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Photos by Mark Kauzlarich
オリジンストーリー
ここしばらく、私は北京を拠点とするインディペンデントブランド、ミネロチ(Mineroci)に注目してきた。スイスの伝統的なウォッチメイキングを独自に解釈し、新鮮で印象的な時計へと昇華するその手腕は、すでに注目に値するものだ。その最新作RD002は、ミネロチがルイ・ヴィトン ウォッチ プライズ フォー インディペンデント クリエイティブにおいてセミファイナリスト20組のうちのひとつに選ばれたことで、さらに脚光を浴びた。しかし驚いたのは、スイスのウォッチメイキングの中心から遠く離れ、Instagramのフォロワーはわずか2300人、そして言葉の壁もあるなかで、創業者のチャン・クー(Chang Qu)氏とジョンヤン・パン(Zhengyang Pan)氏がすでに主要な賞をいくつも受賞していたことだ。ようやくZoomで彼らと話すことができたのだが(数週間前にチームを訪れていた、コレクターから通訳に転身したヘンリー・リー/Henry Li氏のおかげだ)、それは(まだ)時計業界で得た賞ではなかった。
この印象的な魅力を放つ、高価でクラシカルな時計の背後にいるのは、ロシー・デザイン(Roci Design)の創業者たちなのだ。彼らは家電製品の分野で、レッド・ドット・デザイン賞とiFデザイン賞を8度も受賞している。シェーバー、ヘアドライヤー、スマートプランターなどのデザインは、クー氏とパン氏にとって創作の遊び場だった(そして今もそうだ)。では彼らは、どのようにしてニュルブルクリンクを模したリモコンカーのおもちゃから、フェルディナント・ベルトゥーやジョージ・ダニエルズに着想を得た時計へとたどり着いたのだろうか?
Photo courtesy Mineroci
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「私たちは時計が好きで、時計の世界に足を踏み入れ、何人かの時計師に紹介してもらうようになりました」とクー氏は、ヘンリー・リー氏の通訳を通して語った。「中国のウォッチメイキングは規模こそ大きく見えますが、実際には、3針時計とトゥールビヨンの2種類しか作られていないように感じます。私たちは多くの中国人コレクターと同じように、懐中時計が好きでした。興味深い構造や複雑機構がたくさんあり、比較的手頃な価格で手に入り、ムーブメントも大きいので見やすいのです」。それが彼らの創作のインスピレーションとなったが、時計づくりの経験がない彼らは、とにかく何かを始めなければならなかった。
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そこで彼らは多くの人たちと同様、最初のモデルRD001において、外部の輪列(ETA 6498)をベースにしたシンプルな時計から始めた。自ら時計を作れることを証明し、高品質な時計を製造し仕上げるための訓練をするためだ(彼らのチームも訓練の際には、このモデルから始めるそうだ)。「これらの訓練は、いわばスクールウォッチとして機能しています」。創業者の二人は今も仕上げ作業に携わっており、すべてをチームに任せるのではなく、自現場主義を貫いている。実際、RD001では購入者に4つの仕上げオプションを提供しており、それがこの時計の複雑さと魅力をさらに高めている。
しかし、そのやり方ではチームにとって十分ではなかった。「ムーブメントの設計には、多くの数式が関わってきます」とクー氏は言う。「そこで私たちは、いくつかの課題はプログラムで解決できるのではないかと考え、独自設計のソフトウェアを活用して時計を設計しました。チャイム機構やジャンピングアワーも設計しましたが、その多くはプロトタイプには採用しませんでした。最終的に製品化することを決めたのが、RD002なのです」
私たちが彼らを愛する理由
ミネロチのRD002は、きわめて素晴らしいものだった。私が見た個体はやや粗い仕上げのプロトタイプであったにもかかわらず、この時計が持つポテンシャル、特に技術面での可能性を感じ取ることができた。このモデルは中央に配置された印象的なテンプ、12時位置の小さな時刻表示ダイヤル、そしてヴィンテージのマリンクロノメーターを彷彿とさせる大きなセンターセコンド針を特徴とする。実際そこがポイントで、チームはジョージ・ダニエルズの作品、特に“ホーンビーII”とフェルディナント・ベルトゥーから着想を得ている。ホーンビーIIではムーブメントの下部中央に大きなテンプを備えていたが、ミネロチはそれをダイヤル側に配置した(さらにルモントワール機構と“フォローイングホイール”も加えている)。
2024年6月、チャン・クー氏はジュネーブにあるパテック フィリップ・ミュージアムを訪れ、1804年にフェルディナント・ベルトゥーとジャン・マルタンが製作したマリンクロノメーターに魅了された。ツートンのギヨシェ装飾やそのほかの仕上げに加え、印象的なセンターセコンドが特徴的な時計だ。1800年代当時、このセンターセコンドは迅速かつ正確な航海術に不可欠な存在であり、時計の機能において重要な役割を担っていた。一方、本作でミネロチは、そのセンターセコンド(とその仕上げ)を美的な目的で活用している。
本作は、仕上げを興味深く組み合わせており、(ブルースティール針が付いた)時刻表示ダイヤルにはギヨシェ装飾、その外周リングにはサテン仕上げ、そして前面のメインプレートには対照的なグレイン仕上げを施している。またダイヤルのくぼみには、パワーリザーブインジケーターも備えられている。先述のとおり、これはプロトタイプだが、外観はきわめてよい。
プロトタイプでは大きなテンプはやや粗い仕上げで、メインプレートにはムラが少し見られるが、重要なのはムーブメント設計そのものだ。左側には、ルーローの三角形を持つ脱進機とルモントワール・デガリテ機構があり、トルクを制御しながら、デッドビートセコンドを実現している。この発想は、デレク・プラットがウルバン・ヤーゲンセンのために製作した有名な懐中時計“オーバル”や、ルカ・ソプラナがプラット名義で手がけた時計、さらにはダン・ピムプラチャン(Dann Phimphrachanh)、オンドレイ・ベルクス、クラマンといった作り手の作品にも見られるものだが、本作はそれらとは異なるムーブメント構成だ。さらに、この脱進機は一般的な15歯や20歯ではなく、18歯を採用している点も特徴的だ。また(ミネロチが重視した左右対称の美観を整えるため)テンプ右側にはストップセコンド機構と、歯車列と連動して回転する“フォローイングホイール”も備えられているが、これらは純粋に視覚的効果を狙ったものだ。
ムーブメント側も美しく、示唆に富む仕上がりだ。彼らはこのムーブメントが何を想起させるか尋ねた。しばらく考えた末に、それは獅子舞の獅子の顔だと気が付いたが、ふたつの大きな目と、中央を横切る口ひげのように見えてくる。ミネロチは創業者のルーツである中国文化と、スイスに着想を得たウォッチメイキングを見事に融合し、印象的な作品へと昇華させている。
「私たちは少し違ったことをしたいと思っています。同時に、スイスと同じレベルのことができると証明もしたいのです」とクー氏は言う。「理論上は、もう少し簡単だと思っていましたが、実際にはルモントワール付きの時計を作るのと同じくらい難しいものでした。私たちは、スイスを追いかけるだけの存在でいたいわけではありません。だからこそ、製品によってその進歩を示す必要があるのです。本当に前進していると認識してもらえるには、5年や10年かかるかもしれません。新製品を生み出し続けるのと同時に、革新も必要です。中国のウォッチメイキングに対する見方を変えるには時間がかかるでしょうが、私たちはその可能性を人々に示すために、より良い製品を作り続けます」
Photo courtesy Mineroci
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ミネロチに確かな可能性を感じる。先ほどまだ仕上げは完璧ではないと述べたが、多くの時計師の初作や2作目と比べれば、その水準は明らかに高い。最終的に不十分な仕上げのまま製品化するブランドではないという確信もあり、プロトタイプの段階で情報を発信したことを問題とは思わない。時計自体のパワーリザーブは控えめだが(わずか38時間)、直径13mmの大きなテンプは妥当な2万1600振動/時だ。
Photo courtesy Mineroci
手首に着けてみると、RD002は実に魅力的で楽しい時計だ。ミネロチがデザインやウォッチメイキングの面で、ダニエルズ、ベルトゥー、そして初期のF.P.ジュルヌから着想を得ていることがわかる。本作は、納品時にはプラチナ(プロトタイプはステンレススティール製)で仕上げられ、直径わずか38.5mm×厚さ9.8mmというサイズ感で、きわめて装着感が良く、視認性も高い。そして驚くべきことに、これほどアンティークな外観にもかかわらず、30mの防水性能を備えている。
しかしRD002は7万8000スイスフラン(日本円で約1500万円)と手頃な価格ではなく、インディペンデントウォッチを好むコレクター層に向けたものと言える。製造本数は、1番から22番までのうち(中国の文化的理由から)14番を除いた全21本のみであり、時計業界の見識ある審査員たちからすでに国際的な注目を集めているブランドであることを踏まえれば、多くの人々が関心を示すことは想像に難くない。
次に来るもの
ミネロチのチームは、今年のルイ・ヴィトン ウォッチ プライズでセミファイナリストに選出されたが、今後さらに多くの関心を集めるだろう。しかし彼らが時計を完成させ、最初の製品を納品するまでにはまだ時間を要し、2027年になる見込みだ。それでもこれまでに彼らは作品によって、中国の時計製造が多様な可能性を持つということを示した。また彼らは、業界全体が直面する課題についても正直に語っている。
Photo courtesy Mineroci
「私たちの強みは設計能力です」とクー氏は言う。「しかし新しい複雑機構を設計すること自体は、私たちにとっても、業界全体にとってもそれほど難しいことではありません。また、中国には強力なサプライチェーンがあり、必要な部品の多くを調達できます。もちろん時々、スイスから調達しなければならないこともありますが、その状況は改善されつつあります。また業界には、伝統的なウォッチメイキングの教育が十分に整っていないという課題もあります。私たちは積極的に人材を採用し、今後も興味深いものづくりを続けていける体制を整えていきます」
ブランドは複雑機構の分野において、中国のウォッチメイキングには大きな成長の余地があり、国内産業の裾野を広げていきたいと考えている。より多機能で複雑な時計に取り組むことは、自らの技術力を高めるだけでなく、同業者たちのスキル向上にもつながるはずだ。
ミネロチについては、ブランドの公式Instagramから。
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