセコンド
パワーリザーブ: 約38時間
巻き上げ方式: 自動巻き
振動数: 2万8800振動/時
石数: 31
クロノメーター認定: なし
追加情報: 耐磁性能4800A/m(DIN8309準拠)
価格 & 発売時期
価格: ファインアジャスト・ブレスレット 57万2000円/ヴィンテージカウレザーブラウン 48万9500円/テキスタイルストラップ 47万8500円
発売時期: 今秋
限定:なし
詳細は、こちらからチェック
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