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Illustration by Andy Gottschalk
私は2022年8月から、HODINKEEの正社員として働き始めた。それ以前はHODINKEEのいわばフリーランスの新米腕時計ライターをやっていたのだが、スイスを訪れたり、夜遅くまでインターネットを通して腕時計を調べたり、1952年のロレックスのバブルバックや新品のグランドセイコーをクレジットカードで買うのは“普通の行動”なのか自問自答したり、もちろんウィキペディアのハンス・ウィルスドルフの項目を読んだりと、いろいろ努力する必要があった。この1年間で、私は多くのことを学ぶことになった。そのすべてを詳細に説明することはできないが、特に大切だと思った10のポイントをここに紹介したい。
1. トゥールビヨンとは何かを学んだ
告白しよう。学んだと書いた直後は、わかっていると思ったのだが、私はトゥールビヨンが何なのか、本当にわかっているのだろうか? “トゥールビヨンとは何なのかについて、理解し始めた”とでも言おうか。
HODINKEEの読者の皆さんはすでにご存じだろうが、トゥールビヨンとは時計の精度を高めるための複雑機構であり、テンプ(バランスホイール)と脱進機をより安定させるための一種のケージ、あるいは特別な家(私はそう考えたい)だ。
では、トゥールビヨンのない時計では、テンプと脱進機が時計のケースのなかでただ回転しているだけということか? だって、そんな風に聞こえるではないか。すると、「そうじゃない」と同僚のトニー・トレイナが言った。「アブラアン-ルイ・ブレゲがトゥールビヨンを開発したのは、重力の影響に対抗する方法を確保するためだ。1日中鎖で吊るされている懐中時計のテンプは、常に重力と戦う形になっていたから。しかし、絶えず動き回っている腕時計はそうした高級懐中時計とは異なり、トゥールビヨンを搭載する必要はない。それでも、機械式腕時計のニーズがなくなったわけではないし、私たちもそれを求めるのを止めていないだろう?」
2. 腕時計のプロでも、トゥールビヨンに戸惑う場合があることを知った。
というのも、私がトニー宛にメッセージを書いたとき、彼の最初の返事は「いやだなあ。トゥールビヨンの話をしなければならないのか」だったからだ。
初心者にふさわしいトゥールビヨンの詳細については、こちらをご覧いただきたい。
3. 自動巻き腕時計の仕組みを学び、実際に理解することができた。
初心者の奇妙なところは、知らないことだらけで圧倒され、時々必死で次のようなリストを作っている自分に気づくことにある。1. クロノグラフって何? 2. タグ・ホイヤーが人間かどうか、誰かに聞いたり、調べたりしてみる。 3. 自動巻きの時計はどうやって動いているのか? 今日、確かめてみよう。
そしてそのあいだ、時計のプロを気取って動き回る一方で、誰もが“クロノグラフ”、“タグ・ホイヤー(TAG
Heuer)”(これはイニシャルか)、“ローター”などと言ってくる。そんな時にも笑顔で、恐怖と恥ずかしさで死にそうになっていないように振舞うのです。
しかし、幸運なある朝、ウエストハリウッドのF.P.ジュルヌの店舗で開催された女性向けの時計製作教室に参加したところ、講師のブリアナ・レー(Briana Le)さんが、自動巻き時計にはローターというものが入っていて、体や手首の動きでそのローターを動かすことにより時計を作動させている、と私に説明してくれたのだ。
それはそれでよかったのだが、これだけでは、ローターとは何か、またローターが自動巻き腕時計にどうやって動力を与えているのかを、私の心に永遠に刻みつけるものにはならなかっただろう。そして、とても単純なことなのだが、レーさんは私たちに対して横を向いて歩き、自分の腕が前後に動くことを示した。さらに、時計のムーブメントのなかのローターが強調されているホワイトボードに注意を向けさせ、「ほら、このローターは私が歩くと前後に揺れるのよ」といった趣旨のことを言ったのだ。ここで私は、動く腕と、ローター、時計が関連しているのを理解したのである。私は確かに、以前から“体の動きによって動くローターが時計にある”とは聞かされていたが、あの日の朝まで実感は湧かなかった。その理由は誰にもわからないだろう。
4. (上述のように)腕時計にまつわる事実と真実は、私の心がそれを受け入れる準備ができたときに、すぐにでも吸収することができると学んだ。
この一例として、ローターを挙げた次第だ。そして今日、私はタグ・ホイヤーについて、その一部が人名(スイスの時計職人であるエドワード・ホイヤー。1840-1892)であり、また一部がテクニーク・ダバンギャルド(Techniques
d'Avant-Garde)の頭文字であることを、本当に吸収する心の準備ができたようだ。私はタグ・ホイヤーの時計よりアバンギャルド(前衛的)ではないものを思いつかなかったが、私がすべてを知っているわけではないことはもうはっきりしていると思うので、トニーに対して(その方がよさそうだ)、タグ・ホイヤーの時計よりアバンギャルドではないものを思いつくかどうか聞いてみることにした。すると彼は「たくさんあるよ」と答えたのだった。
5. 知れば知るほど、知らないことがいかに多いかを知ることができると学んだ。
2022年はたくさんのことを学んだにもかかわらず、12月から2023年の1月になっても、マスターに近づくどころか、“私は腕時計を知っている”というある種の自信さえ感じられない。今ではその仕組み、ブランド、歴史について、より深く知ることができている。しかし正直なところ、ここで“腕時計”という言葉を自分自身に向けて口にすると、戸惑いと少々のパニックを感じるだけなのだ。知らないことをどうやって学べばいいのだろう? 知っていることをどうしたら覚えられるのだろう? どうして例えば、クリスチャン・ホイヘンス(Christiaan Huygens)のつづりを忘れてしまうのだろう?
6. ブルガリの発音「ブールガーリー(BOOL-gar-ee)」を覚えた。
Four+One企画でインタビューしたクリステン・シャーリー(Kristen Shirley)さん、私のために、1度も笑わずに3回も繰り返し発音してくださりありがとうございました。
“ブルガリ”ではなく“ブールガーリー”と発音せよ。
7. 時計会社は大きなラグジュアリー企業の傘下に入っているため、ブランドは個別のブランドではなく、むしろブランドの集合体になっていることを学んだ。
この記事の前の原稿で、私は主要な時計ブランドを、それらを所有する主要なラグジュアリー企業の下にリストアップしてみた。それを読む必要はないと思われるので、疑問があればこちらの解説をご覧いただきたい。このリストアップの重要な収穫は、私が少しひねくれ者になったということだ。時計がビジネスであることを知らなかったわけではないが、今では、ある時計とほかの時計との違いは、人が想像する以上に、表面の特徴やマーケティング、規模の経済に関係していると認識している。それでも、こうしたコングロマリットから本当に素晴らしい製品が生み出されたとき、そのような認識は一掃され、当該の時計の魅力に取り憑かれてしまう。ソーセージの製法を知る前であってもソーセージを食べたくなるのと同じように、不合理にも、その時計を欲してしまうものなのだ。
8. 時計は一方向に巻くものだと知った。
前述のレーさんの教室で私は、「抵抗を感じるまで時計を巻きなさい」と教えられた。私は、時計の巻き上げが終わったことを感じることができるなんて知らなかった。文字どおり3週間前までは、リューズを前後に動かして巻き上げるのだと思っていた。
9. 腕時計好きの人は、本当に日付表示窓を気にしているということを知った。
ここで質問。このメディア、今は私の雇用主なのだが、なぜHODINKEEと呼ばれているのか? でも今はまず、「なぜ腕時計のあの場所に日付表示窓をつけたのか?」と聞くべきところではないか。
私はその議論の記事を読んだことがある。3時位置の日付表示窓はクラシックだが、邪魔になる。6時位置だと左右対称になるが、どこか変だし、やはり邪魔でもある。4時半位置ではどうか? これを理想的で妥当な解決策だと言う人もいる。ある人は、かつてないほど議論に熱くなる。私はといえば、この議論を理解している。実際、とてもよく理解しているがゆえに、初めて本格的な腕時計を購入したのだ(その時計については今後、大公開する)。なんとその時計には、日付表示窓がないのである。確かに、今日が何日なのかがわかるのは素敵なことだ。だが、皆さんがそんな風に言い争っているのを見るのは忍びない。
おもしろいことに、私が「Dimepiece」とポッドキャスト「Killing Time With Brynn and Malaika」のブリン・ウォルナー(Brynn Wallner)氏に、日付表示窓のドラマについてどう思うか尋ねたところ、彼女はこんなことを言った。「私が実際に聞いたのは、ロレックスはサイクロップレンズの日付窓のために派手になっているというつぶやきと、一部の人々はより最小限の日付窓を好むということ。それ以外は、特に熱く語られることはなく、説得力も感じない。それに私は、時計好きな人があまりに時計オタク的なことを言い始めると、あっさりと聞き流してしまう傾向がある」。ブリン、私はどちらかといえば賛同する。
特大の日付表示窓をご参考までに。
10. 時計を2本以上持つことを正当化する人の気持ちがわかった。
私はいい時計を1本手に入れた。その時計を手にした途端、もう1本どころか、もう3本欲しいと思うようになった。この新しい時計をとても気に入っているのだが、その優れた部分は、別の時計の優れた部分を単純に目立たせてしまう。実際、この時計を十分に堪能するためには、別の時計が必要だということを実感するのだ。
私はステンレススティールが大好きだ。でもゴールドのオプションがあれば、もっと好きになるのでは? 確かに計時機能だけの時計は好きだが、複雑機構を体験しないと、本当の時計好きとしての経験をし損ねているのではないだろうか? 大きい時計も好きだし、小さい時計も好きだ。持っていないのは、中くらいの大きさの時計だ。中くらいの大きさのゴールドの時計が欲しい。いや訂正、そのような時計が私には必要だ。実際、まともな神経の持ち主なら、そんな私が腕時計なしでもう1日過ごせるとは思いもしないだろう。
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