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Hands-On オーデマ ピゲ ロイヤル オーク RD#5の技術的かつ実用的な深掘り―史上最もエクストリームな“ジャンボ”

着用体験からその背後にある技術的専門知識まで、オーデマ ピゲ最後の研究&開発ウォッチを特別なものにしている要素を見ていく。


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Photos by Mark Kauzlarich

現代のオーデマ ピゲについて考えるとき、ふたつのことが頭に浮かぶ。ひとつはロイヤル オークだ。これはブランドの要石となったが、同時に批判の的にもなりやすい。それは残念なことだ。なぜなら(最も大きいわけではなく、オリジナルに近い直径39mm×厚さ8.1mmというサイズの)“ジャンボ”は、私のつまらない意見ではあるが市場で最も着け心地のよい時計だからだ。ふたつ目は、ルノー・エ・パピ(APRP)から進化したル・ロックル工場でのブランドの産業エンジニアリングとマイクロメカニズムの能力だ。最高技術責任者のルーカス・ラッジ(Lucas Raggi)氏と、ジュリオ・パピ(Giulio Papi)氏(ウォッチコンセプト部門を統括)がいる、近年のオーデマ ピゲはきわめて着用しやすい、高度に技術的な製品を製作している。

 ロイヤル オーク “ジャンボ” エクストラ シン フライング トゥールビヨン クロノグラフ(RD#5/Ref.26545XT)が、ブランドの研究&開発シリーズの最後を飾るにもかかわらず、以前のモデルと同じくらい印象的であることに私は驚くべきではなかった。いや、そうであっても驚いてしまったのだが。CODE 11.59 バイ オーデマ ピゲ ウルトラ コンプリケーション “ユニヴェルセル” RD#4が世界で最も複雑な時計のひとつでありながらも、なぜか日常使いできる時計であったことを考えると、この言葉には重みがある。

Audemars Piguet RD#5

自動巻きのロイヤル オーク エクストラ シン フライング トゥールビヨン クロノグラフ(RD#5)。

 トゥールビヨンとクロノグラフ(ジャンピングカウンター付き)の組み合わせは、技術的な挑戦を提示する。20世紀にトゥールビヨンをほとんど製造しなかったブランドにとってはなおさらだ。実際、1986年以前にオーデマ ピゲのカタログにトゥールビヨンを持つ時計はわずか4本しかなかった。

 その点で、それはおそらくブランドの歴史のなかで最も“オーデマ ピゲ”らしくない複雑機構だ(話を進めやすくするためにこれを複雑機構と呼ぶ)。その後ブランドは、1986年に世界初の自動巻きトゥールビヨンであるRef.25643を導入した。このモデルは珍しいサンレイモチーフ、小さなトゥールビヨン、そして極薄の寸法を備えており、画期的であった。しかし歴史的な基盤がなく、真の後継機もなかったため、それはブランドを象徴しているとは感じられなかった。

世界初の自動巻きトゥールビヨンを搭載したRef.25643。

 しかしその後、Ref.25831STを含むほかのトゥールビヨンのリリースが続いた。これは12時位置に時刻表示を備え、ダイヤル上のトゥールビヨンを囲むきわめて凝縮された準オクタゴン型のフレームが特徴だ。私はオーデマ ピゲが最終的にこの調速機構をロイヤル オークに統合的な方法で組み込んだのは、ここ5年ほどの期間であったと考えている。それはロイヤル オーク フライングトゥールビヨン Ref.26530の導入によるものだ。トゥールビヨンは(以前はダイヤルに接続されていた)ブリッジを排除し、ロイヤル オークの強力な視覚的ラインから注意を逸らすことなく、全体のデザインの統合的な一部として感じられた。

AP Concept

ロイヤル オーク コンセプト スプリットセコンド クロノグラフ GMT ラージデイトの、ローターのボールベアリング内に収められたスプリットセコンド機構。

 クロノグラフは、少なくとも腕時計の形態ではオーデマ ピゲのアイデンティティの中心ではなかった。ブランドには、クロノグラフ懐中時計を製作したはるかに長い歴史がある。確かに同ブランドには、美的にも技術的にも傑出したクロノグラフ腕時計がいくつかあるが、これらの功績はヴィンテージ市場ではパテックの複雑機構による成功(とそのに対する多作性)によって大きく影を潜めてきた。

 そしてパーペチュアルカレンダーの王者としてのオーデマ ピゲの主張は、ほかのどれよりもはるかに際立っている。しかしこれはRD#4で見られた、巻き上げローターのボールベアリング内に配置されている新たなスプリットセコンド機構のような最近の革新と、新しいRD#5によってブランドはクロノグラフの舞台に自らを主張している。


技術

 ある意味では、この“ジャンボ”は“ジャンボ”だ。直径39mm×厚さ8.1mmのオクタゴン型ケース。産業的なインスピレーションを受けた美学。我々は着用感と、この“ジャンボ”の手首での存在感について触れるだろうが、“RD(研究・開発)”ウォッチとして、いや、最後のRDウォッチとして本作をきわめて印象的にしている技術的側面からこの時計を掘り下げ始めるのが妥当だろう。

 トゥールビヨンは、ここではおそらくクロノグラフに主役を譲っている。前述のとおり、2020年に発表された自動巻きのフライングトゥールビヨン、続いて2022年のスケルトン版、そしてより具体的には2022年の39mmのRD#3 “ジャンボ”(その年に37mmにダウンサイズされた)はこのリリースの出発点となった。RD#3はトゥールビヨンを搭載した最初の“ジャンボ”として、コレクターとウォッチメイキングの技術的理解を持つ人々にとって印象的であった。実際、当時多くの人々が、オーデマ ピゲはこれ以上の革新を起こせられないだろうと言っていた。

Sand Gold Tourbillon

2024年に発表されたロイヤル オーク フライング トゥールビヨン オープンワーク。

AP RD#3

“ジャンボ”ケースサイズに搭載された初のトゥールビヨンであるオリジナルのRD#3。

AP RD#3 37mm

その後に続く、2024年登場の37mmのRD#3。

 ムーブメントは直径31.4mmで、厚さは4mmと著しく薄い。クロノグラフを持たないRD#3よりもわずかに0.6mm厚いだけだ。またRD#3の50時間に対して72時間のパワーリザーブを誇る。これは下に隠されたダイヤル側の香箱を使用しており、驚くには当たらない。実際、前面から見ると巻き上げ機構が3時位置、巻き上げとクリックが1時位置など、時計は比較的目立たない。トゥールビヨンの外周ギアリングはほとんどほかの部品を挟まずに直接残りの輪列につながっているように見える。

AP Royal Oak RD#5

Photo courtesy Audemars Piguet

 背面から見ると、その構造は私が以前に見たどのようなものとも異なる。ブリッジは浮遊し、何にも接続されていないように見え、バネがオープンな空間を横切る。オープンワークのレバーはクロノグラフを作動させているようだが、どのように機能しているのかを理解するのは難しい。ムーブメントは外周巻き上げ方式であり、ギアリングが1時位置と3時位置(後ろから見て)にあり、この動きを裏側に伝達して主ぜんまいを巻き上げている。ムーブメントの残りの部分はハイエンドに見えるが、どこか異質である。ブラスト処理とバーティカルサテン仕上げを施した表面が、未来的な技術的デザインを高めている。

AP Royal Oak RD#5

Photo courtesy Audemars Piguet

 何が起こっているのかを理解するために、私は欧州特許出願EP4555385A1に着目した。これは2023年7月13日にオーデマ ピゲ(Manufacture d'Horlogerie Audemars Piguet SA)が出願したもので、ジュリアン・マーテル(Julien Martel)氏とジュリオ・パピ氏が発明者として記載されている。特許庁の資料はデザインと技術的応用に若干の違いがあるが、これはよいガイドになる(ただし私がフランス語、または翻訳された英語でそれを理解するのには少し時間がかかった)。この説明に誤りがあれば、すべて、同ブランドにブリーフィングを求めなかった私の責任である。図解された実機の後ろ側を下に示す。

RD#5の後ろからの眺め。イラストは欧州特許出願EP4555385A1から。

 理解できただろうか? おそらく完全には理解できないだろう。そこで私は数日間かけて手動でほかの図を解析した。数字や色を取り除き、クロノグラフの意味のある部分をアニメ化して、同ブランドがどのように世界で最も薄いクロノグラフのひとつを制作したか(そしてトゥールビヨン付きでそれを行ったか)を説明するために作業した。特許出願が示唆するように、いくつかの解決策は独創的で斬新だ。基本的なスタート・ストップ・リセット機能から始めよう。

 RD#5は直線的な垂直または水平クラッチシステムを使用するのではなく、珍しいハイブリッド方式を使用している。各システムは比較的わかりやすいが、ここでは水平クラッチに焦点を当てる。水平クラッチ機構は中間車を特徴としており、プッシャーが押されるとレバーが中間車を所定の位置に移動させ、輪列をクロノグラフ車に接続して計時を開始させる。しかし接続中に摩擦や研磨が生まれてしまうという欠点もある。

 スタートまたはストップを押したあと、コラムホイール(下の緑色)が回転し、連動部品(黄色)を噛み合い状態または解除状態に移動させる。この連動部品は大きなレバー(オレンジ色)に接続されており、ストップまたはリセット位置のどちらでもハイブリッドクラッチ車をその軸上に保ち、秒クロノグラフ車から解除させる。クロノグラフがスタートされると連動部品が黄色のレバーを押し、それが所定の位置から滑り出し、クラッチ車(トゥールビヨンの裏側にあるギアリングに常に接続を維持している)を秒クロノグラフ車に接続された位置に下ろすことを可能にする。

Audemars Piguet RD#5 Chronograph Diagram gif

欧州特許出願EP4555385A1からのイラスト。Animation and coloring by Mark Kauzlarich

Tourbillon gear train

ギアのセットはトゥールビヨン(右)から中間の水平クラッチ車を経由してクロノグラフ車(上の図式が示す、珍しいレトログラード用のギアリング付き)へと行く 。イラストは欧州特許出願EP4555385A1から。

 このシステムは水平方向のスペースを削減し、ムーブメントの直径を減らすのに役立っている。しかしデザインはさらに進んでいる。輪列とクロノグラフ車が噛み合っているときに起こる摩耗と衝撃を最小限に抑えるために、ハイブリッドクラッチは歯車の歯の下側に面取りされたエッジを特徴としており、より容易に所定の位置に滑り込むことを可能にしている。

 トゥールビヨンの裏側のギアは目立って背が高く、クラッチ車がその垂直的な動作中も噛み合った状態を保つことを可能にしている。また、クラッチが外れる原因となる過度の遊びを防ぐために、中央のブリッジとクラッチ車を接続する小さな金属の“舌”もある。このシステムは、私がGIFに変換した下の写真で見ることができる。

AP RD#5 Horizontal Clutch

RD#5 のハイブリッド水平クラッチ。垂直に動くが、水平クラッチ機構の原理により近く作動する。Photographs and GIF illustration by Mark Kauzlarich

 リセット機構と瞬時にジャンプする時・分積算計はかなり独創的であるが、説明し理解するのはより難しい。上のGIFは説明を容易にするためにこの機構を取り除いている。下の図では、珍しいギアリング(ふたつの歯が取り除かれ、ひとつが短縮されている)を介してクロノグラフ車、分、時積算計に接続された一連の振り子アームをかろうじて見ることができる(中央のブリッジシステムの下)。この特定のシステムは次の図で見ることができる。

AP Royal Oak RD#5 Retrograde mechanism
Counter

カウンターの重り付きラックを押し付け、可能な場合にリセット位置に戻すスプリングアームが見える 。イラストは欧州特許出願EP4555385A1から。

 下の図は、秒クロノグラフ車に特有のものだが、原理はカウンターにも類似している。秒クロノグラフ車が回転すると、10個の歯を持つ別のピニオンギア(オリジナルの12個からふたつが取り除かれ、ひとつが削られている。マゼンタ色で示している)がその回転を時計回りに秒ラックに伝える。上に示されているのは、ラックの中央ポストのアームに取り付けられた部分を押す3つの小さな金属の戻りスプリングを持つ完全なアームのセットだ。

 ラックが進むにつれ、スプリングとラックのふたつの力が常に互いに戦っている。アームがギアリングの終わりに達し、クロノグラフ車が0:00に戻ると、ギア付きのラックは最後のピニオンの歯から滑り落ちる。主ぜんまいの“押し”から切り離され、戻りスプリングがラックを強制的に戻す。それはふたつの欠落した歯のあいだの平らな部分を沿って飛び戻り、ラックの終わりのブレーキに当たる。そして歯が再び噛み合うクロノグラフの回転の5秒目までは、再び動き始めることはない。

Retrograde function

イラストは欧州特許出願EP4555385A1から。Edit and coloring by Mark Kauzlarich

 常にラックはP1軸(図に示されているように)で回転する一方で、P2軸に取り付けられた連動部品はラックの回転と共に前後に動く。連動部品の反対側の端には分進み爪(明るい青色で示されている)があり、これが分積算計の進み車の上を後ろに引き戻され、所定の位置に入ったあとラックが振り戻されると瞬時に押し出され、瞬時にジャンプするカウンターが前進する。

Retrograde function

イラストは欧州特許出願EP4555385A1から。Animation and coloring by Mark Kauzlarich

 同時にシステムは同様の原理を使用して段階的に進み、分積算計のジャンプを小さなギアの動きに細分化し、それがほかのピニオンとラックに伝達され、さらにもうひとつのより複雑な連動部品と接続されている。この連動部品(上の灰色)はムーブメントの写真で見ることができる。それはトゥールビヨンの後部の下端を囲むように走っている。ここでのシステムは同じだ。平らな場所を持つラックが分積算計(30個の歯を持つ)に取り付けられたピニオンと相互作用し、ラック、つまり連動部品をゆっくりと移動させ、その後、反対側の爪を完全に押し、時積算計車を半時間分(30分)進める(12時間積算計に24個の歯があるため)。

GIF

 システムはラックと戻りスプリングのあいだで常に緊張状態にある。クロノグラフが停止されると、各進み爪のブレーキ(両方の図で紫色で示されている)が所定の位置に移動するため、システムが連続的にラックを前方に押していない場合でも、戻りスプリングシステムはすべてのカウンターを自動的にリセットすることはない。しかし下部のプッシャーが作動させられると、それはスプリング式のブロック(赤色)を押し下げ、キャリアリセットシステム(上の青色部分。このすべての下にあり、3つすべてのブレーキとレバーに取り付けられている)を反時計回りに移動させることを可能にする。これはクロノグラフが作動しているかどうかに関わらず、明るい青色の進み爪と紫色のブレーキを持ち上げ(そして解除し)、システムをリセットする。これはプッシャーを離すと(そしてブロッカーのスプリングが中立に戻り、キャリアレバーを押し出す)クロノグラフを再スタートさせ、カウントを再開させるフライバック機能を可能にする。

 当然ながら(主ぜんまいによって押される)輪列は、戻りスプリングが抵抗する力よりも大きな力を伝達する必要があるが、機能に影響を与えるほど大きすぎてはならない。これはテンションの繊細なバランスだ。また、戻りスプリングはクロノグラフとカウンターのジャンプのための衝撃吸収材としても機能するため、システムが進む際にぎこちない動きはない。実際には、私がムーブメントを理解し、ぎこちない動きがまったくないことを確認するために何十回も作動・リセット、そしてフライバック機能を使用した。そのとき、時計は完璧に機能した。


ハンズオン

 何十万もの言葉がロイヤル オークのデザインと歴史を表現するのに使われてきた。デザインの画期的な瞬間として、ポップカルチャーのオブジェクトとして、熱狂を生むピースとして。そしてカール・ラガーフェルド(Karl Lagerfeld)が言ったように、“フェティッシュなオブジェクト”として。さらにRef.5554、25554、RD#3、そしてほかの時計と共に複雑機構のプラットフォームとして。私にとってロイヤル オークは、その直径39mm×厚さ8.1mmというオリジナルの“ジャンボ”寸法で最高の状態にある。それでもこれは究極のロイヤル オーク “ジャンボ”であり、おそらく製造されたなかで最も珍しいものだろう。

AP Royal Oak RD#5

 RD#5を着用したときに最初に気づくのは、その感覚が同じだということだ。完璧だ、本当に。“ジャンボ”ケースのプロファイルをここまで愛するのは歴史だけが理由ではない(それが助けになるとしても)。私より大きな手首を持つ大柄な男性でさえも、直径39mm×厚さ8.1mmのサイズ(約49mmの長さ)は私の7.25インチ(約18.4cm)の手首にきわめて完璧に収まり、薄く、目立たないプロファイルを維持する。それはほとんどカフのように着用できる。このことは超軽量のチタンケース(パラジウムベースのバルクメタリックガラス製リンクスタッドとベゼル付き)を考えるとなおさら真実だ。これは2023年に発売されたRef.16202XTと同じケース素材だが、ここまで衝撃を受ける軽さは初めてだ。おそらくダイヤルのデザインが、あなたが時刻表示のみの時計を着用していないことを明らかにしているからだろう。

AP Royal Oak RD#5

 ケースプロファイルは8.1mmよりも薄く見えるが、興味深い丸みを帯びた長方形のプッシャーによって強調されているのかもしれない。プッシャーはきわめて控えめであるため、ジョン・メイヤー(John Mayer)氏が“プロトタイプのカーラップ”と称するレーザーエッチング仕様のモデルを身に着けて、時計を“リーク”または“ティーズ”したとき(知っている人は知っている)、誰も彼がクロノグラフを着用していることに気づかなかった。プッシャーは見えるほどケースからわずかに突き出ているだけだが、作動させると満足のいくストロークがある。リューズにはそれ自体のプッシャーがあり、それを押すとリューズの機能が巻き上げ(入り)から設定(出し)に変わり、ボタンの周りに赤いリングが表示される。

AP Royal Oak RD#5
AP Royal Oak RD#5
AP Royal Oak RD#5

 デザインのタッチは着用者の目を引くふたつ目の要素であり、おそらく(価格を除いて)最も議論を呼ぶ箇所だろう。そのアイコンとしての地位にもかかわらず、ロイヤル オークには多くの批判者がいる。それを差し置いても、この時計を過去のどの“ジャンボ”よりも“ジャンボらしくない”と感じさせるのはある特定のデザイン要素である。

 150周年記念の筆記体ロゴは、おそらく一部のコレクターが異議を唱えるかもしれない最初の要素だろう。ダイヤルはナイトブルー、クラウド50(Bleu Nuit, Nuage 50)カラーで、典型的なPVDコーティングを施したプチタペストリーダイヤル、そして外側のトラックに重なる“バスタブ”スタイルのインデックスが特徴であり、各秒は2万1600振動/時で振動するムーブメント(そしてクロノグラフ)のために3つに細分化されている。これらのタッチは心地よいほど伝統的だが、歴史的な筆記体ロゴは時計が持つブルータリストな美学と少し矛盾しているように感じる。私はそのタッチが、歴史的なムーブメントのひとつに“別れを告げた”オープンワークのパーペチュアルカレンダーでは好きだったが、ここでは少し優雅すぎるように感じる。

AP Royal Oak RD#5

 フライングトゥールビヨンケージは、26545XTによくなじんでいる。その理由のひとつは、オーデマ ピゲが25年以上にわたりトゥールビヨンを備えたロイヤル オークを製作してきたことだ(最初は25周年記念の25831ST)。より最近では、26670STでの(ブランドの50周年記念のための)フライングトゥールビヨンとジャンボケースと伝統的なブルーダイヤルの融合が、私がトゥールビヨンを備えたロイヤル オークというアイデアに心地よくなるだけに十分な舞台を整えた。

AP Royal Oak RD#5

 しかし私が驚いたのは、そのほかであればタイムオンリーの時計と誤解されたかもしれないものにクロノグラフカウンターのアイデアを持たせることだ。これに対して、私の脳はかなり苦労した。写真にはダイヤルのバランスが常に緊張状態にあることを示す何かがあったが、私は実機を見るまで判断を控えた。

 スネイル仕上げを施したカウンターインダイヤルが、特に中心線よりわずかに上に配置されていることで、ダイヤルのバランスを完全に変えたことに私はすぐに気づいた。これは、9時と3時のあいだのラインの下に配置されたダトグラフのインダイヤルによって生み出される緊張と類似している。しかし緊張は悪いものではない。それはあなたの目を繰り返し引きつけるものとなる。

AP Royal Oak RD#5

 前述のとおり、サイズ設定は完璧に感じる。超軽量の素材自体は快適だが、興味深いブレスレット構造に戻ることをブランドに促す。バタフライクラスプのためのプッシャーは依然としてあるが、ロイヤル オークのチタン製ブレスレット(チタンとプラチナの15202IPのような)は異なる素材の中間リンクを使用する際に、メインリンクの裏側にネジを必要とする。これは我々のIntroducing記事のコメントでエリック・クー(Eric Ku)氏が指摘してくれたことに敬意を表する。

AP Royal Oak RD#5
AP Royal Oak RD#5
AP Royal Oak RD#5

 ケースの仕上げは素晴らしい。バーティカルサテン仕上げのチタンとハイポリッシュ仕上げを施した面取り部分が、スティール(SS)製のロイヤル オークとまったく同じように(そしてほとんど区別できないほどに)テクスチャーと色を保っている。ベゼル、中間リンク、そしてケースバックはパラジウムベースのバルクメタリックガラス製だ。金属を十分に速く冷やすと、非結晶性のアモルファス構造が内部に形成される。これは定義上はガラスであり、信じられないほどの硬度と輝きを持つ。これは通常傷つきやすいベゼルにとっては素晴らしいが、まったく傷がつかないわけではない。またどのSS製やゴールド製ロイヤル オークよりもはるかに光沢があり、しばしば影の部屋を反射するブラックのリングに変わる。それは奇妙に注意を逸らすもので、私のお気に入りの効果ではないが、素材としてはおそらく好ましいと認めなければならない。

AP Royal Oak RD#5
AP Royal Oak RD#5
AP Royal Oak RD#5

 私は新作であるRD#5のムーブメント処理に賛同している。オープンワークムーブメントの外側では、オーデマ ピゲの仕上げは少なくとも伝統的な意味では決して魅力ではなかった。ショパールが、最高の伝統的仕上げを持つ最高の大規模メーカーとして長いあいだ王座を奪ってきた可能性がある。

 しかしオーデマ ピゲは、RD#5ムーブメントの未来的なスタイリングで完璧に的を射ている。ブラスト加工が施された暗いトーンのベースプレートがコントラストを加えている。より明るい直線のグレインが入ったブリッジは、中央から開く歯でいっぱいの異星人の口のように、または未来的な宇宙船のように見える。もし同ブランドがこのように技術的なムーブメントを創造し、ランゲのように扱っていたならば混乱を招いただろう。しかしこれは技術的なマイクロメカニズムと仕上げを完璧に融合させている。

AP Royal Oak RD#5
Royal Oak
Royal Oak

 ロイヤル オーク “ジャンボ” エクストラ シン フライング トゥールビヨン クロノグラフ(RD#5)は150本限定だ。オーデマ ピゲが苦労することなくすべてのピースを売り切ることに疑いはないが、26万スイスフラン(日本円で約4960万円)という価格は引っかかるかもしれない。この数字が(この150人のショートリストに載るような)複数のコレクターを購入前に一時停止・そして考慮させたという事実は、同ブランドがロイヤル オークがなり得る存在としての限界を、技術的にだけでなく経済的にも押し広げたのかもしれないことを示唆している。とはいえ、これを購入する余裕がある人にとっては、ほとんど二の足を踏む必要はないはずだ。RD#5は間違いなく今年最も印象的な時計のひとつであり、ブランドの歴史のなかで最も重要な時計のひとつである。

AP Royal Oak RD#5

 オーデマ ピゲ ロイヤル オーク エクストラ シン フライング トゥールビヨン クロノグラフ(RD#5)の詳細については、ブランドの公式サイトから。