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アンオーダインといえば、やはりエナメルである。スコットランド・グラスゴーで創業して以来の10年間、ブランド独自の魅惑的なガラス質、すなわちグラン・フー エナメルダイヤルによって、同ブランドは時計愛好家たちから熱烈な支持を集めてきた。これらはすべて、ごく少数のエナメル職人によって自社で製作されている。アンオーダインの時計は、手作業によるエナメルダイヤルを比較的手の届きやすい価格帯で楽しめる数少ない選択肢のひとつであり、その需要は同社の非常に限られた生産規模をはるかに上回っている。現在、こうしたモデルの納期は数年待ちという状況だが、ここに“意図的な希少性”は存在しない。これらのダイヤルは冗談抜きの本物であり、他ブランドであればアンオーダイン モデル1の価格の数倍もの金額で取り引きされている。
もしあなたがアンオーダインの一員だとしたら、クラフツマンシップを核としたブランド精神を保ちつつ、どのように生産性を高め新たな価値を提供するか? その答えのひとつがこれだ。3年にわたる開発期間を経て、スコットランド発のこのブランドはモデル2にポーセリンダイヤルを採用したのである。
ここで、エナメルダイヤルとポーセリンダイヤルの違いを簡単におさらいしておこう。ガラス質のエナメルダイヤルは、まず金属製の素地にガラス粉末(多くの場合カラフルだ)を手作業でのせるところから始まるが、その方法には粉末のままふるいにかけて乾いた状態でのせる場合や、水と混ぜてペースト状にして筆で塗る場合がある。こうしてダイヤルに塗布された粉は高温で焼成され、溶けて素地と結合する。この工程を、理想とする仕上がりになるまで何度も繰り返すのだ。たとえばグラデーション効果を持つフュメダイヤルのような仕上がりを目指す場合には、複数の顔料を使い分けて色の変化を表現する。非常に根気のいる工程であり、しかも歩留まりが良くないため、生産には多くの時間を要するのである。
一方のポーセリンダイヤルは、粘土で成形された素地を高温で焼成して作られる。仕上げによってはガラス質の釉薬を塗布して再度焼成し、磁器面と結合させることもある。高校の陶芸の授業を思い出す人もいるかもしれない。釉薬に含まれる成分や鉱物によって、最終的な仕上がりの質感や色味が決まる。たとえば酸化鉄を加えると、本稿で紹介するブラックのダイヤルが生まれる。アンオーダインは、こうした製法をあくまで伝統的なやり方で行っていることを強調している。他社では、つやのある磁器のような外観を得るためにセラミックシートを貼り付けたり、磁器土(いわば液状の粘土)を射出成形したりすることで効率的にダイヤルを量産することもある。しかしグラスゴーのチームは熟練した陶芸職人を招き入れ、昔ながらの手法で製造工程を構築したのである。
スーパールミノバは、プリントされた数字のくぼみにひとつひとつ手作業で塗り込まれている。
ポーセリンダイヤルが持つ、エナメルダイヤルに対する明らかな利点のひとつは、それが1枚ずつではなく小ロットで生産できることである。しかしその事実にもかかわらず、ダイヤルの製作は依然として主に手作業で行われており、アンオーダインでは、まず手始めに月30〜40枚のペースで生産を開始する予定だ。ポーセリンの仕上げが初めて採用されたのはモデル2に対してであり、各ダイヤルは社内のポーセリンアーティスト、カーラ・ルイーズ(Cara Louise)氏によって製作される。価格はエナメルダイヤルのモデルよりも手に取りやすく、ベースモデルは2512ドル(日本円で約37万2000円)から。ヘアライン仕上げのケースは丸みを帯びた角とねじれたファセットを備え、ブランドの3つのデザインのなかで最も存在感のある39.5mmの直径サイズだ。さらに今年後半には36mmバージョンも登場予定である。ダイヤルが通常のものよりもかなり厚いことを考慮しても、全体の厚さは11mmと良好なバランスを保っている。
このモデル最大の魅力はやはりダイヤルにある。磁器製のベースが深くつややかなブラックを生み出しており、側面から見ると、反射光によってそれぞれのダイヤルが持つ独特のテクスチャーが浮かび上がる。製造工程の副産物としてくぼみが生じるが、通常の光の下では、漆黒の背景がダイヤル上の特徴的な数字を際立たせる。これらの数字は金属製のゴールドでパッド印刷されており、書体はアンオーダインの社内タイポグラファーによる特注デザインで、ほかのモデル2に採用されているフォントとはわずかに異なる。特に顕著なのが、各数字のデザインに見られる分割の仕方だ。これは間違いなく、ポーセリン モデル2において、スーパールミノバがパッド印刷された小さなくぼみにひとつひとつ手作業で塗り込まれていることとも関係しているだろう。
手作業で作られたダイヤルのわずかなゆらぎは、特定の光のもとでのみ姿を現す。
アンオーダインは自社のアーティストが持つ表現力に重きを置くことで、常に独自性と高い視認性を備えた外観のデザインアイデンティティを維持してきた。こうした細部へのこだわりが、その存在感をさらに際立たせている。金めっきとサンドブラスト加工が施された真鍮製の時針は、ソード型の針を抽象的かつ柔らかなフォルムで再解釈したような印象を与え、秒針には鮮やかな赤のラッカー仕上げが、矢印の先端にはスーパールミノバが施されている。ダイヤル外周には分・秒を示す目盛りがホワイトでプリントされている。
想像に難くないと思うが、これは非常に楽しめるダイヤルである。たしかに“単なる”黒ダイヤルではあるものの、数字やゴールドのアクセントとのコントラストによってじつに表情豊かな仕上がりとなっており、このシリーズへの入門モデルとして最適だ。ポーセリンのモデル2を待っているコレクターたちはダイヤル上に現れる微細なゆがみやくぼみをむしろ楽しみ、それぞれが唯一無二の個性を持っていることを理解している。そして何より私が評価したいのは、ほとんどの光のもとでは全体が非常に均質に見える点だ。しかし同時にそれは欠点にもなり、一種のイースターエッグとして非常に特定の条件下でしか気づけないように設計されている。
本モデルに搭載されているのはこれまで採用されてきたETA 2824やセリタ(Sellita) SW200とは異なり、ラ・ジュー・ペレ製のCal.G101だ。興味深いことに、このムーブメントにはふたつの仕様が用意されており、ひとつは標準仕様のG101を採用したソリッドケースバック。もうひとつはグラスゴーのアーティスト、レイチェル・ダックハウス(Rachel Duckhouse)氏によってデザインされた特別装飾仕様のムーブメントを収めたシースルーバックであり、こちらは約430ドル(日本円で約6万4000円)のオプション料金で選択できる。この価格帯では珍しい水準でムーブメントが仕上げられており、香箱の軸を起点に渦状に広がるアンスラサイトのストライプが施されている。ローターは部分的にスケルトン化されており、反対方向にカーブを描いたストライプがあしらわれていて、回転時には背面に独特な視覚効果をもたらす。装飾面以外については、同キャリバーは2万8800振動/時で駆動し、現代的な68時間のパワーリザーブを備えている。私であればこの装飾仕様のムーブメントを選びたい。ダックハウス氏とのコラボレーションによってもうひとりのグラスゴーのアーティストの手仕事がこの時計に加わることになるのだから、ブランドの世界観をより深く味わえるという点においても悪くない選択だろう。
手首に装着してみると、ポーセリンダイヤルを備えたモデル2は非常に目を引く時計だ。手首がしっかりした人であれば当然ながら大型モデルを選ぶだろう。というのもアンオーダインにおいては、ダイヤルの面積が広いこと自体が大きな魅力のひとつだからだ。とはいえ、どうしても私は、主にそのプロポーションがよいためにミディアムサイズに引かれてしまう。36mmというサイズは一部の人を戸惑わせるかもしれないが、実際にはしっかりとした厚みがあり、装着時の存在感は十分だ。また小振りなモデルのほうがベゼルに対するダイヤル面の比率が高く、デザインの印象がより際立つように感じられる。おそらくそれがこのサイズに引かれる最大の理由だろう。もし今すぐこの小振りなモデルを手に入れたいと思っても、発売は年内後半まで待たなければならない。そのぶん、予算を調達する時間ができるともいえるが、一方で大型モデルを希望する場合も、現在の納期見込みはおよそ6カ月後となっている。
近日登場予定、“ミディアム”バリエーションの36mm
ポーセリンという素材は、アンオーダインにとってごく自然な進化のように思える。というのも、より多くの時計を世に届けようとするなかで同時に手仕事の伝統を守り続けるには、まさにうってつけの手法だからだ。そして、人々がこのブランドの時計をもっと求めていることもすでに明らかな事実である。正直に言えば、この記事作成のためにポーセリンダイヤルの製法を詳しく調べるまでは、これほど時間のかかるプロセスだとは思っていなかった。またアンオーダインが採用しているような伝統的な手法以外にも、より簡単な製造方法が存在するということも知らなかった。だが簡単であることは決してアンオーダインの目的ではない。だからこそ私たちはフラッグシップモデルよりも手ごろな価格帯で、興味深い新しい時計を手に入れることができるのだ。今後、どのようなカラフルなポーセリンが待ち受けているのか楽しみにしていよう。
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